帰ろう、帰ればまた来れるから   作:髪様

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なれど、あるその罪は

 『木村裁判飜譯文書・BC項戰犯會議』

 

 戰時國際法B級戰時犯罪者 木村利正

 

 木村利正少將(以下、甲表記)は菊水作戰(今作戰における特水雷戰隊戰を沖繩沖海戰と呼稱)における戰時國際法B項、その内海戰規定(海上作戰法規・海戰法・海戰法規)における病院舩及びその他救助艦艇への攻擊、擊沈等該当行為の確認。甲は沖繩沖海戰における作戰中、明らかなる海戰法規違反該当行為を行ったものとして、該当者及び、作戰許可を発行した該当者上位階級者、作戰参加者士官複数名への拘束を命ず。

 

 

 発 聯合國戰争犯罪委員會 

 宛 聯合國軍最高司令官(日本占領)總司令部

 

 

▼△

 

 

 「ふざけおって!戦死者を戦犯とするだと!?そのようなふざけたことを言うか!」

 

 

 A項目該当者戦時犯罪者の拘束、審判そして刑の執行、更にはBC級戦犯の裁判が進む中、とある座敷の一席のことであった。敵対国に裁かれることを良しとせぬ者が、多く自害する中でどこぞより勧告文書が流れてきたのである。驚くべきことに戦死者を戦犯として裁判にかけるという異例の内容であった。日本側戦争関係者にとってこれは非常に遺憾のことであり、やはり相当数の反対及び異議申し立てが行われたが、GHQはこれを無視。

 内容で言えば該当者の拘束であるというモノであったが、該当者の八割は既に死体の引き上げもなく海の底である。弁護人無きままの有罪判決がここに決まった瞬間であった。

 

 「英霊の名をも底に落とすか……、米国は帝国という国を骨子すら完膚なきままに潰す気よ」

 

 先において、マニラ裁判にて陸軍本間中将閣下の銃殺刑も執行されたばかりである。本間中将は欧米においても有名な人道者であり、決して裁判で裁かれるような事をしていたとは思えぬと他の将校満場一致の考えであったが、それを決して阻止できるような立場に彼らはなかった。彼らは連合国軍に対して煮え湯を飲ませた日本軍人が、戦犯に該当せぬと思われる者すらも戦犯として裁かれる現状に憤りを隠せない。

 

 「あまりの非道!これを許して残りし帝国臣民のあるべき姿はどこにあろうか!?」

 

 このままでは帝国の良き人材すらも全て殺され、帝国は予ての大東亜共栄圏を唱へる前の欧米の占領地のようなモノとして扱われることになる。彼らにはそういった、人ではなく奴隷として扱われるのではないかという危惧もあった。

 

 「これ以上許してはおけぬ、このまま畜生の如く、死ぬまで尊厳なく扱われるというのであれば、我ら臣民はまた一度立つべきである」

 

 その時である、その会合を予てより察し、そこへと突入し待ったの掛け声をかけた者がいた。

 

 「我が弟の遺書がある」

 

 

 

思うにこの一生は何を持ってここにあるか理解できぬべきこと多きものであった。

されど、多くの戦友(とも)と良き部下に囲まれ、まして終ぞ子を成すことできずとも、これより尽くす良き妻があり、良き出会いに囲まれた良き人生であったと思ふ。

我が思いを成就するにあたって、多くの戦友(とも)を道連れにする我が罪を許すなかれと感ず。

そしてここより、戦友ら臣民らには良き世を為す為の辛抱を強いる時代(とき)が待ち受けているであろう。

後を託す戦友らには、如何に辛き世が待ち受けようとも、如何に困難な世が待ち受けようとも、ただそこに在りどのような難事にも屈せず、陛下、臣民らの(これ)を守り、耐え難きことをも耐え、その在り方をただ粛々と受け入れ、これより先多くの更なる死者を出さぬ世を望まんと思ふ。

戦友(とも)らよ、我が罪は我が罪である。

我が行いは恥ずべきもの多くで、戦友(とも)らが待つ、九段に行けるとは思わぬものであろう。

九段に行かぬならば、その罪背負って、地獄にてその灼熱に焼かれよう。

戦友(とも)らよ、米国に屈せとは言わぬ。

ただ、陛下と臣民と伴にある戦友(とも)らの為にその苦心を抱きつつも、熱き想いだけは抱き、ただ平和の世の為にただただ耐えて欲しい。

妻よ、母よ、先立つ我を許せとは言わぬ。ただ、強かに、健やかにあれと願わんばかりである。

 

