英雄の裏に生きる者達   作:無為の極

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第3話 内乱の終結

 徹底的にゲリラ戦を強いられた伐刀者の部隊は既に疲労困憊のまま移動を続けていた。

 あの襲撃から既に時間は三日が経過している。本来であれば伐刀者の能力を考えれば、こんな戦争は直ぐにでも終結するとさえ当初は考えた結末だった。

 だが、現在はそんな甘い考えを持つ者は誰一人存在しかった。伐刀者は戦闘のプロだが、戦争のプロではない。あの襲撃からはまるで今までが子供騙しだと言わんばかりに苛烈な戦いを強いられていた。

 

 ベースキャンプは直ぐに破壊されると同時に真っ先に食糧と水が狙われていた。食べなくても人間はそれなりに生きる事は出来るが、水は飲まねば三日で死ぬ。こんな暑いジャングルではそれが顕著だった。

 僅かに湧いた水辺も、どんな物が潜んでいるのか判断する事は出来ず、仮に飲んだ所でどうなるのかが判断出来なかった。

 本来であればキャンプ地には水を濾過する機材が積まれていたが、それもまた直ぐに破壊されていた。

 一撃の下で沈む仲間と表情すら判断出来ない仮面の人間。既に隔絶した技量は反撃を考える前に即時撤退を余儀なくされていた。

 しかし、逃亡すら読まれていたからなのか、二十四時間心が休まる暇もなく戦闘は続いていた。

 

 睡眠を欲求される様な時間帯を狙いすましたかの様に襲い掛かるアサルトライフルの銃声だけでなく、時折大火力を齎すグレネード弾。如何に伐刀者と言えど回避せざるをえない状況が常に続く。少し前までの戦闘が明らかにブラフである事をこの場に居る誰もが理解していた。

 休息を取れない状況は伐刀者のパフォーマンスを奪い去る。不眠不休で常に警戒したままの移動は既に限界に近づきつつあったのか、一部の人間は既に自身の固有霊装を展開する事すら困難となっていた。

 

 

「誰か水持ってないか?」

 

「んなもんある訳ないだろ!」

 

「嘘だ!隠してるんだろ!さっさと出せよ!」

 

 最初の襲撃で拳を破壊された東堂刀華は今、目の前に起こる惨状に目をやる事はなかった。

 事実、あの瞬間までは確実に自分達が勝っている戦い。幾ら戦勝ムードが蔓延していたからと言って、ああまで覆るとは思ってもいなかった。

 二十人居たはずのメンバーは既に半数以下。自分も含めればまともに戦えるのは片手にも足りない数だった。固有霊装を持つが故に戦闘に関しては恐らく問題ないが、それ以外の物を誰一人持つ者は居なかった。

 襲撃された時点で水と食料は既に失っている。各々が携帯している物が全て。その影響なのか、既に部隊内の空気は最悪とも取れる程だった。

 

 それだけではない。道なき道を彷徨いながら行方不明になった自分の友人の事を考えれば、それもまた絶望しか浮かばない。

 女の身で戦場に出た以上、囚われた後に待っているのは考えるまでも無かった。女として終わった末に始末される。そんな未来しか少女には浮かばなかった。

 拳は無理に動かせば戦う事は可能だが、あの時と同じ様には出来ない。今ここに居る人間の殆どは気が付いていないが、至近距離で眼前の男の脳漿が撒き散らされた事を考えると絶望の二文字だけが明確に浮かび上がる。誰もが口にしないが、今回の戦闘は完全に自分達の敗北だった。痛みが現実に引き戻したのか、改めて自身の右手を見る。利き手の骨が破壊された為に、仮に抜刀した所で逆に始末される未来しか浮かばなかった。

 

 

「おい、女。お前こそ隠し持ってないのか?」

 

「私も持っていません」

 

