艦隊これくしょん -本当に何も知らない提督- 作:7seven
ところで毎月の1-6を苦痛に思うのは私が大艦巨砲主義提督だからでしょうか。
大艦巨砲主義を話題に出しても大きな艦の出てこない10話目、始まります。
あれから1か月。
どこから出してきたのか、赤縁の眼鏡をかけ鞭を片手に俺に鎮守府運営のことを教える佐伯さんの、どれだけ怖かったことか。
ここしばらくの俺のオアシスは、3食のたびにお会いする鳳翔さんの微笑みと、たまに駆逐艦の子たちが差し入れてくれる飴玉ぐらいだった。食い意地張ってるわけじゃないよ?
しかしまあ、この1か月で俺も鎮守府のことがそれなりにはわかってきた。
俺が頼りないからと、俺の横で共に勉強していた叢雲は、俺よりももっとわかったことだろう。頭のいい子だからな。
勿論、1か月ずっと勉強で机にかじりついていたわけではない。
他鎮守府の艦隊と演習をするというのでそれを見学したり、鎮守府内にある工廠施設で実際に装備を開発したり艤装を建造したりするのを見学したり。
あとは簡単な書類仕事を任せられたりもしたし、自分で考えた開発レシピで実際に開発させてもらえたりもした。開発はペンギンのぬいぐるみができたけど。なんで鋼を使って綿になるのか。妖精さんというものは不思議だ。
「アンタも見違えたわよね。出会った時はいかにも一般人って感じだったのに。今はそれなりに軍人らしく見えるわ」
勉強で知識を付けたという自信が顔に出ているのか、今叢雲に言われたようなことを大和さんにも龍驤さんにも、勿論佐伯さんにも言われた。やっと少佐って顔だ、と。
ちなみに俺はここに派遣される時既に少佐の地位だったはずなのだが……。俺がオール3なせいで一般人面だったというのか?
「ここでの勉強で、提督っていうのは艦娘たちの『命』を預かる仕事なんだって、勉強したからな。気合も入るよ」
俺の隣を歩いている、この細身で小さな女の子も。
俺が提督になったら、一度も戦場に出ないなんてことはまかり通らないだろう。
その時に、俺がバカやってたら、この子が危ないんだから。
「その調子で勉強なさい。幸い、ここの提督は大鎮守府をまとめてるだけあって、博識よ。こんな人の下で学べるなんて運がいいわね」
そうなのだ。しかも佐伯さんは教え方もたいへんわかりやすい。
あの人が教えれば、小学生ですら立派な提督になれるんじゃないかと思える。
唯一欠点があるとすれば、恐怖を与えるのが上手すぎる点か。実に恐ろしかった。
教え方の上手い佐伯と言えば、俺に艦これを勧めたあいつもそうだった。
仲のいい友人なんてあまり多そうではないのに、テスト前になると佐伯の前に人だかりができるくらいには、教え方が上手かった。
それを生かして教職に就きたいと聞いたことがあったかもしれない。
「……まさか、な」
「なによ」
俺の言葉の辻褄が合わなかったせいか不機嫌顔でこちらを見た叢雲に、なんでもないと返して食堂への道を急いだ。
***
鎮守府修習も、残るところあと2週間となったある日。
出来上がった文書を海軍本部に提出するために対外管理部まで行ってきた帰り。鎮守府敷地内の花壇の前でしゃがみこんでいる吹雪ちゃんを発見した。
叢雲は今艦娘として訓練中だし、書類の提出くらいひとりでできるのだから、叢雲は一緒ではない。
叢雲が一緒じゃない俺が話しかけても迷惑な気もするが……。
どうにも、あの哀愁漂う背中は、駆逐艦娘には相応しくない。
あんな幼い子に、あんな背中をしていてほしくない。
「吹雪ちゃん? どうかしました?」
声をかけると、肩を大きくびくつかせる。
「あ、内海提督候補……。こんにちは」
「うん、こんにちは」
「今日は、叢雲ちゃんは一緒じゃないんですね」
「うん。叢雲は今訓練中で、書類を提出するだけだったから、俺だけ出てきたんです」
そうなんですか。吹雪ちゃんは相槌を打ってはくれるけど、なかなか俺の目を見てくれはしない。
「……内海提督候補は、」
声が震えている。
一度飲み込み、今度は、しっかりした声で。
「内海提督候補は、叢雲ちゃんのことが好きですか」
合わせてくれなかった目がぶつかる。
強い瞳。
というよりは、どす黒い感情にまみれた、重い眼。
吹雪ちゃんに、何があったと言うんだ?
こんな目、この年頃の娘がしていい眼じゃない。
「俺は 」
今言えることを、精一杯。
吹雪ちゃんの目を見て答えた。