艦隊これくしょん -本当に何も知らない提督- 作:7seven
抜け殻になりながらの第2章、始まります。
02-01 はじめての ていとくぎょう
VIP用の車両に揺られること、数時間。
俺と叢雲は、配属先の「佐伯湾泊地」に到着していた。
100人を超す少女、女性による敬礼。
呉鎮に所属している全艦娘であろうたくさんの女の子たちと、彼女らを率いて立つ佐伯さんの見送りだ。
早朝に佐伯さんから聞いた話を、朝食と一緒に噛みしめていた。
叢雲と、吹雪ちゃんの話。
……俺は、胸にしまっておくことにした。
もし下手に話題を出して、流れに流れて吹雪ちゃんの耳に入ったら?
考えるだけで可哀想すぎる。
「……さて、叢雲。今日から、改めてよろしく頼む」
「ええ。……よろしく、
ぐっと握手を交わす。
そういえば、叢雲に触れるなんて、初めてのことじゃなかろうか。
最低限の手荷物の他は全て先に郵送してあるはずで、一先ず鎮守府内の見取り図を見ながら執務室を目指す。
そういえば、たとえ泊地だろうがなんだろうが、艦娘が所属し、艦娘を指揮する提督のいる海軍施設のことは鎮守府と呼ぶらしい。ええいややこしい。
「やっぱり、呉よりも小さいわね」
「でも、まだ2人だから広すぎるな……。掃除も大変だ」
辿り着いた執務室は、古ぼけたフローリングと、年代物の執務机、そして重厚な赤いカーテンがかかった部屋だった。俺が佐伯さんから譲り受けた書籍を詰め込んだみかん箱も積み上げられている。
窓からは、海が見えた。
「ん? なんだこの封筒……」
執務机には茶封筒。裏を返せば海軍本部の文字。
俺の執務机にあったんだから、まあ俺宛の文書だろう。迷いなく開ける。
「新米提督の、すすめ……?」
着任を祝う言葉と共に書いてあったのは、艦娘を建造しろだの、鎮守府近海で一度出撃してみろだのという内容だった。
「まあ、妥当ね。私もちゃんとした戦闘経験はないし、それに艦娘が私一人ってわけにもいかないでしょ」
「そうだな。じゃあ早速建造して、その子と一緒に鎮守府の正面海域に出撃してくれ」
「わかったわ」
鎮守府見取り図を片手に、工廠施設に行く。
呉鎮では兵装実験軽巡である夕張さんや、工作艦の明石さんがいてくれたが、うちにはそんなレアな艦娘はいない(というか叢雲以外誰もいない)。
資材の管理から妖精さんとのやり取りから、全部自力でやる必要がありそうだ。
ああ、妖精さんというのは、艦娘とほぼ同タイミングで出現したとされる、小さい女の子だ。どれぐらい小さいかというと手乗りサイズ。いっそハムスターサイズと言ってもいい。
しかし彼女たちは莫大な科学力を誇っていて、艦娘の建造も、艦娘用の装備の開発も、傷付いた艦娘の修復も、全部妖精さん達にしかできない。
つまり妖精さんが深海棲艦側に寝返ったら世界は深海棲艦陣営が勝つ、それだけは間違いないのだ。
「妖精さん、いますかー……?」
重い工廠の扉を開けて中に入る。
呉鎮にあった資材量を見慣れている俺達からしたら、ほんの雀の涙ほどに置いてある資材。これは大和さん達みたいな超大型艦どころか、金剛型や扶桑型でさえ作れるか心配な資材量だ。
その時、足元に歩いてくる妖精さんが1人。敬礼をしてくださったので、俺も敬礼を返す。
「今日から佐伯湾泊地に着任しました、内海伊織です。よろしくお願いします」
笑顔でうんうんと頷いて、まるでよろしくと言ってくれているようだ。
そうだ、妖精さんが不思議な存在なのは、人語を話さないからでもある。艦娘の艤装を動かすのにも妖精さんが働いているのに、俺達も艦娘たちも、妖精さんの言葉がわからないんだ。不思議だ。
「えっと……建造をお願いできますか?」
どんと胸を叩いて、任せろ! とばかりに胸を張る妖精さん。実に頼もしい限りだ。
「では、これで建造をお願いします」
最低限、艦娘の艤装を建造するのに必要な資材を妖精さんに渡すと、敬礼して、走り去って行った。
壁に埋め込まれている時計が、20分と表示される。20分……駆逐艦だな。まぁあの資材量で軽巡ができたらそれはそれで驚く。
「20分……私の姉妹が来る可能性もあるのね」
「そうだな。20分待ちぼうけるのももったいないし、鎮守府内を少し歩いてみないか?」
「仕方ないから付き合ってあげるわ」
素直じゃないことを言うけど、2か月も一緒にいれば、これは本心なんじゃなくて意地を張ってるってわかるようにもなる。
そんなところが、普段は大人っぽい叢雲の年相応な面であって、愛らしいと俺は思う。
つんっと顔はそっぽを向いてるけど、少しだけ口元が緩んでいるんだから。
***
20分とちょっと過ぎた頃に、鎮守府探検を終えて工廠に戻ってきていた。
艦娘の建造というのは、艤装を建造するまでは全部同じらしいが、その艤装とは違う艤装を持つ艦娘が触れることで、艤装から女の子……艦娘が、現れるらしい。
ちなみに、同じ艤装の艦娘が触れると艤装が交換され、既に鎮守府にいる艦娘の艤装が建造された場合は誰が触れようと艦娘は現れないそうな。
「これは……叢雲のとは違う艤装だな。どっちかといえば綾波ちゃんとかに近い、か?」
「そうね……。とりあえず、触れてみるわ」
叢雲がその艤装に触れた瞬間。
「綾波型駆逐艦『漣』です、ご主人さま」
ベリー色の髪をツインテールにした女の子が、光と共に現れる。
「サンズイにツラナルでさざなみ、と読みます」
……え? ご主人さま? ってナニ?
母港のソート機能でゲット順を見たら、叢雲の次が漣だったので。
キャラを立てるにも非常に優秀な漣が、2番目の艦娘です(最近までレベル1だったとか言えない)。
16/10/05 誤字修正