英雄の裏に生きる者達   作:無為の極

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第5話 驚愕の事実

 ヘルメットのバイザーに映った景色はまるで融けるかの様に横へと流れていた。

 迫り来る車はまるで停止しているパイロンの様にこちらへと迫ってくる。

 余りにも違い過ぎる速度差は高速道路を走る乗用車を瞬時に後ろへと置き去りにしていた。

 モーターを使用しているからなのか、二輪車特有のエンジン音や排気音は何も聞こえない。ヘルメット越しに聞こえるのはバイクに取り付けられたカウルが大気を切裂く音と同時に、タイヤが道路から発生さえるロードノイズだけだった。

 

 

「これなら実用性も高そうだな」

 

《そうか。取敢えずは試験走行だ。こける様な事をして大破させるなよ。それと速度を出すのは勝手だが、警察には捕まるな。後々面倒になる》

 

「もっと早く言ってくれればこんな事にはならないと思うんだが。で、目的地ではやっぱりやるのか?」

 

《当然だ。その為に北条に頼み込んで無理矢理ねじ込んだんだ。無様な真似はするな》

 

「……了解」

 

 ヘルメットの内部に取り付けられ機材から聞こえた通信が切れると、バイクに乗った青年は改めてアクセルを吹かすかの様に、今の速度から更に加速を続けていた。

 メーター速度は既に220キロを示している。そんな速度域から加速を更にするべくモーター音が僅かに高く聞こえた瞬間、そこにあった全ての景色を置き去りにしていた。

 

 

 

 

「ここがそうか……無駄にデカいな」

 

 青年が乗ったバイクが向かった先は国内でも七つしかない伐刀者育成専門機関の一つ『破軍学園』。

 音も無く止まったバイクを確認したからのか、黒いスーツを着た一人の女性が出向かえていた。

 

 

「ようこそ……と言いたい所だが、生憎と今回はイレギュラーなんでな。来て早々に済まないが、この後試験を受けて貰いたい」

 

「試験?そんな事は聞いてないが」

 

「そうか……だとすれば連絡の行き違いかもしれん。話しは聞いているが、無条件でここに向け入れる訳には行かないんでな」

 

 青年の言葉など意に介さないとばかりに、麗人と言う言葉が似合いそうな女性は背後を振り返る事無く真っ直ぐに目的地へと歩いていた。

 背後から見るその姿に歪みや隙は一切感じられない。元々青年がここに来たのは偏に少し前にあった内乱の報酬回収の件が事の発端だった。

 当初は辞退も考えたものの、報酬が事実上のゼロでは何かとトラブルが起こる可能性が出てくる。そんな事を言われた事が最初だった。

 半ば強引ではあったが、報酬額を考えればそれは当然の話。

 前を歩く女性を眺めながらも青年はこれから起こる事をどうした物かと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、時間をくれとは具体的に何時までを示すつもりだ?時効などと戯けた事を言うつもりはあるまい?」

 

「せめて在学中ではなく、卒業して一年以内ではどうでしょうか?」

 

「都合二年待てと?随分と悠長な期間を提示したな。算段は立っているのか?」

 

 小太郎の言葉は完全に冷え切っていた。

 口約束とは言え、強引に取り付けた契約を一方的に延期しろなど、明らかに暴論である事は誰もが理解していた。

 そもそも、この場で刀華の首を撥ねればカナタからの依頼は無かった事になる。だからと言って、誰もがそれを望んではいない。しかし、目の前に居る小太郎から迫るプレッシャーを跳ね返すには並の胆力では不可能だった。

 精神的に冷たくなる部屋の空気は一向に変わる気配は無い。今出来る事はカナタの考えを待つ事だけだった。

 

 

「無い訳ではありません。今この場で良い案が浮かぶとは思っていません」

 

「ほう。無策だと……」

 

 小太郎の言葉にカナタだけなく刀華もまた、立つ事さえ厳しい程のプレッシャーを全身に浴びていた。無意識の内に足が小刻みに震えている。

 一触即発。ここから先の答弁は、まさに切れそうな糸を綱渡りする様な物だった。

 

