「初春じゃ!今回は駆逐艦の解説に入ろうと思っておるぞ。と、言ってもわらわの授業は少しだけじゃがの」
まず、日本駆逐艦の始祖じゃが、名を「雷」という、これが俗にいう初代雷となるのじゃ。始祖であって、最初でないのはご愛嬌かの。明治29年度計画で建造された駆逐艦で、基本お手本となったのは日本海軍の大先輩である英国海軍の駆逐艦じゃな。さて、何故駆逐艦と呼ぶようになったのか順に説明すると、1870年代後半にかけて、魚型水雷、すなわち魚雷が開発されたのじゃ。これを装備して、高速で大型艦に接近し雷撃を加える存在、それが水雷艇じゃ。
元々は雷も水雷艇、この場合駆逐艇ともいうのじゃが、に分類されておった。8㎝砲二基、6㎝4基、41㎝魚雷発射管2基を装備し、日露戦争にも参戦しておる。といっても、資料によってはその後に登場した東雲型を初代駆逐艦とすることもあるので、その辺は注意が必要ぞ。これは、登場は雷が早かったのじゃが、駆逐艦としての分類では東雲型のほうが先に類別されていたからという理由がある。まぁ、この辺は姉妹艦の起工、就役が前後してどちらが長女かで判断に困るのと同じじゃの。といっても、どちらとも間違いといえんので、一概に否定するべきではないのは確かじゃ。
さて、水雷艇が登場して、当時の大型艦の主砲ではもちろん追撃なぞ出来ようはずもないの?人力や水蒸気でえらいおそう旋回する砲塔じゃ、その為、水雷艇追撃を行うために、戦艦三笠や金剛型戦艦も両舷に副砲を設置しておったのじゃ。といっても、至近で投雷された魚雷は避けれぬ。では、どうするか、やられる前にやってしまえというわけじゃの。そこで生まれたのが水雷駆逐艇、要するに駆逐艦じゃ。小型船舶による大型船海賊行為も後が絶たなかった時代であるので、これを掃討するのにもこれらの艦艇は必要不可欠じゃった。つまり、小型艇の駆逐こそが本来の役割だったのじゃ。
その後、魚雷を駆逐艇が積み、駆逐艦となり、水雷艇の数が減ったというわけじゃな。といっても、大東亜戦争では足りない船数を補うために再び水雷艇は数多く投入されているのじゃが。まぁ、漁船に毛が生えた程度のモノも多かったがの。その名残もあり駆逐艦は軍艦ではなく、艦艇と分類されておるわけじゃ。
「では、ここまでで何か質問はあるかの?……では次の、ん?おぉようやっと来たの、待ちわびたぞ」
▽▲提督が鎮守府に着任しました!▽▲
▽▲
1月1日のこと、廊下を歩いていたら初春がいた。
「何となくだが、幸先良い気がするな」
対した意味はないのだが、この鎮守府で見かけるのは初めてである。確か、転移者提督の指揮下にある彼女だ。この鎮守府所属なのは知っていたが、件の提督が基本執務室から出ないらしいので、それのお相手に必死であるのだとか。
「明けましておめでとう、駆逐艦初春殿」
「……めでたくない、めでたくないのじゃ」
振り返った顔を見れば、そこには目にクマを作った変わり果てた彼女の姿がいた。何があったというのか?
「大丈夫か?その何だ、調子が悪そうなのだが」
「……もう嫌なのじゃ、わらわは疲れた。昨今若人は何を考えておるのかさっぱり理解できん」
声に反応はしているが、こちらに顔を合わせることなくブツブツと呟く初春。心なしか全体的に萎れている印象を受ける。私が知っている彼女というか、前知識ではもう少しシャキシャキとした印象だったのだが、この初春は既に初春ではなく秋口に差し掛かっている気がする。
「っおい!」
と、唐突に歩き出した彼女はフラフラとし、足元も覚束ない感じで歩き出す。ふと倒れそうな角度までいったので、その肩を掴み、慌ててこちらへと引き寄せる。……元からだろうか、やはり軽い。
「大丈夫か?なんだ、流石にこれでは何をするでも、何もできないだろう?先方には伝え置くので少し休みなさい」
医務室は残念ながら、軍施設であるがゆえに緊急性が高いので仮眠はとれない。かと言って今はまだ早朝6時なので艦娘寮の方へは手続きが面倒である。少し考えてから、このまま放っておくには危険だと考え、彼女を横抱きにし自らの執務室に運ぶことにする。
