驚愕の試合内容に誰もが言い表せない感情を持っていた。
これまでのステラの戦いからすれば、龍玄が成したのは
ステラの能力を完全に殺しきった攻撃は、偏にこれまで培ってきた鍛錬による物。これまでの常識だと思われた魔力の多寡によるランク付けが全て無意味だと言わんばかりだった。
そんな沈黙の中、会場内に一つだけ響く拍手。その音の主は時宗だった。
「中々良い戦いを見せて貰ったよ。確か、風間君とか言ったね。ランクが低い事など無意味だと言わんばかりの戦いは賞賛される物だよ」
時宗の声に龍玄は内心舌打ちしたい気持ちが勝っていた。
敢えて他人行儀に言うのは、ここが学園内部であると同時に、他の人間からもその関係性を知られたくない事があったからだった。
学内で大よそながらに事実を知っているのはカナタだけ。それも完全に理解している訳では無かった。
気が付けば隣には朱美もまた居る。表情にこそ出さないが、その目に浮かぶ感情が何なのかは敢えて考えない事にしていた。
龍玄としてはこの場から早く立ち去りたい。ただそれだけを考えていた。
時宗の拍手によって凍り付いた様な会場の空気が徐々に弛緩する。ここで漸く従来と同じ様な空気が漂い出していた。
理事長室の中はこれまでに無い程、重い空気が漂っていた。今回の目玉とも取れる予選会はある意味では満足できる内容ではあったが、一方では想定外の結果が出た事に黒乃は頭を痛めていた。
これまでの戦績からはじき出された結果に問題はない。しかし、その過程が色々と問題だった。
まだ予選会は完全に終わっていないが、少なくともこれまでの結果を見れば無敗の人間は三人しかいない。当然ながら上位の人間から取れば問題無いが、今回の最終戦で龍玄がステラに圧勝した事で、それが時宗の目に留まってしまった事だった。
「ヴァーミリオン皇女殿下がA級だという触れ込みだったけど、対戦相手の風間龍玄君だったかな、彼もまた学生とは言えない技量だったね。僕もこれまでに何人もの魔導騎士やKOKの選手を見たけど、ああまで隔絶した戦闘技能は初めて見たよ」
「そうでしたか。官房長官の目にもそう映りましたか」
「ええ。ランクの低さではなく、技量によって相手に勝った事を考えると、一概にランクだけに拘るのはどうかと思ったくらいだね」
「そうですね。実際に我が校には他にも黒鉄一輝も居ます。彼もまたF級ではありますが、これまでに未だ土が付いた事はありませんので」
「成程。という事は、貴君の考えた予選会はある意味でははこれまでの基準に囚われない発掘が出来たと言う事になるね。実に興味深いよ」
屈託のない時宗の言葉に、黒乃の内心は穏やかではなかった。
友人でもある寧音の言葉が正しければ、龍玄の正体は風魔。詳しい事は分からなくとも、それを基準に考えられてはある意味では困る事の方が多かった。
これが秘匿した状態であればまだ良かった。しかし、内閣の事実上のトップが視察したいと言われた時点で黒乃に拒否権は無かった。下手に言葉を濁せば何かと問題も生じる。
態度が変わらない時宗とは裏腹に、黒乃は今後の対応に苦慮していた。
「理事長。少し宜しいでしょうか?」
そんな会話が不意に途切れたのは、学園の事務方の言葉がキッカケだった。
口にはしないが、内容は大よそに予測出来る。事務員もまた詳細を口にはせず、分かり易いようにしたメモを黒乃に渡していた。
「……そうか。明日の午前中には問題ないんだな?
