帰ろう、帰ればまた来れるから   作:髪様

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なれど、認めぬその在り方

 先の大戦の勝者は枢軸国や大日本帝国ではない。では何故、先での連合国はほぼ壊滅状態であるのに、枢軸国側には艦娘等の存在が居り国を守って居られるのであろうか?まるでマッチポンプである。

 

 では本題に入ろう。

 

 深海棲艦、人の怨み辛みの集合体。今世のモノは皆そう言う。では艦娘とはなんなのだろうか?深海棲艦を負の存在とするのなら艦娘もまた負の存在にしかなりえない。彼女たちは決して深海棲艦と対になる存在ではない。元となった艦艇も全て何かしらの命を刈り取るものであり、敵であれば多くのものを海へと沈めてきたのだ。怨みの対は厳密には違うが恩であり、辛みの対は楽である。彼女たちはこれのどれにも当てはまるような存在ではない。私がそれ言うのは甚だおかしいものであるが、軍人とはどう足掻いても敵対者にとっては悪であり、兵器とは何をどう足掻いても人を守る道具になりえない。敵を殺すことによって結果的に味方が死ぬ可能性が減るというだけである。兵器も使い方で人を守れるというが、結局の守れたという人の影にはそれ以上か、最低でも同数の命が減るのだ。

 

 

 私の前には何故か、新米提督の方々がいる。そして私もここでは新米提督である。彼らの前に立ち、更には何故にこのような禅問答を繰り広げる羽目になったのだろうか?と疑問を浮かべるまでもない、実際には簡単なことなのだが。兵器運用の心得というものである。自らを完全な善として戦えば、そこに戦争の終着はない。良い事をするために戦うのであっては、人がいる限り悪が滅びるその時がないように戦いにも終わりを告げることができなくなってしまう。何かしらの落としどころが必要なのだ。世界を知る者は予ての戦争に勝ち目がないことは知っており、それでも戦う必要が出てそして責任を取って死んでいった。

 大日本帝国という国は負けを知らなかった。我々、大本営の最大の失点、間違いは第一次世界大戦そしてそれ以降の小競り合いを、正義だから勝ったという情報を日本中に発信してしまったことである。そして負けたものは隠し広めなかったことだ。負けを知る者は知っていた。満州国も蘇聯連邦を刺激せぬようにと建国に反対するものも多くいたが、資源の問題もあり、一次大戦後の僅かな好景気も戦後の好戦論と国民感情も後押ししてしまったのだ。これ以上戦うべきではないと判っていても、あの時代であっても、世論というものは大きい。気づけば日本という国は泥沼へと足を突っ込んでしまった。自ら蒔いた種とは言え、戦わぬという選択肢は交えぬままには終われないとの思想のもと廃絶されてしまった。

 

 『欲しがりません、勝つまでは』という言葉には多くの含みがある。今少し我慢すれば、贅沢できるのだから、あの時の帝国臣民は本当にそう考えていたのだ。だがしかし、もちろん大戦後半になるにつれてその考えも変わっていく。そんな中であっても次もまた勝てるさという楽観的な考えは最後まで、つまり負けるまでは淘汰できなかった。そのような自らの贄を得るために建造された艦船が艦娘の元となった艦だ。交戦的なところもあるし少々平和ボケした者には刺激的な性格をしているものもいる。戦うか、戦わないか、進むか、進まないか。周りの甘言に惑わされず、されど周りの諫言を聞き入れる。指揮官とは正しい事を選べなくとも、最低でも間違いだけは選ばぬようにせねばならぬのだ。人を率いる身が負けぬという甘い考えを持っていればそこにあるのは味方の無駄死にだ。つまり、相手が人類の味方である艦娘であっても間違いなら間違いと正せる思考が必要になってくるのであって、彼女たちを絶対の正義として捉えぬようにする必要がある。それが、彼女たちをより多く生き残らせるための絶対の条件であり、そして指揮官の必要な技能だ。兵器を運用し軍を動かすには常日頃から目的を決め、それを達成するために無駄なことはしないことが必要である。

 

「で、いつまでそんな話を続けているのかしら?」

 

 気づけば、ボードの横に立つ私を呆れたて目で見る彼女がいた。討論も熱くなりすぎていたらしい、途中途中で反論を出してきた提督も今では口から魂を出しつつ話を聞いている。頭に入ってきているかどうかは分からぬが。

