艦隊これくしょん -本当に何も知らない提督- 作:7seven
手配してもらった新幹線の切符を持って、叢雲と駅へと行く。
今日から俺は呉鎮守府で提督候補として鎮守府修習をすることになる。
幸い俺も叢雲もほとんど荷物はなく、俺は本と着替え、叢雲も着替えだけを先に呉鎮守府のほうに送っており、今手荷物は財布とスマホと切符ぐらいのものだ。
叢雲があまり自分のことを教えてくれないので、行き道の新幹線の中で叢雲の名を検索する。クソッスマホで変換できないぞ……! ひらがなで検索をかけるから、対深海棲艦においては無力となった護衛艦や巡視艇ばっかりがヒットするんだが。
あっ、もしかしてこの東雲型駆逐艦、もしくは吹雪型駆逐艦のどっちかか?
そうか叢雲ってこんな感じの
「さっきから何してるのよ」
叢雲がスマホを覗きこんでくる。プライバシーってないのか?
「いや、叢雲ってどんな船かなと思って」
「それなら私に聞くほうが早いでしょ」
「叢雲があんまり自分のこと話してくれなくてさ……でも俺が知ってたらかっこいいかなって」
「あんたねぇ……知ってることは司令官として常識よ? 自分の指揮する艦隊のことを知りもしないなんて司令官失格だから」
まあ、それもそうか……。
「私は特型駆逐艦として生まれた吹雪の妹分なのよ。吹雪から始まるシリーズだから吹雪型。その5番目だから吹雪型5番艦、それが私ってわけ。まったく、それぐらいもわからないなんてあの学校は何を教えてるのかしら」
「吹雪型の5番艦の、叢雲、だな。覚えた」
「ま、せいぜい提督候補生のうちに勉強しておきなさい。提督になったら鎮守府の運営に出撃命令、エトセトラ……忙しいらしいわよ」
「だなあ……。佐伯さんも、忙しいだろうに受け入れてもらえて本当にありがたい」
大規模作戦? がなんなのか俺は知らないけど、まあ普通に考えたら規模の大きい出撃ってことなんだろうし。
俺もいつか参加するのかなあ。
まもなく広島駅、広島駅と新幹線のアナウンスが流れる。手荷物を持って叢雲とふたり、新幹線を降りた。
待ち合わせは新幹線改札を出たところで、と言われている。
迎えに艦娘をやるから、それに着いていけとも。
「で、どの艦娘かは聞かなかったわけ?」
「佐伯さん曰く、君どうせ見てもわからないだろうって。艦娘同士ならお互いわかるし、秘書艦を頼るといいらしいから……叢雲、頼む」
「ほんっとに、しょうがないわねぇ」
頭についているうさみみ状の浮遊ユニットのランプをちかちか点滅させてきょろきょろしていると、叢雲は何かに気付いたようで歩き出す。
それに着いていくと、そこには茶髪をポニーテールにした、品のよさそうな少女が立っていた。
「あんた、重巡熊野ね?」
「ええ。わたくし、呉鎮守府所属の重巡洋艦、熊野ですわ。そちらは本日から呉鎮守府で修習予定の提督候補・内海さんと、その秘書艦叢雲でよろしかったかしら?」
立ち姿から受ける印象と変わらない物言い。
女子高生みたいな出で立ちだけど、もっと年上のように感じる。
まあ、実のところ彼女たちは軍艦だったころの記憶もあるらしいし、俺なんか目じゃないくらい経験豊かなわけだが。
「初めまして、内海伊織です。よろしくお願いします、熊野さん」
「内海の秘書艦、叢雲よ。よろしく頼むわ」
「それでは鎮守府にご案内します」
鎮守府へは専用車を使っての移動のようで、まるでVIPにでもなったような気分だ。
まあ、専用車とは言っても見た目が見た目だからVIP気分は半減するわけなのだが。
***
呉鎮守府に到着すると、まずボディーチェックを受けた。
本当に財布とスマホくらいしか手荷物がないから、すぐに終わった。
そして……。
「こちらが提督のお部屋ですわ」
「ありがとうございます、熊野さん」
「どういたしまして。提督、熊野ですわ。内海さんをお連れしました」
中からどうぞ、と聞こえる。失礼します、と扉を開けて入る熊野さんに続いて俺も入る。
中は豪勢な執務室で、立派な執務机と椅子、応接テーブル、応接ソファー、書棚と非常にいい物の置いてある部屋だと、俺にも一瞬でわかる。
執務机で書類を広げてペンを握る佐伯さんは、今日も赤い口紅をしている。
「やあ、よく来たな。ようこそ、呉鎮守府へ」
「今日からお世話になります」
一礼すると、堅苦しいのはいらんよと言われてしまった。
「改めて、私がこの鎮守府の主の佐伯梓だ。階級は中将。そしてそっちが、私の秘書艦である大和だ」
「大和型戦艦1番艦、大和です」
「俺は内海伊織です。階級は少佐です。こっちは秘書艦の叢雲です」
「吹雪型駆逐艦5番艦、叢雲よ」
「んじゃあまず、誰か暇をしていそうな艦娘を呼んでここの案内をさせるよ。ここの決まりとかも聞いてくれ。夕飯の時に君のことをみんなに紹介しよう」
「わかりました、ありがとうございます」
大和さんに、鎮守府内放送で暇そうな娘を呼んでくれと言ってからペンを握った佐伯さん。気付いたらばっちりと目が合う。
しばらく見つめ合っていると赤い唇がにっと釣り上がった。
「ふぅん。たった数日でいい目をするようになったじゃないか」
「ありがとうございます……?」
そのうち扉の向こうがバタバタと騒がしくなり、失礼します! と元気な声が聞こえてくるのであった。
叢雲がスマホで変換できないのは実話です。