帰ろう、帰ればまた来れるから   作:髪様

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なれど、刻むその心

熱田島(アッツ)は見捨てる」

 

 

 まだ正式に決まったそれではなかったが、これが大本営の考えであった。ミッドウェー作戦の失敗により、既に戦略的価値の薄い地域である。3月27日におけるアッツ沖遭遇戦において輸送の失敗も要因であろうか。この時陸海のやり取りで、その代りにとキスカでの撤退は全力で挑むことを決定した。

 

「熱田の撤収はせぬ、とはいえキスカを狙うと分かっては警戒を強化される恐れがある。どうにかならぬものか」

 

 そこで、牽制もとい、誘引作戦の一環として駆逐隊を投入する案が出された。とはいえ、既に敵潜水艦も多く存在し、空にも飛行艇や航空機が飛び回っている。この時すでに駆逐艦の数は減少の一歩をたどるしかなく、再編解体された駆逐隊も多く、練度の高く、統率の取れた行動ができるとなれば多くはない。

 

 「第12駆逐隊はどうだろうか?」

 

 そこで白羽の矢が立てられた、無傷とも言ってもよく、練度も高い。多くの護衛任務を僅かな犠牲で支えこなしてきたという実績からである。もちろん、空襲や遭遇戦で壊滅すれば痛手であるが、背に腹は抱えられぬ。何より海軍としても陸軍への誠意を見せねばならない。こうして南方海域より北方への移動が第12駆逐隊へ課せられた。

 

 

 

▽▲

 

 

 「食料をもって行きたい?」

 

 アッツへの任務を承った際に考えたことが、なんとか食糧だけでも持って行きたいという考えだった。小学生ですら知っているだろうアッツ玉砕は考えさせられるものがある。彼らには何の希望もない。司令官の配属は何とか少し前に成功したようであるが、弾もなく食料が零に等しい中でそれは何の意味があるのだろう。

 

 4月2日より移動を開始し、第12駆逐隊は幌筵へと拠点を移していた。今回第12駆逐隊へ与えられた役目はアリューシャン哨戒任務とアッツへの誘引であった。大本営は彼らを全力で全滅させるつもりなのだろう。それが今後への礎となると無理にでも言いくるめて。

 

 この地域は濃霧が有名だ、夏の比較的暑い時期はほぼ霧が出ることはないが、それでも夏の2か月以外を除けば年中を通して霧が出る地域なのである。上手くいけば、少しでも食料を届けることが叶うのではないだろうか?とそう思ったことが今回の発端だ。既に輸送艦は別地域に送られ、増員予定の兵員5700名も北海道方面守備に再度配置され始めている。駆逐艦4隻で、輸送したとしてどれほどの活躍ができようかとも考えないでもない。

 

 では、アッツの守備隊の撤退はどうだろう?4隻で2700名は流石に乗せることはできない、多くても一隻480名ほどが限界であろう。それにアッツでの玉砕があったからこそ、米軍はキスカ攻略に慎重にならざる負えなかったとは言えないだろうか?もしここでアッツ撤退を完了させてしまえば、キスカ撤退は夢のまた夢。むしろアッツ玉砕が大規模になってキスカで起こる可能性が高いのではないだろうか。

 

 これで迷いに迷った。実際には既に放棄されているようなモノであるが、北方司令部の陣地作成作戦は継続されている。米軍であれば重機を使い数日で完成するものを、足りぬ資材、更に人力で、彼らは飛行場を作っているのである。しかも、味方航空機部隊の届く当てはない。そんな中、少しでもアッツの守備隊への手向けをできないだろうかと考え、本来輸送するはずであった物資の一部を融通してもらえないかと願い出たのだ。

 

 「3000名が満足に食える量となれば、速度が落ちるぞ、それは死活問題ではないか?」

 

 否定できない、潤沢と言えない燃料の問題もある。荷を載せればそれだけ燃費が悪くなるのは当然であるし、最悪の場合の被害も大きくなるだろう。

 

 「それに関しても、潜水艦隊を少しばかり索敵に出して欲しいのです。そうでなければ彼の地での活動は不可能に近いでしょう。速度低下なぞ、大量の航空機からの攻撃に比べれば僅かな問題であると愚考しますが……」

 

 とはいえ容量がない。僅かな砲弾と僅かな食料を積むのがやっとであった。

 

 

▽▲

 

 