「はい。今の所、回復に関しては順調です」
「そうか。では、目途がたったらで良い。経過報告を頼む」
「では、その様にさせてもらいます」
事務方が来た事によって時宗との会話が途切れたまでは良かったが、それは一瞬の出来事だった。
用意されたメモに軽く目を通す。そこに書かれていた内容は黒乃の想定の斜め上を行く物だった。
学園の責任者としてだけでなく、この戦いは色々な意味で問題を孕んでいた。
口にはしないが、黒乃だけでなく、寧音もまたステラが勝てるとは最初から思っていなかった。幾らA級と言う才能に溢れた人間であっても、凄惨な戦場を経験した人間と比べるのは最初から無理があった。
完全に確定した訳では無いが、少なくとも実戦経験が無い人間と、その対局にある人間を同列で考える程、黒乃は節穴ではない。
只でさえ官房長官がここに来ているだけに留まらず、新たな火種を作るのは得策では無かった。
一度の敗北で全てを悟る程にステラはこの国の詳細に造形がある訳では無い。
本来であれば要件さえ終わればこのまま終わるはず。誰もがそう考えていた。
「これ以上お邪魔しても時間の無駄みたいだし、我々はこれで退散させてもらうよ。今回の件は中々見どころがあって良かったよ。この調子だと次回も楽しめそうだね」
「お気遣いも出来ず申し訳ありません」
「では、また機会があれば」
黒乃が頭を下げた事により、時宗もまたソファーから腰を上げていた。一輝を送ってきたのはどう考えても口実に過ぎない。そんな取り止めの無い事を考えながら黒乃は見送っていた。
「しかし、これ程違うとはな………」
紫煙を燻らせながら黒乃は独り言の様に呟いていた。
事務員が持ってきたのはステラの容体に関する内容だった。
軽く目を通しただけでもかなりの部位に損傷が出ているだけでなく、上腕部と下半身の骨は見事に骨折していた。
上腕右側の橈骨と左側の尺骨が亀裂骨折。肋骨も左右共に第七、八に亀裂骨折。
下半身もまた同様に、脛骨の下の部分に亀裂が走っていた。
臓器に関しては臓器不全手前までになっている。IPS再生槽が無ければステラの命は完全に消えている程のダメージだった。
従来の様に刀剣類による切傷であれば血が出る事で、怪我の度合いが正しく図れるが、打撃によるダメージは目に見えない事が殆どだった。
当然ながらステラは身体強化を使用している為に、ダメージがそれ程残っていない様にも見える。しかし、龍玄が使用した攻撃の殆どが発勁や寸勁の類だった為に、全てのダメージは隠蔽されていた。データだけ見れば完全に殺しにかかっている様にも見える。
当人の意識が無いのであれば確認のしようが無い。意識が無い為に直ぐに運ばれたのが功を奏した結果となっていた。
「いや~まさかあれ程違うなんて、驚きだよ」
「寧音。なぜお前がここに居る?」
「いや、あの戦いを見てたら喉が渇いてね。折角なら美味しいお茶でもごちになろうかと思ったんよ。あっ、このお茶菓子中々だね。流石は内閣の人間に出すだけの事はある」
鬱屈とした考えを払ったのは寧音の言葉だった。先程までは気配すら無かったはず。そんな感情が払われたのは今の寧音の姿を見たからだった。
素でやっているのか、それとも気を使っているのかは分からない。言葉通りお茶菓子を頬張る姿を見たからなのか、先程までの感情が黒乃から消えたのも事実だった。
「で、何が目的なんだ?」
「いや。特に無いね」
あっけらかんと言い放った寧音の言葉に黒乃のこめかみには青筋が僅かに浮き上がっていた。
只でさえ、内閣の人間と話をしたばかりの状態で寧音の相手は何かと疲れる。しかも時宗は何も触れる事はなかったが、あの言い方では龍玄が七星剣武祭に出場するのは当然の様な言い方をしていた。
学内の事に対し、態々国が介入する事は無い。黒乃もまた当然の様にそう考えていた。
だからと言って、下手な事を言う訳にも行かない。幾ら黒乃自身が学園に請われた事によって理事長に就任したとしても、相手が国である以上は、当然他の理事にも影響が出る。
