帰ろう、帰ればまた来れるから   作:髪様

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なれど、沈むは彼方の海に

 1942年、連合軍東南アジア戦線崩壊。それに伴うジャワ島攻略作戦の発動。

 さて、ここでもしもの話をしよう。私はこの時知る由もなかったが、本来なら駆逐艦東雲はボルネオの浅海に沈むはずだったのだ。何故これを知ることができたかについては、少々オカルトが今よりさらに追加されるので割愛しよう。

 あの時の被害は大きくとも深刻でなく、飛行艇撃墜後に通信途絶を重く見た叢雲と合流。ミリ上陸の補佐をした後に一度カムラン湾へと撤収。簡易補修を受けることとなる。といっても機銃穴に鋼板で補修し塗装するだけのものであるが。

 

 その後乗員の補充と武装の簡易でない補修を開始。一時、東雲乗員は陸へと上がり、叢雲、白雲の乗員と交代で艦勤務を行った。修復後第12駆逐隊へ復帰、この時すでにジャワ島上陸作戦は終盤へと差し掛かっていた。第12駆逐隊は先の飛行艇攻撃、先の真珠湾奇襲での航空攻撃の有効性の証明を教訓に単艦行動を避け、ミリ近海の哨戒を厳に行う。

 

 

 1942年2月27日スラバヤ沖海戦勃発。

2月25日、スラバヤ港を出たABDA(アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリア)艦隊。これを発見し攻撃を開始した陸攻部隊。散発的な攻撃であったため、ABDA艦隊には一切の被害は出なかったが、回避運動のために余分に消費した燃料を補給するために艦隊は帰投。入港直前で哨戒中の艦隊を那智所属の水偵が発見。第五戦隊司令官高木少将の元、別働隊含め21隻の艦艇が参戦。ABDA艦隊の大半を撃滅せしめた。

 

 

 1942年3月1日、スラバヤ港へと戻ったABDA艦隊は解体。エクセター旗艦とする英艦艇はセイロンへと撤収を開始。米艦艇ヒューストン、豪艦艇パースはチラチャップへと進路をとる。

 

 

 0009、『クチクカンフブキ、テキカンテイフタセキヲハッケンス』

 

これを発見した駆逐艦『吹雪』はすぐさま一定の距離を保ち追跡を開始。道中日本軍上陸艦艇を発見した二隻は付近に日本軍艦艇が存在しないとし、縦陣にて突撃を敢行。二隻が回頭すべく舵を切り側舷を見せた時、すかさず追尾中の吹雪は雷撃を行うも命中弾を得られず、すでに警戒に入っていた護衛の駆逐艦『春風』は照明弾を打ち上げた二隻の間に煙幕を発射、友軍艦艇到着までの時間稼ぎを開始する。

 

 もとよりこの海戦に参戦したのは第12駆逐隊では叢雲と白雲のみである。だがしかし、ここに東雲が加わったところで一切の変化は起こらなかった。

 

 

 なれど、ここより運命は変わる。

 

 

 本来正史では解体されるはずであった第12駆逐隊は、東雲の現存により存続。叢雲、白雲が他駆逐隊に編入されることなく、薄雲も再加入し、太平洋戦争を駆けることとなる。

 

 

 沈むはずだった第12駆逐隊の面々、幸か不幸か様々な海戦を沈むことなく経験し生き延びた。主に南方で護衛任務に勤しみ、史実より遙かに多くの輸送船団を本土へと送り届けたのである。

 

 

そして運命の時が来る。

 

 

『天号作戦』とその内訳となる『菊水作戦』、指宿、知覧等より飛び立った航空機による特攻作戦と大和以下水雷戦隊での沖縄特攻である。

 

 

 「若造の戯言と仰られるが、この作戦で死ぬ未来を担う者たちのことこそを思えば、如何に下策であるか理解できましょう!老害ばかりが生き残り、この帝国を背負い立つ若人亡き国に未来はありましょうか!?」

 「ならば貴様は、沖縄を見捨てるというか!さすれば将兵の士気は下がり、今まで血肉を捧げたにも関わらずと帝国臣民の多くは我ら軍部を卑下しようぞ!」

 

 発端は会議の中での罵り合いであった。さほど私が戦史を覚えているといかなくとも特攻作戦が招くのは勝利ではなく悲劇のみである事は知っていた。今や沖縄占領は確実であるのだ、敵兵を減らしたとしてこの国の敗戦は免れない。核という鬼札、さらには圧倒的な国力を持つ米国に対して今や帝国は勝つ術を持たぬのである。月刊空母、日刊駆逐艦とも呼ばれるほどの速度で前線に新鋭艦を投入できるほどの生産力がある。実際には建造ドックが相当数存在し、そして資源も豊富であるからできる荒業であるが。

 

 「現実を見れば理解できましょう!今や落日!何故に無駄な殺生を続けなさるか!特攻にしても先に死ぬは帝国を要らぬ場所に導いた我らでしょうぞ!もちろん戦後の責を負うものも残さねばなりますまい。だが死ぬのは若人にあらず、今ここにいる先亡き者たちではないのですか!」

 「騙るが!貴様は沖縄に居る帝国臣民に納得させるほどの|作戦≪モノ≫を立てられるか!」

 

 「第12駆逐隊に稼働可能な響、軽巡酒匂を加え水雷戦隊を形成し、大和旗艦とする艦隊とは別に沖縄救援に向かわせて貰いたい。その間の特攻は止め、艦隊護衛に航空機を」

 

