ソードアート・オンライン 〜黒の二刀流使いと連装士〜   作:まなさた

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衝動的に書いた。後悔はしてない。




プロローグ

ゴーン…、ゴーン…

 

鐘が鳴る。

 

ゲームの……死のゲーム(デスゲーム)の開始を告げる鐘の音が。

 

一万のプレイヤーたちの頭上でGM(ゲームマスター)を名乗る深紅のローブを纏った巨大なアバターが言う。

 

「ゲームスタート。これはゲームであってゲームではない。諸君の健闘を祈る」

 

鐘が鳴る。

 

まるで、こちらに近づく死を警告するような、死神の接近を知らせるような鐘の音が。

 

デスゲームの始まりを告げる鐘の音が、鳴る。

 

 

        * * *

 

 

「さぁ、始まりました!今週のMMOストリーム!まずはPVを見てもらいましたが、これは先週の初売日のようすかな?行列を作る彼らのお目当ては………ソードアート・オンライン!店頭の人は三日前から…………」

 

テレビから女性司会者の快活な声が響き渡る。

 

今日は歴史の変わる日だ、と俺は思っている。

 

理由はいまテレビで取り上げられていたソードアート・オンラインというVRMMORPGだ。

 

2022年現在、ゲームの世界には革命が起こっている。いまやゲームは画面の前でボタンを押して操作するのではなく、実際に自分で操作するという事が出来ている。

 

それを可能に至らしめているのがナーヴギアという流線型のヘッドギアだ。

 

これはユーザーの脳と直接接続し、五感の全てにアクセスできる。

 

つまりこれを使ってゲームをすると、ユーザーは脳の視覚野や聴覚野にダイレクトに与えられる情報を見聞きし、更には触覚や味覚嗅覚までもが感じ取る事が出来るのだ。

 

それだけでなく、このマシンは脳から自分の体に向けて出力された命令でさえも遮断・回収する事ができるため、仮想空間(VR)内でも現実(リアル)のように体を動かす事ができ、尚かつ現実世界で体が動いて事故を起こさないようにしている。

 

これを装着し固定して開始コマンドの『リンクスタート』の一声で俺たちは全てがデジタルで構築された別世界へ行く事が出来る。

 

このマシンはついに完全な《仮想現実(バーチャル・リアリティ)》を実現せしめたのだ。

 

ナーヴギアで仮想空間(VR)へ接続する事を、開発したアーガスはこう表現した。

 

完全(フル)ダイブ》、と。

 

しかし、そんな新世代のゲーム環境を実現したナーヴギアだが、その機構の斬新さから、肝心のソフトリリースはパズルゲームなどのぱっとしない地味な物が続いた。

 

ナ―ヴギアは真の意味での仮想世界を創り出す、だからこそ俺や他のコアゲーマーたちはあるジャンルのゲームが出る事を待ち望んだ。

 

広大な異世界に数千、数万のプレイヤーが同時接続し、己の分身を育て、戦い、生きる、MMORPGを。

 

そこに現れたのが世界初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》通称SAOだ。

 

そして今日―――2022年11月6日、日曜日の午後1時に、二ヶ月のベータテスト期間を経て、満を持して正式サービスが開始される。

 

ちなみに俺はベータテスト参加者の一人だ。2ヶ月育て上げた自分の分身がリセットされて消えた時の気持ちは言葉にできない。

 

現在、午後12時55分。

 

俺、久世(くぜ) (すぐる)14歳は、ナーブギアの充電コードのプラグをコンセントに差し込み長時間プレイしても問題がないようにし、ヘッドギアを被り、あごしたの固定アームをロックする。

 

俺はベッドに横になりヘッドギアのバイザーに表示された時刻を見る。後数秒で運命の時間になる。

 

今頃、アイツら(・・・・)もこんな風にワクワクしてんだろうな。

 

そんな事を思っている間も表示された時計が時を刻んでいく。あと5秒。

 

 

 

 

 

 

 

カウントがゼロになり、時刻が午後一時になった瞬間、俺は異世界へ行くための魔法の言葉を唱える。

 

「リンクスタート!!」

 

このとき俺は知らなかった。

 

自分が今からやろうとしていたゲームが約一万人を巻き込んだ死のゲーム(デスゲーム)になるなんて。

 

そしてそこに2年もいる事になるとは全く思っていなかった。

 

 

        * * *

 

 

