突如としてけたたましい警報が基地内に鳴り響く。周囲の人間が総じてびくりと体を震わせて緊張が走るが、その内容を聞けば皆が弛緩する。その内容は『30km圏にて米艦隊を確認、数隻が曳航中の模様』であった。
「……東雲、米艦隊が作戦行動中だったのか?」
「確かにそうですが……」
こちらが問いただせば、何故か東雲はいつも笑顔な顔を少し引きつらせる。彼女がこちらの質問に言いよどむのは非常に珍しく、今までは一旦内容の思考に至ることはあっても話すのがためらわれるといった表情をすることはなかったのである。
「あ~、東雲はアナタが米国に対して良い印象を持っていないだろうからと報告に困っていたのよ」
詳しく聞くに、こちらの命令系統とも異なり、艦娘との作戦行動必ずしも耳に入れる必要はないとの判断で知ってはいても、伝達しなかったのである。こちらの心労を思ってだとは思うが、必要かそうではないかは彼女が判断することではない。
「それは無用な気遣いだ……次はないぞ」
「あ、……はい」
「叢雲、お前もだ。言っておくが、お前たちの今回の行動は下手をすれば重大な過失につながりかねん。気を使ってくれるのは確かにあり難い。だが、もしその後の戦いで今回のことが関係したらどうする?そこで私が判断ミスを下し、お前たちを失えば後悔してもしきれん。…………そこで、何故にやける」
「べ、別ににやけてなんかないわよ?」
「は、反省してますよ?」
少しばかり納得いかないが、まぁ、仕方がない。
そもそも私に米国をどうこう思う考えなぞ無いのだが。恨み辛み大いに結構。そもそも戦争だ、自分が沈む前に相手も沈めている。戦争で自分だけが特別だと思うことはただの間抜けであるし、彼らが我々日本人を恨んだ理由も大いにわかる。だからといってこちらが恨まねばならないという道理はないのだから。未来を知るが故の弊害か、場合によっては非国民と断じられても可笑しくない。とは言いつつも、米国憎しを唱えていたのは下士官以下一般兵である。上層部になるにつれて、敵であっても、恨む相手ではないと理解している。
「日本は彼らに対して何らかの対処はしているのか?」
「米国本国との通信がないのに、彼らが国家としての待遇を受けれるわけはないでしょう?彼らに軍事予算は降りないわ。とはいっても食料だけは供給しているわね」
「では、現在現状の戦力だけで動いているのか。世知辛いな」
「そうね、修理ドッグも米国には割いていないから、もうすぐ帰ってくる艦艇も部品取りに回されるでしょう。でも、どうして?勝手に行動して、勝手に傷ついているだけなのよ?世知辛いも何も、自業自得じゃない。死にたくなければ、失いたくなければ戦わずに、只そこにあればいいのよ」
▽▲
『なぁ、彼らが戦う理由とは何だと思う?叢雲、お前にも分かるものだろう?』
彼がつぶやいた言葉。確かに、分かる。彼も含め帝国軍人の多くが戦った理由と同じだったから。でも、結局分かるからといって、それを奨めたいとは思わないと思わない。辿り着く先は、何もかもが無くなった世界であることも知っているから。
『彼らが戦う理由は愛国心だ』
愛国心と聞けばそりゃ、大層おおきなものに聞こえるかもしれない。だが、国家としての愛国心と、兵士が抱くその愛国心は全く別のものだよ。愛国心とは結局言い換えれば、自らが生まれた故郷を想う思いだ。故郷を想う思いとは何か?それは自らが生まれた、愛する家族の居た、友人が居た、恋太が居た、そんな思い出だよ。誰だっていい思い出を汚されたくないモノさ。大事な家族や友人を馬鹿にされたら、怒るだろう?良き思い出の残滓すらも奪われたのなら取り返したくなるのは当然だろう?それは別に可笑しなことじゃない。
『だからといって死ねば、全てを失うわ。これからの未来を失ってまでも過去を大事にする意味はあるの?本末転倒じゃない』
