ではどうぞ。
諸君には夢というものがあるだろうか。かくいう私も、幼い頃には野球チームで四番になって女子アナと結婚するという、いま考えると末恐ろしい夢を持っていたものだ。
申し遅れた。私は
さて、このなわみ荘だが外見はいたって普通の木造二階建てだ。しかし駅まで徒歩十五分という立地に加え、家賃が月三万円に管理費一万五千円。かなりお安いのである。
少し歩いたところにはコンビニやスーパーがあり、レンタルビデオ店兼ゲームショップがあったりする。とにかく住み良いアパートである。
しかしこのなわみ荘への入居にはひとつ条件がある。それは【夢を持っていること】。これは、亡き父が死に際に俺の手を握りしめて言った、ただひとつの遺言である。
故にこのなわみ荘は夢を持つものが住み着く。奴らはそのほとんどが電波野郎であるために、俺は常々頭を悩ませている──。
◆
「真賀津! 開けろ! さっさと家賃を払え!」
俺は一◯三号室の住人である
そうやって撤退を演出したあと、扉の横で膝立ちをして待機しているとゆっくりと木製の扉が開いた。
俺はそのチャンスを逃さず、真賀津の右腕をむんずと掴む。
「捕まえたぞ真賀津! さあ家賃を出せ!」
「ひいぃ! お許しくださいお代官様ぁ!」
この涙目になっているのが真賀津 澪。一◯三号室の住人であり、現在コミックアンバーにて不定期掲載されている漫画家である。
◆
「いや……なんと言ったらいいのか。自分でも分からないんですけど……、取り敢えずお金貸してください……」
消え入るような声で真賀津が言う。金に困っているのはいつもの事だから心配はしない。放っておけば何とかするタイプだこの子は。
真賀津を語るに当たってさしあたり話しておきたいことは、初めての入居者ということ。彼女は近くのP.A.アートスクールという専門に通っている。そこの漫画部門らしい。
聞くところによれば彼女は、他の生徒より一足早く連載をゲットしたらしい。しかしその連載がなんと八週間でなくなった─正確に言うと連載がおわったのではなく雑誌自体が消滅した─らしい。
そこからは泣かず飛ばずで、今はコミックアンバーの【押忍!四コマ道場】に投稿して得られる賞金と、アルバイトの賃金を生活の糧にしている。
そのせいで真賀津は常に金が無い。もう三ヶ月分の家賃と管理費一ヶ月分を滞納していて、俺の堪忍袋はギリギリも良いとこだ。今回こそは徴収せねば……。
などと言っていると、第三者の声が耳に届いた。
「またやってんの? ほんと飽きないね」
我が妹、縄見
などと思案を巡らせながらも、俺は会話を再開する。
「流石に今回は払ってもらわないと。見逃してきたが流石に許せん」
「いいじゃん別に。澪さんも困ってるみたいだし」
「はうう! 夕莉ちゃんの気遣いが胸を抉る! なんか生活能力無いって言われてるみたい!」
「実際無いだろうが!」
真賀津は掃除も料理も出来ない。洗濯はどうにかなるらしいが、そんなものは何の自慢にならない。というか年上なのだから、しっかりしてもらいたいというのが本音だ。
「もしかしてまた無駄遣いしたんじゃないだろうな?」
「ぎくぅ!」
「図星の時にギクッって言う人はじめて見た……」
夕莉の呟きを聞きながら、俺は三号室の中へと入る。
「ああ、ちょっと! ふほーしんにゅうですよ!?」
「真賀津! このベルト状のものはなんだ!」
真賀津はひきつった口で目を逸らしながら、聞き取れるか聞き取れないか微妙な声で答える。
「脂肪……燃焼ベルト」
「夕莉、ボッシュート」
取り上げたベルトを夕莉に投げ渡す。喜びを抑えきれてないニヤケ顔が見えた。真賀津は、涙目で俺にすがっている。
「わあぁん! 悠人くんのばか! だからモテないんじゃないんですか!? 自分からモテない方向に舵を取ってるでしょう!?」
「モテてない訳じゃないわい! ただ、女子には距離を置いてるだけだ!」
「言い訳になってませーん! あー負け犬の遠吠えー! 格好悪ぅー!」
「うるせぇこの喪女!」
「喪女って言った! 私のこと、喪女って言った!」
なわみ荘名物、家賃戦争である。大抵の住人は如何に家賃を滞納しようかばかり考えている。
そういった奴等から、家賃を残さず回収するのが俺の仕事なのだが──。
「まあ許してあげようよ兄貴。カタも貰ったし」
「ったく。ホントに真賀津には甘いな」
「うぅ、夕莉ちゃんありがとう……」
結局、こうやってなあなあになる。夕莉は余りにも優しすぎるのだ。
1話目終幕。しばらくはキャラ紹介を兼ねたこんな感じの流れで行きます。
これからもキャラを増やすのでたいへんです。コメントは作者の好物です。
なお、悪口コメントは作者の体調を崩し最悪の場合、命に関わりますのでお控えください。
ps.この作品はkkpのsweet7に触発されて書きました。