 

「あぁ、もう終わるよ。正直、これ以上続けても意味がないだろうからな。さて、最後になるが、要するに指揮官とは無駄なことは考えず、必要最低限に取捨選択し、切らなければいけない者は切り、切らなくてもいい者は確実に活かす必要がある。全滅だけは今後も踏まえあまりよろしくない、そういうことだ」

 

「はぁ、で、なんでそんな話をアナタがしているのかしら?一尉は……ってなんでアンタもエクトプラズム出してんのよ?」

 

 

▼△

 

 

「鷹丸より、てばーたしんごう、『ワレテキミユ、ススム、ミギ』」

 

「復唱!『ワレテキミユ、ススム、ミギ』!」

 

 四隻の駆逐艦と特装輸送艦(改装商船)六隻の大輸送船団、悪化する戦況への対策のため、南方より本土へのゴムと油を運ぶためのものである。駆逐艦艇は第12駆逐隊であり、輸送艦は鷹丸、鷲飛丸、湯坂丸Ⅱ、湯坂丸Ⅰ、第一坂東丸、第二坂東丸である。

 

 「通たーつ急げ!東雲これより敵艦の哨戒にあたる、船列替えられたし」

 「東雲これより敵艦の哨戒にあたる、船列替えられたし!」

 

 東雲の信号員がバサバサと旗を振り近くの船、鷹丸に通達する。それを鷹丸が他の船に、そして他の船が他の駆逐艦に通達する。本来であれば、方角を360度にして進路方向を示すのだが、如何せん輸送艦艇の船員は陸軍の兵士が交代で行っており、更には手旗信号で数字を表記することは文伝達の誤報を招くため、より簡潔に専門的なものではなく進行方向からの表記となっている。場合によっては輸送船に取り付けられた警鐘の鳴らす回数で方位を示す。例にすれば、船列進行方向が北北東(0-3-0)であり、かつ敵艦艇の潜望鏡を直角右手に見つけたとする。そうすれば方位的に言えば東南東(1-2-0)であるので、まず警鐘を一回、二拍ほどおいて次は二回、最後は0であるから少し長めに十拍ほどおいて一番初めに戻る。警鐘であるのでこれで敵がどちらにいるか分かるということだ。

 

 「連装砲よーい」

 「連装砲よーい」

 

 輸送船団囲む輪形陣より、右手に展開していた東雲を敵艦発見方向へと舵を取る。それに合わせるように船列後方に存在した薄雲が東雲のいた位置へと速力を上げ横を埋める。敵潜水艦による追跡は後方からが多いが、雷撃されるとするなら魚雷をぶち込みやすい船団の横っ腹を狙われやすいためだ。

 

 「深度設定、一射目15!二射目80!三射目50!よーい!」

 「一射目15!二射目80!三射目50!よーし!」

 

 「機関てーしー、各員周囲の警戒厳にせよ」

 

 船団より一定の距離を取り、東雲を停船させスクリューを止め聴音機を起動させる。船団の中心にいても、ぽんぽん船と呼ばれるほどに大きな排気音を出す旧式改装船団である、その音により敵潜水艦を発見することは難しい。実際にいるかどうかもあまり定かではないのだが、もし居たとするのならば警戒するだけで、潜水艦は逃げざるを得ない。潜望鏡深度であれば、敵艦がいるとされそうな海面に単装砲を撃ち込むだけで、潜行(にげ)の一手しかできなくなるのだ。

 

 「聞こえるか?」

 

 聴音機を耳に当てる彼は手と首を振り否定の合図する。少し深めの深度で身動きせずに留まっているのならば聴音機では敵を見つけることは少々難しい。とはいえ、付近に居るとするのならば敵は動けない。幸いもうすぐ他船団との合流地点であるので安全域、護衛艦艇の交代地点に到達するまでの時間稼ぎはできるだろう。

 

 「聴音機落とせ、……右前進微そーく」

 「右前進微そーく」

 

 その後、停船、微速回頭、停船を繰り返し続ける。時間的頃合を見計らい、魚雷装填手等の警戒にあたっていた者を職場に戻らせる。爆雷要員は未だ船尾付近の投射機にて待機である。

 

