英雄の裏に生きる者達   作:無為の極

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第25話 思惑

 伐刀者と一般人の違い。単純な異能としての差が現代に於いて大きな差を明確に着けていた。

 事実、世間の目は色々な意味で肥えている。純粋な技量だけを至高の域にまで高めたとしても、その技量がどれ程高度で厳しい修行を積んだ結果なのかを知る術はない。

 実際に達人同士の戦いは常に刹那的だった。

 互いが交差した瞬間決着が着くのは、偏に互いの技量を知り、如何に隙を突くかが全てとなる。当然ながらその戦いは地味だった。しかし、その対極とも取れるのは伐刀者達の戦いだった。

 

 自身の異能を使う事によって大気を裂き、雷を呼び、氷雪や紅蓮の炎を呼び起こす。傍から見れば派手な攻撃である為に、見る側も十分すぎる程に分かり易かった。

 事実、今の世界においてKOKの興業収益は天井知らず。学生騎士による七星剣武祭もまたそれに準ずる程だった。放映権が高額になるだけでなく、またそれを目指す事によって自身の未来が切り開かれる。上位の人間は必然的に名が売れ、またその実力を見込んだ未来が予測されるのは当然の事だった。

 

 

「くっそたれが。どいつもこいつも話にならねぇ」

 

 サングラスをかけた男もまた一人の伐刀者だった。事実、昨年の七星剣武祭ベストエイトは伊達ではない。本来であればこんな場末でたむろう必要はないはずの実力を有していた。

 学生の頂点でもある武祭の上位は当然ながら学生だけでなく、大人のレベルでも中堅以上の実力を有している。にも拘わらず、日の当たらない場所で男は鬱屈としながら自身の能力を行使していた。

 

 その原因を作ったのは破軍の学生とその関係者。本来であれば負けるはずがないと思われた戦いは、ものの見事に完敗となっていた。

 一人は伐刀者にも拘わらず固有霊装の展開はせず、またもう一人は近接攻撃ではあったが、その戦い方は確実に相手を仕留めるやり方だった。

 術中に嵌った時点で負けが決定されている。惜敗ではなく完敗だからこそ男はある意味では潔く、またある意味では負けず嫌いだった。

 場末特有の喧噪は先程までここで何があったのかを完全に隠蔽している。それはあの時の帰り際に言われた言葉が原因だった。

 

 

 

 

 

「貴方は弱いのよ。その程度で粋がるのは見っともないわよ。折角の才能が泣いてるわ。せめて剣の(ことわり)位は学んだ方が良いわ。出直しなさい」

 

「………んだと」

 

「このまま負け犬のまま過ごした所で、私達には関係無いのよ。命があるだけでも感謝する事ね」

 

 女に言われた通り、蔵人自身が事実上の負けを悟ったのは倒され、意識が戻ってからだった。

 女の攻撃は感知されない程の微量な何かによって行動を妨げ、その結果負けを期している。まだ学生だからではなく、純粋な殺し合いの場では死でしかなかった。

 女が言う様に命があっただけありがたい。認識したくない現実を突きつけられていた。

 

 

「負けるのが嫌なら鍛える事ね。でも、次があるとは限らないから」

 

 笑みが零れながら放たれた一言。鋭利な刃物の様な言葉はそのまま蔵人の自尊心を完全に切り裂いていた。

 実際に戦った時の感情と今の感情は確実に異なっている。

 僅差で躱されているのは、完全に蔵人の攻撃が見切られた証拠だった。

 ミリ単位となれば剣筋も確実に見えている。剣の理の意味は分からないが、少なくとも現状のままに再戦すれば、次に待っているのは完全なる死だった。

 学生とは言え、実戦を積んだ人間であれば実力の差がどれ程離れているのかは何となくでも理解出来る。

 実際に蔵人も元々の原因を作った風間龍玄に意識が向き過ぎた為に、対戦相手の十六夜朱美の事は全くと言って良い程に無視していた。

 互いに近接攻撃を繰り出しはしたが、全てがことごとく躱される。その結果が今に至っていた。

 それと同時に、このままでは自分自身が納得できない。そんな思いからこんな場所での事実上の乱闘に近い事を繰り返していた。

 

