僕はデスノートを手に入れた。ノートに名前を書けばその人間が60秒で死ぬというものだ。何もしなければ心臓発作で死ぬが、ある程度死因を操ることもできる。
しかし、このノートには欠点があった。日本の東端からアメリカの西ハワイまでしかノートの効果がないというものだ。これでは僕の理想へ一足にというわけにはいかない。
僕の夢は、犯罪のない世界を作ることだ。とは言え僕は、天竜人のような権力者は人を殺しても罪にならないので犯罪ではない、という主張は認めない。
僕は平等主義者なんだ。人に苦痛を与えてはいけない。それこそが罪だ。法律が罪を、いや悪を規定するのではない。だから、悪のない世界を作るって言った方がいいのかな。
このノートを使えば日本からハワイまで(日ハ間)の人間は正義に染められるだろう。だけど、外の人間を変えることはできない。そして、その外の人間こそが世界の脅威。何せ数も力も違いすぎる。
このノートが無意味とは言わない。頭脳だけならば日ハ間はなかなかのものだからね。それが手に入るのは大きい。明らかに日本より科学が優れているのは西の都くらいのもの。でも運動能力は人種の中でほぼ最下位。外の人間に全く及ばない。警察は国内の治安を守っているけど、外敵に対してリクドウ大陸の忍者に頼りきりの状況だ。
このノートを使えば簡単に日ハ間を牛耳れるだろうけどやらない。目立つと不思議な力を使っていることがバレてしまうからね。何せリクドウ大陸だけでも僕の知らない術がいくらでもある。北の海や西の海に、さらにグランドラインはもっと不思議な力があるかもしれない。そしてその力を使えば、謎解きも何もなしに、僕がこのノートを使っていることがバレてしまうかもしれない。そんな能力はないかもしれないけど、ある可能性を考えておくことが重要なんだ。失敗は許されないからね。個人的には8対2であると思っている。
だから、目立ってはいけない。特に敵を作るような目立ち方はね。
できるだけ僕が若いうちに世界を救いたいけど、我慢も必要だ。
じっくり力を蓄えていかないとね。頭脳、お金、政治的な力、軍隊。
まずは頭脳だ若い子達をどんどん西の都へ送り、最新の科学技術を手に入れる。汚職と売国に染まった政治家も早めに消毒する。そして正義心に溢れる政治家を当選させ、世界政府非加盟国間の貿易、並び軍隊の連携を強めていく。
僕の手足になって動く子達も欲しいな。そうだ。リクドウ大陸は戦争が終わったばかりで孤児が大勢いる。あそこの孤児を何人も養おう。彼等ならチャクラが扱えるから上手く育った時は日ハ間の人間よりずっと有効だ。
そうと決まれば早速計画の用意を。
でも待てよ。僕と同じように考えて孤児を引き取っているやつがけっこういるんじゃないか? 第二次大戦で植民地を進めていた会社あたりに。
「やっぱりそうだ!」
あった。見事にあった。こういうときはやっぱり多国籍企業とNGOの名前があるな。貧乏な某国まで無茶しちゃってさ。これは明らかに軍事目的でしょ。テロの脅威にもなるから、早めに消しておかないと。でも単に殺すだけなのはもったいないからね。
えーっと、あっ。ちょうど今、日本人が火の国にいるんだ。利用できるかな?
「孤児達を攫い、奴隷にしようとした〇〇。少女をレイプ中のところを近くの日本人の青年に見つかり、殺される」
レイプ未遂よりレイプ中に助けられた方が心酔すると思うんだ。ニュースになった時の同情も集まりやすい。それで寄付金が集まったら日本の孤児院で育てられる。あとは孤児院の経営者を選別するだけだ。
頭の弱そうな女だったら話は早いんだけどね。僕、これでも顔には自信があるから。
――村田サトシ――
自分でも不思議だった。真夜中に、不意に外を走りたい気分になった。ランニングは日課だったけど、リクドウ大陸でそんなことをする気はなかった。忍者がいて危険だし、消灯時間もあるし。
だけど、何故か走らなければならないと思ったんだ。後から思うと美少女とのマンガ的な出会いを期待していたのかもしれない。
「やめっ! いたっ!」
俺の耳は異様にさえていた。女の子の嫌がる声が聞こえた。
「痛いっ! いぎっ」
その声の方へ自然と足が進んだ。いや、一気に速くなった。女の子を暴漢が襲っているという核心があった。
何故か応援を呼ぼうとは思わなかった。忍者がくれば俺より簡単に暴漢をやっつけられるのに。
俺はヒーローになりたかったのだろうか。
「こんの野朗おおおお!」
「へっ? ぐえっ」
俺は障子に飛び込み、破り、男にとび蹴りを放った。スキンヘッドの男だった。かなり鍛え上げられていて、身のこなしも素早い。しかし忍者ではない。動きは常識の範囲内だ。