ベータテスト時のキャラデータを引き継ぎ、俺はソードアート・オンラインにログインした。

 

目の前には最初に転移させられる《始まりの街》の広場が広がっている。広場だけに。

 

俺は自分の左手を見ると、本当に帰ってきたんだと実感し、

 

「「帰ってきた……この世界に……!」」

 

と呟いて…………って誰かとハモっちゃったぞ………?てか今の声……まさか。

 

声のした方向に顔を向けると、驚き目を見開いているイケメンがいた。

 

きっと俺もこんな顔をしているんだろうなと思っているとイケメンが急に吹き出し笑い出した。

 

俺もつられて笑い出してしまう。

 

「ははは、っはぁ。よお《キリト》、久しぶりだなその格好のお前を見るのは」

「くくっ……ふう、そうだな《ユウ》久しぶりだ」

 

彼は現実世界(リアル)で俺の幼なじみで親友の桐ヶ谷(きりがや) 和人(かずと)だ。俺と同じ14歳で学校も同じだ。

 

使うアバターネームは名前のもじりで《キリト》、主に片手剣を使う。俺と同じベータテスターだ。

 

ちなみに俺のアバターネームは《ユウ》で名前の読みを変えただけだ。同じく片手剣を基本的に使うが、場合に応じてほぼ全ての武器を使う。

 

おかげでベータのときにスキルの熟練度を上げるのに苦労した。

 

「つかお前なにが『帰ってきた……この世界に……!』だよ。ククッ。痛すぎだろ。ぷっ」

「うるせぇよ。お前だって同じ事言ってんだからな。クククっ」

 

俺の言葉に笑いをこらえながらキリトが反論してくる。

 

俺たちの装備はベータのデータを消されたので初期装備になっている。周りにも同じ装備の奴らが騒いでいる。

 

「じゃ、どうする?」

「まずは装備の充実からだな」

「了解。じゃ、あそこに行くか」

 

笑いが収まったキリトの質問に俺が応えると、キリトは了承してうなずく。

 

あそことは、ベータ時に見つけた入り組んだ裏道にあるお徳な安売り武器屋のことだ。

 

表に開いている武器屋と変わらない武器を破格の値段で売ってくれる。

 

そして俺たちはその武器屋に行くために道を走っていき、裏道に入ろうとした時後ろから声をかけられた。

 

「おーい、そこの兄ちゃんたちー!!」

 

俺たちが足を止め振り向くと、息を切らしながら男のアバターがやってきた。

 

「その迷いのない動き、アンタたちベータテスト経験者だろ?」

「まぁ……」

「そうだな」

 

男の問いかけに曖昧な答えをキリトが返しながら俺を見て、俺は男に応えた。

 

「お、俺今日が初めてでさ序盤のコツって奴をちょいとレクチャーしてくれよ?」

「あ、ああ……どうする?」

「そうだなぁ……」

「なぁ頼むよ!この通りだ!俺、《クライン》ってんだよろしくな!」

 

俺たちが曖昧な反応をすると、男が手を合わせ頭を下げ、自己紹介をしてくる。

 

クラインと名乗った男は、赤みがかった髪を額のバンダナで逆立て、長身痩躯を初期装備である簡素な革鎧に包んでいた。

 

俺たちも自己紹介をする。

 

「俺は《ユウ》だ。よろしくな」

「俺は《キリト》。よろしくなクライン」

「おうっ!よろしく頼むぜ二人とも!」

 

俺たちが自己紹介をすると、クラインは元気よく返してきた。

 

「そう言えば二人は何処に向かってたんだ?急いでたみたいだけどよ」

「ああ、この先に武器を格安で売ってる店があってな。そこに向かってたんだ」

「ほへー、さすがベータテスター色々知ってんなー」

 

俺の応えにクラインは素直に感心している。

 

普通ネットゲーマーは嫉妬深い奴が多いので、こういうとき突っかかってくるんだが、コイツは違うようだった。

 

きっと現実(リアル)でも友達は多いんだろう。

 

「じゃ、まずは武器をそろえてレクチャーするってことで良いか?」

「おう、それでいいぜ!」

 

という事で俺たち三人は武器屋に向かった。

 

 

 

       * * *

 

 

「ぬおっ………とりゃっ………うひええっ!」

 

奇妙の掛け声とともにでたらめに振り回される剣先が、すかっすかっと空気のみを切る。

 