 これまでに倒した相手は数える事も無い。雑魚ばかりかと思われたが、時折手練れの人間が居た為に、蔵人は自身の修行の一環としてやっていただけだった。

 これまでは何も思わなかったが、今なら分かる。自分よりも隔絶した格下の人間と戦った所で得る物は何も無い事実。それは奇しくも蔵人自身が龍玄に放った言葉の真意だった。

 

 

「くそっ。やっぱりこのままは拙いか」

 

 蔵人の悪態に返事をする人間は居なかった。

 実際に魔導騎士連盟が主体となって作られた学校は全部で七つ。その中でも関東圏にあるのは破軍学園と貪狼学園の二校だった。

 

 同じ関東圏にあって、この二つの学園の校風はなかり異なっている。

 破軍学園の様にある程度の規律が整った学校であれば朱美が言った剣の理を学ぶ事も可能だったかもしれない。しかし、蔵人が所属する貪狼学園はそんな事を真剣に考える人間は極少数だった。

 

 実際に基本のカリキュラムは同じでも、そこから派生する内容は学園によって異なっている。その結果、貪狼学園は蔵人以の様に身体能力が高い者が上位になる事が殆どだった。

 事実、蔵人もまた自身の神速反射による恩恵を受け、今の地位に至る。だからなのか、少数の人間に話を聞いた所で、自分よりも弱い人間の理論を受け入れるつもりは毛頭無かった。

 それよりも自身が学びたいと思える物を探す。そんな思いがあるからこそ、蔵人は場末のここで学ぶべき物を模索していた。

 

 

 

「剣の理……か………」

 

 身体能力が高いが故に、先人から学ぶと言う概念が蔵人には無かった。

 実際に学生のうちは特段問題は無いかもしれないが、少なくとも学園を卒業すれば嫌が応にも自身と向き合う必要が出てくる。

 幾ら魔導騎士としての認可が出たとしても、少なくとも自分よりも強者が多いのは蔵人も理解していた。

 これまでの様に驕る気持ちは毛頭無い。今出来るのは自分がどれ程の位置にいるのかを確認する程度でしか無かった。

 力任せの獣の攻撃は優秀な狩人によって始末される。今の蔵人はまさにその狩人そのものだった。

 誰も居ないこの場所からゆっくりと離れる。今後の事を改めて考えながら蔵人はこの場から立ち去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……イッキ。週末って空いてるかしら」

 

「今週末の事?」

 

「そ、そうなんだけど……少しだけ、は、話がしたいなって…」

 

 ステラの意を決したかの様な言葉に一輝は少しだけ予定を思い出していた。

 元々週末の予定は自己鍛錬の為に過ごす事が多く、前回の様なアルバイトが入る事は稀でしかなかった。

 実際に会場内で一輝を見たステラも少しだけ驚く部分があったからなのか、二言三言交わした程度で終わっていた。

 実際には帰るべき場所は同じだが、ステラは次の日はそのまま予選会が始まる直前の授業まで破軍には居なかった。

 予選会は授業の参加は関係ない。純粋に決められた時間に決められた場所に居る事が最低条件だった。

 着替えの為に戻りはしたが、慌ただしい為にゆっくりとは出来ない。僅かな休み時間も、そのまま授業に突入した為にもう少し改まった話が出来ないまま今に至っていた。

 

 

「別に部屋でも良いんじゃないの?」

 

「そう言われればそうなんだけど……」

 

 授業は既に終わり予選会は開始した直後だったからなのか、ステラと一輝以外には教室は誰も居ない。

 白昼の空白だったからなのか、ステラは少しだけ頬を赤くしながら一輝に確認していた。

 基本的に一輝がステラ関連で断る事は殆ど無い。だからなのか、自室でも問題無いと思ったものの、ステラにとってはそうは言えない内容だった。

 

 

「一輝。折角ステラが何か言いたげなんだ、改まった場所で良いんじゃないか?」

 

「ひっ!」

 

 もじもじしたステラはこの瞬間、心臓が大きく跳ねていた。この教室には人が居なかったはず。そう確認したからこそ一輝に対して言葉にしていた。

 突如として背後から聞こえる声に心臓だけでなく、全身が驚きで跳ねる。思わず振り返った先には龍玄が当然の様に立っていた。

 

 

「あれ?どうかしたの?」

 

「ちょっと忘れ物をしただけだ。で、一輝。ステラが折角そうやって言うんだ。バイト代も入ったなら少しはデート位したらどうだ?」

 

「で、ででででデートだなんて、私と一輝はそんなんじゃ……」

 