 「ん?……雷跡2!?敵艦いるぞ!戦闘配備ー戦闘配備ー!一隻だけとは限らん!蛇行するぞ!海に落ちぬようにしろ!投射機への設置失敗して艦に落とすな!」

 

 直様、外れた魚雷が向かってきた方位へ艦首を向ける。速度を少し上昇させると、次には潜水艦の戦闘深度へと爆雷の一射目を設定する。

 

 「艦影探せー!そう長くは潜ってられんからこそ手を出したはずだ!浮上しだい牽制砲撃と魚雷発射準備!」

 

 雷撃要員が発射準備に掛かる、魚雷の発射数等号火力だと勘違いするものも多いが、発射数に等号するものは命中率である。基本放射状に魚雷は発射され、敵艦進行方向への進路阻害や回避位置の減少、結果的に一発でも当たれば致命傷を与えることができるので、発射された魚雷の多くは当たらない。魚雷の値段から考えてもあまり懐に優しくない兵器である。

 

 「更に艦首左上より雷跡4!二隻目!!」

 

 「速度二段ゆるめぇ!!」

 

 ゆっくりと速度を落とした艦首を掠める様に魚雷が流れる。そのまま艦尾右方向へと魚雷は消えていく。

 

 「第二速度あげーぃ!」

 「第二速度よーしぃ!」

 

 発射準備の整った単装砲が、カッコンカッコンと音を立てて回転する。魚雷が向かってきた方向へと位置を定めると、発射。砲弾が水面へと打ち付けられ、大きな水しぶきを上げる。もちろん、潜水艦を狙ってのものではない。目くらましと牽制である。

 

 「見つけたか!?」

 「一隻!初弾発射艦艇らしき艦を艦首右650に!」

 「速度上げ一速!」

 

 

 ▼△

 

 「それじゃ、ここでとりあえず分かれるわ。執務室はここから進んで120にあるから、そこで待機してちょうだい、アナタの指揮下に入る艦艇のリストも置いてあるから確認もね。……今が0904だから1000に案内の子を向かわせると思うから……」

 

 「了解した」

 

 叢雲の後を辿り、執務室へと向かう。すぐ手前で彼女は止まり、そう言うと元来た道を引き返していった。彼女の説明通りに目的の部屋へと向かう。

 扉を開ければ、流石にみかん箱ではないが、安物、というか灰色のいわゆるオフィスデスクと呼ばれる代物が5畳ほどの部屋に置いてあった。思わず、「これが提督の部屋?」と呟いてしまったのはご愛嬌であろう。実際どう見ても、左遷窓際族の残念部屋であるのだから。

 

 そして、デスクの上と中を改めると、艦艇情報とかかれたこの鎮守府の所属艦艇の目録が右一番下の大きな引き出しに四冊ほど入っており、一段目には筆記具、二段目には多種多様の判子が置いてある。4段目と左にある一つだけの引き出しは空であった。

 

 目的の指揮下艦艇リストは探すまでもなく、デスクの上に置かれている。ビニール包装がされて居り表紙にはマル秘と大きく印刷されているのだが、正直マル秘をデスクの上にポンと置いておくのはどうかと思われた。まるで過去の帝国海軍(われら)を見ているようで、少しため息が出てしまう。

 そのまま開封すると、これまたずっと座っていればすぐに尻が痛くなりそうな椅子へと腰掛けギシリと鳴らす。

 

 「阿賀野型酒匂、吹雪Ⅲ型響Ⅱ56、吹雪Ⅰ型東雲Ⅱ40、吹雪Ⅱ型叢雲39……ここまでは予想できるが、金剛型榛名か。彼女には席を置いただけで指揮はしたことないのだがなぁ……訓練航海もできる燃料がなかったわけであるし……ん?なんだこれは?」

 

 

 『乙種太平洋戦争録』『甲種太平洋戦争録』『並行世界における太平洋戦争論、早期講和のための礎作戦』

『後の世に結号作戦と呼ばれた奇跡の特攻作戦』『たった一人の人間が起こした太平洋戦争の終結の改変奇跡』

 

 

 開封したビニールに張り付いており、ファイルを取り出した際に落ちた紙切れ。そこにあったのは、なにか含みを持たせてある書籍名と思わしきメモと出版社の名前であった。

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