少々、執務室の扉の開閉に手古摺りながらも、彼女をストーブの前に横たえ、東雲達の持ち込んだ枕と毛布を彼女へと受け渡す。といっても意識があまりない?のでこちらが全て手取り足取りなのだが。ストーブを点火し、その上に薬缶を置く。加湿も出来てお湯も湧かせる、一石二鳥なのだ。この後のコーヒーを淹れるときにでもこれは役に立つ。
そこまでしてもう一度初春を見れば、既に寝息を立てていた。よほど疲れていたのか、寝不足だったのか。どちらにせよ、彼女を鎮守府内で見かけることがない理由が窶れ具合にあるのかもしれない。
「顔が少し赤いな、熱でもあるのか?」
ストーブを点けているといっても、まだそこまで暑いというほどではない。風邪でも引いているのかと思い顔を、額を近づける。
「少し熱いかもしれんな、風邪薬でも用意しておくかな」
『いつも通り執務室だとは思うけど』
『はぁ、元旦くらいもう少しゆっくりできないのかしら』
ふと、廊下の方から聞きなれた二人の声が聞こえる。彼女たちに自室の常備薬を持ってきてもらおうか。だが、そもそも艦娘とは風邪をひくのか?元から体温が高いだけと言われれば何するでもない。
『失礼するわよ』
「ああ、どうぞ」
「「……」」
「ん?どうした二人して」
開けた瞬間に硬直する、叢雲東雲両名。
「叢雲ちゃん、ヤバいよこれ。思わぬ伏兵ですよ」
「……ひ、ひとつきいていいかしら?そ、そのふたりはどういったかんけいなの」
「……ぶれてる、ぶれてるよ叢雲ちゃん。いや、この東雲も驚きで何ともといった感じですが」
さて、彼女たちが何をそこまでどもっているのか分からぬが、そこまで変な現状なのだろうか?別段と可笑しなことをしているつもりはなく、倒れた人間の顔を赤いので手のひらと額で体温を測っているだけであるのだが。言わんとしてることは分かるが、少し勘弁して欲しい。
「関係?顔見知りというほどでもないが……駆逐艦初春が私の目の前で倒れてね、仮眠させてあげようと思っただけだが。あぁ、丁度良かったよ、艦娘も風邪は引くのか?もし引くのなら私の部屋から風邪薬を用意してほしいのだが」
「……さて、東雲分かってるわね?」
「合点承知の助!ひとっ走り行ってきまーす!」
と、勢いよく東雲は駆け出し、叢雲は扉を閉め、この部屋に残った。彼女はそのままこちらへ近づいてくると、初春の近くに腰を下ろし、彼女の額へと手を当てる。
「……少し熱いわね」
「そうか……」
「そ、そのワタシと比べてみれば分かるわよ?」
それもそうかと、彼女方へと体を近づける。そして掌を近づけようと更に接近すれば、彼女は目を閉じる。そのまま掌で彼女の額をするりと撫でるように触る。
「少し冷たいな」
「……アナタ、分かってやってないかしら?」
勿論、分かってやっている。彼女的には初春同様に額通しで測ってもらおうと考えていたのであろう。だがしかし、ここで彼女の思惑通りに動けば後が怖い。響や酒匂が何気にスキンシップを強化して来るのだ。黙っていればいいのだが、毎度のごとく彼女たちは食事中に、今日は私と何をしたのかということを自慢し合うのである。正直ついていけてない。彼女たちのことは好ましく思って居るのだが、既に精神的に枯れている自覚があるからだ。
「叢雲だけならば、別に問題ないのだが、響たちの相手もせねばならぬと言うのならば少々キツいからな」
「そんなのワタシが黙っている、それだけで済むことでしょう?……ねぇ、ダメ、かしら?」
▽▲
「おぉ!この前は世話になったのう」
三日後、体調を整えた初春と出会った。あの後二日寝込んで、艦娘寮に引きこもっていたようである。今は以前のようなクマもなく、少し視線がぶれている等ということもない。もしかして、幾分と危険な状態で出会ったのではないか?そう思えば少し冷や汗がでる。
「改めて、挨拶をせねばのぅ~、初春じゃ!推して参るぞ!」
「ああ、私の名は知っているかな?まぁ誇れるモノは何もないが、木村利正と言う。どこかで私は見かけた際はよろしく頼む」
「うむ!貴殿のことは武勇かねがね色々と聞き及んでおるぞ、こちらこそ
……ん?聞き間違いか?