 敵がいない、それだけが救いの海を行く。この時期我々は曇りに曇った曇天を良い天気だという。こちらも飛行機を見つけることは難しいが、それはあちらも同じことである。小雨であれば良いが、流石に豪雨は歓迎しない。駆逐艦ともなればすぐに転覆するからだ。

 

 青系の色で雑に塗られた艦。簡易的な洋上迷彩である。ちなみに効果のほどは知りもしない。ただ、気持ちの問題だけである。

 

 「直線進路は塞がれているとみて間違いない。少し遠回りするしかなかろうな、余分に20海里外洋に出て蛇行しながらアガツ島の島陰に隠れ、アッツに侵入する。各艦竹竿四本を各自、艦に備えられたし」

 

 小島が連なるアッツ周辺の沿岸は座礁の恐れが高いため、その対策として付近では極力噴煙をあげず、微速以下の前進と数人がかりでの水面確認を命じた。本来の作戦とは少しばかり異なることは他の艦長方にも告げ、既に消極的であるが了解を受けている。

 

 やはり時間はかかった、出発より54時間と少し、1000kmいくばかりの航路である。速度を上げて行く訳にもいかず、始終10ノット程での航行であった。島に近づけばさらに速度を落とした。キスカからの潜水艦の情報であれば既に薄い霧がかかっているが、そこまで長い時間では無いだろうとのこと。時4月21日のことである。

 

 目標の小島に艦を4隻離れた位置で停泊させ、艦全体を覆うように魚網をかけていく。それぞれの駆逐艦が全ての小舟を下ろし、すぐさま近くへ上陸すると草を刈り取らせ、その網へと根元を縛って被せていく。要領的には米を乾燥させるときと同じ方法で網にかけていく感じだ。北方であるからか、木々もないこともないのだが、疎らにあるのみで、草原といった方が分かりやすい起伏の多い島である。

 

 作業が終われば、次に少しばかりの荷を載せ、小舟を旭湾北浜(アッツ島守備隊命名、米名ではマサカー湾)へとピストン輸送する。そこでは独立歩兵第303歩兵大隊第1中隊がこちらを何事かとばかりに眺めていた。この時既に人を走らせ、日本語で叫び攻撃しないで欲しいことは頼んである。

 

 「おいしら海軍さんでしょう?これはどういったあれなんでしょうか?」

 

 訛りの強い歩兵中隊長であろう彼(階級章もついていない簡易的な作業服であるため階級は不明)に、何と言えばいいのだろうか?正直な話、少しばかり積み上げられた物資はそこまで多くない。霧が晴れる前に全ての小舟を動員すれば運び終えるほどである(とは言いつつも1日交代で小舟が絶えず行きかったし、途中からは守備隊の筏も輸送に参加した)。2600名が食うとなれば二日と持たない量でしかない。弾も積めるだけ積んできたはいいが、これも小銃が主で大口径弾は一切として積み込む余裕なぞ無かった。つまり、補給物資と言うにはあまりにも少ないのである。

 

 「これは何だと聞かれても、こちらとしては物資としか言いようがないのですがなぁ。いや、言いたいことはようく分かっているのです。補給ではない、只近くによる任務があったので少しでも差し入れをと思いまして、艦に積めるだけ積めてきたのですが……」

 「輸送艦は連れて来とらんのですなぁ……いや、あんさんたちに文句がある訳やないのです。ただなぁ」

 

 あまりにも少ない。更に言えば、増援もない。

 

 「返す言葉もありません」

 

 既に霧が晴れ、むやみに動くことは逆に危なくなってきている。彼によると一日ほどすれば再び霧は出るだろうと言われたので、一部を残し艦へと返した。

 

 「これを少しばかりですがどうぞ」

 

 夜になれば東艦長と池田艦長と共に指令室へやってきた。守備隊司令らしき人物の背中を見つけると三本ほどの酒を差し出す。そこで再び彼の顔を目にする。今度は軍服を着ている。そこで「あぁ」と納得したのだ。丸眼鏡と痩せてはいるが穏やかな顔つき。

 

 「これは失礼しました、貴方が山崎大佐でしたか」

 「こちらこそ失礼します、木村少将閣下……いや、海軍式で言うならば閣下は余計でしたな……」

 「お気になさらず」

 