『そこが、可笑しなところでな。我々が死に急ぐのは、故郷を子孫に繋ぎたいという想いもあるからなのだよ』
自らが得た良い経験は子に伝えたいと思う、自らが育った良き故郷を子に見せたいと思う、過去は過去だけであるのではなく、未来が未来だけであるのではない。死んでも後世に何かを伝えられるのならば、それは良き思いを伝えたいものだ。良き過去があればあるほど、それを取り戻して、父母子らが死ぬ悲惨な現状ではなく、良き未来を伝えたいものだ。そこでは自らの死は軽くなる。
誰もがより良い未来を望むからこそ戦争は起こるものだ。原因は私欲であったとしても、戦争は大勢の人間が関与する。そして、戦争が起これば、そこで失った
『命の重みというものは、平和に満たされた者たちが思うほど重いモノではないのだよ』
医療が進み、人の寿命が延びたからこそ忘れがちだが、人の命なんてものはそれこそ鼻息で飛ぶほど軽いものさ。人は皆が思っている以上に、いや以下に簡単にそれこそ転ぶだけで死ぬ時は死ぬ。自らが死なぬ、他者も簡単に死なぬと勘違いするからこそ他者を蔑ろにする。命というモノを理解すればするほど、生の瞬きその一瞬を大事にするものだ。他者を思いやれるものだ。
『故に、その時その時の出会いに感動し、縁を大切にするべきなんだ。そうすれば戦争もなくなる』
さらに言えばな、平和な国であればあるほど命の軽さを知らぬ、だからこそ他国の戦争を止められぬ。内乱や紛争地帯での者たちを愚かだと思うだろう?何故死に急ぐのか、何故何も得られぬ戦争の悲惨さを理解して、戦争をやめぬのか?
そもそも争いの起こる理由の一つは何も得られぬからこそ、だ。何も得られぬ、命を繋ぐための糧も、平和を繋ぐための富みも、何も容易くは得られぬからこそ、命を繋ぐために他所より持ってこようとする。そして、他者と争う。そうすれば、更に命は容易に失われる。そうしていけば、人は未来を想わなくなる、今しか見なくなる。簡単に死ぬからと、今しか見なくなる。宗教というものは今を救うものだ、決して未来を救ってくれやしない。命の重さを理解すれば、するほど、命は軽くなる。そうなれば、一瞬の煌きとやらに想いをのせて人は死ぬものだよ。
自爆テロなんてものはね、死ぬのが怖くないわけじゃない。死ねば何も得られれぬ現状を、つまり苦痛を抜け楽になれるからだ。死ぬまで続く苦痛は耐え難い、それならば楽になれるという少しの想いと少しの満足を得てしまえる死に走っても何も可笑しなことではない。そこに悪魔のささやきで、お前が死に敵を倒せば皆が富む、と言われてみろ。永年と続く苦痛もなくなり、更には自らの仲間が救われるという想いが生まれれば、どこに死なぬ理由がある。そこに存在するのは誰かに紡がれる未来だ、そして本人の満足だ。
我々日本人の特攻と自爆テロを行う想いの根幹は同じものだ。それら人の弱みに付け込まれたかどうかの違いだけであって何ら変わりない。深海棲艦の存在理由とやらも、恨みつらみ不甲斐なさ全てを含んだ想いだ。彼らが化けた理由が、苦しみだけでなく人を想ったからこそ出た憎しみだ。何故私は死んだ、何故彼は死んだ、何故、祖国は得るべきものを得なかった。我々が死んだ理由はなんだったのだ、より良き国のためにと想ったのに。それが彼ら彼女らの想いなら。結局我々が抱くものと何処が違おうか。
これらを異なるモノと、そこをはき違えるからこそ、我々は彼らを理解できないと勘違いする。人は富めば、死にたいとは思わない。過去の日本も過去の世界も自らが抱く想いと他国が抱く想いが異なるモノと勘違いしている。今の世界も今の日本も、何一つ過去より学んではいない。
