日常すら忘れさせる様な庭園を横に、男女五人は目の前を歩く女中の後ろを言葉を発する事無く、付き従うかの様に歩いていた。周囲は完全にプライバシーを配慮しているからなのか、人の話す声すら聞こえない。
まだ春の色が見える整備された日本庭園は、喧噪渦巻く日常とは完全に切り離れていた。
「本当に大丈夫なの?ここ、どう考えても高級店にしか見えないんだけど」
「カナちゃんがここにしたみたいだから、私に言われても…」
「でも、僕はそんなに持ち合わせていないよ」
「いざとなったら何とかするしかないかも」
前を歩く女中を尻目に泡沫と刀華はヒソヒソと小声で話をしていた。つい一時間前には、まさかこんな店に来るとは思っても居なかったからなのか、恋々を中心にテンションはかなり高い状態を保っていた。
しかし、来た場所がそれを許さないからなのか、自然と小声になっていく。三人の後ろを歩く恋々と雷もどこか緊張したまま、周囲をキョロキョロと眺めていた。
「こちらにどうぞ」
女中が止まると、その部屋は完全な座敷になっていたのか、襖を開けると明らかに高級料亭を思わせる調度品が飾られている。
床の間にある掛け軸には詳しくは分からないが、見た事も無い花の絵が描かれ、その前にある花器にも彩が添えられていた。活けられた花や樹が広がりを見せるかの様に枝を伸ばしている。華道には詳しくは無いが、恐らくは調和がとれた広がりは明らかに一流の作品である事を暗に示していた。
完全に場違いだと判断したからなのか、誰もがこの場所に連れてきたカナタを見ている。それぞれの思惑があるからなのか、一先ずは案内された席に各々が座っていた。
「あの……こんな事を聞くのは失礼だとは思うんですが、お値段はかなりの物だと思うのですが。それに私達、そんなに持ち合わせが無いんですが……」
「その件でしたらお気になさらなくて結構ですよ。既にお話は聞いておりますので」
確実に聞かなければならないと刀華は思い切って女中にその事実を伝えていた。
学生が来るには分不相応な店に誰もが緊張していた。
ここに来る前はどんな店なんだろうと意気込んでいたはず。気が付けばカナタの後ろを歩く人間は皆キョロキョロしながらも動揺している。
泰然自若としているカナタも内心は驚いていた。まさか気軽に言われた事から来ただけの話。刀華が聞かなければ今頃はどうなっているのかすら分からない状況に冷や汗をかいていた。
「……そうですか」
「お会計に関しては既にお聞きしてますので気になさらないで下さい」
女中はそれ以上は何も言う事無く柔らかい笑みを残し、部屋から出て行く。何時ものメンバーだけになったからなのか、雷は思わず深呼吸していた。
「ここって、かなりの高級店じゃ?」
「そうだよ。せめて事前に聞かせてくれても……」
刀華と飛沫のどこか恨めし気な視線をカナタに投げかけたものの、カナタとしても今回の件は完全な想定外だった。
まさかこんな事になるとは誰も思わない。しかし、自分が主導で来た以上、どう答えて良いのかを迷っていた。
「カナタか。これからどこに行くんだ?」
「生徒会のメンバーと食事にでも行こうかと」
「食事?珍しいな」
「何でも私が疲れてるみたいだから、美味しい物でも食べようって話になったので」
仕事が終わったからと、カナタは一旦自室へと足を運んでいた。
元々制服では無い為に、そのままの格好でも良かったが、学園の外に出る為に、少しだけ着替えるつもりで戻っていた。
部屋にはこれから外出するつもりなのか、龍玄はライダースジャケットを身に纏いこれから外出する様子だった。
実際にここに龍玄が居る時間は驚く程に短い。精々が寝る時と食事の時位だけ。それを知っているからなのか、カナタはそれ以上聞くつもりはなかった。
事実上の一人に近いからなのか、カナタも遠慮している様子は少ない。この時間に珍しく見たからなのか、少しだけ自分の予定を口にしていた。
「そうか、旨い物か。だったら、一つ俺が知っている店を予約しておこう。もし、和食が嫌なら止めれば良い。少なくとも俺の一押しの店だ」
カナタの言葉に龍玄は自身の端末から予約を入れていた。
龍玄は元々普通の生活を送っている訳では無い。自分がこれまでに築き上げた実績の上で今に至っている為に、他の生徒とは少しだけ常識の範囲が異なっていた。
自分達であれば精々がファミレスか、小洒落たカフェを意味するが、こと龍玄に関しては全く予測出来ない。