ド◯クエだったら「ミス! こうげき は あたらなかった!」とテロップが出るに違いない。

 

直後、巨体の割に俊敏な動きで剣を回避した青いイノシシ……《フレンジーボア》が、攻撃者であるクラインに向かって猛烈な突進を見舞った。

 

平らな鼻面に吹っ飛ばされ、草原をころころと転がるクラインを見て、俺たちは思わず笑ってしまった。

 

「ぶはははッ!!何やってんだよクライン!」

「くく、おい笑ってやるなよ初心者なんだから………ぶふっ!」

「ひでぇな、おまえら……」

 

笑いながらからかう俺たちを見て、クラインは眉間にしわを寄せて応える。

 

今俺たちは、《始まりの街》の西側に広がるフィールドに立っている。まわりには俺たちの他にはプレイヤーの姿は無い。

 

「ははは………悪い悪い、あとそうじゃないよ。重要なのは初動のモーションだ、クライン」

「ンなこと言ったってよぉ、キリト………アイツ動きやがるんだぜ?」

「当たり前だろ、訓練に使うカカシじゃねぇんだからよ。どれ、手本を見せてやるか……」

 

クラインの愚痴に俺は応えると、足下に転がっていた小石を拾い肩の上でぴたりと構える。

 

剣技(ソードスキル)のファーストモーションをシステムが検出し、小石がほのかなグリーンに輝く。

 

そこから、ほとんど自動的に左手が閃き、空中に鮮やかな光の尾を引いて小石が飛んでゆき、再度突進を試みていた青イノシシの眉間に見事に命中する。

 

攻撃を邪魔された事に起こったのか、ぶきーっ! と怒りの叫びを上げ、イノシシがこちらに向き直る。

 

「今みたいにちゃんとモーションを起こせばソードスキルが発動して、あとは全自動でシステムが勝手に命中させてくれる。わかったか?」

「モーション……モーション……」

 

まるで呪文のように繰り返し呟きながら、クラインが右手で握った海賊刀(カトラス)を両手で持ち直し、構える。

 

イノシシの突進を右手の剣でブロックしていると、キリトが首をうーんと捻った。

 

「どういえば良いかなぁ……。1、2、3で構えて振りかぶって斬るんじゃなくて、初動でほんの少しタメを入れてスキルが立ち上がるのを感じたら、あとはこうズパーン!て打ち込む感じでさ……」

「ああそう、そんな感じだよな」

「ズパーン、てよう」

 

キリトが言った事に俺は同意するが、クラインは悪趣味なバンダナの下に思案顔を作る。

 

すると何か掴んだようで、すう、ふー、と深呼吸して腰を落とし、右肩に担ぐように剣を持ち上げる。

 

今度こそ規定モーションが検出され、ゆるく弧を描く刃がオレンジ色に輝く。

 

俺はそれを確認すると押さえていたイノシシを蹴り、クラインの方向に向かわせる。

 

「そっちにいったぞ!決めろ!!」

「おりゃあっ!!」

 

気合いのこもった掛け声と同時に、これまでとは違いとても滑らかな動きで左足が地面を蹴った。

 

しゅぎーん!と心地よい効果音が響くと、クラインが勢いよく飛び出し、刃が炎の色の軌跡を宙に描いた。

 

片手用曲刀基本技《リーバー》が、突進に入りかけていた青イノシシに命中し半分程残っていたHPを吹き飛ばした。

 

イノシシはぷぎーという哀れな断末魔を出した後、その巨体がガラスのように砕け散り、俺たちの目の前に白いディスプレイが現れ、加算経験値と入手した(コル)が表示されていた。

 

「ううっしゃあああ!!」

 

戦闘に勝った事を認めたクラインは大きくガッツポーズをし、満面の笑みで振り向き、左手を高く掲げた。

 

ばしん、ばしんとハイタッチを俺とキリトとかわし、俺たちも笑った。

 

「初勝利おめでとう。……でも、今の奴、他のゲームだったらスライム相当だけどな」

「うえぇ、マジかよぉ。おりゃてっきり中ボスかなんかだと」

 

俺は周りで再度ポップし始める《フレンジーボア》を見て言った。

 

「んな訳あるかよ」

 

口では茶化しているが、しかしクラインの感じている喜びと感動はよくわかる。俺なんて初めて勝ったとき『最っ高にハイって奴だー!!」とか言っちゃったからな。

 