 そこで単刀直入に聞かれた。補給はどうなっているのかと。北方司令部に尋ねてみても、曖昧な返事ばかりであるばかりか、こちらも把握していないと帰ってくるばかりで途方に暮れていたという。とはいえ、こちらから話せることは何一つとしてこれ以上ない。彼らは言わば遅延作戦の殿なのである。伝えたとして、何になるのだろう?志願兵としての殿は心強いものがあるが、アッツ玉砕としての彼らの強さは大本営に見捨てられたという、やけっぱちでの部分も大いにあったハズだ、なかったとは言えない。

 

 国のために黙っておくか、それとも彼らのために全てを話すか。アッツの最後の軍規は乱れに乱れたという、死ぬことを部下に述べれば、所持品を全て持って行かれたと。皆死ぬと言われれば自棄になるととある曹長は書き記していたらしい。今ここには生きて彼もいるだろう。

 

 「我々は本来、キスカ島支援のための部隊です、アッツ島に関しては何も知らぬとしか答えようがありません。我々が届けた僅かな物資もアッツ島への寄島も、第12駆逐隊、言うならば私の独断と言うものです。これ以上は何とも言えませぬ」

 

 「……そうか、見捨てられたか」

 

 彼の呟きが(いや)に耳に入った。何というべきか、少しの内容で全てを察するというのも困りものである。こちらとしては何も言えない。叢雲、薄雲両艦長も私以上に何も知らないが、ここまで行けば話の流れを読めたのか、悲痛な面持ちである。

 

 「東艦長、池田艦長、艦の備蓄も少し彼らに渡せぬかな?少しでも多くのモノを彼らに食わせてやりたい」

 「ここで断れば、我らは人でなしではないでしょうか?」

 「否とは言えませぬ、不満が出ぬように他の者にもそれとなく告げておきましょう」

 

 「そうか、ありがとう」とそれだけ呟くと簡素な椅子へと腰かける。差し出した酒は、自分だけ飲むのは示しがつかぬと丁重に断られた。受け取ってくれないかと告げてもそれは出来ぬといわれたので、では艦にある酒を全て提出するので、皆で飲んで欲しいとひっそり告げる。皇国海軍の悪習ともいうべきか、何故か昔から酒だけは多く艦に載せてあった。個々で隠し持つこともザラである。

 

 少々以上の不満が出たが、アッツの現状を話し、またその様子を直で見た者たちにも説得を手伝ってもらい、更には帰還した折りには全員に酒を奢ることを約束して場を収める。人数的にも少々懐が痛いが、こればかりはこちらの勝手であるので何も言えぬ。

 

 「私の秘蔵の酒です、とは言っても私は下戸なのでもっぱら友人知人を持成すためだけのものですが……どうか貴方にも飲んでほしい」

 

 「数々の心遣い、真に感謝そして痛み入ります」

 

 どうか注がせてほしいと頼み、酒を注ぐ。周囲では交代で陸軍の面々さんが支障をきたさない程度に久しぶりの酒を飲んでいるようである。少しであるが、味方が来てくれたということだけで、彼らは大変心休まったと山崎大佐は語ってくれた。もう見捨てられたと、皆口には出さぬがそう思っていたのだと。楽しいことは何もない、ただ来るべき味方のために、ずっと飛行場を作り続けて、腹をすかし、手の皮破けても円匙握り続けていたのだ。どれほどこれが彼らの救いになったかと、そう言ってくれた。

 

 「私が此処に着いたときも、彼らの落胆は酷いモノでした。痩せた手で力なく敬礼をし、着任を歓迎しますと言われたが、次の言葉はそれで補給は何時到着するのでしょうかと告げられたのです。本来なら陸軍としての誇りはどうしたものかと怒鳴るべきなのでしょうが、彼らの姿を見て言葉をなくすしかありませんでした。私も残りの物資を見てこれは彼らがこう言うのも仕方がないと、そうただ納得したのです」

 

 大本営への怒りよりも先に寂しさが溢れる彼の顔が印象的であった。ただ、ここまでお国は追い詰められているのかと、そう感じているのであろう。そして、彼はすべての陸軍将兵を退室させる。残るのは両艦長と彼、そして私だけである。

 

 「木村殿、こればかりは嘘偽りなく答えて頂きたい、男と男の約束であるとそう思って……」

 

 

 「……皇国は、日本はこの戦争勝てるでしょうか?」

 

 

▽▲

 

 

 

 『負けるでしょう、今も民に知らせてはいませぬが、状況は悪化の一歩を辿るばかりです』

 