しかし、何かしらの思惑があってこそ予約を入れてくれるのであれば、それ位は聞いても良いだろう。折角の好意は素直に受ける方が良い。そんな些細な考えがそこにあった。
「予約しておいた。店で俺の名前を出せば良い。料金は極力安くしてくれと言ってある。あと遠慮はしなくても良い。あそこの料理はかなりの物だからな」
そう言いながら龍玄はカナタの端末に場所のデータを送信する。送られてきた場所は都内でも割と自分達も行く範囲の場所。
本来であれば事前に確認すれば良かったが、既に龍玄は部屋を出た為に碌に聞く事も出来ない。ここで場所を調べれば良かったが、既に時間が押しているからなのか、カナタもまた手早く着替えをしていた。
「で、どこに行こうか?」
「それなら既に予約してありますので、大丈夫ですよ」
「カナタ先輩が予約した店ってどこなんだろう」
「恋々。俺達は後ろを着いて行くだけだ。それ以上の詮索は野暮になる。きっと良い店に違いない」
既に学園の入り口にあるバス乗り場にはそれなりに生徒が待っていた。
元々寮はあるが、それほど厳しい門限がある訳では無い。時間に余裕があれば外出した所で問題無かった。
今のメンバーが生徒会の人間で構成されているからなのか、他の生徒からは少しだけ距離を置かれていた程度だった。時間だからなのか、路線バスが来る。それぞれが目的地に向かって乗り出していた。
「ねぇ、カナちゃん。一体どこの店を予約したん?」
「厳密には私ではありません。ですが、美味しい物を食べるならと勧められたので」
「せめてどんな店なのか位は教えて」
「それなら、和食の店だと聞いていますよ」
龍玄に言われたとカナタは言わなかったからなのか、刀華は少しだけ疑問を浮かべながらも聞いてきた。既に目的地に向かっているからなのか、他のメンバーも外を眺めている。
詳細を確認していない為に、カナタも知っているのは場所と店名だけだった。
「あの……一つ聞いても良いかな。僕も詳しい事は分からないんだけど、ここってかなりの高級店の様に見えるんだけど……」
「うた君に同意かな。カナちゃん、本当にここなの?」
「場所と名前からすればここですね。一度確認してみれば良いかと」
五人が来たのは大きな門構えがそびえ立つ料亭の様な店だった。
どこか古さを感じるが、所々真新しい部分も見える。後ろに立っている二人は言葉を失ったかの様に立っていた。
「貴徳原様ですね。ご予約有難うございます。風間様より承っています。どうぞこちらへ」
着物姿の中年女性の声に既に退路は断たれていた。ここまで来たら腹を括るしかない。
最悪は自分が払えば良いだろう。そんな気持ちを持ちながらもカナタを先頭に皆が中へと移動していた。
「さて、龍玄。いや、青龍。これから任務内容の確認だ」
カナタ達が料亭で固まっている頃、龍玄は小太郎に呼ばれ、某所に集合していた。
元々今回の任務は先だっての貴徳原のパーティーに紛れ込んだ闖入者の処理とその背後にある物の確認。その事前情報を聞いた上で小太郎が放った言葉に、呼ばれた誰もが自然と厳しい表情を浮かべていた。
「例の闖入者の事か?」
「ああ。どうやら連中は近日中に大きな事を起こすらしい。それに伴って今回の件で奴らが誰に粉をかけたのかを知らしめる必要性が出てきた」
小太郎の言葉に誰もが理解を深めていく。誰に何をしたのかを分からせる一番最良の手段としての報復が計画されていた。
相手が通常の企業や暴力団であれば何かしら問題はあるが、相手が解放軍であれば気にする必要性はどこにも無かった。
元々反社会勢力の最有力のアジトが一つ程度壊滅した所で世間が驚く様な事は無い。
それだけではなく、懸念事項が一つでも少なければ、それだけ頭を痛めるか回数が減る事にも繋がっていた。
「だが、警察の介入はどうするんだ?確か都内にあったと記憶しているが?」
「その件なら問題無い。既にこの件は時宗からも依頼が来ている。それと事前に調査した結果、幹部の一人でもあるビショウがいるかもしれんが、それ以外に伐刀者は居ない。精々が雑魚程度なら、警察が知る頃には終わるだろう」
時宗の言葉に青龍だけでなく、他のメンバーもまたそれ以上の確認をする必要は無かった。
事実上の内閣からの依頼であれば警察だけでなく公安や内調にも手が回っている。そもそも伐刀者が不在になっているのであれば、襲撃に対する時間すら殆ど必要無くなる。そんな意図がそこに隠れていた。