 

 流るるに この命をも 賭けたりと 想い一生 我が友に

 

       昭和二十年四月四日       遺言者 木村利正

 

 

 その座敷にいた者たちの多くは座して拳を握り、耐えようとしても耐えられぬ涙を流した。まるで、自分の後の扱いを分かっているかの様な語り様。軍人としての最後の名誉をも考えず、ただ残された者だけを案ずる。だからこそ、立たねばと思う者もいた。しかし、やはり名誉をも奪われることとなった本人からの、ことを察してまるであの世より彼らに向けた様な手紙の内容に、ここでその思い踏みにじってはならぬと感じ入ってそれを諦めた。

 

 「ここにいる者の中、やはり理不尽に裁かれ、死ぬものもいよう。だが、ただ良き世を祈ってそれすらも耐えよう」

 

 

▼△

 

 

 「ちょっと東雲!アナタ、それでも提督の乗艦だったの!?こんなことも察せないなんて、彼の乗艦としてあるまじきよ!」

 

 叢雲の明らかなる憤怒、ただ彼はそれをボウっと眺めていた。怒鳴られている側である東雲は叢雲の怒りに納得いかないとばかりに言い返す。

 

 「はぁ!?叢雲ちゃんこそ、おかしいでしょ!?私のほうが提督のことをわかっていますぅ~」

 

 叢雲のストッパーとして普段なら早々怒らぬ東雲の反応に、周囲(艦娘)の反応は驚きを隠せない。そしてその争論の原因は既に我関せずといってそこに居る。

 

 「やぁ、司令官。ご機嫌いかがだい?」

 

 白髪の小柄な少女が口撃が飛び交う中、それすらもモノともせず彼の近くに歩み寄る。彼女の名は響Ⅱ56(ひびき)、吹雪Ⅲ型(暁型)駆逐艦の艦娘である。その手には彼と同じ内容の朝食が並べられた盆が持たれている。そう、彼らは今食堂に居り、朝食を取っている最中であった。そんな中、叢雲と東雲による争論が始まったのである。

 

 「司令官、ここいいかな?」

 

 東雲と叢雲は既に朝食そっちのけで立ち上がり、戦争(笑)?を始めている。彼の前の二席は彼女らの朝食が置かれており、彼の右隣は少し前に「あっ」と呟いて急にいなくなった艦娘の席である。だから、彼はおそらく左隣に座るのだろうとそう思った。

 

 「構わんぞ、君を断る理由なぞないからな」

 「Спасибо(スパシーバ)。じゃあ、遠慮なく」

 

 そう言って響は、彼の朝食を半分ズラすと、真横に自らの盆を置き彼の膝の上に座った。

 

 「……え?」

 「それにしても彼女たちはбалда(ボーンダ)(馬鹿)だね、司令官は塩派だろう?」

 「はぁ!?アンタどこ座ってんのよぉ!それに提督はソース派にきまってるでしょう!?」

 「何言ってんの、叢雲ちゃん、馬鹿なの?提督は醤油派ですぅー、……てっ響ちゃん!?なんでそんな羨ましい所に座ってるの!?」

 

 ここまで来ても今回の争論の原因は未だ出ない、事は単純、単に目玉焼きにかける味は何がイイかという内容、むしろ彼が目玉焼きにかける調味料は「何か?」というモノが争論の元であった。

 まず最初に彼がテーブルの端の醤油、ソース、塩、箸、爪楊枝等が置かれている場所に目をやった。それに気づいた東雲が、目線の先にあるうすくち醤油を取ったのである。しかし、彼はそれを「すまんが違うんだ、気持ちだけありがたくな」と断った。そして、すぐにそれに叢雲が反応し、東雲が今度はと取ろうとしたソースを先手で奪い彼に渡したのである。そして冒頭に戻る。そして今ここで、さり気なく響が彼の膝に座り、いつのまに取ったのか、卓上塩(品名 俺の塩)を彼に差し出したのであった。

 

 「お、おう、すまんが響、君も食べにくいだろうし、どいてはくれまいか?あまり行儀の良いものとは言えないだろうしな」

 「大丈夫さ。見ての通り私たち暁型は駆逐艦の中でもとても幼い容姿だよ、小さな子に食事を与えるときに膝に乗せることぐらい、父母は普通にやっていることだろう?それとも私のような女に触れていたくはないかい?」