 それでも、国土は焼けても、我々日本は生き延びるでしょう。我が国は不滅だと、大和魂とは雑草のように踏み倒しても踏み倒しても、それでも起き上がりまた生い茂るものだと思っております。より良き国を望んで、その為にも生き残った者たちは何度でも何度でも立ち上がって、後の子らへの為にその身を挺して血肉命を捧げてあらゆる困難に立ち向かう、それこそが大和魂です。

 

 『私は事実はどうであれ、陛下の掲げられた大東亜共栄圏の夢を捨てたくはありませぬ』

 

 唯々信じているのです、今もまだ。亜細亜に住む者が、その肌の色で誰もが支配されることなく繁栄を成すことができる世界を。そうとでも思って居なければ、こんな戦争(こと)やってはいけない。この島に住まうアリュート族のことも私は心痛めているのです。元の思想を捨ててまで彼らを少数の犠牲と切り捨ててまで、貴方方を必要な犠牲と切り捨ててまで、この地に縛る必要はあったのだろうかと思わずにはいられません。

 

 だがもう賽はふられた。

 

 どうかどうか、山崎大佐、キスカの、より多くの友軍のためにもこの地に骨を埋めてほしい。これは大本営の決定ではありません。彼らは貴方方にこれを告げはせぬでしょう。ただ、出来もせぬ補給を待てと言うばかりです。それはあんまりにも非道だ。いえ、ただここにいる人間に死ねという私も外道だ。でも、それでも、何れ来るであろう、まだ遠く先10年20年いや、100()年先かもしれない皇国の、日本のためにも、自棄ではなく貴方ご自身の思いで、この地で戦ってほしいのです。

 

 『大本営のことは言えない立場だと思っています。私も地獄で焼かれる者でしょう、戦って戦って戦って、そして最後には九段で会いましょう』

 

 

▽▲

 

 

 「さあ帰ろう、何年たっても帰ればまた来れるから」

 

 第12駆逐隊の面々は傷病兵と20代前後の死ぬには若すぎる者たちを無理やりにも船に乗せてアッツを離れた。皆一様に顔は暗く。静まり返るばかりである。

 

 途中、艦内で飯を振る舞えば「上手いよぅ、上手いよぅ」との若年兵の声が聞こえる。どれほど彼らは我慢を強いられて来たのであろうか。本土に住まう、民たちもそれはそれは我慢をしているが、彼らほどではない。私としては、今もアッツに残る戦友たちの幸運(・・)を願わずにはいられない。例え分かりきった結末であろうとも。

 

 

▽▲

 

 

 「……貴方が木村殿かな?」

 

 中年期の男性が、軍港を訪ねてきた。

 

 あの後私は査問委員会を開かれ、勝手な行動を大いに咎められた。軍法会議まではいかなかったのは、陸軍からのテコ入れであるらしい。だがしかし、これでこれ以上の昇進は無くなったとみて良いだろう。とはいっても年齢的には異様に早い昇進であったので、こちらとしては何も言うべきことはない。あれだけのことを述べておきながら、銃殺で早々に退場などというみっともない真似をせずに良かったと安堵しているのである。

 

 「そうですが、貴方は……」

 

 目の前に人物には見覚えがある、キスカ島司令であった樋口中将である。少しやつれているのは北方軍の特徴であった。

 

 先の作戦の後、アッツ島の守備隊は正史と違わず、されど人数は少なくなっても果敢に戦ったと聞く。その後第12駆逐隊はキスカ島支援の為の哨戒を続け、更には奇跡の撤退作戦のために敢えて敵潜水艦隊との戦闘を繰り返した。我々の動きで義兄の作戦が少しでも楽になったのであれば良いのだが。

 

 「いやなに、撤退支援の後は南方に戻ると聞きましてな、居てもたってもおられず、この地を離れる前に礼をと思いまして」

 

 彼の手には腰のモノとは別に軍刀が握られている。

 

 「ご存知かな?陸軍ではそれはそれは人気の刀でしてな。村田刀、それも彼の村田少将自らその手で打ったものです。これを貴方に差し上げたい……」

 「そのようなもの海軍でしかも、刀の使い方も分からぬ私が受け取る訳にはいきませぬ。それを必要とするものはまだ大勢いるでしょう」

 「いやなに、これは山崎大佐の最後の願いでもあってですな、彼は最後に第12駆逐隊の各々方の感謝を告げて最後の電文としました。私としても英霊の願いは断れぬのです。これを貴方が持つことに関して私が生きている限り、誰にも文句など付けさせませぬ」