「了解した。それで決行は?」
「それに関しては現在調整中だ。今回の報酬は襲撃した中身次第だが、基本は丸取りだ。折角なら最大限に収益を取れる方が効率的だろう。その為に緊急で呼び出す可能性がある。総員、それを念頭に過ごしてくれ」
「御意」
小太郎の言葉に誰もが頷くと同時にその場から離れていた。既に用件は終わっているからなのか、このまま食事をして帰れば良いだろう。龍玄はそんな事を考えていた矢先だった。
「そう言えば、貴徳原の娘はどうだ?」
「どうだの意味が分からんのだが」
「……何だ。まだ手を出していないのか?」
「は?何言ってんだ親父。もう痴呆が入ってるのか?」
既に誰も居ないからなのか、風魔の棟梁としての顔ではなく、小太郎は一人の父親としての顔をしていた。周囲からみれば違いは殆ど分からないが、息子でもある龍玄からすれば明らかに何かしらの揶揄が混じっている様にも見える。
この顔をした自分の親は正直面倒臭い。カナタとは同室ではあるものの、日常生活のリズムが異なっているからなのか、接点はそう多く無かった。
「酒の席で時宗とも話をしていたんだが、今回の件は色々な意味で注目されているらしいぞ」
「俺には関係無い話だろ?だとすれば何時もの事じゃないのか」
小太郎の言わんとする意味を龍玄は測りかねていた。
唐突に出た言葉にどんな思惑が含まれているのかは不明だが、少なくとも自分にとっては有用な話で無い事に違いない。元々の部屋割りに関しても、当初は違和感しかなかったが、今となっては然程気にする必要すら無くなりつつあった。
「相変わらずだな……もう少し、今時と言う物を学んだらどうなんだ?」
「今時って……破軍に行って思ったんだが、殆どの連中がつまらん思想を持っている事だけは分かった。彼奴らは何も分かっていない」
「所詮はそんな程度だ。誰もが伐刀者になったからと戦場に立ちたいとは思っていない。お前の言いたい事は分からないでもないが、少なくとも1年位は通うんだな。そうすれば物事の側面も見えるだろう」
元々風魔だけでなく、A級リーグや闘神リーグで生き残れる人間は誰もが一定以上の体術の技量を有していた。
しかし、それ以外となれば殆どが予備役になるか、その異能を活かした就職をするケースが殆どだった。
昨年までの破軍であれば小太郎も通わせるつもりは毛頭無かった。たかが異能を使えるからと言って、現地で使い物になるのかは本人の資質による所が多すぎる。やる気と能力は必ずしも一致しないのは今に始まった事では無かった。
しかし、理事長の解任に伴う新たな上層部の考えはこれまでの様に異能だけに拘らず、実戦に重きを置いた方針にシフトしていた。
龍玄を学園に送り込むにあたって、これまでの経緯は既に調べ上げている。前任の理事長は黒鉄家にすり寄る者だったからこそ、半ば言いなりになっていた。
国益としての立場から考えれば、たかが一家人の言葉だけで方針を変更する程度の学園であれば将来的には解体すれば良いだけの話。事実、その思惑を引き摺ったからなのか、ここ数年の破軍の立場はゆっくりと低い物へと変化していた。
そんな中での新たに就任した理事長の新宮寺黒乃の方針は小太郎としても感心する部分が多分にあった。
そんな経緯があったからこそ、今回の貴徳原の報酬の回収と言う名の名目で龍玄を送り込んでいたに過ぎなかった。
「俺は特に何も考えるつもりはない。ただ、やるだけの事をするだけだ」
「……まぁ、良いだろう。今はとにかく普段とは違った生活を送る事だけにしておくんだ。それと避妊だけはしておけよ。後々面倒になるからな」
「だから、意味が分からんと言ってるだろうが」
「元服して色事に感心無しか。一度朱雀に頼むか?」
「やめろ。あれと一緒になるのは御免被る」
「そうか、残念だったな。あれなら一も二も無く直ぐに来るがな」
喉を鳴らして笑う小太郎の、朱雀の言葉に龍玄は少しだけ顔を顰めていた。
元々風魔の中でも朱雀の部隊は諜報を主としている。
その中には女を活かした歩き巫女と呼ばれた技術を活かしたハニートラップや暗殺も含まれていた。そんな人間に依頼すれば面倒事しか起きない。それならば自分達の部隊でもある青龍の荒事の方が幾分か気が楽だった。
「こ、これは……まさに真の大トロ。口の中で融ける様だ」