理事長はあくまでも指針を出すのであって、学園の運営全体を任されている訳では無い。見えない重圧を吹き飛ばす為には、相応のロジックが必要だった。
「だったらさっさと出ていけと言いたい所なんだがな」
「何かあった?」
「まぁ、色々とな」
今更寧音に何を言った所でどうしようもないのもまた事実だった。
実際に旧陣営の教員は軒並み解雇している為に、今は人材が圧倒的に足りない。通常の教員としてであれば過不足は無いが、問題なのは実習に対する人員の問題だった。
予選会は午後から集中的にするのは、偏に人員不足をカバーする為の物。これが終われば当然ながら教員は通常の業務に戻る。
しかし、ただでさえ不足している人材を補うにも相応の実力が必要だった。
本来ならば現役の選手を呼ぶ事も不可能ではない。しかし、通常の試合と同等の報酬を払えるはずも無く、この構想は直ぐに却下となっていた。
寧音が臨時とは言え、破軍に来ているのは偏に黒乃自身の人脈の賜物だった。
そんな状況下で内閣の人間の言葉が黒乃にのしかかる。何をどう考えたとしても、詰んでいる様な状況に黒乃はこれまでに無い程の溜息が漏れていた。
「そんなんだと、幸せが逃げて行くって」
「私には幸せはあったんだろうか」
「ねぇ、くーちゃん。今考えた所で、どうしようも無いんじゃない?」
「どう言う意味だ?」
「言葉の通りさ」
そう言いながら既に寧音の口にあったお茶菓子は完全に胃の中へと納められていた。
既にお茶をすすりながら改めて黒乃の顔を見る。まるで悪戯でもするかの様な笑顔に、黒乃は内心構えていた。
「だが、そんな程度でも良いのか?」
「当然。それが最初に決めたルールなんだし」
「……確かにそう言われればそうかもしれんな」
「流石はくーちゃん。女の中の女だね。国家権力に逆らうなんて中々出来ないさね」
「巫山戯るな!」
寧音が黒乃に言ったのは一言だけだった。
元々今回の件は特例の様だが、実際には完全なるルールが存在している。龍玄がどうではない。純粋に勝ち残った人間に対する当然の措置だった。
運も実力のうち。そう考えたからなのか、黒乃は先程は違った意味で生き返る様だった。
「刀華さん。少し入れ込み過ぎではありませんか?」
「だけど、あの戦いを見てたらそうも言ってられない」
誰も居ないと思われた訓練場では刀華が一人『鳴神』を手に黙々と素振りをしていた。
厳密には素振りではなく、仮想敵をイメージしたトレーニング。何となくここに来たカナタの目には刀華が誰と戦っているのかが直ぐに分かっていた。
幾度となく放たれた斬撃は色々な意味で空を切っている。
見切りによる回避は刀剣を主体とした人間からすれば、悪夢に等しかった。まるで児戯だと言わんばかりに延々と回避されれば、どんな人間であっても心が折れる。それはあの試合を見ていた全ての人間に共通する事実だった。
一体どれ程の経験を積めばあの域に行けるのだろうか。刀華はそんな取り止めの無い事を考えた瞬間、あの当時の会話を思い出していた。
「……そうか。そう言う意味だったんだ………」
「刀華……さん?」
突如として止まった行動にカナタは疑問を持ちながらも刀華の様子を見ていた。
呟きながらも何かを確認するかの様に集中する。一振り、二振りしたかと思った矢先に刀華はその動きを止めていた。
「カナちゃんも恐らくは知ってると思うけど、私は以前に風間君にお願いした事があったの………」
刀華の独白とも取れる言葉にカナタはただ聞くよりなかった。
カナタとて十全に知っている事はそう多く無い。しかし、刀華からすればカナタは風魔に近い事を理解していると判断したからなのか、その当時の状況を改めて話していた。
風魔の頭領でもある小太郎の技量がどれ程なのかをカナタだけでなく、刀華もまたあの時の特別招集で痛い程に理解している。
伐刀者であれば当然の様に使用する身体強化は、常人の能力を容易く超える事が出来る反面、目先の力の大きさに自力を鍛える事はそれ程した訳では無かった。