「何言ってるんだ?昨日だって色々と話したい事があったんだろ?」

 

 龍玄の言葉にステラだけでなく、一輝もまた少しだけ龍玄に聞きたい事があった。

 会場内に居た黒髪の女性は紛れもなく実力者。芯が通った立ち姿は少なくとも一輝の目を引いていた。

 恋愛や見とれたのではなく、あくまでもその立ち振る舞いから何らかの業を持っているはず。そんな事を思い出していた。

 しかし、隣に居たステラは全く違う事を考えていたからなのか、顔は一気に熱を帯びた様に赤くなる。自分達の事は何となく知られているからなのか、龍玄の言葉にステラはそれ以上の反論をする事は出来なかった。

 

 

「そうだね。僕も少しだけステラと話したい事があったんだ。でも、その前に龍にも少しだけ聞きたい事があるんだけど、良い?」

 

 赤くなるステラをよそに、一輝もまた確認したい事があった。

 確かにバイト先がヴァーミリオン公国の大使館だったのは驚いたものの、それ以上に驚いたのは警備している人間の質だった。

 自身の観察眼に自信があるからこそ、あの異常とも取れる警備内容は違和感の塊だった。

 

 外部の警備に関しては何も分からないが、内部にいた数人の警備の中でも特に一輝の目に留まったのは一人の女性。

 異性としての意識ではなく、純然たる戦闘能力を看破したが故の視線だった。

 ステラには誤解されたが、一輝自身には疚しいと思う部分は一切無い。それを理解したからなのか、龍玄は一輝の質問に答えられる範囲の中で説明しようと考えていた。

 

 

「今回の警備なんだけど、結構な手練の人が多かったんだけど、龍は知ってたの?」

 

「半分は知ってたが、半分は知らん。実際にあの現場を仕切ってたのはカナタだからな。俺は別の現場に出てたんでな」

 

「そっか……」

 

 龍玄の言葉に一輝は、やはりと思う部分があった。詳しくは知らないが、大使館を警備する人間の技量が未熟である可能性は皆無でしかない。仮に襲撃を許せばテロ行為に屈した事にもなりかねない。幾ら詳しい事は知らないとは言え、そこから先に何が起こるのかは考えるまでもなかった。

 少なくとも一輝の知る中では破軍の関係者以外の人間は、誰もが一騎当千とも取れる強者の集まり。龍玄の実力を理解しているからこそ一輝は確信していただけだった。

 当然ながら半分と言った事に該当するかもしれない。そんな事を考えたからなのか、一輝はそのまま言葉を続けていた。

 

 

「実は会場を見てた際に、一人の女性の立ち振る舞いが目立ってたんだよ。芯が一本入ってると言うか、自分を完全に律してると言うか……とにかく気になったんだ」

 

「ああ……成程な」

 

 一輝が言う人物は誰なのかは龍玄も理解していた。

 実際に自分達から出ているのは朱美だけ。それ以外は下忍クラスの人間が大半を占めていた。

 元々下忍と言えど実力はかなり高い。少なくとも解放軍程度に負ける要素は何処にも無かった。

 実際に表の部分は公表した所で問題になる事は無い。何よりも一輝自身が直接戦う事にならなければ、龍玄としては特段問題視する必要は無かった。

 

 

 

 

 

「なるほど……言われてみればそうかもしれないね」

 

「だが、基本的には公言は避けて貰いたい。何と面倒な部分が多いんでな」

 

「龍が言うなら特に何も言わないよ」

 

 龍玄からの説明に一輝もまた思い当たる部分があったからなのか、それ以上の事は言わない事を約束していた。

 基本的に武術や剣術の世界には失われた業と言う物が幾つかある。一輝が確認の為に聞いた女性が誰なのかは龍玄も直ぐに当たりがついていた。

 元々風魔の殆どが、今となっては失われた技術の集合体でもあり、隠密性を考えると技術が表に出るのは良い方向ではない事を理解している。

 幾ら一輝がその洞察力で技術を盗もうと考えた所で、肝心の奥伝と呼ばれる部分まで到達するのは不可能だと判断した結果だった。

 ステラの存在がある為に、ある程度の事はボカシながらも簡潔に説明する。ある程度納得できたからなのか、一輝もまたそれ以上聞く事は無かった。

 

 

「本気になって戦った場合は俺も正直な所、勝率はそれ程良くは無い。相性の問題もあるんだが、概ね事実だ」

 