これまでの戦闘は手本を見せるってことでベータ上がりの俺とキリトがモンスターを倒していたので、彼はやっと自分の剣で敵を粉砕する爽快感を味わったのだ。

 

初めての勝利の興奮が冷めないのか、クラインはまるで玩具(おもちゃ)を手に入れた子供のようにはしゃぎながら同じソードスキルを繰り返している。

 

俺とキリトはそれを見て苦笑し、声をかける。

 

「ハマるだろ?」

「おお!!ハマるハマる!」

「こう敵を倒したときの手応えが最高だよな」

 

キリトの問いにクラインは嬉々として応え、俺も感想を言う。

 

「スキルってよ、武器を作ったりすんのとかいろいろあるんだろ?」

「そうだなぁ、スキルの種類は無数にあるって言われてる」

「そんかし、魔法みたいなんは無いけどな」

 

クラインは手に持つカトラスを持ち方を変えたりして振りながら問うてきた。

キリトがそれに応えると、俺も続いて応えた。

 

「RPGで魔法が無いなんて大胆な設定だよ……な!」

 

クラインは《リーバー》の初動モーションをしてタメをつけスキルを発動させながら応え、またもスキルの発動にくうぅ~!!と歓声を上げる。

 

「自分の体を動かして戦う方が面白いだろ?」

「それもそうだな!」

 

キリトの言葉にクラインは振り向くとうなずいた。

 

「んじゃ、じゃんじゃん狩っていきますか」

「おう!」

「ああ!」

 

俺が言うとクラインとキリトがそろってうなずいた。

 

その後、俺たちはあたりが夕日で赤く染まるまでモンスターを狩りまくった。

 

おかげで俺とキリトのレベルが8、クラインは6まで上がった。

 

夕日を眺めながらクラインが座った状態で口を開く。

 

「それにしても信じらんねぇよな、ここが《ゲームの中》だなんてよ……作った奴は天才だぜ……」

 

クラインの言った事に俺も心の中で同意した。

 

目の前に広がっている世界は現実の世界とほとんど大差ない。キリトも同じ考えだろう。

 

「すっげぇよなぁ、マジこの時代に生まれてよかったぜ。我ながらラッキーだよな……ま、ベータテストに当選したオメェらの方が十倍ラッキーだけどよ……」

「まあな……」

「ふっ、褒めるなよ。何も出ないぜ?」

「別に褒めてなんかねぇよ」

 

俺のボケに小さな笑いが起きる。

 

「ベータじゃ何処まで行けたんだ?」

「二ヶ月で8層まで、ってのが表向きの情報だな」

 

俺の言葉にクラインが怪訝そうな顔を向ける。

 

「表向きって何だ?どうゆう事だよ?」

「おい、ユウ……」

「いいだろ?コイツなら俺たちの事話してもたぶん大丈夫だろ?」

「たぶんってなぁお前………はぁ、分かった好きにしろよ」

「おいおい、何の事だか俺にはさっぱりわかんねぇよ」

 

俺の言葉にキリトは呆れながらも了承してくれた。

 

クラインは事態が読み込めておらず困惑しているようだ。

 

「実はな、二ヶ月で8階層までってのは嘘じゃないがちょっと違うんだ。ホントは28階層まで言ってる」

「なっ!?二十八階層!?」

「ああ、ほんの一握りのプレイヤーだけどな」

「じ、じゃあなんで8階層までしか行けなかったって事になってんだよ!?」

 

俺の言った衝撃の事実にクラインは驚き、当然出てくる疑問をぶつけてきた。

 

それにキリトが応える。

 

「別に嘘は言ってないんだ、大多数のプレイヤーが行けたのは8階層までだったから表向きにはそれを使ってるんだ」

「そ、そうなのか………ん?待てよ………もしかしてお前ら………」

 

クラインが俺たちの秘密に気づいたのか指をふるわせながらこちらを指差す。

 

「そう、俺たちは二十八層まで行ったプレイヤーの内の二人だ」

「マジか……」

 

俺の告白にクラインは目を見開き、開いた口が塞がらないようだ。

 

「まぁ、そんな大した事じゃないけど、一応コレ機密事項らしいから黙っててくれよな」

「あ、ああ……お前らホントにすげぇ奴らだったんだな、びっくりだぜ」

「さて、もう少し狩りを続けてくか?」

 

