帰ろう、帰ればまた来れるから   作:髪様

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ifノーマルルート
胡蝶の夢を if end


 全てが終わった。色々な喜怒哀楽を飲み込んで、全てが終わった。何もかも満ち足りた世界だとは言えなくとも、少なくともやり残したことはなく今度は終われたのではないかと思う。優しい夢とはいかずとも、救いだけはあったのではないだろうか?

 

「また夢を見た」

 

 戦友たちが姿を変えても❘存在し《おり》、共に駆け抜けた夢である。充実したと言っては何んだが、満たされていたとは思う。深海棲艦と言う存在。そして艦娘。

 

 

『それは本当に満たされていたの?』

 

 

 誰かが私に問う。

 

 

 ……私は、その疑問に笑顔で頷いた。

 

 

▽▲

 

 

 

「被害ほうごぉぐぅ!!」

 

 

 体を鞭打ち伝声管に叫ぶ。最後は既に言葉になってはいなかった。

 

 夢を見た。優しいと言うには少しばかり寂しい世界だが、あの日の友と再び会う夢。

 

 前世の記憶が見せた幻。死ぬことが決まった世界ではなく、『少しでも』の未来が見える世界。

 

 

「あぁ、しかしまた」

 

 力を振り絞って、引き摺った体を伝声管が備え付けられていた壁に崩れ落ちるように与太れかかる。

 

 足を見る。関節とは別の場所で『く』の字に曲がるソレ。誰が見てもまともに歩けそうにない。腕を手を指を見る。何本かはちぎれてなくなっており、絶えず命の水が流れ落ちる。それだけではない、右目も艦橋の正面ガラスが飛び散ったモノが突き刺さり、瞼が縫い付けられている。勿論今後その目が使われることはないだろう。

 

「詮無きことか、しかし、まぁよい夢だった」

 

 小口径砲の集中砲火で吹き飛んだ『ガレ』に体が持っていかれて少しばかり意識を失った時に見た夢。救いようもないほど馬鹿な私が見ていいのか?と思わずにはいられない呑気な、陽気なそれは私の死と言うモノの最後の恐怖を取り去った。

 

「奇遇ですなぁ……私もよい夢を見ましたよ」

 

 似たように艦橋に転がる叢雲の航海長。彼もまた両目をガラス片に潰されている。ついでに言えば両足は私より酷く、ふくらはぎの半ばよりちぎれてなくなっている。辺りを見回せば周囲の要員も死屍累々とは言うが生きてはいるらしく、うめき声が聞こえる。だがしかし、誰も既に立てないし、動けない。

 

 

「おもちゃの人形のような姿になって皆とまた海に出る夢です」

 

 

 なぜか木村提督はそのままでしたがねと、笑う。既に痛みも感じぬほどに麻痺しているのは彼も同じらしい。

 

 

「奇遇だなぁ……私もだよ。この娘が()()()()()になっていた荒唐無稽な夢だ」

 

 

 辛うじて動く左手で叢雲をポンポンと力なく叩く。どうやら見ていた夢は同じらしい。

 

 伝声管より声は聞こえない。乗員皆死んだか、意識がないか。どれであってもあと少しでこの艦は沈む。海に飛び込んだとしても、機銃斉射で浮いている人間から殺されていくだろう。それだけのことを仕出かした。総員対艦の命令を告げようにも、徐々に失われる力で立つこともかなわない。こういう事なら床付近にも伝声管を取り付けて貰えばよかったと場違いなことを考える。

 

 

「あぁ、ならばみな同じ夢を見ているのでしょうなぁ……またやり直す夢だ」

 

 

 今度は戦争を言い訳にした人殺しではなく、ただ純粋に人を守る為だけの力を振う夢。胸を張って正義を唱えられる夢。

 

 

「すみませんなぁ、お先に夢の続きを見させて……」

 

 

 途中で途切れた声が語るは一つ。

 

 

「せっかちだぞ、少しばかり話に付き合ってくれても良かろうに……」

 

 

 どういう意味か分かっていながら、呟く。痛みも感じぬのなら、もう少し戯言を続けていたかったのだが、人の命の限界は流石に超えれないのは私も同じなのだ。

 