「そうなんだ……出来る事なら一度位は戦ってみたいんだけどね」

 

「機会があればって所だな」

 

 これ以上の会話は危険だと判断したのか、龍玄だけでなく一輝もまたステラの下へと戻る。既にお互いの予定があったからなのか、龍玄もまた自身のやるべき事の為にこの場から離れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?メス豚が珍しく浮かれてるみたいですが、どうかしたんですか?」

 

「何!……ってシズク」

 

 一輝との週末の予定にステラは珍しく浮かれていた。

 それと同時に背後からかけられた声に僅かに戦慄する。声をかけたのはステラの事何かと敵視する珠雫だった。

 何を考えているのかは分からないが、少なくとも現時点で今後の予定を嗅ぎつけられるのは拙い。そう判断したからなのか、ステラは今はやり過ごす事に専念していた。

 

 

「何時もよりもその太い脚が更に太くなってる様に見えますが、キチンと訓練はしてるんですか?」

 

「言われなくともやってるわよ。それこそ大きなお世話だわ………って、どうかしたの?」

 

 何時もの様な喧嘩腰の口調ではあったものの、表情は確実に違っていた。

 実際に予選会が始まってからは上位陣に食い込む為には一敗の負けも許されない状況は、該当する選手にも想像以上に心理的な負担を強いていた。

 

 今年に限って言えば、昨年の代表者の殆どが一敗以上している。そんな中でも最近の出来事でもあった貴徳原カナタの不戦敗が更に拍車をかけていた。

 何も知らない人間からすれば楽観視出来るが、一定以上の力量がある人間からすれば、ある意味では危険な心理に陥っていた。

 

 手負いの獣程危険な物はない。一敗でもしている人間が食い込む為にはそれ以上に貪欲に勝ち続ける必要があった。

 対戦相手は機械的に決められている為に、誰に当たるのかは分からない。しかし、後半に差し掛かった頃から対戦相手の傾向がより顕著な物になり出していた。

 その最たる物が勝利者同士の争いと、一定以上の技量を持った人間との戦闘。カナタだけでなく、その中には龍玄も含まれていた。

 

 まだ如実に数字には出ていないが、確実に星取の読み合いが複雑になりだしている。

 既に当初の負け無しの人数は両手未満片手以上になりつつあった。その中の一人が一輝の妹でもある珠雫。

 当然の様にステラと一輝もまだ無敗のままに勝ち進んでいる。だからなのか、浮かない表情の珠雫の心情を悟ってステラが気にかけていた。

 

 

「貴女には関係無い話です。元から対戦相手としてのシミュレーションはやっていましたので」

 

「ちょっと待って。貴女の対戦相手って……」

 

「学園序列一位の東堂刀華です」

 

「……そう」

 

 刀華の名前にステラもまた思案する部分があった。

 学園序列一位は伊達では無い。実際に大使館でもその姿を見たが、実際に見て良かったと考えていた。

 耳で集めた情報と実際に予選会で見た情報に齟齬は無い。しかし、実際に話をしたり様子を見る事によってステラはその認識を変えていた。

 実際に対戦しなくとも、どれ程の力量なのかは言うまでもない。だからなのか、珠雫が警戒するのは当然だと考えていた。

 実際にステラもあの時会わなければ同じ感覚を持っていたに違いない。そんなステラの考えを珠雫もまた読んでいた。

 

 

「貴女に同情される謂れはありません。貴女の存在が忌々しいのは承知ですが、今はそれよりも大切な事があります。僅かな安穏とした時間を過ごすと良いでしょう」

 

「シズク、もう少し何か言う事ってないの」

 

「そんな暇はありませんので」

 

 今の珠雫の反応を見る限り、一輝との予定を邪魔する事は無いかもしれない。

 事実、七星剣武祭でもその内容を確認すれば一つの事実が浮かび上がる。

 昨年優勝した人間は確実に刀華の間合いの外からの攻撃によって勝利している。当然そうなれば攻撃は一方的になるのは必然だった。

 実力者同士の戦いの場合、間合の違いは致命傷になる。そう考えると間合の外からの攻撃はある意味では刀華の天敵と言えていた。

 そんな人物と戦うと考えているからなのか、珠雫の雰囲気もまた剣呑とした空気を纏っている。先程まであった浮かれた空気は既にステラの中に内包していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……今日はありがとう」