勿論、刀華やカナタもそんな事は理解している。魔導騎士のランクが高くなればなる程、その恩恵が大きい事も理解している。
当然の事ながら、能力を強化するにあたっては基礎とも取れる自力が底上げ出来れば、更に大きな能力を得る事が出来るのは上位の人間であれば常識だった。
しかし、あの状況下ではそんな身体強化は使えない。それは自力での戦いを意味していた。
小太郎が使っていたのかは分からない。しかし、攻撃を封じれられたのは紛れも無い事実だった。
あれから鍛錬を繰り返し、龍玄を通じて小太郎に話を持っていった矢先だった。本来であれば自分の属する組織の長に、単独だったとしても挑ませるのはあり得ない事実だった。
しかし、龍玄はまるで気にする素振りを見せる事無くそのまま流した。
当時はその意味が解らなかったが、今なら分かる。
何も知らない状態であれば憤るが、今日の戦いを見れば嫌でもそう思ってしまう。
高い技量に支えられたそれを、今の自分が打ち破る事が出来ないだろうと結論付けたからこその理解だった。
「ですが、それでは何時までも囚われる事になりませんか?」
「ううん。それは違う。私自身は少なくとも囚われたとは思っていない。この学園を去った後の事を考えれば、目標は高い方が良いと思ったの」
どこか決意したかの様な言葉にカナタはそれ以上は何も言えなかった。
お互いの立場はあれど、各々が目指す先が何なのかは大よそながらに見えている。これまでは良い意味での目標が定まっていた為に道を違える事は無かったが、今の刀華は当時の道を本当に辿っているのかは、カナタですら分からなかった。
「ここは………」
「ステラ。大丈夫?」
「イッキ、そうだ、私は………」
IPS再生槽から出たのは既に夜の帳が完全に降りた頃だった。
再生槽によって、傷や内臓の損傷は既に無くなっている。戦っている当時は何も感じなかったが、今考えればあの時は脳内麻薬による麻痺がステラの体調を一時的に隠していた。
これが通常の治療であればステラは未だにベッドから状態を起こす事すら許されないはず。しかし、再生槽の能力はステラの体躯を十全に癒していた。だが、それはあくまでも肉体に対する物。戦闘によって消耗した精神力はそう簡単に癒える事は無かった。
未だ気怠さが全身を襲う。疲労感が抜けきらないと判断したからなのか、ステラは上体を起こしたままぼんやりと外を眺めていた。
そんな時、不意に声をかけたのは既に回復していた一輝だった。周囲には他に誰も居ない。だからなのか、ステラは対戦した後の事を思い出していた。
「まだ疲れは取れていないんだ。無理はダメだよ」
「そうね……ねぇイッキ。私、負けたのよね」
「そうだね」
現実と幻を行ったり来たりしている様な感覚を他所に、ステラは客観的に理解出来る様に敢えて一輝に確認していた。
時間が経つと同時に、戦いの記憶が鮮明に甦る。伐刀者としての実力を全く出す事も碌に出来ず、実際には手の上で踊らされた様な感覚だけが残っていた。
それでも口にしたのは、自分の口が発する言葉を脳が正しく理解させる為の行為。一輝もまたその行為を確認したからなのか、口数が増える事は無かった。
「……私はまだダメなのかな」
ステラの独白とも取れる言葉に一輝が掛ける言葉は何も無かった。
実際に龍玄とステラが戦った場面は、一輝もまた画像ではあったが、目にしていた。
お互いが対峙したまでは良かったが、その後は余りにも一方的過ぎていた。
ステラの放つ斬撃が龍玄の体躯を斬裂く事は無く、全てが完全に見切られた様に見えていた。
本来であれば魔力を霊装に纏わす事によって攻撃の間合いを騙す事も出来たはず。しかし、実際にそれが可能かと言われれば不可能だとしか言えなかった。
至近距離から放たれた攻撃は実に厄介極まりない物。ゆったりとした攻撃の様にも見えたが、それは龍玄の側で見た場合の話。
攻撃を受けているステラの側で見れば、確実に体重が乗った攻撃は明らかに厳しい物だった。
