我が名はスカサハ、影の国の女王哉   作:Marydoll

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なんかスランプ気味かな

特別優れた文章というわけではないだろうけれど、それでもちょっと調子を取り戻したいなあ。


狂騒、端を発し

フィン・マックールは驚きを感じていた。

セイバーと呼ばれた彼女、ネロ・クラウディウスの剣技の、その異様なちぐはぐさに違和感を覚えていたのである。

その剣技……成る程、自信に満ち溢れた先の台詞に違わない優れた業である。だがーーそれでも、弱い。フィンはネロを打ち倒すことよりもむしろ、その違和感を払拭することに意識を向けていた。此方の攻撃は総て通らず、いなされているーーそう、先ほどから今まで、ネロは一度もフィンの攻撃を避けていない(・・・・・・・・・・・・・)のである。避けなくとも良いと考えているーーというわけでないのは、戦いの最中で理解できた。ところどころ、明らかに無理をした動きをすることがあるからだ。フィンは確信していたーーセイバーの強さは、恐らく仮初めのものであるのだと。或いはーーそう、スキルによるもの。剣技のスキルとは、考えにくい。そのようなスキルを持つ人間が、そもそもそのようなスキルを持つとは考えにくいーーというパラドックス染みた理由であったが、フィンはそう考えていた。ならばーー剣技さえも内包する万能系のスキルか……

 

「戦の合間に思考に没頭するとはッ、随分と余裕だな!」

「いやはや、申し訳ない。これは性のようなもの故、気分を害したというなら謝罪しよう」

 

ネロの無造作な薙ぎ払いを、フィンは下方から上方に切り上げた槍で払い上げる。そうやってできたネロの懐の隙に蹴りを放つーー寸前に飛来する三本の矢を、槍を廻しながら地に叩き落とす。

ーー技能という面ならば、むしろこちら。フィンは木々の合間から寸分違わず彼の背後を突く影なる者に感嘆していた。確実に一撃ーー急所を狙い定めた正確な射撃である。だが、フィンは思う。死角というものは、存在するが存在しないものであるとーーつまり、確かに自身には見えない場所、察知できな点は、存在する。しかし、それも自身の感応範囲に入ってしまえばあってないようなものであるーーそして、それは彼方も理解できたことらしい。

ネロの三連撃を弾き返して態勢を攻勢に移すーーそのかたちを崩すように矢が放たれるようになった。戦闘中に、そうやって意識を切り替えたのである。

フィンは良き敵に出会えたことに感謝した。またこちらに斬りかかってくるネロを迎え撃つように構えながら、ディルムッドと少女の戦闘に意識を向けてーー

 

 

 

ロビンフッドは森の中を駆け巡りながら、間近で行われる二つの戦闘を睨めつけていた。

やはりーーと言わざるを得ない。完全に劣勢、それどころか敵は揺らぐ様子すら見受けられない。そもそも純然たる戦士に対して、揃ったのが狩人に皇帝、そしてただの御令嬢である。何方が有利か、優勢かなどということは始まる前から分かりきったことであった。罠を張る時間も、それを他の二人に正確に把握させるための猶予もなかった。それはつまり、正攻法以外の方策を取りようがないということ。ロビンフッドは小さく舌打ちをする。

弓に矢を番える。

疾走する状態のまま、身体を捻り的を捉えるーー限界まで引き絞られた弦がしなり、跳ね返る。

木々と枝々を縫う高速の矢は、しかし届かない。

完全に無勢である。いくら攻撃しても効果がない。

どうしたものか、ロビンフッドが思考を巡らせてーーそして叫ぶ。

 

あのバカが、と。

 

 

 

遠方より、超高速で飛来する矢を払った。

ディルムッドはエリザベートの相手をしながらも、森の影を暗躍する隠者に意識を向けていた。敵の姿どころか、気配さえも察知することができない。何処にいるのか、何処から矢を射ているのか、騎士団生粋の戦士である彼にさえ悟らせないその技量に、ディルムッドは舌を巻いた。

ーーしかしと、彼は思う。

幾ら不可視の敵による奇襲であろうとも、そうやって射られた矢は視認可能なものーーつまり、ディルムッドは、此方に飛んできた矢を、目前に迫ったと同時に(・・・・・・・・・・)対処していたのである。