「本当か?ただでさえ役立たずなんだ。それ位は貢献しろよ女のくせに……ったく『風魔』の連中が出てくるなんて聞いてないぜ」

 

 刀華を見る目は既に仲間ではなく、単なる奴隷かそれに近い眼差しだった。

 事実、このメンバーの中で唯一まともに戦闘が出来る人物。それが分かっているからなのか、誰もがその横暴に異を唱え様とはしなかった。

 この場に生き残った伐刀者の中には自分以外にも女性は要る。しかし、そんな事すら意に介さないとばかりに悪態をつきながら睨みつけていた。

 

 

「すみません」

 

「ちっ!どいつもこいつも使えねぇな!このクソ共が!」

 

 項垂れながらも刀華は戦った相手の事を思い出していた。

 自身もこれまでに何度も派兵され、その都度人を斬ってきた。もちろん、戦場に絶対は無い。慢心が無かったと言われれば言葉に詰まるが、それでも渾身の一撃を完全に迎撃された事実は少なからず動揺を誘っていた。

 一対一での戦い。そこにイレギュラーは何一つ介在しない結果は、今の悲惨な状況から意識を飛ばすだけのインパクトを持っていた。

 少なくとも小太郎と対峙し生きている事自体が望外の幸運でしかない。恐らくは今のメンバーで小太郎と対峙して生き残っているのは自分だけ。少なくとも刀華が見た中では誰も居ない事は間違い無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした?お前がそんなのと相手するとは珍しいな」

 

「小太郎か。で、作戦はもう決定なのか?」

 

「ああ。このままやつらの誘導は続いている。あの調子なら本部に着くのは明日の昼過ぎだろう」

 

「そうか。漸くこの国とは終わるのか」

 

「後はやつらの都合だ。我々には関係無い。それ以上でもそれ以下でも無い」

 

 カナタと仮面の男が居た部屋に小太郎と呼ばれた人物が入ってきた。

 あの瞬間見た力はこれまでに見た記憶が無い程の物。詳しい事は分からないが、一撃で胸を貫かれていた人物もそれなりに力があったはず。

 にも拘わらず、まるで当然だと言わんばかりの光景は今もまだ目に焼き付いていた。

 

 

「あの……内乱が終わるって、どう言う事ですか?」

 

「青龍。まさか、しゃべったのか?」

 

「いや。作戦までは何も言ってない」

 

 何気なく話した内容が問題だったからなのか、小太郎は青龍に向けて厳しい態度を取っていた。

 冷静になって見れば、お互いの面には何か模様が掛かれている。今まで自分と居た男は黒い仮面に蒼で龍らしき絵が小さく書かれている。それに対し、小太郎と呼ばれた人物の仮面は無地の漆黒だった。目の部分だけが見えるその眼差しには隠すつもりが無い程に意志が宿っている。

 目に見えない何かに圧された感覚がカナタを襲っていた。

 

 

「まぁ良いだろう。お嬢さん、折角だ。今後の結末だけを教えてやろう。今回の結末は反政府軍のクーデターによる勝利で幕引きされる。その際に今まで追いやってきた伐刀者の部隊も、もれなく始末する事になるだろう。ここで禍根を残せば再び内乱が起こるからな。既に時間の問題だ」

 

 小太郎と呼ばれた人物から出た言葉にカナタは言葉を失っていた。

 先程の青龍の言葉とは違い、語句の一つ一つが事実である事を告げている様に感じている。

 結末が決まった戦いの終わりはどの時代も同じ。なまじ力が突出した人間を大人しくさせておく程、この戦いは穏やかな物では無かった。既に内乱によって国そのものが疲弊し、国民は現政権に憤りを感じたまま。そんな状況下で劇的な勝利を収め、どんな結果が出るのかは誰の目にも明らかだった。

 

 

「そんな事……」

 

「下手に戦力を残すのは未来への禍根でしかない。事実、依頼主はそれすらも考慮している」

 