俺が人差し指を口の前に立てながら言うと、クラインは心底驚いたという顔をしながら頷く。

 

するとキリトがこの後どうするかを聞いてきた。

 

「ったりめぇよ!!……と言いたいとこだけど……」

 

クラインが右方向に少し視線を向ける。視界の端に表示された現在時刻を確認したようだ。

 

「……そろそろ落ちて、メシ食わねぇとなんだよな。5時半に熱々のピザの宅配を指定してんだよ」

「抜け目ねぇなぁ」

 

呆れ声を出す俺に、クラインはおうよと胸を張ると、ふと思いついたように続けた。

 

「あ、そんでよ、俺その後、他のゲームで知り合いだった奴らと《始まりの街》で落ち合う事にしてんだけどよ。どうだ、紹介すっから、あいつらともフレンド登録しねぇか?いつでもメッセージ飛ばせて便利だしよ」

「お、いいね。でも俺たち早く進みたいからさ、今度で良いか?」

「おうっ!!分かったぜ!!」

「キリトもそれで良いよな?」

「ああ、大丈夫だ問題ない(キリッ」

「そのネタもう古すぎんだろ……」

 

皆で笑っていると、クラインはもう一度時計を見る。

 

「……ほんじゃ、俺はここで一度落ちるわ。マジ、サンキューな、キリト、ユウ。これからも宜しく頼むぜ」

 

ぐいっと突き出されてきた右手を、俺は、きっとコイツは《他のゲーム》ではかなりいいリーダーやってたんだろうな、と思いながら握り返した。

 

「おう、こっちこそ、宜しくな。何か困った事とかあったら、いつでも聞いてやるぜ」

「俺も宜しく。また何か聞きたい事とかあったら呼んでくれよ」

「ああ、頼りにしてんぜ、二人とも」

 

俺達にとって、アインクラッド―――あるいはソードアート・オンラインという世界が、楽しいだけの《ゲーム》だったのは、この時までだった。

 

そして、クラインは右手の人差し指と中指をまっすぐ揃えて下に降り、鈴の音のような効果音とともに半透明のウインドウを開く。

 

俺たちも、今までの戦闘でドロップしたアイテムの整理をしようと、ウインドウを開き指を動かす。

 

その瞬間。

 

「あれっ」

 

クラインの頓狂な声が響いた。内容は。

 

「なんだこりゃ……。ログアウトボタンがねぇぞ(・・・・・・・・・・・・)……?」

 

それを聞いた俺たちは手を止めて、顔を上げるとキリトが。

 

「ボタンが無いって…………そんなわけないだろ、よく見てみろって」

 

呆れ声でそう言うと、クラインはウインドウに顔を近づけ、目を剝く。

 

しかし………。

 

「やっぱ、どこにもねぇよ。お前らも見てみろって」

 

この短い間でクラインがこんな嘘を言う事が無いのを分かっている俺たちは、すぐにトップメニューに戻るボタンを叩く。

 

そして腕に染み付いた動作で、俺はログアウトボタンの場所に指を滑らせ―――――。

 

そして、ぴたりと全身の動きを止めた。

 

無い。

 

この世界から離脱するためのボタン、それが本来ある所に無い。

 

まるで、元々そこに存在していなかったかのように、そこには何も無かった。

 

視線を上げると、クラインが、な? というふうに顔を傾けた。

 

「……ねぇだろ?」

「ああ………キリト、お前もか?」

「うん、俺の方にも無い」

 

キリトが頷くのを見たクラインは、にまっと頬をつり上げ、逞しい顎を撫で。

 

「ま、今日はゲームの正式サービス初日だしな。こんなバグも出るだろ。今頃GMコールが殺到して、運営は半泣き状態だろうなぁ」

「いや、お前そんな事言ってていいのか?さっき、5時半にピザの配達頼んであるとか言ったのはどこのどいつだよ」

「うおっ、そうだった!!」

 

眼を丸くして飛び上がるその姿に、自然と笑みがこぼれる。

 

アイテムの整理を終わらせたキリトが立ち上がり、やべぇオレ様のアンチョビピッツァとジンジャーエールがぁーと喚いているクラインのそばに歩み寄った。

 

「とりあえずGMコールしたらどうだ?システム側で落としてくれるかもよ」

「いやもうやったんだけどよ、反応ねぇんだよ。ああっ、もう5時25分じゃねぇか!おい他にログアウトする方法って無かったっけ?」

「ええっと………ログアウトするには……」

 