 

「小太郎殿。少しだけ良いだろうか?」

 

「これは総帥。先程も言ったが、当人からの報酬が契約の全て。まさか口出ししようとは思っておらぬだろうな」

 

「いえ。このままでは一介の高校生が払える額ではない。我々としても不払いである事が周囲に広がれば信用を無くしかねない。そこでですが……」

 

 総帥が提案したのは、今回の報酬に関しては在学中に払う場合のみ正規の金額とし、一年の猶予期間での場合は倍額にすると言う提案だった。

 事実上の保証人となる為に報酬の回収は確定している。風魔側からすれば今回の内容は破格とも取れる内容だった。

 

 

「なるほど。それならば良いだろう。青龍、丁度お前も近い年齢だ。監視ついでに学校に通え」

 

「はぁあああ!何馬鹿言ってんだ。冗談も休み休み言えよ!何で俺が!」

 

「これは我々と貴徳原財団との正式な契約だ。それにお前はどのみち学校に通わせる予定だったんだ。だとすれば丁度良いだろう」

 

 小太郎と青龍の言葉の応酬にカナタと刀華は少しだけ呆けていた。

 先程の言葉の意味が正しければ、青龍と呼ばれた青年は自分達と同年代かそれに近い年齢でしかない。ましてや自分達は生徒会の役員をしている以上、学園の内部の事には精通している。

 既に応募はおろか、試験すらも終わっている今、どうやって学園に送り込むのか理解出来ないままだった。

 

 

「こんな時期に試験も何も無いだろう。どうやって?」

 

「無論、手は打つ。やる事に抜かりは無い」

 

 小太郎の言葉に絶句したのか、青龍はそれ以上反論した所で無駄だと悟っていた。

 既に風魔として決定した以上、反論の意味はどこにも無い。行けと言われた以上、青龍は任務だと割り切るより無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に宜しかったのですか?」

 

「ああ。倅にも少しは世間を見せん事には今後困る事になりかねん。元々予定していた事だ。そちらが気にする必要は無い」

 

 全員が退出した際に、小太郎と総帥だけがこの部屋に残っていた。

 あの時点ではそう言ったものの、既に報酬の件は総帥がここに来るまでに話合いが終わっていた。

 今回用意された小切手にはその金額も含めた額が記載されている。確認後、封筒に入れた為に渡した総帥と受け取った小太郎以外に確認は出来なかった。

 

 

「ですが、我々としては今回の件に不利益はどこにもありませんが?寧ろ利益だけの様にも思えます」

 

「いや。我々も元より計画があった。そちらの話があったから渡りに船だと判断しただけだ。それと、箱を用意したのであればそれで構わんさ」

 

 ここに来るまでに極秘裏に話合いが行われていた。

 元々貴徳原個人として、風魔との繋がりがどんな意味を成すのかを一番理解していた。

 絶対的な暴力装置として風魔の名は絶大だった。純粋な暴力だけで言えば、『解放軍』も同じ様な物。しかし、風魔に関しては犯罪行為が表沙汰にされる事は一度も無いままだった。

 

 裏の世界でのイメージが絶対的な暴力であると同時に、政財界では権謀術数に長けた集団の認識が強い。

 事実、内閣官房長官でもある北条時宗が政治の場に出てからは、全ての選挙でダントツでの当選をしているだけでなく、風魔との付き合いが囁かれているからこそ色々な意味で一目置かれている。

 現に内閣閣僚の殆どは北条に対し、妬みを持つ事すらない。自身の能力だけでなく、その情報収集能力によって、これまで内閣の危機や各自のスキャンダルすらも解決している。

 その結果、野党が個人攻撃をする材料はどこにも無く、現政権はそれなりの長期政権となっていた。

 

 今回の依頼に関しても貴徳原財団としては分が悪い賭けではあったが、お互いが協力するからとの一致によって仲介されていた。

 そんな中で偶然とは言え、直接的な付き合いが出来るチャンスを財団の総帥としては見逃すつもりは毛頭無い。

 今回の件に関しても知らない者からすれば一触即発だが、知る側からすれば只の茶番劇でしかなかった。

 