 内乱で疲弊した中で新たな火種はその国の終わりでしかない。今回の反政府軍の最終目的は投入された伐刀者の殲滅も視野に入れていた。

 あれからそれなりに時間が経過している。既に伐刀者の能力を振るう事すら困難な状況の先に待っているのは単なる蹂躙だった。

 戦争に命の大小は関係無い。それを理解しているはずだった。

 

 

「依頼って事は貴方達は傭兵なんですか?」

 

「そうだ。依頼と金があれば内容次第だがな」

 

 この時カナタは一時期、僅かに話題に出ていた会話を思い出していた。

 先程の青龍と呼ばれた男が発した小太郎の名前。非道とも取れる手段を駆使し、依頼を遂行する何かがあった事を思い出していた。

 

 

「依頼なら、私がします」

 

「お嬢さん。依頼料は高くつくが、払えるのか?言っておくが、我々は端金では動かんぞ」

 

 小太郎の言葉にカナタは思わず息を飲んでいた、自分の記憶が正しければ、この仮面の男達の正体は風魔。まさか戯言だと思っていた会話が事実だとここで初めて理解していた。

 自身の身体を蝕むかの様に纏わりつく空気が重く感じる。一言依頼を口にするだけににも拘わらず、言葉を発する為に思わず深呼吸をしていた。

 

 

「依頼料は必ず払います。ですが、その前に確認したい事があります」

 

「何だ?言ってみろ」

 

「貴方方の立てた計画に破綻の可能性はありますか?」

 

 言葉を出した瞬間、カナタは自身の命の危機を感じていた。

 噂通りであれば計画が破綻する事はあり得ない。だとすれば今言った事は完全に喧嘩を売っているのと同じだった。

 こんな状況では自分の命は瞬きした瞬間に終わる。言葉を放った瞬間、カナタは自分の心臓が止まったかと思える程だった。

 

 

「ある訳が無い……良いだろう。その気骨に免じて今回の最終だけ教えてやろう」

 

「小太郎!」

 

「慌てるな」

 

 小太郎の言葉に青龍は思わず声を荒らげていた。

 綿密な計画を教えるのは本来であればルール違反。仮に計画が漏れ、阻止されれば自分達の看板にまで泥を塗る事になる。

 当然、当主でもある小太郎とて知らない訳では無い。にも拘わらず教えるとなれば誰もが驚くのは当然だった。

 

 

「本部は既にゲリラ達が完全に包囲している。そこに今回疲弊した伐刀者の部隊が合流した時点で内乱は終わりだ」

 

「生存者は?」

 

「ある訳無かろう。仮にあっても始末するだけだ」

 

 小太郎の短い言葉にカナタは改めて息を整えていた。既に先程までとは違って自分の意識を保っている。

 そんなカナタを見たからなのか、小太郎は改めてカナタの目を見ていた。

 

 

「全滅が必至なら、私の友人を助けて下さい」

 

「ほう……救出なのか。高額任務だな。既に我々の計画が確定している。払いは良いのか?これが終わると同時に回収しに行くぞ」

 

 仮面越しに眼が細くなったのをカナタは見ていた。そこにあるのは事実確認をしようと覗き込む視線。

 値踏みされていると分かったからなのか、カナタは続けざまに言葉を放っていた。

 

 

「私も貴徳原の一族に名を連ねる者です。嘘偽りは申しません」

 

 本来であれば貴徳原の名を出すのは愚策だった。既に身を拘束された今、身代金を要求される可能性すらある。

 幾ら誰かの依頼によって今の状態があるとは言え、それに確証は無い。勿論、そんな事を理解した上でカナタは宣言するかの様に声にしていた。

 

 

「……良かろう。ならば交渉成立だ。それと今回の依頼料は身の安全までとなればこれだけ頂く」

 