 ……仕方がない、最後の一仕事と行くか。

 

 

「総員たいかんっ!!」

 

 

 身体を引き摺りながら最後に見たものは海を駆ける幾つもの雷跡だった。

 

 

 

……………………

…………………

………………

……………

…………

……………

…………………

……

 

 

 

 

『…………さい!』

 

 

 

何かが聞こえる。

 

 

 

『………きなさい!!』

 

 

 

ここ最近聞いたばかりの声。

 

 

 

「起きなさいって言ってるでしょうがぁっ!!」

 

 ドスリと身体に掛かる人の重み。もちろん心情的なそれではなく、物理的なものだ。未だ動かぬ頭を急速に覚醒させ、瞼を無理に動かせば、()()()()()、……いや、当然か。そこで重みの正体を見れば、私の上に馬乗りになる見慣れた少女。ここ最近は更に行動的になったというか、遠慮がなくなってきた。

 

 例えるなら()()()()()素直ではない跳ね返りっ娘だろうか?

 

「でも、珍しいわ、アナタが寝過ごすなんて」

 

 ……寝過ごす?

 

 ふと、隣に置いた時計に目をやる。明らかに起床時間を過ぎたそれをみて、思考が固まる、……マジか。

 

 数秒の間をおいて一気に始動したそれは身体急速に『ガバリ』と起き上がらせた。

 

「きゃっ!」

 

 その勢いで叢雲が後ろに倒れ込みそうになり、私のシャツを掴む。重力に従い後方に倒れ込みそうな叢雲の体に負けない様に腹に力を入れてベッドに再び倒れ込む。

 

「……」

「……」

 

 気づけば勢いにつられて、私を膝立ちで押し倒す形になった少女。私の顔を両腕で挟み込みうるんだ瞳でこちらを見つめる。何を思ったのか少しずつ近づくそれに成す術もなく、そして、

 

 

「おっはようございまーす!むっらくもちゃん、提督起きましたか~」

 

 ……東雲の声に遮られた。

 

「……」

「……」

「……あっ」

 

 

パタン

 

 扉は閉まると同時に慌てて飛び去る叢雲。体の重みが消えたので同じく彼女と相対するようにベットに腰かける。……しかし、まぁ、朝の生理現象がなくてよかった。

 

 

「……ち、ちがうわっ!これは別にちゅ、いや、キスをしようとした訳じゃなくてぇ!その、頭に少し、ゴミが乗っているの気付いて、確認しようとして、それでぇ……」

 

じわっ

 

「あ~、なんだ、叢雲。おはよう」

 

 明らかに大暴走して墓穴掘って、更には泣き出しそうな彼女。気の強く精神的にもしっかりしている彼女がここまで取り乱すのも珍しい。そのまま立ち上がり、手のひらを彼女の頭にのせてゆっくりと動かす。

 

 あれだな、叢雲的にはきっと学校では『父親なんてクソよ。いつも汗臭いし、なんか冴えないし』とコケにしていたのだが、家では『パパ~ただいまぁ~』と甘々な態度で接しているのを学友に目撃されたようなモノなのだろう。

 

「なんだ、おはようのキスでもしてくれるのかと期待していたのだが、少し寂しいな……」

 

 ん?ほれっと自らの頬をつついて指差す。こちらが馬鹿なことを言っていれば、「なにそれっ、クスッ」ぐらいは笑ってもらえるのではないだろうかという考えからだ。

 

「……え、いいの?」

 

 こちらの返事を待つまでもなく、一気に距離をつめ、頬に少し濡れた唇が当たる。

 

 

…………ハイ?

 

 

「えへへ、おはよう、()()()

 

 

 

▽▲

 

 

 

  『胡蝶の夢』

 

 ふと、思い出した有名な儒教の説話。

 

 どこからが夢でどこからが現実だったのか。もはやわからない。

 

 透けてゆく身体を眺め、隣で『()()()()()』と泣く少女を見る。

 

 私は何をしているのだろう?

 

 彼女を泣かせたいのか?