可能性があるとすれば、寸勁や発頸の類なのは間違いない。それは一輝が道場で戦った際に受けたそれが物語っている。寸勁が自在に使える以上は刃は必要ない。自身の拳がそのまま直撃すれば良いだけの話だった。
攻撃の能力が高ければ、ステラも何らかの攻撃を受けていると判断するはず。しかし、それが感じないのであれば、身体強化の力を逆手に取った攻撃なんだと考えていた。
毒の様にじわじわとステラの肉体をダメージを蝕んでいく。恐らくはそれが敗因だと考えていた。
ステラは実際にそれを感じ取っているのだろうか。そんな取り止めの無い考えが一輝を支配していた。
「どうしてそう思うの?」
「だって、どれ程努力してもリュウには追い付けなかった。それどころか子ども扱いされてる様に感じたから………」
これ程までに落ち込んだステラを一輝は見た事が無かった。確かに傍から見ても、あの戦いはステラの完敗でしかない。接近され、投げ飛ばされた時点で全ての決着は完全についていた。
これまでの戦いの中で無手の対戦経験はあったかもしれない。しかし、そんな経験ですら陳腐だと言わんばかりの攻撃は、一輝とて同じ結果になるかもしれなかった。
「多分だけど、ステラと龍の考え方が違うのかもしれない」
「違う?それって……」
縋る様なステラの表情に一輝もまた口にした事が本当に正しいのかを図りかねていた。
過去に一度だけ道場で戦ったからなのか、これはあくまでも自分の主観による考え。それが正しいと言う保証はどこに無かった。
それと同時に、もう一つ思い浮かぶ事がある。本当にそれを口にしても良いのだろうか。一輝は逡巡した後、改めて口を開いていた。
「これは僕の主観なんだけど、戦い方の質の違いだと思う。少なくとも僕自身もまた道場で戦ったからこそ、そうかもしれないと思う程度の話なんだけど」
前置きを置いた一輝は、自分の考えを改めてステラへと伝えていた。スポーツと武術の違いでもあり、また、そこに到達するまでの過程。少なくとも一輝でさえも経験した事が無い内容だった。
それが本当に正しいのかは本人だけが知っている。少なくともこれまでの戦いの中で、龍玄はその考えを持っているのは間違い無かった。
「……でも、それが本当ならばって事よね?」
「うん。本人に聞いた所で何も言わないだろうけどね」
「私達、いえ。私には少なくともそれを口にする資格は無い。負けたのは事実なんだから」
一輝が感じ取ったのは、少なくともこの予選会で龍玄が全力で戦っていない可能性が高いと言う事実だった。
実際に全ての戦いを見た訳では無いが、少なくとも龍玄は固有霊装を顕現させはするが、それ以外の事は何一つやっていないのは間違い無かった。
身体強化をすれば、当然ながら魔力の奔流を感知する事は可能となっている。それは魔力の潜在能力が低い一輝であっても感じる様な物だった。
しかし、これまでの戦いを見た限りでは、龍玄が身体強化を使用しているとは到底思えない。となれば、これまでの戦いは全て自分の純粋な能力だけで戦って来た事になる。
それと同時に、この考えはある意味では的を得ていると考えた部分だった。
身体強化はあくまでも補助的な要因が強い。一輝はその能力を昇華させることによって自身の抜刀絶技でもある『一刀修羅』を作り上げている。時間制限があるのは純粋に一輝の魔力の資質が少ないからだった。
これがC級以上のランクになれば身体強化は事実上、無意識の内に行使している。それが攻撃や防御にも影響している点だった。
画面で見た龍玄はその気配は微塵も無い。一時期、一輝もまた無手の対策としていくつかを齧った事があったが、それのどれもが会得するのは困難な業が多かった。
ステラを空中で弾き飛ばしたのは魔力ではなく、ただの
そんな技量があれば当然ながら魔力を行使する必要性は何処にも無い。だからこそ、一輝は龍玄が意図的に自分の力を制限していると考えついていた。
少なくとも龍玄の性格を考えれば、簡単に話すとは思えない。