 普通に考えればわかること、航空機よりもはるかに艦船特攻は被害が出る。ここで問題なのは航空機特攻が目的を全くと言って達成できなかったことにある。フィリピンから飛び立った特攻機は連合軍に多大に被害を与えたが、すでにこの頃になるとダメージコントロールが進み、直撃弾≪・・・≫が有ったとしても巡洋艦級になるとほぼダメージは与えられない。実際の攻撃力的には特攻よりも貫通力の高い航空機爆撃のほうが上なのだ。といっても制空権を握っていない現状では敵艦艇に爆撃なぞ望めようはずもない。特攻は味方の数に対して敵に多くの人為的被害を与えることができるが、結局大本を叩かねば、沖縄の被害は増えるばかりである。大本営の決定は沖縄での連合軍大打撃による講和。これ以上戦いたくないと思わせることこそが本命。

 

 「……クククク!貴様回りくどいことを!初めからそう言えばよかったのだ!根っからの木村一族は水雷屋か!尤もなことを申して言うわこれぞ!夏春冬と竹も連れてけ!これだけ語ったのだ、米国艦隊を撃滅せねばお国の土は踏ませんぞ!」

 

 「元よりそのつもりです。必ずや帝国に少しでも有利な状況を作って見せましょう」

 

 

 来る日、大和艦隊とは別に特水雷戦隊と名付けられた艦艇が出撃した。ありったけの重油をかき集め、旗艦叢雲とし、酒匂、東雲、薄雲、白雲、響、夏月、春月、冬月、竹で構成された戦隊である。本来であれば冬月は大和艦隊に含まれていたが、どちらか一方を確実に決めるためにこの編成となった。

 そして航路選択であるが、大和会議では三つの航路が存在する。最短を航路1として三つだ。当初の予定では航路2を取り航路1よりも迂回、連合軍艦艇の索敵を少しでも避ける進路であったが、史実より少々ばかり重油量が多く存在したとしてとも、もう一つの水雷戦隊を動かすためには航路1をとるしかない、結局のところ大和艦隊は奄美を反時計回りに水雷戦隊は時計回りに進むこととなる。

 

 

 結果で言えば、沖縄艦艇特攻は一部成功となった。

 

 大和は直営機の援護で本来よりも沖縄に程近くの位置で沈み、道中遭遇した駆逐艦3隻、軽巡2隻、航空機89機を道連れとしたのである。

 

 では水雷戦隊は?

 

 大和発見の報を受けた敵は大和に掛かり切りとなり、ほぼ敵と遭遇することなく沖縄へと肉薄したのである。

 

『ワレコレヨリ、ジュウジントツゲキヲ、カンコウス』

 

 8日黎明0411、敵航空母艦複数を発見、直掩機僅か。高速にて接近雷撃を開始す。

     0533、竹果敢に奮戦するも敵巡洋艦の雷撃にて轟沈。

     0615、敵航空母艦、酒匂の砲撃にて炎上、続く東雲の雷撃にて着底。

     0745、薄雲炎上、航行不可能と判断、乗員の退避を開始するも敵戦艦の砲撃にて爆沈。

     0833、叢雲、東雲敵戦艦へ雷撃、直撃弾を与え敵戦艦を航行不能とす。

     0856、春月、夏月、敵航空機に対して奮戦するも至近弾4、直撃弾各2を受け轟沈。

     0945、響、小型敵航空母艦に肉薄砲撃、魚雷2本を直撃せしめ、撃沈す。

     1011、酒匂、敵航空機爆撃により直撃弾2弾薬庫引火により爆沈。付近航行中の敵駆逐艦に被害小。

     1200、冬月、敵魚雷4本を受け爆沈、直前に放った雷撃により敵巡洋艦を航行不可とす。

     1211、響、敵艦砲射撃により爆沈す。

     1313、東雲、艦尾爆損により操舵不能。

     1323、叢雲敵戦艦に雷撃敢行するも敵戦艦に命中弾なし、付近航行の駆逐艦二隻を撃沈す。

     1332、東雲敵艦砲射撃にて轟沈、叢雲艦首に被弾、艦尾破損により操舵不能。

     1343、叢雲、敵魚雷8本を受け爆沈。

        最後の照準なし雷撃により遠方航行中の敵戦艦小破、輸送艦二隻撃沈。

 

  

 戦果報告 特水雷戦隊壊滅するも敵打撃艦隊に多大なる損害を与える。木村利正水雷戦隊指揮官少将含め各艦艦長未帰還。生存者2113名中321名。残り生存不明。

 

 

 敵ハ新ニ殘虐ナル爆彈ヲ使用シテ頻ニ広島ニ住マウ無辜ヲ殺傷シ慘害ノ及フ所眞ニ測ルヘカラサルニ至ル

 

 帝國臣民ニシテ戰陣ニ死シ職域ニ殉シ非命ニ斃レタル者及其ノ遺族ニ想ヲ致セハ五内爲ニ裂ク且戰傷ヲ負ヒ災禍ヲ蒙リ家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ朕ノ深ク軫念スル所ナリ

 惟フニ今後帝國ノ受クヘキ苦難ハ固ヨリ尋常ニアラス爾臣民ノ衷情モ朕善ク之ヲ知ル然レトモ朕ハ時運ノ趨ク所

 

 

 堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ開カムト欲ス

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