 

 どうか受け取ってほしい。

 

 私はそうまでも言われたので、少し了承しがたくもその軍刀を受け取った。

 

 

▽▲

 

 

 「妖精さん?」

 「はいそうです、提督!私たちが言うなれば艦長、としたら妖精さんが乗員にあたるのです」

 

 彼女たちが身に着ける艤装はその艦への攻撃を妖精さんに伝えるためのモノであるらしい。それ感じ取った妖精さんが、艦の武装を動かすらしい。

 

 「東雲よ、そのなんだ、まだ一度も見たことがないのだが、そのなんだ妖精さんとはどんな方々なのかな?」

 

 デフォルメされたあの不思議生物なのであろうか?いや、これが現実となったのならば彼女?達がどうなっているのか、一切の想像がつかない。二頭身の姿なのであろうか?そもそも頭の大きさは?身長は?疑問しか湧かない。

 

 「今から会いに行きましょう!妖精さんも提督に会いたがっていましたし!」

 

 彼女に連行され、気づけば艦娘ではない駆逐艦東雲の前にやってきていた。そのままタラップをどこぞより持ち出してきた彼女はそれを自ら?にかけるとドヤ顔で、どうぞと右手に腰を当て左手でタラップを指し仁王立ち風でこちらを見てくる。

 

 「……なんだ、叢雲がドヤ雲(ドヤノメ)と言っていた意味が分かった気がするよ」

 

 「行かないんですかー?じゃあ、上りますからすぐついてきてくださいね!」

 

 こちらの意見なぞ何するものぞとばかりに、サイドテールの君はタラップを登り始める。ため息をつきながら彼女の後を辿る。ふと上を見上げる……黒いな。叢雲と同じ服装だし、分かっちゃいたが、まぁもう少し慎みを持たなければなぁ。覗き込んだ本人の思うべき言葉でないのは間違いないのだが……

 

 「ふっふっふ!見て下さい、この子が妖精さんです!」

 

 東雲が一人の40㎝ほどの生き物を抱えていた、彼女の足元には同じぐらいの身長の生き物がうじゃうじゃしている。なるほど、これが妖精さんか。いや、なんか動く人形みたいだな。確かにかわいらしいと表現するほかないだろうが、夜中に見れば少し恐怖を覚えそうである。

 

 『ちょっ!木村司令!?なんであなただけそんな普通の人間やっとるんですか!?』

 

 なんか、すごく聞き覚えのある声が聞こえた。聞き間違いだろうか?なーんか、ほら昔、東雲に乗っていた時の水雷長の声と同じような気がする。

 

 「……東雲、どうやら私はボケが始まったようだ。いやなに、年齢的には可笑しくないのかもしれない。少し早い気がしないわけでもないが……どうなんだろう?」

 「あっ!やっぱり驚いてますね!この子高崎水雷長なんですよ!」

 

 いやな予感は当たったようである。あの姿で野太い声が聞こえたときはまさかと思ったが、やはりと言うべきかなんというべきか。

 

 「提督、いっつも最後を気にしていましたので、本人?達に聞いてみてはと思いまして機会を伺っていたんですよ!」

 

 「……何してんのよ、東雲。それと東雲(アンタ)、なんか日本語可笑しいわよ」

 

 「げげっ叢雲ちゃん!?」

 

 ふと気づけば、いつの間にか叢雲が甲板の上にいた。最近では気づけば後ろにいたりするのが彼女の通常(デフォ)である。

 

 「でもまぁ、そうねいい機会だし、聞いてみればいいんじゃないかしら?そこんとこどうなの妖精さん、恨んでるの?」

 

 『『なんで、あなただけそのまんまなんですか!?』』

 『『そうだそうだ!』』

 『その姿にお恨み申す!』『異議あり!』

 『ずるいぞー』『司令殿の裏切りものー』

 

 

 ……どうやら、彼らに恨まれてはいないらしい。だが、どうにかならぬものだろうか。あの姿であの声は反則である。いやむしろ犯罪と言ってもいい。見た目少女風のお人形さんで、野太い男声。

 

 「叢雲、なんだろう。色んな意味でやるせないのだが」

 「……大丈夫よ、司令官。私も最初はあの声にはビビったもの。他の第12駆逐隊以外は普通の声なのにね……」

 

 

 

 「!?!?」

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