 

「そう言えば、娘のカナタだったか。相手は確か欧州かどこかの実業家では無かったのか?」

 

「よくご存じで。我々も利益を追求するのは当然ですが、今回の縁とそれを天秤にかけるには余りにも釣合いが取れません。あの程度の規模の人間を縁戚を付けなかったとて、我々の基盤が揺らぐ様な事はありませんから」

 

「そうか……そちらがそれで良いと言うのであれば我々には関係の無い話。今後の厄介事の種にならないのであればそれで良いだろう」

 

「そう言ってもらえれば助かります。それと……例の件ですが、こちらからの圧力をかけるのは吝かではありますが、出来ればそちらからも助力して頂ければ助かります」

 

「成程……その件に関しては承知したとだけ言っておこう」

 

 誰も居ない部屋では二人で酒を酌み交わしながら談笑していた。

 元々お互いの接点が無いとは言え、何も知らない訳では無い。そんな二人だからなのか、お互いが利になる事だけを優先していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破軍学園理事長の新宮寺黒乃は背後に歩く青年の姿を察知しながらも、険しい表情を浮かべながら歩いていた。

 元々昨年の十月より既存の教員全てを一旦解雇し、詳細を確認した後に再雇用する事で今の体制へと作り上げていた。

 そこにあるのは純粋な伐刀者としての能力だけを考えた選考基準がある。そんな状況だからなのか、背後を歩く青年の事を聞かされた際にはかなりの反抗をしていた。

 

 

「何故、今頃になってそんな話しが出るのですか?いくら月影先生とは言え、横暴がすぎます」

 

「いや。君が決めた選考基準に対し、何か言いたい訳じゃない。ただ、我々が推薦したい人物の審査をしてほしいだけだ」

 

「ですが、今の時期では既に何も出来ません。幾ら先生が推薦したと言っても、他がどう思うのかは分かるはずです。それに、横槍によって入学したと分かれば今後の学園の運営にも支障が出ます」

 

「それには及ばん。彼の実力は折り紙付きだ。そんな戯言が起こるはずもない」

 

 入学間近の学園内はこれから部屋決めをするだけでなく、黒乃自身の尽力もあってか、とある公国からの留学生の獲得に成功していた。

 ここ数年の破軍の成績は衰退の一途を辿っている。このままでは地に堕ちたままだと判断したからこそ、黒乃が理事長になった際には一切の口出しはしない事が前提だった。

 しかし、そんな前提は月影と呼ばれた人物からの連絡で容易く崩壊する。それが一人の生徒の入学試験を半ば強引に受けさせる事になった全ての原因だった。

 

 

「確か、君は……」

 

「自己紹介がまだでしたね。風間龍玄(かざま りゅうげん)です」

 

「風間か……一つ聞きたいが、いつ今回の事を知った?」

 

 黒乃が確認するのは当然だった。こんなイレギュラーな事を早々認める訳には行かないのと同時に、今回の試験に関しては取り敢えず受けさせるだけ受けさせて審査の結果、不可だと告げるつもりだった。

 合格基準に満たないのであれば、幾ら横槍を入れようと実力不足の一言で切り捨てる事が出来る。それならばお互いに角が立たないだろうと判断した結果だった。

 もちろん一方的に下した所で内容が外部に漏れなければ確認のしようが無い。だからなのか、風間と名乗った青年にいつ聞かされたのかを確認していた。

 

 

「昨晩です」

 

「そうか、昨晩……待て。昨晩だと?」

 

「ええ。それが何か?」

 

 簡単に答えた風間の言葉に黒乃は頭が痛くなりそうだった。幾ら何でも前日に試験だと言われれば準備する時間すら無い。

 ここは国が認めた伐刀者の養成学校。実力が無いとなれば全く意味を成さないだけだった。

 

 

「いや。通常であれば前もって準備などすると思ったんでな」

 

「……成程。だが、自分はここに居る。それ以上は何も言いようが無いのでは?」

 