俺は高校一年生としては鍛え抜いている。しかし向こうはスパイか何かに見える。戦闘のプロ。勝てないかもしれない。そう思った時だった。
「ぐっ」
突然相手は心臓を押さえ、苦しみ出した。俺の蹴りが上手い具合に入ったのだろうか。
「チャンスだ! この野朗!」
俺は男に飛び掛り、さらに顔を蹴った。何度も何度も蹴った。自分でも不思議なことに、絶対に殺さなければならないと思っていた。女の子を助けることが目的であって、男の命を絶つことは必須ではないのに。
やがて男は痙攣し始めた。そして動かなくなった。
俺は自分のしでかしたことに気付いた。
「ま、まさか、殺人罪? だ、誰かーーー! 誰かーーー!」
俺は大声で助けを呼んだ。やがて面をつけた忍者がやってきて、そいつは医療忍者を呼んだ。医療忍者は蘇生を試みたが不可能だった。
俺は日本の警察と木の葉の忍者の共同で取調べを受けた。忍者も警察もかなり俺に気を使っているようだった。互いに友好を深めたい時によけいな溝は作りたくないようだ。
取調べはなあなあで進んだ。被害にあった女の子からの証言と、スパイらしき男の同僚がスパイであると漏らしたため、俺はあっさり無罪となった。しかし気持ちはとても落ち込んだ。
ところが、日本に帰った俺を待っていたのは報道陣の山だった。
「サトシさん、今の率直なお気持ちは」
「野球をされていたようで。やはりスポーツで培った武士道精神が悪に立ち向かう勇気を与えたのでしょうか」
「ご家族とは既にお話をされましたか?」
15歳が素手でスパイを殺したのだ。ニュースになってもおかしくないが、テレビカメラまで来ている。肖像権は? 顔と名前がバレたらキラに殺されちゃうんだけど。
「す、すみません。カメラは……」
「ああ、大丈夫ですよ。モザイクかけますから」
ぜ、全然信用できん。マスゴミやし。
ニュースは連日俺の事件を取り上げ、俺を英雄ともてはやし、某国のスパイを責め、孤児に同情した。俺が勉強熱心で西の都に留学したがっていることもやけに強調されていた。
いつしか「戦争孤児の面倒は日本がみる。某国のスパイに利用させちゃあならん!」という空気ができて、莫大な寄付金と政府からの支援が集まった。
徐々に孤児、日本、リクドウ大陸の友好についての報道が増えていき、俺の報道は消えていった。
俺は家に引きこもりがちになった。勉強の割合が増えて運動の割合が減った。ある休日、家で勉強しているとチャイムがなった。ドアのミラーから向こう側を覗くと、赤髪のかわいい少女が立っていた。例のレイプされていたところを俺が助けた娘だ。その後ろにテレビクルーもいた。
「な、なんでしょうか?」
俺はドアを開けないまま尋ねる。
「あっ、サトシさんです? 私うずまきアワって言います。その、リクドウ大陸のうずまきの国出身でして、例の事件の時にはサトシさんに助けてもらったんです」
「そうですか。でも、僕が助けなくとも忍者の方が助けてくれたと思いますよ」
「いえ、それは絶対にないです! 小国を犠牲にするような戦争を始めたのは木の葉なんですから! 孤児なんて死んだらせいぜいするとしか思ってませんよ!」
「ア、アワちゃん。抑えて」
テレビクルーはリクドウ大陸と日本の友好という絵が欲しかったのだろう。特に一番の大陸である火の国とは仲良くしたいのが日本の考えだ。
しかしこの娘は火の国を恨んでいる様子。小国は大国同士の戦争の戦地になって住民が無差別に殺されるということがままある。彼女もそれの経験者なのだろう。
俺は軽くドアを開いた。
「ありがとう。そう言ってくれるとうれしい。だけどカメラはやめて欲しい」
「大丈夫です。モザイクいれますから」
何が大丈夫なのか。テレビクルーが答えた。ネットで顔が出回ってることを知ってるぞ。ああ、一刻も早くブルマと知り合いにならなければならないんだ。夜神に殺された時にドラゴンボールで生き返られるように。
「あとこれ、受け取ってください」
アワちゃんが手に持つ封筒を俺に手渡す。
村田サトシ様へ。西の都、高校留学奨学金。と書かれていた。
「もともとある政治家の方が留学用の寄付金を募っていたそうですが、真面目なサトシさんにはぴったりだということで」
「ほ、本当に? いいの?」
こ、これは、棚ボタだなあ。でも目立ちすぎて夜神ライトに顔を覚えられた可能性がある。
いや待て。向こうに留学できるのならば金のためにキラの正体を暴露する必要もない。殺される心配はないんじゃないか? 俺ってどちらかというと正義の人間だし。夜神ライトはそこまで無差別に殺さないし。