 「そ、そうか、それもそうだな」

 

 膝に乗ったまま、後半寂しそうに彼へと首だけを少し左後ろに動かして振り返った響。少し潤んだかのように見えたその瞳に、彼は否とは言えなかった。

 

 「「ちょ、提督!?」」

 

 そしてそれを見て、「そんな馬鹿な」とばかりに驚く『雲』コンビ。彼女らから見て彼、木村利正はどちらかといえば軍規には緩いが、それでも礼儀はそこそこ大事にする人物だという認識があった。故に響も有無を言わさず膝より退かねばならなくなると思っていたのである。

 

 「司令官、私が塩をかけてあげようかい?」

 「いや、塩はいらんよ。済まぬが響、少しの間だけどいてはくれぬか?すぐに戻ってくるので、少しだけだ」

 「……え?そうかい?それは残念だけど、直ぐに戻ってきてまた乗せてくれるんだろう?」

 「あ、ああ」

 

 そして、彼が一旦響を膝よりどけた時であった。

 

 「あっ!提督!榛名が塩胡椒(・・・)栄養士さんよりもらってきましたよ!」

 

 満面の笑みで片手に塩胡椒を持って、彼女が滅多にしないドヤ顔で元の右隣の席へと戻ってきたのである。

 

 「え、良く分かったな。私が目玉焼きは塩胡椒派だなんて」

 

 「「「え?塩胡椒?」」」

 

 「はい!以前、提督が榛名の居室で珍しく豪華(・・)な目玉焼きが出たとき呟いてたことを覚えていたんです!」

 

 それは昔、榛名が呉付近で停泊していた時のことである。艦長が居ない艦に繋ぎとして彼が榛名に乗艦していたときであった。卵なぞ高級品が食事に出ることなぞ、まずない末期であったからか、彼女はよく覚えていた。うすくち醤油を垂らしていた『うすくち醤油か……、できればうまくち醤油、一番良いのは塩胡椒なんだがなぁ……』という彼の呟きをよく覚えていたのである。

 

 

 「ちょっと待ちなさいよ!?塩胡椒なんて珍しいもの提督があの時知ってるわけ無いでしょう!?」

 「そうですよ、榛名さん!うまくち醤油なんて、九州の人だけですよ!?」

 「司令官、流石にそう言う嘘は良くないと思うよ、敵前逃亡は後ろからバンだからね?」

 

 「……そんな呟きも覚えているものなのだなぁ、東雲、叢雲、響よ、すまんが戦友らに誓っても嘘ではないんだ」

 

 「えへへ!提督!榛名やりました!!」

 

 気づけばそこにあるのは冷や汗をかきながら、塩胡椒をふりご飯をかき込む彼と、満面の笑みで少し冷えた味噌汁をすする榛名、そして唖然としてそれを眺める駆逐艦娘三人の姿であった。

 

 

▼△

 

 

 今日この時を以て、戦犯と呼ぶ呼称その全てを廃止し、日本国における戦争関係者、戦後裁判によって処刑された全ての軍人をただただ戦死者として扱う。

 戦犯と呼ばれし者の名誉の回復を以て、靖国への合祀を行う。

 彼らはただただ、国への愛国心とその想いによって戦争へと参加し、その命を国民のために捧げた者たちである。彼らもまた戦争の被害者であり、それを罪とするのを我が国は良しとせず、ここに戦犯としてであればあり得なかった、下記のもの複数名を特進を以て、英霊彼らの不遇を、そして無念を少しでも晴らさんとす。

 

 しかしやはり、捕虜の悪しき扱いその他を行った者が我が国にいたことは事実であり、その者達の待遇は諸外国との関係をも考慮して、今後も変わらぬものとして扱う。

 

 我らは先の戦いにおいて決して拭えぬ罪を犯したことは、そこに間違いなく、それを国民全ての総力を集め、国際社会における日本国の立場向上をも目指し、一層奮起し、様々な障害を乗り越え、大東亜戦争における被害国への補償、補填全てを成すことをも今ここに誓う。

 

 

 ただただ一歩ずつ進み、我ら日本国民はその正義を以て、蘇聯における日本国兵士捕虜、及び該当地域によって非戦闘員でありながら拘束された者達の返還を求めるとともに………

 

 

(以下略)

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