「ふっ。違いない」

 

 この時点で黒乃はこの人間を不合格にしようと考えていた。口ではああ言ったが、こんな状態で何が出来るのはタカが知れている。今回、試験を受けさせるに当たっては一つだけ条件があった。

 能力を測定するのではなく、あくまでも実戦形式。伐刀者ならばそれが何を意味するのかは考えるまでも無かった。

 

 

「さて、今回の試験に関しては能力の測定ではなく、実戦形式とさせてもらう。既に入学に関する手続きが全て終わっている以上、それなりに実力を示す必要があるからな。因みに今回の対戦相手はここの職員だ」

 

「ほう……貴女では無かったんですね。てっきりそうだと思ったんですが」

 

「冗談も休み休み言え。こっちはそれどころでは無いんだ。時間も勿体無い。直ぐに始めるぞ」

 

 風間の言葉に黒乃は内心鼻で笑っていた。今は一線から身を引いているが、『世界時計(ワールドクロック)』と当時呼ばれたその実力は伊達ではない。

 自分の事を知らないが故なのか、それとも大言壮語とばかりに口を開いたと判断したからなのか、それ以上の関心を持つ事は無かった。

 アリーナは今回の件で関係者以外は全てシャットアウトしている。

 元々入学試験であるとは公表していない。仮に野次馬が居た場合、何かと面倒になるからと判断した結果だった。

 黒乃はゆっくりとアリーナの観客席へと移動する。既に準備が済んでいるからなのか、職員もまた戦闘モードに入っているのか、今はお互いの姿だけがそこにあった。

 

 

 

 

 

《LET's GO AHEAD!》

 

 

 

 

 

「来い。風神」

 

 青年の言葉に導かれるかの様に固有霊装でもある篭手が両腕に現れていた。

 見た目は何の装飾も無いからなのか、気になる様な外見ではない。既に装備した事を確認したのか、開始のアナウンスが無機質にアリーナに鳴り響いていた。

 

 既に職員は自身の固有霊装を装備していたのか、5メートル程あった距離を一気に詰めんと疾駆していた。霊装は西洋のククリナイフの様に刀身が若干湾曲気味になっている。

 アナウンスされてからも動く気配が無かった風間龍玄と自己紹介した青年は未だ動く事は無かった。

 

 対戦相手の職員は既に手加減をするつもりが無いからなのか、その行動と攻撃するであろう箇所に僅かながらに殺気が混じっていた。何を言われたのかは分からない。しかし、迫り来る刃を見て龍玄は動く素振りは微塵も無かった。

 神速とまでは行かないものの、教員をするに相応しい攻撃は周囲の反応を見るまでも無かった。一撃必殺。まさにその言葉が体を成すかの様に龍玄に向けられていた。

 

 

「所詮はこの程度か。つまらん」

 

 首筋に向かう刃を躱す事無く龍玄は来るであろう軌道へと手を動かすに留めていた。

 対戦相手の視線や筋肉の動き。何よりも隠すつもりが無い殺気が何処を攻撃しようとしているのかを雄弁に語っていた。

 態々動くまでも無い。自身が経験してきた中では下から数える程度の攻撃は生温いとしか言い表せない程度でしかなかった。

 

 首筋に迫る斬撃はその瞬間、目標から大きく逸脱していた。左拳で往なされた攻撃によって職員の態勢が大きく崩れる。

 力が籠っていたからなのか、攻撃のベクトルは大きく変化していた。

 完全に死に体となったからなのか、こちらの攻撃を躱す術は既に失われていた。態勢が崩れた隙を態々見逃す道理は無い。半ばカウンター気味に鋭い右拳はそのまま職員の胴体へと向かっていた。

 一撃必殺の拳は相手の肝臓の部分へと突き刺さる。元々幻想形態での戦いではあったが、衝撃までもが完全に消えた訳では無い。

 無防備な体内を貫く衝撃は内臓を護るための肋骨を砕き、容易く肝臓を破裂させる。周囲から見ればすれ違いざまの攻撃にしか見えなかった。

 