その様子にエリザベートは内心の苛立ちを隠せないでいた。まず、自身に目を向けないその精神性に苛立っていた。彼女の攻撃をすべていなしながらーーいや、ロビンフッドの射撃に対処しながら、エリザベートと戦闘を行うその姿に、ひどく自尊心を傷つけられたのである。さらに、どこか釈然としないディルムッドの表情にも同様の感情を抱いていた。まるで、自分の存在では手応えを感じ得ないと、そう言うかのような彼の様子に、闘争心を燃え上がらせた。

しかし戦場において不必要な感情は排斥されるべきもの。己の衝動に任せた動きというものは、得てして単調になりやすい。

エリザベートがその苛立ちのままに殴りつけたマイクスタンドが、ディルムッドの槍によって弾きとばされるーーそして続いて、ディルムッドは三方からの矢を振り払った。

 

「やばっーー」

「謝罪はしない。存分に恨め」

 

ディルムッドの槍が、エリザベートの首を貫いーー

 

 

 

 

茜は目前の戦闘を俯瞰し、そして明確に直視しながら戦況を把握することに努めていた。自身のそばから聞こえるマシュの息遣いさえも耳に届くほどに、その意識は研ぎ澄まされていた。

クー・フーリンとベオウルフの戦闘は、熾烈も苛烈、暴虐の限りを尽くしたような激戦であった。

クー・フーリンの槍が四度振るわれる。左右上下、リズムを違え、速度は不可視に近いそれを、ベオウルフは凶暴な笑みのままに押し返す。右、左と身体を揺らしながら、まるで舞踊に興じているかのように楽しげな表情に、クー・フーリンもまた同様の笑みでーー

「ーーーー!」

「フッーーーー」

 

クー・フーリンの攻勢が止むと、次はベオウルフの番ーーと、そう簡単にはいかないのは、ひとえにそうやって途切れた戦闘の合間にベオウルフの頸を穿ち抜かんとする狩人の存在故のこと。

茜は瞬きも疎ましく、戦況を見つめる。こちらが優勢。これは間違いのないことである。ベオウルフとクー・フーリンは、現状ほぼ互角の戦いを繰り広げているーーだが、そこにアタランテの存在が絡めば、形勢は一気にこちらへと傾く。クー・フーリンに対してベオウルフは、ただの一度も、自身から攻撃を仕掛けることが出来ないでいた。

 

「ハアッァ!!」

「ーーぐッあらぁッ!!」

 

高速で飛来する弓射、その三連撃を弾き飛ばすとともに体勢を整えるーー間もなくその身を前方に転じる。

クー・フーリンの朱色の槍を地を這うようにして避け、そのまま飛び上がるように彼の顎を穿たんと拳を振り抜く。

寸前で身体を弓なりに反らして、そして二歩三歩と交代しながら槍を回転させる。

ベオウルフの武具を警戒しながらも、クー・フーリンは獰猛な笑みを絶やさない。そんな獣の姿に僅かに笑みを浮かべたベオウルフは、ああと天を仰いで苦言を呈する。

 

「こう言うのはなんだがーー鬱陶しいな。てめえが引いたクジが最悪だったにしても、やっぱり文句の一つは言いたくなるもんだ」

「ハッ。そりゃあ残念だったな。あの姐ちゃんもあれで可愛げがあるんだぜーーまあ、運が悪かったな」

 

クー・フーリンの言をその獅子の耳でしっかりと聞き取ったアタランテはその麗しい顔を歪めるーー相変わらず口が回る男だ、と。

そんな軽口を聞いたベオウルフはほんの少しの疲れを滲ませながらも快活な笑いはそのままに、変なことを言ったなとその手の槍を二度振るう。

空気を割く音が鳴る。

そんな二人の様子を遠目に眺めながら、マシュは静かに息を吐く。

慣れたつもりはなかった。

けれど、多少の自信は確かに胸の内にある。

だが、それでもーー

高速で流れる三者の行動を睥睨しながら、後ろに庇うマスターである彼を気にしてーーその上、他者の奇襲に備えて広域に意識を配る……などという荒業をこなすのは、その張り詰めた緊張の糸をより一層軋ませる苦行であった。

「それにしてもーー」

 

クー・フーリンは槍を肩に担いで、ぐるりとあたりを見回し、それからベオウルフの後方に聳え立つ城壁に目を向けた。

「結局、ここは何なんだ? 時化た場所にしちゃあ、テメエみたいな男が門番をしてるときた。お姫様っていうのが何処のどいつなのかは知らねえが……」

「そりゃあ、あれだな。わかんだろ?