口に入れた途端、まるで融けるかの様に脂肪を蓄えた身は口の中で消えていた。これまでに食べた事がなかったのか、雷は思わず目を見開いて固まっている。
一方の恋々もまたそんな雷を見たからなのか、同じ様に出された大トロの刺身を口にした途端、うっとりとした表情を浮かべていた。
「こんなの、初めて食べた……」
「そんなに慌てなくても……」
恋々を見ながらも刀華も同じく出された物を口に運んでいた。
既に店内で料理を出されている以上、心配した所でどうしようもない。事実上の開き直りに近い心境だった。
出された料理はどれもこれも厳選された材料を使用している。まさに一流の素材と仕事だった。
「これはかなりの物ですね。私もこれ程の物は早々口にはしませんね」
「だって、あの恋々と雷が何も言わないんだよ。でも、本当に大丈夫なの?」
カナタの平然とした言葉とは裏腹に、どこまでも心配しながらも泡沫も同じく出されたお造りを口にしていた。
大トロだけでなく、出された刺身の全てが完全に食べ頃である事を意味しているからのか、それぞれの歯触りが異なっていた。
締まった身に見えるが、口に入れた途端にねっとりとした旨味が広がっていく。白く透き通るかの様な烏賊はこれまでに食べた記憶がどこにも無かった。
懐石だからなのか、順番に用意された物が出てくる。
そんな中で元々雷を見たからなのか、本来であれば最後の方に出てくるであろうご飯と椀物は最初の段階で出されていた。
既に用意されたはずのお櫃の中のご飯は半分程減っている。ご飯もまた炊き立てを用意されたからなのか、刺身だけではなく米の旨味も完全に引き出されているからなのか、噛めば噛むほど米の旨味が口の中に広がっていた。
「気にしなくて良いと仰ったのであれば、言葉通り受け止めるしかありませんよ」
「でもさ……」
「うた君。それ以上はカナちゃんに悪いよ。折角美味しい物を食べようって言って、ここに来たんだから」
「そう言われればそうなんだけど……」
カナタの言葉に泡沫もまた開き直るしかなかった。
既に食べている以上、支払いに関しては気にした所で事態が打開される訳では無い。カナタの堂々とした態度を見たからなのか、泡沫も心配する事よりも出された食事を味わう事を優先していた。
「これって大丈夫なの?」
「ええ。ですが、端の方を火に近づけますと燃えますのでご注意下さい」
泡沫の言葉に女中は笑顔で説明をしていた。お造りの後に出てきたのは定番の鍋料理。
しかし、各自に出されたそれはこれまでに殆ど見る機会は無い物だった。
厚めの和紙で作られた鍋の上には丁寧な仕事をしたブリと飾り切りした人参が鎮座している。身は既に適度な脂がのっている為にどこか光っている様にも見える。鍋料理とはなっているが、これもまた刺身としても十分すぎる一品に誰もが目を見張っていた。
下には固形燃料が炎を上げているが、紙の鍋が燃える事は無かった。
本来であれば肉類を煮れば必ず灰汁が出る。しかし、その灰汁が紙に付着するからなのか、その出汁が濁る事は無かった。
固形燃料の火が消える頃、破れる事を恐れたからなのか、刀華はゆっくりと箸を伸ばす。
口に入れたそれは魚の旨味を十分に引き出していた。魚の旨味と出汁の味わいの後から柚子の香りが鼻孔へと抜ける。
学生であれば肉に走りたいと考えるが、今はそれよりも目の前のこれのインパクトの方が大きすぎていた。
「刀華、どうしたの?」
「……これは美味しい」
刀華の言葉に泡沫だけでなく雷や恋々もまた箸を伸ばす。誰もが無言のまま黙々と箸をすすめていた。
「いや~こんなに美味しい物は初めて食べたよ」
「確かに。まさかここまでのレベルだとは思わなかった」
満足気な恋々と雷を尻目に刀華と泡沫の表情は徐々に暗くなりつつあった。
食事が終われば次に待っているのは清算。
当初は開き直って味わっていたものの、やはり清算となれば嫌が応にも現実を見せられる気分になっていた。
既に魔法が解けたかのように刀華だけなく泡沫もまた現実を直視している。
女中の言葉を真に受けていたからなのか、後輩二人は気にした様子は無かったが、カナタ以外の二人はそうではなかった。
欝々とした表情なのか、それとも未知なる金額に耐性を付けているのは分からない。
既に食後のお茶も飲んだ為に、今待っているのは会計伝票だった。ゆっくりと高まる緊張感。その空気はまるでこれから戦いに赴く兵士の様でもあった。