彼ら米国が戦う理由も行きつけば大事なものを紡ぎたいという想いで、そして我々の敵の深海棲艦たちも過去よりの想いで存在する。元々が同じモノなのだ。だからこそ苦しみも、悲しみも、喜びも分かち合えば、争う理由も、恨む理由も、憎む理由も戦争も何一つなくなるのに、他者と自らが異なると思うからこそ、自らを満たす為だけに皆が動く。
『話していて気づいたのだが、あの隣の人間が容易くいなくなる悲惨だった時代より、この時代へ私が飛ばされてきた理由があるのだとするのならば、きっと少しでも良き未来を紡ぐためだ。米国だとかそんなことは全く関係ない、彼らを他国だと思うからこそ生まれる争いもある。故に、その垣根を越えて彼らと苦楽を共にしたいと考えるためなのだと思う』
平和を願うのならば、自らの愛国心と他者の抱く愛国心、つまり人を愛した過去と今が同じであることを理解すれば良い。きっとそうなれば争いは無くなるはずだ。自らの袂を広く開けそこに在るものを分かち合えばいい。誰かが苦労した時にそれを助け、自らが苦労するときにそれを助けてもらう。そうすれば誰かから何かを奪う理由なんて一つもない。
綺麗事だと馬鹿にしなさい、誰かが綺麗事を吐かないと誰もそれを知らない、理解しようとも考えようともしない。戦争の悲惨さだけを伝える時代は終わったのかもしれないな。人は何時だって死ぬのだから、人が死ぬことを理解しつくしている連中にそんなものを伝えたって戦争は無くならない。だから何?とそれで切り捨てられる。だからこそ戦争が何故起こるのか理解しようと努力する時代だ。そして、理解したのならば、手を取り合う時代だ。彼ら彼女ら深海棲艦は良い切っ掛けを作ってくれた、彼らのあるべき想いを見たのならば人はより良き未来を掴めるはずだからね。
ああ、なるほど、そういう事か。
なぁ、今ここで彼らを見捨てて第二第三の深海棲艦を生み出すのか?それは違うだろう?彼らは恨むぞ、同盟国であっても我が祖国を見殺しにしたと。そこに未来はあるのだろうか?待ちゆく先は滅びのみで良いのか。子孫らに、今を生きてゆく若者に、家族に、未来を紡ぐ、それが我々兵士兵器が最もあるべき殺しの理由だと思わないか?
『だからこそ、今は戦おう。米国だからと他人事に捉えず、彼らが戦う理由も我らと同じことを理解して共に戦おう。今の苦を共に、未来の楽も共に』
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英国学会及び英国海軍の共同発表より
まず我々は、全世界において突如として出現し、人類に攻撃を継続する存在。彼ら人類に敵対的な存在を、帝国主義の亡霊Phantom of imperialismと名付けました。ロンドンをはじめ、今現在我々は彼らと様々な土地で交戦を続けております。陸上に置いて、彼ら帝国主義の亡霊は、亡霊の名にふさわしく我らの攻撃をことごとく無効化しており、戦線の後退は避けられないモノとなっております。陸上における亡霊、とは別に海上における亡霊を突如として水底から湧き出るように現れたことから深きに生きる艦Deep inhabiting ship、深海棲艦と名付けました。
彼ら亡霊が我々人類と敵対する明確な理由は今現在調査中ですが、断片的に判明した部分から先の大戦の連合軍側からの被害が大きく出ているということです。彼ら亡霊たちが時々呟く内容から、我々は此度の命名に至りました。旧枢軸国側からの被害が現状少ないことについてですが、彼らは敗北によって一度もしくは二度、帝国主義を諦めざるに負えない状況になりました。然し我らは戦争の勝者側についておきながらも、帝国主義を自ら放棄する事となりました。帝国主義とは言い換えれば大航海時代の幕開けより続く我らの負の歴史であります。そして、その達成にかけられた歳月は何代にも渡ります。悪しき善しきは別にして、これを放棄するに至った不甲斐なさを彼ら帝国主義の先人たちはどう考えるでしょう?