知りたけりゃ……」

「はん、まあ、だろうな」

 

クー・フーリンは息をついて、槍を肩に担いだ。ある種無防備な体勢を晒す目前の敵に、ベオウルフは眉根を寄せる。

そんな様子を可笑しそうに見やって、クー・フーリンは笑う。

 

「ーーまあ、良いマスターとの巡り合わせは悪い話じゃあねえな。そうだろう……なあ?」

「ああん? ーーッ!?」

 

ベオウルフはクー・フーリンの言葉の真意を問おうとして、口を開いてーーそれから、ぐわと身体を大きく捩らせた。

研ぎ澄まされた『直感』が、闘争の本能が、彼を無意識に最善の行動へと移行させた!

 

「ーーッんだ!?」

 

ベオウルフは後方から飛来した『弾丸』が、己の首筋を舐めて消えていくのを確かに見ていた。

その光の出処に目を向けーーることはできない。

なぜならば、そうーー

己の目の前にいる存在の、その強大さが決してそれを許さないのだから。

その手に持つ槍を、赫く赫く、染め上げて。

男は静かに、闘争の終わりを告げた。

 

「ーー呪いの朱槍をご所望かい?」

 

ーーなあ、マスター。

 

 

 

エリザベートの頸を狙い澄ましたディルムッドの一振りは、結局その目的を果たすことはなかった。

頭上から降り注いだ太陽が如き紅蓮が、膨大な質量と共に、彼に襲いかかったからである。

 

「ーーこれはッ」

 

大きく後方に後退りしたディルムッドも、またその強大な力の奔流に戦闘を中断せざるを得なかったネロとファンも、森の奥から機会を窺う狩人も、みな揃って、その姿を眩いものに目を焦がされたかのように呆然も眺めていた。

ーーなんという神威だ。

フィンは静かに瞠目する。

生半可な力ではない、それこそ、空から太陽の(ほむら)が降り注いできたかのようなそれに、警戒するーーする他ない。

一体何者であろうか。

だが、その答えは意外にも、目前の女の口から聞くことができた。

 

「むっ、この気配ーーまさか『施しの』かっ!?」

「ああ、久しいな、セイバー。あの『月』の……いや、それは無粋か」

「施しの……なんと……」

 

施しの英雄ーーカルナは首肯する。

流石は、とそう言うべきか。ネロが『かつての出来事』を知らないという事実を一目で見抜いた彼は、口を閉ざした。

一方フィンは、ネロの言葉を耳にしたと同時に、既に撤退を視野に入れた行動を開始していた。

ディルムッドの側まで駆け、告げる。

 

「戦況は不利だ。ここは一度退くとしようか」

「……ですがーーいえ、了解しました、王よ。その通りに」

「ああ」

 

森の中に消えていく二人の背を、ネロもカルナも追おうとはしなかった。

剣を大地に突き立てて、一息をつく。ネロはふと、へたり込むエリザベートに目を向けた。

 

「ふむ。好敵手エリザベートよ、ここで一つ休息を挟むとしようか。何やら、これは思ったよりも重大な事態であるらしい」

「お前は、そんなことも知らないで闘っていたのか」

 

ロビンフッドは思う。

そんなことも理解してなかったのかよ、と。

 

「……………………えええぇっ?」

 

結局、急速に話が進むのについていけないまま取り残されたエリザベートは、ただ疑問を言葉にすることもできずに、尻尾を揺らすことしかできないでいた。

 

 

 

李書文という男は、自他共に認める戦闘狂である。

強大な敵との戦闘は、心躍るものがある。

死を実感するたびに、己の強さと弱さを、身の丈を知れる。成長は恐れを抱いていては、あり得ない。

彼は、故に、数十数百と続く槍の激動に、くつくつと喉を鳴らして歓喜していた。

 

「呵々、呵々。愉快……愉快よ、なんとも面映い。童心に帰るとはこのことか。主もそうは思わないか」

 

返答は、鋭い槍の一振りであった。

濃密のどす黒い気の激流を己のそれでいなして、書文はゆったりと身体を揺らした。

一撃ーー互いの槍の穂先が、甲高い音を立ててしなる。

二撃ーー女の下段への蹴りを、己の脚で相殺する。

三撃、四撃、五、六、七、八ーー

神速の応酬は留まるところを知らなかった。

ーー刹那。

書文の気配が揺らぐ。女は目を細めた。

見えぬ三連撃を、彼女は槍をぐるりと往来させて、弾き飛ばす。無防備な腹への蹴りは、如何してか一切の重みが感じられない。まるで空気を蹴るようであったーーそも、己の攻撃がかすりもしていない。

 