「では、後ほど。今度そちらの提督殿にも話を通すため伺わせてもらう。まだ、無理をしないで頑張ってくれ、駆逐艦初春」
「なんぞ、めでたい年明けよりご迷惑をおかけしたことを深く反省するとともに、心よりお礼申し上げますのじゃ。何れ礼に参りますのじゃ」
さて、金田中佐であったか。あぽいんとめんととやらを取らねばならないな。何かとつけて忙しい御人であるらしい。悪いうわさは聞いていない、彼女も言ってはいなかったのだが、まず、そこまで情報収集に長けている訳でもないし、彼女が口止めされていたりすれば、何かを告げ口するような性質ではないだろう。本人に単刀直入に聞くべくだろうな。
▽▲
「失礼します」
艦娘寮手続きよりも遙かに楽に先方との連絡は取れた。さて、鬼が出るか蛇が出るか……。出会い頭で意味深げなことを語った初春だったが、あれはどういった意味であったのか。
「あ、あ、あ、あ、初めまして!金田美咲って言います、階級は中佐です!」
こちらが何を言う前に、突如立ち上がった
「これは失礼を、木村利正、階級は少佐です。お初にお目にかかります、金田中佐殿。貴方のほうが上役だ、慣れていない様子なので恐れながら先達として申しますが、こういった場合下級の者からの名乗りを待たれてからお名乗り下さい。階級とは絶対とは申しませんが、それでも軽んずべきものではありません。講釈をを垂れるようで失礼」
「あ、でもその、私その、年下ですし、木村さんはその年上ですよね?だからその」
思わず苦笑いしてしまう。確かに帝国海軍は年功序列の気が大きかったが、それでも階級は年齢以外にも前後する。陸軍さんほどではないが、年下であっても階級には従うべきなのだ。それはそういったものであるのだから。
「お気になさらず」
しかし、この感じ対人慣れしていないというべきか。先ほどから目線が泳ぎ、こちらを見ない。何をしたらいいかもわからず、立ったまま時折こちらをチラリと伺うのみである。
「あ、そのえとですね……」
「ごゆっくりで構いません、慌てずお話しください」
「その、初春さんが倒れたときに介抱してくれたとか、で、ですね。その、お礼を言わないといけないなぁ、とその思って居たんですけど、その、……すみません」
見た目、黒髪を伸ばした泣きぼくろのついた美人と評せる少女だが、非常に挙動不審である。どれほど人と関わり合っていなかったのだろうか?もしかして、初春が困っていたのはこの状況ではないのだろうか?これならば本人に聞けばよかったのかもしれない。今目の前にいる彼女では到底答えれそうにもないというよりも、貴方が初春の疲労の原因ですか?と尋ねるだけで、泣き出してしまいそうである。
「謝罪は不要です。大変失礼ですが、お幾つで?こう見えて私、少々ばかり長生きしております。少しばかりの助言ならばできますので、お気兼ねなく質問なさってください」
「あ、19歳です、えと、私その転移者提督でして、1年前にこっちに着ました。あの、木村さんも転移者提督ですよね?自衛隊にでも居たんですか?」
「いえ、少しばかり海軍についての造詣が深いと言えば少々大げさですが、そうとだけ思っていただければ。まぁ、貴方に分かりやすく言うのならば軍オタですか?それだと思ってください」
厳密どころか全く違うのだが、それを彼女に伝えてもただ混乱するだけであろう。
その後、少しばかりの雑談をし、彼女の緊張を少しばかり解きほぐす。最終的に改善されたと言えるほどまでは行かないが、それでも当初よりはるかにマシになるまでの間、彼女と話していたであろう。
「その、木村さんってなんだかお父さんみたいですね、あ、ごめんなさい。お若いのに」
「……いえ、気にしておりませんよ。こう見えて私、妻がおりましたので。残念なことに子が生まれる前に
「そっか、奥さんとは、こっちに来たから……」
実際には私という存在は一度、死という名で完全に消滅したはずなのである。それこそ叢雲の艦橋の中で逃げる暇もなく沈んだ。前部砲塔が爆発し、外殻にそって満たされていた重油にも引火し、爆炎と共に沖縄とはいえ冬真っ盛りの海底に沈んだのだ。
「その、えと、木村さん、お願いがあるんですけど」
「私に出来ることであまり無茶でなければ」
「お父さんって呼んでもいいですか?」
……拝啓 妻殿 遠く離れた地でどうやら娘ができるようだ。
少し感慨深い、のであろうか?実際には子が居ても可笑しくない年齢であったが、終ぞ出来ず仕舞いであった。専ら南方の港で作った愛人ばかりとの関係ばかりだ。私の知る艦長の中にも時折そういった者がいた。
「……やっぱりだめですか?」
「……いえ、問題ないですよ、少しばかり予想外だったもので」
「じゃあ、お父さんて呼びますね。その、だから敬語は止めてくれるとうれしいかなって」
「分かった、少しそれでも堅苦しい話し方なのだが、大丈夫か?」
「それぐらいなら大丈夫かな?えへへお父さんかぁ~……」
ふと、顔を落とし泣き始める少女。さて、やはり、世界を突如跨いで家族と離されて心細かったのだろう。初春との関係も少しばかりの人間不信が招いたそれなのかもしれない。少し気恥しいモノもあるが、父と呼ばれることに不快感はない。
「今はゆっくり泣きなさい、そしたら初春も含めて私の