そんな緊張感を破るかの様に襖が開く。女中の手には御愛想として書かれた請求書だった。想像出来ない金額の予想に刀華と飛沫は思わず息を飲んでいた。
「あの………この金額間違っていませんか?」
「え?」
「へ?」
カナタの言葉に刀華だけでなく泡沫も素っ頓狂な声を出していた。
恐らくは高額請求を予想したからなのか、カナタの声には違う意味での驚きが混じっている。
一体何なのだろうか。刀華はゆっくりとカナタの背後から請求書を眺めていた。
「あの……」
「これが今回の請求額です。税金等も含まれていますので」
そう言いながら渡された請求書の金額はこの人数で一五〇〇〇円。誰がどう見ても一人分の値段の様にしか見えなかった。
「ですが、どれもそれぞれ美味しかったです。そんな金額では……」
「貴徳原様のおっしゃりたい事は重々承知しております。ですが、これは風間様より申し付けられた事ですので、我々としてもそれを無視する訳にはいけませんので」
これ以上は女中としてもどうしようも無いのだと判断したからなのか、カナタだけでなく刀華もまた同じ事を考えていた。
出された素材はどれも一流品。少しだけ見たお品書きにはブランド素材がふんだんに使われている事が確認出来ていた。
ちょっとした料亭であれば、確実に行くであろう金額の半分以下となれば呆気に取られる以外に無かった。
既に領収書を切ろうと女中は準備している。このままここに居ても、お互いに良い結果にならないからと生徒会のメンバーは店を後にしていた。
「ねぇ、あの店の本当の金額ってこれらしいよ」
泡沫は念の為にと自身の生徒手帳で先程の店を検索していたからなのか、刀華に見せていた。
出ている画面には明らかに学生が行く様な店では無い事だけが直ぐに理解出来る。先程食べた大トロの刺身も冷凍物ではなく、大間産か若しくは近海物。明らかにこれまでに食べた事が無いそれは改めて泡沫だけでなく、刀華やカナタも驚いていた。
まともに行けばあの金額でさえも一人分には届かない。これがこの人数で行ったとなれば、実際の所はどうなんだろうか。口にこそ出さないものの、三人は奇しくも同じ事を考えていた。
「ねぇ、本当にカナちゃんが予約した店なん?」
「………まぁ、そんな所です」
刀華だけでなく泡沫もまた同じ事を考えていたのか、カナタに向ける視線はどこか力が入っていた。
幾ら財団に属する人間であっても、これまでの様に強引に事を運ぶ様な真似はした事が無い。だからなのか、明らかに先程の店は自分達が気軽に足を運べるような店では無かった。
それと同時に風間の名前が聞こえた気がする。泡沫は気が付かなかったが、刀華だけは誰が何をどうしたのかを理解していた。
「次は僕が予約するからね」
「……そうですね」
泡沫の笑顔にカナタはそれ以上の言葉を発する事は無かった。
「日程は来週の日曜に決定した。その際に内部にある物の殆どは丸取りとなる。任務可能時間は約三〇分だ」
突如として出された小太郎の言葉に、集まった青龍以下、風魔の人間は改めて今回の任務の概要を確認していた。
元々襲撃の計画はあったものの、実際に結構される日程は不明のままだった。しかし、一度日程が決まればあとは当日に粛々と実行するだけ。
小太郎から告げられる内容を誰もが聞き洩らさない様に耳を傾けていた。
「小太郎。確認したい事がある。当日の敵の動向はどうなってる?」
「その件に関してはこれから詰める予定だ。個人的にはビショウが居ても居なくても何ら問題ないだろう」
青龍の言葉に小太郎はこれまで調べ上げた内容を公表していた。
元々解放軍とは言え、伐刀者が豊富に居る訳では無い。その実態は伐刀者を頂点に配下には武装した集団が集う、一つのテログループに過ぎなかった。
事前の調査しただけでも銃火器の数は軍隊とまではいかないが、暴力団以上に所有している。
以前の接収したグロッグからも分かる様に、背後には何らかの武器の販売元が見え隠れしていた。それと同時にビショウの能力も公開される。
油断をするつもりは最初から無い。だからななのか、その攻撃方法を見た際には既にどうすれば良いのかと言った対策が立てられていた。
「この程度なら問題無い。ここで一旦解散。集合は前日の夜に集合だ。それと今回は現金だけでなく銃火器も接収する予定だ」
「御意」
小太郎の言葉に全ての姿が瞬時に消え去る。日程が決定した以上、あとは決行を待つだけだった。