 そう言いながら小太郎は握られた手の人差し指と中指を立てていた。その意味を知っているからなのか、青龍は思わず口笛を吹く。果たして本当に理解しているのだろうか?そんな思惑があったからなのか、青龍は敢えて独り言を口にしていた。

 

 

「雑魚一人に二億か……悪く無いな。流石は貴徳原。太っ腹だな」

 

 青龍の言葉を聞いてもなおカナタの表情が変わる事はなかった。

 既に負けが決定した以上、やれる事は命の保持。自分がここに囚われた理由を何となく感じたからなのか、先程とは変わって強い意志がそこに現れていた。

 

 

「お嬢さん、契約成立だ」

 

「追加任務か。最後の最後に楽しませてくれるぜ。で、誰なんだ?」

 

「名前は東堂刀華。私と同じ女性の伐刀者です」

 

 カナタはそう言いながら刀華の面相を説明していた。戦闘方法までは言わなくても、固有霊装は今回のメンバーで重なる事は無かったからなのか、説明は簡単だった。

 

 

「ああ。あの小娘か」

 

「知ってるのか?」

 

「小娘の割に良い目をしていたな。だが、肝心の攻撃はまだまだだ。あんな程度で戦場に出るのはまだ早い。どうやら魔導騎士連盟に人材は居ない様だ」

 

 小太郎の言葉にカナタはやはりと思っていた。『雷切』の二つ名は伊達ではない。これまでに必殺の攻撃で数多の人間を斬捨ててきた抜刀絶技。

 しかし、小太郎からすれば児戯にも等しいと宣言された言葉に、違う意味で期待していた。

 

 

「ターゲットは俺が認識している。青龍…行くぞ。それと白虎。後は任せた」

 

「了解だ」

 

「御意」

 

 二人の姿が消えると同時に、今度は違う人間がここに現れていた。先程の様な圧力は無いが、それでもかなりの力量があるからなのか、今度は黒地に白で虎の絵が描かれた仮面の男がこの部屋に留まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ本部に近いはずだ」

 

 伐刀者の部隊はゆっくりと時間をかけながら本部のある場所へと移動を開始していた。

 これまでに何度襲われたのか数える事すら出来ないままに移動したからなのか、ポツリと出た言葉に対し、誰もが口を閉ざしたままだった。

 ここに来るまでに、常に気を張りながら移動するのは尋常ではなかった。疲弊する肉体と同時に、精神までもがガリガリと削られている。元々固定した装備を持っていない事が今回の事実上の逃走を決定していた。

 

 伐刀者の命とも取れる固有霊装は己が万全の状態から程遠くなればなるほど展開する時間だけでなく、その威力もまた影響を及ぼしていた。

 命の源でもある水と食料は根こそぎゲリラに奪われると同時に、熱帯雨林のジャングルではそれ以外からも身を護る必要があった。

 森林に潜む動物や疫病を運ぶ虫など、これまでであれば考えた事も無い環境。これまでに何度も戦場を経験した伐刀者から順番に消された事も影響したからなのか、既にコンディションも最悪だった。

 ゆっくりと警戒しながら部隊は少しつづ歩を進める。気が付けば、これまでの追い立てるかの様に飛び出す銃弾が部隊に向けられる事は無くなっていた。

 

 

「ああ。俺達は助かった…のか……」

 

「ここで一息付けば、反撃に移れる。そうなればゲリラどもは殲滅だ。何一つ残さない…」

 

「畜生。このままだと思うなよ」

 

 これまでにやられた事をやり返す事だけを一念にしたからなのか、既に部隊とは言えない人数にまで落ち込んでいた。

 負傷者を含めてまともに動けるのは六名のみ。そんな中で刀華もまたゆっくりと歩を進めながら他の人間とは違う事を考えていた。

 