クラインに聞かれ考え始めるキリト、しかしオレは気づいていたそんなものは無いと、そしてこの深刻な事態に。

 

「無い。ログアウトボタンを押す意外の方法は存在しないはずだ」

「んなバカな………ぜってぇ何かあるって!」

 

オレの回答をクラインは否定し、大声を出し始めた。

 

「戻れ!ログアウト!脱出!」

 

当然何も起こりはしない。SAOにはその手のボイスコマンドは実装されていない。

 

それでもあれこれ唱えるのを止めないクラインに俺は押し殺した声で呼び掛ける。

 

「無駄だ、クライン。取説にも、そういう類いの緊急切断方法は載ってなかった。」

「で、でもよ……だって、馬鹿げてるだろ!いくらバグっつったって、自分の部屋……いや、自分の体に、自分の意思で戻れないなんてよ!」

 

呆然とした顔でクラインが叫んだ。そんなの俺も同じ気持ちだ。

 

こんな茶番、馬鹿げている。だが紛れもない事実だ。

 

「いや、一つ方法があるな。リアル(むこう)でナーブギアを外して貰えれば……」

「おおそれだ!ん、待てよ俺一人暮らしだぜ。無理じゃねぇか!」

 

キリトの提案に一瞬希望を持ったクラインだが、すぐに落ち込んだ。

 

「お前らはどうなんだ?」

「俺は親が居るけど共働きで夜遅くまでいないな」

 

俺はすぐに答えたが、キリトは少し悩んでいるようだ。

 

しかし、すぐに素直に答える。

 

「……母親と、妹と三人。だから、晩飯の時間になっても降りてこなかったら、強制的にダイブ解除されると思うけど……」

「おぉ!?き、キリトの妹さんて幾つ?」

 

突然目を輝かせ、キリトに身を乗り出すクライン。キリトはその頭をぐいっと押し戻す。

 

「ちょ、いきなりがっつくなよ……!」

 

俺はそれを見てため息を一つ吐き、クラインを指差す。

 

「クライン、お前実は結構余裕だろ?因みにキリトの妹には彼氏がいるから無駄だぞ」

「なんだよー、もう彼氏居んのかよー。チクショウッ!俺も彼女欲しいぜ!」

 

俺が言うと、ガックリと項垂れるクラインだったが、すぐに顔を上げると天に向かってシャウトした。

 

因みに彼氏って俺の事だけどな。まぁ、今それを言うとクラインがソードスキルぶっぱなしてきそうだから言わないが。

 

「なぁそれより、変だと思わないか?二人とも」

「そりゃ、バグってんだから変だろうよ」

 

キリトの言葉に、何を今さらといった風に答えるクライン。

 

まったく、まだ気づいてないのか……

 

「クラインよく考えろ。《ログアウト不能》なんてバグ、今後のゲーム運営に関わる重大な問題だ。なのに、俺たちがバグに気づいてもう15分は経ってる筈なのに何のアクションも無い。それどころかアナウンスさえないのはおかしい」

「あぁ、言われてみりゃ確かにな」

「実際、お前のピザが今この瞬間にも刻一刻と冷め続けてるっていう、現実世界での金銭的損害が起きてるわけだしな」

「…………冷めたピッツァなんて粘らない納豆以下だぜ………」

 

クラインの意味不明の発言をスルーして、キリトが口を開く。

 

「それにこのSAOはVRMMOってジャンルの先駆けなんだ。ここで問題なんて起こしたら、ジャンルそのものが規制されかねない。だからこの問題は早急に解決する必要があるはずなんだ。けど―――」

「実際はそうなってないってか……」

 

キリトの言葉をクラインが引き継ぎ嘆息する。

 

俺は二人の様子を見て、冷たく乾いた仮想の空気を吸い、顔を上向ける。

 

アインクラッドの四季は現実世界とリンクしている。初冬の冷たい空気が肺に心地いい。

 

時刻は5時半回っている、真っ赤な夕焼けに空が染まっている。

 

こんな綺麗な世界を規制するなんてもったいなさ過ぎる。

 

そう思った直後に、世界はその有り様を、永久に変えた。

 

 

 

 




原作思い出しながら書いたけどうまいこと出来てるだろうか……?

てか、ほとんど変わってないな。

これから頑張って行きますのでよろしくお願いします。

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