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シャルティア失態後めしをくう

 

「わたくしの最後に、ご一緒に食事をする機会をいただけるとは。本当に慈悲深きお方」

 シャルティアは独白した。

 自らの犯した大変な失態によって、彼女はすぐさま自刃するつもりであった。

 未だ彼女が思考し行動しているのはアインズが晩餐を主催したからであり、シャルティアがそれに出席を命じられたからだ。

 創造主の意に背いた己が生きていることそのものが恥辱の極みであったが、同時に下された命を無視して死ぬこともできなかった。

 死ぬ前に命ぜられたことはすべて済ませなければならぬ、そういう気持ちで彼女は未だ生きていた。

 

 晩餐はアインズの私室で行われた。

 シャルティアがノックして踏み入れると、そこには席に着くアインズと、給仕を担うプレアデスの一名のみが居り、シャルティアは促されるまま席に着く。

「さて、シャルティアよ。まずは食べ給え。お前のためのメニューだ」

 古式な作法に則ったコース料理のメインディッシュは、子牛のフィレステーキ。

 消化器官をもたないアインズの前に皿はない。それらはすべて下僕のためのものであった。

 シャルティアは一口一口、料理をじっくりと噛みしめた。

 この料理を食べ終えたら、自刃の許可をいただこう。己の下僕としての至らなさが恨めしい。。

 偉大なるナザリック地下大墳墓、この世の栄華を極めた場所。

 料理長の賄った料理は素晴らしい。

 肉の味を損なわぬよう、針の穴を通す配分でもって作られたソースと、柔らかで甘い肉。

 あの一件以来、何度も後悔し頭をうちつけた。己の至らなさは涙の味がした。

 食事は慈悲の恩寵であった。

「大変素晴らしい食事れありんした。慈悲深きアインズ様に最大で最後の感謝を」

 シャルティアは己が最後の責務を自身の征伐と決めた。

「わが身の罪をこの首でもって贖わせてくだしゃんせ」

 

 

「料理は美味かったか?」

 シャルティアが伏して待つと、アインズの返答は許可でも制止でもなかった。

「料理……でありんすか?」

「そうだ」

「は、はい。それはもう最高の味でありんした」

 シャルティアが突然の質問に首をかしげる中、アインズは改めて卓上で手を組んだ

「ならば下がり給え。自刃は却下する」

 アインズの言葉はそれだけであった。

 シャルティアは最後にとささげた忠誠の刃の行き場を失ったままに、プレアデスに追い立てられるように退室した。

 

 

「『子牛のステーキは美味かったか』とおっしゃられたのね?」

 シャルティアはアルベドの知恵を頼った。

 ただ果てるのみと考えていた己の命は支配者によって繋ぎ止められ、しかし不敬にも自刃に勝る決着を受け入れられなかった。

 ただもう二度とアインズの命に背きたくない、ただそれだけが彼女を動かしており、その意をくみ取るためにはあらゆる恥を捨てられた。

「ええ、アインズ様はそう仰られたのでありんす」

「そう。子牛、というのが恐らくアインズ様が伝えたかったことなのよ」

「子牛?」

 ナザリック最高峰の頭脳の片割れ、アルベドの言、こと知能の関する事柄にはシャルティアも一目置いていた。

「ええ、大変美味でありんした」

「アインズ様と二人っきりで食事だなんて、憎たらしい……。

 とにかく、メニューが子牛のステーキだったのでしょう? ではなぜ子牛のステーキは美味しいの?」

「それは、ええと、子牛の肉が柔らかいからでありんす」

「その通りよ。子牛の肉は柔らかい。

 では牛という動物は、子牛のうちに自ら屠殺場に足を踏み入れ、首を垂れる賢明さは持ち合わせているのかしら」

「そんな馬鹿げたことはありんせん」

 シャルティアは否定した。アルベドの話はまるで関係のないものであると思われたが、彼女の知恵が最後の糸であることも確かだった。

「牛が死ぬにもっとも良いときはそれが子牛のとき。しかし牛はそのことを知らないの。

 肉屋が考える最適なときに死ぬことが、牛が最も死すべきときというわけ」

「つまりどういうことでありんす」

「頭のめぐりが悪いわね」

 そこでアルベドは一息溜めた。そのさまは神のことについて話す牧師に似ていた。

「あなたもわたしもアインズ様の忠実な下僕だわ。

 下僕の考える死すべきときは、いつだって見当外れ。

 牛が死すべきときを肉屋が決めるように、私たちの死すべきときはアインズ様が決める。

 私たちの至上のお方はそう仰られている」

 だからその足りない頭で自刃について考えるのは辞めなさい。アルベドはそう言ってシャルティアを追い出した。

 ただそれだけのことであり、それで十分であった。

 


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