 行方不明になった友人の事も去る事ながら、今回のこれはあまりにも周到に練られた策の様に思えていた。

 人間が常時活動出来る時間はそう長く無い。ましてや多大な集中を必要とする伐刀者であれば、固有霊装が無ければ丸腰同然。そんな今が最大の好機でしかない。

 まるで何かを誘導するかの様に薄々感じていた。確かにこのまま行けば本部のある場所に到達する。

 果たしてこれ程までに苛烈な攻撃を仕掛けてきたゲリラがそう易々と見逃すのだろうか。半ばボンヤリとしながらもそれだけが気がかりだった。

 ノロノロと進む足取りに誰も気が付かないからなのか、刀華は少しだけ部隊から距離が離れていた。

 

 

 

 

「お前、東堂刀華だな?」

 

 僅かに聞こえたからなのか刀華は思わず顔を上げ、周囲を見渡していた。疲労による幻聴なのか、それとも先程まで考えていた結果なのか。聞かれた質問の答えとばかりに行動がそれを表していた。

 

 

「誰!」

 

「貴様の身柄はここで預からせてもらう」

 

 それ以上の返事をする暇は無かった。気が付けば腹にこれまでに無い程の衝撃を受け、意識が朦朧とし始めていた。

 通常であれば意識を失う事は無いが、完全に疲弊した今、それに抗う程の体力は存在しない。瞬時に消えた視界によって神隠しに合ったかの様に部隊からその姿を消し去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ……は?」

 

 刀華が意識を取り戻したのはそれからそれなりに時間が経過していた。

 密林の中を彷徨ったからなのか、時間の概念は既に無い。見知らぬ景色に混乱しながらもゆっくりと思い出そうとしていた。

 あの場所で襲撃を受けてからの記憶が何処にも無い。既に後ろ手に縛られているからなのか、漸く自分が捉えられた事に気が付いていた。

 固有霊装を出したとしても動く事が出来ない以上、脱出は不可能。この部屋には誰も居ないからなのか、薄汚れた床の上に横たわった自分の身体を起こす事だけで精一杯だった。

 

 

「目が覚めたか?」

 

 漆黒の仮面を付けた男が音も無く入って来ていた。

 これだけの至近距離にも拘わらず気配を感じる事が出来ない。刀華自身これまで色々な人間と対峙した事があったが、こうまで気が付かないままに接近を許した事は一度もなかった。

 気配を感じさせず接近出来るのであれば、それは自分の師匠でもある南郷虎次郎レベル。自分が真っ先に戦った人間が自分より格上レベルである事を理解していた。

 

 

「貴方は?」

 

「風魔小太郎。依頼によってお前の命を我々が保護しただけだ」

 

「依頼?」

 

「ああ」

 

 小太郎の言葉に刀華はそれ以上の質問が出来なくなっていた。戦場に赴く際に僅かに利いた風魔の名前がどれ程の物なのかを知っている。最凶で最狂。確実に依頼をこなす傭兵の名は裏の世界ではビッグネームだった。

 その男が動いたのであれば、依頼人の名を明かす事は無いはず。それ以上に、濃密な殺気の様な物を身に纏っていると判断したからなのか、それ以上の言葉が口から出る事は無かった。

 

 

「今回、お前の命の嘆願依頼が我々にあった。だからそれを実行しただけに過ぎん」

 

「嘆願依頼……」

 

「友人に感謝するんだな」

 

友人の言葉に刀華は誰が依頼したのかを直ぐに理解していた。今回派兵された中で顔見知りの人間が居ない訳では無い。しかし、友人となれば話は大きく変わっていた。この場に居ないはずの人物。貴徳原カナタの顔が不意に浮かんでいた。

 

 

「カナちゃ……カナタは生きてるの?」

 

「それに答える義理は無い」

 