 

「あんた、このままだと死ぬぞ」

 

 龍玄の目の前には職員が立ち上がる事が出来なかったのか、腹部を押さえながら激しく吐血していた。一撃の下に喰らった攻撃の影響なのか、それとも意識を飛ばされたからなのか、龍玄の言葉に返事が無い。

 これ以上は無駄だと悟ったからなのか、この戦いを見ていたスーツの女性。新宮寺黒乃に改めて口を開いていた。

 

 

「このままだとこいつは死ぬが良いのか?所詮は試合中の事故だ。俺はどっちでも良いが?」

 

「何だと?」

 

 龍玄の言葉に理解が追い付かなかったからなのか黒乃は改めて職員の様子を確認していた。

 横たわった先では吐血の影響なのか、鮮血が飛び散っている。確かにこれならば重症である事に違いは無いが、死の言葉の意味が分からないままだった。

 

 

「肝臓が破裂してるぞ。このままなら出血死するが良いのか?」

 

 龍玄の言葉に黒乃は改めて職員の顔を覗き込んだ。既に出血量が体内で激しいのか、顔色は既に土気色となり出している。このままでは助からない。そんな思いが黒乃自身の固有霊装を取り出していた。

 周囲の時間が止まったかの様に動かなくなっている。それと同時に医療チームも出動させたのか、その後すぐに職員を運んでいた。

 沈黙がアリーナを覆っている。そんな中で一人の女性の声だけが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

「いや~折角面白い物が見れたと思ったのに……間に合わなかったか」

 

 声だけ聴けばまだ二十代。誰も居ないと思われたはずの会場に響く声は完全に想定外だったからなのか、黒乃は思わず振り向いていた。

 

 

「寧音。どうやってここに?」

 

「嫌だね。ちょっと面白い話を聞いたからここに来たんさね。それにしても、君は一体………え?……嘘……なん…で……」

 

 黒乃の言葉に返事をするかの様に寧音と呼ばれた着物を着崩した女性は対戦相手の男を見た瞬間だった。

 先程までの軽口を発する事は既に出来ない。こんな場所に居るはずが無い人間が居たからなのか、それ以上の言葉が出なかった。

 

 

「ちょっと用事を……」

 

 それと同時に、直ぐに来た道を戻ろうと出口に向かって走り出す。

 時すでに遅し。そんな言葉がピッタリの状況だった。

 

 

「西京寧音だな。こんな所で油を売ってるとは手間が省けた」

 

 寧音の姿を確認した瞬間、龍玄はこれまでに見た事が無い程の速度で寧音との距離を詰めていた。

 瞬間移動したのかと思う程の速度で寧音の着物の襟首をつまみ上げる。突然の出来事に冷静なはずの黒乃は珍しく呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「詳しい話を聞かせて貰おうか」

 

 黒乃はこめかみに青筋を立てながら寧音に強い視線を向けていた。この風間龍玄と名乗った青年と、どんな付き合いがあるのかは何も知らない。しかし、先程の交戦と寧音を捕獲した際の移動速度は、数ある伐刀者を見てきた黒乃に取っても異常としか言えなかった。

 

 

「うちのプライベートなんか聞いてどうするのさ」

 

「それが関係してるのであれば聞くのは筋だろう。事実、この男は今年の新入生だ」

 

 黒乃は審査と言いながらも寧音を捕獲した時点で合格である事を認識していた。

 現A級リーグ三位は伊達では無い。戦いの場では無いにしてもこうまで簡単に捕獲するのは並大抵の技量では不可能でしかない。

 既に逃亡防止の手錠を龍玄によってかけられたからなのか、寧音は不満を隠す事無く黒乃と話をしていた。

 

 

「しゃーねーなー。くーちゃん、ラスト・リゾートって知ってる?」

 

「ああ。それがどうかしたのか?」

 

「実はうち、あそこの会員なんよ。で、今回ちょ~っとだけ忘れてて年会費と一部の支払いをしてないんさ」

 

「お前ならそれ位の払いが出来る程の金ならあるだろ?」

 