それを理解したからこそ、ステラもまた自分には資格が無いと感じ取っていた。
「それと、この予選会の試合数はもう殆ど残されていないんだ。だから、ステラはまだ勝ち残れる可能性がある」
この時一輝とステラは気が付いていないが、理事長室では黒乃が同じ事を考えていた。
純粋な数字だけを見れば無敗から順番にすれば何の問題も無い。しかし、内容となれば話は別だった。
前半は失格が多かった龍玄は、後半は全試合に出場している。そして、それの殆どの試合が秒殺で終わっている点だった。
実力の不均衡から来る結果は誰もが色々な思惑を持ったままに進んでいる。数値だけ見れば、現時点で出場できる人間は少なくとも一敗までは許されている状況だった。
龍玄との戦いがステラの最終戦。当然ながらステラはこれから起こる結果を見守るしかなかった。
自分の手ではどうしようもない事実は、ただ祈る事だけしか出来ない。実力があるステラからすれば、この状況は随分と歯痒い物だった。
「そうね。もう試合が無いなら、私は見守るしか出来ないのよね」
「ステラには歯痒いかもしれないけどね」
「でも、これもまた経験だと思うの。一輝と会う前、ううん。その後もそうだけど、少なくとも私はこの予選会で負けるイメージは持っていなかった。A級がどうとかなじゃい。私自身がこれまで学んだ剣技を持って勝ち続けてきたからだと思う。でも、それだけでは間違いだった」
ゆっくりと自分の記憶を整理するかの様にステラは自分の思いを吐き出していた。
無意識のうちに手の力が入り、シーツに皺が出来る。口では落ち着いているが、内心は怒りに染まっているのが一輝も見て取れていた。
「ねぇ、私はこの国に来たのはサムライリョーマの故郷だったのもあったけど、それよりも自分を高める事が出来るのかを体現したかっただけなの。前にも言ったかもしれないけど、A級だからって、才能があるからだって言われてるのが辛いのよ。だからこそ、自分なりに努力してきた。才能なんて言葉だけで片付けられない程に………でも、リュウはそんな風には感じる事が無かった。これまで私がしてきたのは本当に努力だったのかな」
「それは紛れも無く努力の成果だよ。確実な結果だけを望むから努力したじゃなくて、努力した末にあるのが結果なら、無駄な事をしたとは思えない」
「でも………」
「それと、一つだけ勘違いしてる事があると思う。努力をしたら、必ず報われる訳じゃないんだ」
龍玄との戦いはある意味ではステラの考えを破壊する程の威力を持っていた。
これまでステラが散々言われた『努力は才能の前には適わない』の言葉。母国に居た頃、散々聞かされた内容だった。
ここに来てから初めて才能を持った事に感謝はしたが、実際にはそれ以外の収穫もあった。
しかし、そんなステラが経験して来た事を一輝は何の躊躇も無く言い捨てる。
才能だけでなく、これまで積み重ねてきた努力すら違うと言われた様な戦いはある意味では衝撃的だった。弱気になりたい訳では無い。手も足も出なかった一方的な戦いは自分のアイデンティティすらも奪い去ろうとする程だった。
だからなのか、突然言われた一輝の言葉にステラは顔を見るだけに留まっている。その言葉の真意が何なのかは一輝の話を聞くしか無かった。
「僕はこれまでに色々な道場に忍び込んで、奥伝と言われた物なんかを模倣してきた。でも、その奥伝が本当なのかと言われれば何とも言えない。龍には言われたんだ。剣の理が未だに分からないんだ。ひょっとしたら間違った方向に進んでいるのかもしれない。でも、それだけが本当の意味で正しいとは思わないんだ。短時間で身に付ける事が出来るのは本当の意味での奥伝じゃないんだと思う」
一輝の言葉にステラは改めて自分と言う者を客観的に見ていた。これまで身を焼かれながら身に付けた物は本当に正しい道を歩んでるなんて考えてやってきた訳では無い。
一度決めた道を只管突き進む。その先にあるのが自分が求める道なんだと改めて思い出していた。
そんな一輝の言葉にステラの目には再度光が戻っていた。