 刀華の言葉を一刀両断の如く斬捨てる。

 刀華は気が付いていないが、今回の依頼は極めてイレギュラーの中で発生した依頼に過ぎなかった。

 本来であれば相反する依頼を受けるなどと言った暴挙とも取れる内容は信用問題に大きな影響を及ぼす可能性があった。しかし、この内乱の依頼内容ははくまでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 厳密に言えば伐刀者の抹殺の依頼では無いだけだった。仮に抹殺依頼であれば貴徳原からの依頼すら受ける事はしない。そんな裏事情を知らないからこそ刀華は疑問を口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員本部の建物の中だ。準備は良いか?」

 

《こちら白虎。既に準備は完了している。何時でも問題無い》

 

《こちら青龍。周囲の気配は無い。完全に警戒していないとは言い難いが、それでも哨戒は見えない》

 

 小太郎は双方からの通信を聞きながら、今回の依頼の仕上げへと移行していた。

 既にターゲットだけでなく、追加の依頼も完遂している。人知れず建物の周囲に囲んだC4は既に起爆の準備を終えている様だった。

 

 

「こちらの準備は完了した。用意の程は大丈夫か?」

 

《ああ。大丈夫だ》

 

 既に別で待機していたゲリラ部隊も、いつでも行動に移す準備が出来ているからなのか、言葉短めな返事だけだった。

 周囲に哨戒の姿は無く、このまま一気に破壊しても問題になる事は無いはず。そんな状況を察していたからなのか、小太郎はそれ以上の事を言うつもりは無いままだった。

 命がけで逃走しながら建物の中へと全員が入っていた。恐らくは命が助かった事によって完全に警戒心は薄くなっている事は容易に想像出来ていた。

 そんな千載一遇の好機を見逃すつもりが無いのは風魔だけでなく、ゲリラもまた同じだった。今だ建物から何かが出る気配は無かった。

 

 

《着火》

 

 ゲリラのリーダーの短い言葉と同時に、建物の隙間と言う隙間に詰め込んだC4は一気に派手な音を立て、周囲の建築物を破壊していた。

 計算された設置だからなのか、崩落した壁面は頭上から内側に向かって大きく崩れる。

 先程までは完全に壁と盾の役割を果たしたものの、これ程まで多量に破壊されたそれは内部の人間を圧殺する為の重しでしかない。それだけに留まらず、設置された指向性の爆弾は壁面の一部を銃弾代わりに内部へと激しく飛び散っていた。

 

 頭上だけでなく側面からの攻撃に回避するだけの空間は存在しない。阿鼻叫喚とも取れる空間は完全な死地へと変化させていた。圧倒的質量は人間の肉体をただの肉塊へと変えていく。そこに生命が生きる気配は無くなっていた。

 瞬時に響く爆発音は周囲一帯に轟くと同時に、それがどんな意味を持つのかを知らしめる様にも聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《周囲に敵の反応は無い。念の為に暫く様子を見る》

 

「そうか。では周囲を確認後ここに来る様にしてくれ。それと帰還後、直ちに撤収する」

 

《了解》

 

 通信機から聞こえる声だけが何も無い部屋に響き渡っていた。

 破壊した瞬間に聞こえた轟音は既に確認するまでもなかった。

 本部を破壊した時点で政府軍の戦力は事実上の壊滅。それと同時に派遣された魔導騎士の壊滅もまた決定されていた。

 幾ら超人的な力を持つ魔導騎士であっても、圧倒的な質量体の前には何も出来ない。万全であればまだ回避出来た可能性もあったが、本部の建物に入った事によって完全に集中力も切れている。

 

 既に別件で依頼された件は達成したのであれば、後はこの地に長く留まる必要はどこも無かった。その後どうするのかは考えるまでも無い。既に現時点で依頼は達成されている。ここから先の事に関しては小太郎も感知するつもりはどこにも無かった。

 これまで実行した出来事は当初の計画でしかない。だからなのか、瓦礫から生き残りが居ないのを確認した事によって、漸く長きに渡って繰り返された内乱はここで幕を下ろすと同時に新たなステージへ進む事になっていた。

 

 

 

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