「まぁ、そうなんだけど。ちょっとここん所忙しくてね」

 

 寧音の表情には悪気は無かった。踏み倒すつもりは無かったが、時間の都合で間に合わなかっただけの話。

 しかし、それとこの青年とのつながりが何処にも無い。未だ関係性が見えない話に黒乃は痺れを切らしたのか、龍玄に単刀直入に聞いていた。

 

 

「で、どんな意味があるんだ?」

 

「おい寧音。お前、もう手配書の手前だぞ。忘れたなんて言い訳が通じると思ってるのか?」

 

「そ、そんな事無いさね。ちょっとした手違いなんだって」

 

「そうか。だったら親父の前で同じ事が言えるんだな。惜しい人物を亡くすとはな……実に残念だ」

 

 黒乃の質問を完全に無視したのか、龍玄はそのまま寧音に話を続けていた。

 龍玄の言葉に寧音の顔色は一気に青褪めていた。ラスト・リゾートは完全会員制の施設なだけではない。

 完全に秘匿された空間が故に一部のVIPしか利用する事が不可能だった。

 会員は個人に対して発券される為に、幾ら身内でも利用は出来ない。今回、龍玄が動いたのはオーナーでもある小太郎からの命があっての結果だった。

 勿論、会員は誰がオーナーなのかを完全に理解している。風魔を相手に逃げ切れるなどと懸想を抱く者は誰も居なかった。

 既に名前が遠回しに出た以上、寧音にとっては死刑宣告にも等しい。ここは直ぐに支払って回避する以外に何も出来なかった。

 

 

「……因みに期限は?」

 

「今直ぐだ。無理なら口座を差し押さえると同時に会員権の資格は剥奪になる」

 

「ちょっと……直ぐに払うから!」

 

 黒乃の言葉を無視してまで行われたやりとりは既に怒りの沸点を超えていた。

 元々気苦労の根源でもあるこの友人は、黒乃にとってもかけがえの無いはず。

 しかし、あまりにもずぼら過ぎたやり取りに頭が痛くなる方が先だった。

 

 

「お前ら、漫才はその辺にしろ。で、こいつとはどんな関係なんだ?」

 

「あれ?知りたいんだ。そっか~」

 

「二度目は無いぞ」

 

「………」

 

 黒乃の言葉に寧音は珍しく悩んでいた。本来であれば風魔の名がどんな意味を持つのかは業界内では常識だった。

 仮にうっかりと漏らそう物ならば自分の命が対価となる。幾らA級リーグに所属する者としても勝てるビジョンは全く無かった。

 そんな葛藤をしながらも寧音は龍玄に視線を向けていた。既に退路は何処にも無いが故の結果。

 それを察したからなのか、龍玄もまた溜息を吐きながら黒乃へと話す事を決めていた。

 

 

「あんた確か理事長さんだったな。風魔の名は知ってるな?」

 

「……ああ。それが?」

 

「ならばそれが答えだ」

 

 風魔の名が出た瞬間、黒乃は激しく後悔していた。

 自分達を知ろうとするのであれば身内以外には知らせるつもりは無い事は裏事情に多少でも知っているならば常識だった。

 単独での戦力であれば何とかなるかもしれないが、厄介なのは、自分以外の人間でさえも関係者と認識されれば簡単に的にする点だった。

 

 一族郎党を完全に消し去るやり方は完全な見せしめだけでなく、その恨みを絶やす事が目的となっている。

 幾ら一騎当千の実力があったとしても、それは自分だけであって、周囲までもがそうではない。自身が関与して人間が次々と消え去れば、当人は罪悪感に苛まれる。そんな集団だからこそ裏の世界では絶大だった。

 『解放軍』の様に自分の身勝手で行動するのではなく、一つの意識の下に統率された集団は、確実に自身を付け狙う。

 犯罪の度合いからすれば『解放軍』のやっている事の方がまだ可愛いのかもしれない。

 証拠一つ残さない『風魔』の言葉に黒乃もまたそれ以上は聞くつもりは失せていた。

 

 

 

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