 

 いや違う、ただ、()()()()()()()()()()()だったのに。

 

 未練なんて抱きようもないと思っていた。

 

 ここにきて、こんなにも死にたくないと思ってしまうなんて。

 

 

 

▽▲

 

 

「Can you speak english?」

 

「Sorry, little speak」

 

 

 病室で目覚める。明らかに日本人ではない容姿に白衣を着た初老の医師。片目は見えぬが、どうやら命は繋いだらしい。隣には幾人かの見知った顔が同じようにベッドに括り付けられている。

 

「ソウデスカ、カタコトデスガ、ワタシニホンゴハナシマス、OK?」

 

「OK, understand」

 

 どうやら、あのまま戦闘機能を失った艦ごとほぼ全ての艦艇が拿捕されたらしい。あの時見えた魚雷は途中何かに弾かれる様に海へ沈んでいった。まるで、夢の中での艦娘叢雲が操る艦の様に意思無き武装は通さない。いや、それは戯言か。

 

 彼の医師が伝える英語交じりの話をおぼろげに掴めば、どうやら二週間ほど目覚めなかったらしい。あの時参戦した艦艇全てが途中より、途中で急激に弾が失速したり、明らかに可笑しな方向にそれたりと、謎の理由にて攻撃が全く当たらなくなり、艦艇全てが同時に白旗を上げたのを見て、そのまま拿捕すれば、中には死にかけではあるのだが、誰も死んでいないという奇跡としか言いようがない状況。当時現場に居た海兵隊員は復讐も忘れて唖然と日本海兵を担架に乗せて運んだらしい。

 

「アナタガタニハ、カミノカゴガアルネ」

 

 

 

 ……まさかな。

 

 

 その後、沖縄戦は()()()()()()()に終結。我々は艦と共に沖縄に拘束されることとなった。私視点での史実よりもはるかに被害の少ない沖縄。生きて、全ての乗員が拿捕されたとあれば、帰還すればいらぬ誹りを受けることは間違いない。

 

「アナタガタハ、HEROダ。イノチヲ、ステテpeopleをsaveシタ、ステイツニモコンナ、オオキナコトスルヒトイナイ」

 

 小艦隊丸ごとを敵陣に突っ込ませ、通信の途絶が続く沖縄に降伏するようにした命令を届ける役目。米国からしても、酷く馬鹿な戦い。

 

「アノトキ、アナタガGood luckオクッタshipワタシモイマシタ」

 

 沖縄突入直前の深夜に遭遇した、ほぼ病院船と輸送船だけで構成された艦隊。話を聞けば遭遇する少し前にここから先に日本艦艇は居ないからと護衛艦艇と別れ沖縄に向かっていたらしい。後から司令部に何処の艦隊所属か問えば、あの時に友軍艦艇があの付近にいないことを聞き、そして攻撃されないことに驚いて、私が何を考えていたのか話を聞きたいと思ったらしい。

 

 あの時、特艦隊は付かず離れず、輸送艦隊が深夜のスコールでこちらの艦影がろくに確認できないことをいいことに、まるで輸送艦隊を護衛するように包み込んだまま沖縄付近に突入したのである。衝突回避には英国式の艦隊信号を使っていたので、こちらと違って気づきようもないだろう。

 

 彼は奥にいてあまり知らなかったようだが、雨が止み旭が昇りかけたときに輸送艦に手の空いた艦隊の人員全てで敬礼を送って艦橋に見える唖然として見る米国人を皆で笑いながら見送ったものだ。

 

 その後すぐにとある使命を載せた水偵を飛ばし、戦闘速度にまであげ敵艦隊に突入した。きっと、輸送艦隊の指令は、敵に見逃された挙句、報告を怠ったというより、気づかなかったことを追及されたくなくて緘口令でもしいたのであろう。他の乗員も自らが裁かれるを嫌って黙ったたと見るべきか。これは、彼には言うまい、あえて今更無用な被害者を作る理由もない。軍事裁判で相当の大事になるだろうし、此処でいらぬ恨みも買う必要もないのだから。

 

I just did not want to forget the dream(私はただ夢を忘れたくなかった)Dream of homeland(祖国の夢を)

 

 

 

 

 ……さて、話も終わった。もう少しだけ寝よう。

 

 

願わくば、夢の続きを見れる様に想って

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