彼ら先人たちが後のより良き世を目指し、苦痛を伴い、時には命を懸けようとしたものを我々は放棄せざる負えなかったのです。他者より奪う植民地時代であっても、そこにかけられた夢と想いは今を生きる我らからしてみても、想像を絶するものなのです。だが我らはそれを過去と断じて捨て去った。しかし、それは結局のところその時代今を生きた者達の不甲斐なさにも彼らには取れるのです。
だからこその結果がこうなったのでしょうか。例えていうならば、10連優勝のスポーツ強豪チームがまず、負けたとします。この場合OB呼ばれる存在はまず、どこに怒りを覚えるでしょうか?敵チームでしょうか?運営でしょうか?いいえ、そのどちらでもなく、多くの場合は味方の不甲斐なさに怒るのです。つまり、此度は悪しき主義の亡者たちが、我らに八つ当たり的に怒りを覚え、そしてやり場のないそれを態々こうして死より這い出て発散しようとしているのです。
当初、この発表は英国の名を妖精さんの国と笑い、地に貶めた。しかし、戦況が悪化の一方を辿るにつれて、これを各国が逆説的に証明する結末となった。だが、気付いたところで何の対処もすることはできない。欧州はほぼ陥落し、ドイツ、フランス、オーストリア、イタリア、ルーマニア、フィンランド等に分けて亡命政府を立てることとなるのである。
▽▲
ふと、一息つけば、珍しく誰も執務室にいないことに気付く。2時間ほど前には居たので、時計を見れば食事にでもいったのであろう。「終われば行くから、行っておいで」と無意識に呟いた気もする。
ストーブにかけられた薬缶を取り、水を足す。少しばかりぼぉっと窓を眺めれば、長く振り続ける雨が外壁を叩くのが聞こえる、雨粒で外はあまり見えない。薬缶の沸騰するピィーとの甲高い音が聞こえると日から遠ざけ、陶磁器のポットに三杯半の茶葉を入れお湯を流し込み、蓋をする。横に置いていた5分砂時計をひっくり返し、これをまた眺める。「頃合いかな」と一人呟き、おおよそ4分半にて蓋を開け、スプーンでひとまぜ、したところで部屋の戸が叩かれる。
「どうぞ」
「失礼します」
声からして、榛名だ。邪魔してはいけませんからと、彼女は必要がないときはこの部屋にはあまり来ない。確かに今では第12駆逐隊と響、酒匂が居座っているため、非常に狭い。とは言え、一人ぐらい増えたところで対して変わらない。ちなみに、二人増えるとアウトである。
「あっ、紅茶淹れてたんですか?」
「飲むか?二杯分はあるからかまわんぞ」
「お願いします」といって隣に腰かける。彼女は駆逐+αが居ないときにしか来ないので、必然的に話す時間は限られている。とは言え、空いた時間に榛名が訪れるのは周知の事実なので、彼女が居なくなるまで遠慮して彼女たちが戻ってくることはない。ニコニコ笑顔で膝の上に手を置きこちらを眺める榛名。四姉妹の中でも一番落ち着きがある淑女なのではないだろうか?何故か叢雲も彼女にはあまり頭が上がらないようである。
「ミルクを入れる予定だったから少し濃いかもしれん」
「榛名にも入れてもらっていいですか?」
「砂糖は?」
「一匙だけ」
こちらを見つめ、一挙一動を観察する彼女。何がそんなに楽しいのだろうか?
「聞きました、叢雲さんから」
「馬鹿だと笑うかい?」
「それは榛名を見くびり過ぎです、どのような願いであれ夢であれ榛名はとっても大事だと思います」
「君は悪意を知らない、という訳ではないのにそれを言える。私にはできないよ」
私が告げた全ての国と等しく共に歩みたいとの戯言も鼻で笑われる類のものであるのは間違いない。だがきっとこの夢を継いでくれる人はいるはずだ。私が居た時代にだって国連に夢を託したモノは居た。彼らは笑われ、それこそ大きな戦争を目の当たりにしても、更なる組織として今現在の物を作り上げていた。現在は確かに深海棲艦戦争で機能していないが、あの組織のおかげでどれほどの戦争が自粛されたであろう?ベストとはいかなくてもベターまではいっていたと信じたい。
「榛名は、人類みな性善説を信じているので」
生憎と、私は性悪説こそ真実だと思う。人が優しくできるのは他者と比べ自らが優位にあるからだと。だからこその等しく喜怒哀楽を享受する必要があると考えた。とは言え、些細な違いで人は劣等感を感じ、自らを貶める。結局のところ、一人一人が個性を持ち、知識にも技能にも差がある世界では、等しく共にありたいなんて話は夢物語にも満たないのだろう。