 

「いや。これまで大した事はしてなかったし、ステラにも迷惑をかけた見たいだからね」

 

「迷惑って……だってあれは私の一方的な誤解だったんだから、それ以上は言わないで」

 

 一輝との事実上のデートにステラは少しだけ自分の過去の言動に反省をしていた。

 元々大使館でも少しだけ話題に出た人物は、一輝だけでなくステラもまた気が付いていた。

 一定上の技量を伴う人間特有の動きは一輝だけでなくステラの視界にも入ってくる。

 卓越した動きがあった訳では無く、純粋にその人物の呼吸や間合いを把握した事によって入る技術は到底真似出来る物ではなかった。

 一輝もまた龍玄から聞いた話をそのままステラに告げる。だからなのか、ステラも少しだけ反省していた。

 

 

「でも、やっぱりステラって皇女なんだって改めて感じたよ。あんなに似合うとは思わなかった」

 

「そうかしら?私は何にも感じる事は無かったんだけど」

 

「それは、ステラがその世界で生きているからだよ。僕からすれば十分に凄いから」

 

 一輝の言葉にステラは改めて当時の状況を思い出していた。

 確かに皇女として求められているのは皇室の人間であれば当然の事だった。

 人間は誰しもが産まれを選ぶ事は出来ない。持って産まれた資質は変える事は出来ないが、それでもまた資質に胡坐をかいて生きていくのは個人の自由だった。

 実際にステラもまた人知れず多大な努力をして今に至る。そんな事は一輝とて理解いているはずだった。そんな一輝の感情にステラは何となく気が付く。

 一輝の根底にある考えが何なのかはステラにも理解出来なかった。

 

 

「イッキ。言っておくけど、産まれは私が好き好んで選んだって訳じゃ無い。実際に産まれた場所によってその資質がどうなるのかはその人の努力の結果だと思う。だから、イッキが私に気兼ねする事なんて無いわ」

 

「……そんなつもりじゃなかったんだけどね。確かに少しだけ場違いな空気が漂っていたのは事実だったから」

 

「でも、イッキは私の事を皇女として見てなかった」

 

「それは…………」

 

「だからイッキ。私は私なの。一人の女として見てほしい。それに……イッキは私の………こ、恋人なんだし」

 

 オープンカフェに居た為に周囲は常にざわついていた。

 実際に週末だからなのか、客数が多く常に末状態が続いている。事実、この場にステラが居たとしても気が付く人間は皆無だった。

 だからこそ、自室ではなくこんな場所で気軽に会話をしている。特殊な環境ではなく日常のごくありふれた一幕だった。

 

 

 

 

 

「意外ね。まさか一輝がこんな店を知ってるなんて」

 

「知ってると言うよりも、龍に教えて貰ったんだよ」

 

 デートの最後に差し掛かったからなのか、一輝がステラと一緒に向ったのは少しだけこじんまりとしたレストランだった。

 元々一輝がこんな店を知っているとは思っていなかったからなのか、ステラの驚きの言葉に複雑な表情を浮かべていた。

 実際に一輝がこれまでに外に対して意識を持つのは修行以外には無い。

 娯楽そのものは多少なりとも理解はするが、実際にこんな場所を知っているはずがなかった。

 

 元々今回のデートの原資となったアルバイトの費用も龍玄からの紹介。だからなのか、その際に龍玄から色々と聞く事になっていた。

 ステラの境遇を考えれば、カフェ程度であれば多少の目も誤魔化す事は可能だが、本格的な食事ともなれば話は別。

 何処にどんな目があるのか分からない。そんな事情を反映した様な店だった。周囲にも喧噪はあるが、この路地だけはまるで異空間に切り離された様にも感じる。路地裏までは行かないが、店そのものが知る人ぞ知る店だった

 

 

「出来ればその言葉が無ければもっと良かったかも」

 

「実はとは言いたかったんだけどね。ステラに嘘を吐くのも心苦しいからね」

 

 まるで一見の客は入店禁止だと言わんばかりの重厚な扉がその存在を主張している。

 バーの様な雰囲気をしているが、実際には完全個室型のリストランテ。お忍びで使うケースもあるからなのか、店内もまた完全に誰が入店しているのかが分かりにくい構造だった。

 テーブルに置かれた蝋燭の焔が二人を歓迎するかの様にゆっくりと揺らぐ。防音もされているからなのか、誰の目も気にする事なく二人の時間を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