「主のような女子がいるとは、思わなんだ。力も、技も、或いはーー全てが儂の数段上をいくとくれば、くく、心躍るのも致し方なしというものよ」

「…………認めよう」

「むん?」

 

女が初めて口を開いた。

冷たい声音であった。無機質な空気の振動でしかなかった。

書文は眉根を寄せる、これは奇々怪々だと。

 

「ふむ……如何様か」

「だから、もう、終わりにしようかーーお前は危険だ」

「大技ということか。面白い。ならば、儂も、応えようか」

果たして、女はーースカサハは静かに槍を構えた。

 

 

癒える気配が一向に見えない傷口に苦しむラーマは大木にもたれ掛かりながらも、大きく息を吸って、ジェロニモに問いかけた。

 

「これから、どうするつもりなのだ」

「そう、だな。先ずはその傷をどうにかせねばなるまい」

「……そう、か」

 

それもそうか、とラーマは渇いた喉を上下させた。自分でも馬鹿なことを聞いたな、とそう思った。

 

「この傷には、明らかに呪いの類が取り憑いているな。これをどうにかせねば、如何様にも出来まい」

「……………………ぐっ」

 

それはラーマ自身も気付いていたことであった。

あの女の槍は、悍ましい呪怨のそれであった。偉大なる英雄、このラーマでさえ恐れ戦くほどに。

「これでも、シャーマンの端くれではあるが、この呪いはどうしようもない。余りにも深く、そして怨みが籠っているようだ」

「ーーーーしかし、治さねばならぬ」

「それは…………その通りだろうが」

 

治せるものなのだろうか。

ジェロニモが傷口の痛ましさに目を伏せるーーそれとほぼ同時。

後方、すぐそば。

余りにも強大な気配を、彼は察知していたーー否。

もうナイフの一振りでも頸を刈り取れるであろうその位置まで何者の接近を許してしまっていたのだ。

 

「ーーーーーー」

「落ち着け」

 

振り返ることすら出来なかった。

凍えるような声であった。

けれど、それは決意の声でもあった。

己とは違い、この気配の『女』の姿を目にしているであろうラーマが、息を呑む音が聞こえたような気がした。

 

「ーーーー其方は」

「何も言うな。その傷は、『アレ』にやられたものだろう?」

「いや………ーーいや、そうだ。其方ならば、これをどうにかできるのか?」

「ふん。忌々しいが、私では不可能だなーーだが、方法は、あるかもしれん」

 

『女』の言葉を聞いたラーマは、鷹揚に頷いた。

「ーー諒解した。ならば、我々はその女傑の元へ向かうとしよう。その名に相違はないか」

「ああ、間違いない。己で名乗っていたよ」

 

ーーナイチンゲール、とな。

 

 

 

 

ベオウルフは、己の胸の『空洞』に手を翳して、倒れ伏していた。

大盾の少女の、その陰に潜んでいたはずの少年がーー己の後方から撃ち込んだ『ガンド』を回避しーーそうするように仕向けられ、結局、彼はクー・フーリンの呪いの槍に対処する術もなく、心臓を抉り取りれていた。

 

「ーーーーかはっ、ハハ……大した手品じゃねえか。侮ってたぜ、正直な話な」

 

そんな少年の代わりに、盾の、マシュ・キリエライトの陰から現れたのは、遠方で矢を射っていたはずのアタランテ。

ーーオーダーチェンジ。

 

少年はベオウルフにそう告げた。

 

「はん、まあ、認めてやるよーーオレの負けだな」

 

苦笑気味にベオウルフは言った、情けねえ。

 

「ーーそれで。汝の言う『姫』というのは、何処にいるのだ?」

「容赦ねぇな、姐ちゃん」

 

アタランテの問いに、ベオウルフは笑うしかない。

彼は告げた。

 

「地下の牢に繋いである。鍵はしてねえから、好きにしな」

「当然だな」

 

そう言い、一も二もなく周囲の警戒に入ったアタランテも、けれど、ベオウルフに静かな敬意を払っていた。そんの女の雰囲気に、ベオウルフはとりわけ気分を害すことも、それどころか何かを思うこともないようだった。

クー・フーリンは言った。

 

「まあ、良い戦いだったぜ。出来れば、次はもっと伸び伸びと闘いたいもんだがな」

 

アタランテの一睨みに、クー・フーリンもまた、ベオウルフのように苦笑する他なかった。

 

 




随分と時間が経ったような気がする。

受験生お疲れ様、よく頑張りました(自画自賛)

数学出来なくて苦労した記憶なんて、ゴミ箱に捨てよう。

遅くなってごめんなさい。

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