「提督はきっとすごく自分に厳しいんですね、榛名が知る提督はいつも大変そうです」
「……そんなつもりは、ないのだがな」
クスクスと笑う彼女。むしろ周囲の人々には恵まれ、苦労は知ってもいつも私は救われてきた。だからこそ、誰かを救うという事に何かのこだわりを持っているのだろう。自らに厳しく見えるのは、そこから零れ落ちたものに過ぎないのだ。結局自分のため、自らを満たすため、そういう事なのかもしれない。人を助けたいと思う気持ちで、そこから出る偽善と善の違いとは何なのだろうか?今の私に理解できるものではないのだろう。
「つまらん人間になったものだ」
「誰かを想って戦ってきた提督がつまらない、なんてことないと思いますよ。人を想うのは大事なことです」
彼女は何故そう思ったのかは語らない。結局は主観的な事なので、それを知っている故に多くは語らないのだろう。意味がない、……とは違うか、突き詰める必要がないことだから。だが、
「その想いこそが戦争を長引かせてきたぞ、皆が立ち止まれなくなる原因だ。敵憎しは側傍らにある者を想ったからこそ出る思いだ。興味の無いものが死んでも普通は何とも思わんからな」
「だから、榛名は想いの向きを変えるように努力する提督が好きです。憎いから殺すではなく、大事だからもう誰にも死んでほしくないと考えてほしい。誰かが助けてあげれば、その人も誰かを助けてくれるだろうと、そう思ったんですよね?」
ふと昔の映画を思い出す。きっと私の前世の幼いころからある根幹にもなった映画だ。一人の少年の善の連鎖を積み上げていく同名小説を原作とする映画。そう、あれは確か
「
「え?」
「いや何、私がいつ何かを救いたいと思うようになったかを考えていたんだよ。そしたら一つのお話を思い出してね。始まりは一人の少年から始まるお話だ」
自らが善意を受けたら、その人ではなく他の人に3つの善意を渡すお話。皆が皆、善意をばら撒けば人の世はきっとよくなるというお話。
「憧れだろうね、私達が米国を助ければ、きっと次は彼らが他の国を助けるだろう。その他の国がまた違う国を助ける。そうすれば200に満たない国家しかないこの世界はきっと本当は助け合っていけるんだよ」
アッツの戦友たちは他の日本兵の為に命を散らした。私達は彼らに報いるために、命を懸けて沖縄へと挑んだ。あれもきっとここから零れ落ちたモノだった。
「以前は殺すことでしか、僅かな人間に対してしか意味のない善意を紡ぐことしかできなかった。だからこそ、次はという願いだ。きっかけは些細で、愚かで、そしてつまらん」
「どこからやってきたモノでも、それは提督の優しさです。榛名はすごく憧れます、殺すための兵器でしかない榛名達に夢を与えてくれます。榛名が思う偽善と善の違いは、やるかやらないかです。考えるだけなら誰にでも出来ます。そこから人にやさしくするのはすごく難しいことです。それはきっと勇気です、恥ずかしいと思う人が多い中で、人の為に誰かの前に立つことが出来る優しさは偽善なんかじゃないんです、榛名はそう思います。だから榛名はそんな優しい提督を……」
彼女はそこまで告げゆっくりと立ち上がり、帽子を退けて私の頭を優しく後ろから抱きしめる。
「人を助けるために、人を殺すのはつらいですか?深海棲艦という人の想いと戦うのはやるせないですか?恨みの内容を知ってまで、それでも戦い続けますか?」
「あぁ」
「榛名は、提督が辛いキツイ悲しいとも思った分だけ提督を甘やかしちゃいます。だから、よしよし」
私の頭を抱えながら右手の指先で優しく髪を梳かす。
「まるで幼子だな……」
「……いや、ですか?」
頭の上の手が離れてゆく。少し心配そうにこちらの顔をのぞき込んでくる彼女。
「こっぱずかしいのは違いないが、嫌ではないよ」
「えへへ、そうですか、じゃあ榛名こんなこともしちゃいますね?」
正面へと移動すると正対し、そのまま太ももの上にまたがり頭を抱き込まれる。
「……」
「大丈夫です、大丈夫ですよ、提督。榛名にたくさん甘えてくださいね?」
豊満であったとだけ言っておこう。