「そう言えば、今回のシズクの対戦が東堂刀華だったけど、そんなに強いの?」

 

「そうだね。少なくとも昨年の七星剣武祭のベストフォーは伊達じゃないよ。実際に手合わせはした事が無かったけど、この前のアルバイトの際に少しだけ話をしたんだ。詳しい事はともかく、戦闘時の隙は殆ど無いだろうね」

 

 食後のコーヒーを飲みながらステラは不意に珠雫の事が気になっていた。

 実際に二言三言は話したものの、実際にどれ程の実力があるのかをステラは理解していなかった。

 

 この予選会に於いて本来であれば事前に分かる対戦相手の内容を調べるだけの時間は用意されている。対戦相手の過去の情報を解析する事によって、得意な攻撃やそのパターンに対する策を構築するだけの時間を意図的に学園側は与えていた。

 勝率を上げ、対戦相手の内容を確認すれば当然ながらその戦略も必要となってくる。今回の予選会は純粋に一番力がある人間だけが生き残れる内容になっていた。

 

 既に後半に突入した時点で概要の推測は完了している。実戦を重んじるが故にステラはこれまでに対戦相手の事を一度も調べる事無く来ていた。

 勿論、自分の能力を過信している訳では無い。

 この国に来た時点で自身の力を高めよう研鑽を積んできていた。だからこそ珠雫の表情が気になっている。対戦相手が誰なのかを理解しているからこそステラだけでなく一輝もまた何も出来ないままだった。

 

 

「ねぇイッキ。この予選会なんだけど、後半は前半とは違う構成をしているって気が付いてた?」

 

「その件なら、大よそながらだけどね。星取が読みにくくなってるけど、これまで無敗だった人間が軒並み厳しい戦いを強いられてるから」

 

 一輝の言葉にステラは自分の考えが確信めいた物へと変わっていた。

 事実、後半戦に突入してからの対戦は、上位陣になればなるほど厳しい戦いへと変わっていると感じているのは現時点では少数だった。

 無敗の人間同士の潰し合いを、すればするほど無敗の人数は減少している。実際に気が付いた所で自分達に出来る事は負けない様にする事だけ。それを理解しているからこそ珠雫の表情が強張るのは当然の事だった。

 作為的な物があれど、実際に負けた時点で言い訳にしか取られない。これが何を意味するのかが分からないからこそ、ステラは自分だけでなく一輝にも確認の意味で聞いただけだった。

 

 

「本音として聞きたいんだけど、シズクとトウカが戦ったらどっちが勝つと思う?」

 

「間違い無く東堂先輩だろうね。今の珠雫だと経験が足りない。でも、負ける前提で珠雫が考えるとは思わないから、実際にはこの目で見ないと分からないだろうね。珠雫も過去の対策は見てるだろうし、その辺りの対処によると思う」

 

「明言はしないのね」

 

「確かに身贔屓したいけど、こればっかりはね……」

 

 ステラの問いに答える一輝の表情は曇ったままだった。

 実際にどちらが勝つのかは蓋を開けてみない事には分からない。まさにその言葉以外に何も言えなかった。

 珠雫の魔力の容量とその操作能力は一輝が知る中でも一年ではなく破軍全体で見ても上位に入るのは間違い無いと考えている。実際に東堂刀華その人を見て居なければ、間違い無く珠雫が勝つと一輝も考えていた。

 実際に昨年の状況を考えれば近接攻撃をせず、遠距離からの攻撃をすれば可能性は高い。少なくともそう考えていた。

 

 しかし、現実を見た際に感じたそれは一輝の予想を大幅に上回る結果となっていた。

 少なくともアルバイトで見た刀華はある意味では警備の面では完璧だった。

 音と存在を極限まで少なくすることによって、本来のホストを際立たせ、自分の存在を押し殺す。純粋に影が薄いのではなく、意図的にそれを行っている点だった。

 刀華程の実力者になれば過去の映像の入手は容易い。当然一輝もその映像を目にしていた。

 

 過去はどこまで行っても過去でしかない。本人の成長率がどれ程なのかが読めない以上、ステラの質問に迂闊に答える事が出来ないでいた。

 そんな取り止めの無い会話をしながら裏路地に近い場所を歩く。その瞬間、一輝だけでなくステラもまた先程とは打って変わって急激に緊張を高めていた。

 

 

 

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