英雄の裏に生きる者達   作:無為の極

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第51話 裏事情

 周囲を見渡す限り、外の光が見える事は無かった。

 殺風景とも取れる室内。仮に、ここに人が住むとすれば何も無さ過ぎる程だった。

 天井には申し訳無いと思える程の電球が一つだけ。まるで何かを入れる倉庫の様な場所は、完全に密閉された空間だった。

 

 

(ここは………私は確……か)

 

 これまできつく閉じていた目蓋が開いた景色は異質の一言。自分の記憶では先程までは破軍学園に攻め込んでいたはずだった。にも拘わらず、この閉鎖された空間に自分が居る違和感。

 未だぼんやりとしたままだからなのか、現状を認識するまでに少しだけ時間を擁していた。

 

 

「ちょっと!誰か居ないの!これって何なの!」

 

 違和感の正体は自身の手足が完全に拘束されている事を理解したからだった。

 幾ら叫ぼうとも、周囲には窓一つ無い。大声で叫んでも返ってくるのは反響音の様な自分の声だけ。

 よくよく見れば、室内の壁は全てコンクリートに覆われていた。少しだけジメッとした空気がやけに気に障る。

 少なくともこの現状が何なのかを理解したいと考えたからなのか、この部屋に唯一居る風祭凛奈は喉が裂けんばかりにありったけの声を出していた。

 

 

 

 

 

「貴様が風祭凛奈だな」

 

「そうよ。さっさと拘束を解きなさいよ」

 

「まだ現状を理解していないのか?」

 

 凛奈の前に現れたのは仮面の男だった。これと言った大きな特徴は無いが、そこには白い虎が描かれている。

 裏の人間であればその素性は直ぐにも理解するが、生憎と凛奈はそんな知識を持ち合わせていなかった。

 

 

「現状ですって?そんな事どうでも良いわ。早くこの拘束を解きなさいよ。それと私付きのメイドはどうしてるのよ」

 

 端的に話した事により、凛奈は仮面の男が救出に来たのだと勝手に判断していた。実際に話をしたのは名前を確認しただけ。詳しい事は何一つ話さないのであれば、そう考えるのは当然だった。

 救助が来たと勘違いしたからなのか、凛奈の思考は更に加速する。

 自分の可愛がっていたスフィンクスは先の戦いで失っていたが、もう一人の自分に仕える人間、シャルロット・コルデーの事が気になっていた。

 

 

「……まだ分からないのか?貴様は破軍学園を襲撃したテロリスト『解放軍』の人間。拘束するのは当然の事だと思うが?」

 

「テロリスト?そんな訳無いでしょ。何でそんな根も葉もない事を言ってるのよ」

 

「現状を認識した方が良さそうだな。仕方ない。これを見ろ」

 

 互いの現状認識に齟齬があると判断したからなのか、仮面の男は呆れながらも事実を伝える事にしていた。

 元々ここに運ぶまでの情報収集の中で、破軍学園の襲撃そのものは元から計画されていた物ではあったが、問題なのはその中身だった。

 当初の予定では、伐刀者が破軍学園を襲撃する事によって魔導騎士連盟主導の学園の生徒よりも実力が上であると知らしめる。その結果として七星剣武祭に新たに出場する予定となっていた。

 

 しかし、現実は予想外だった。実際には伐刀者以外に現れた兵士が生徒に向って発砲している。武装した勢力は解放軍の人間である事が既に公表されている為に、その計画は完全に頓挫した状態となっていた。

 互いに情報交換があったかどうかは分からない。しかし、襲撃した事実と人物が特定されている以上は知らなかったでは無理があった。

 先程の話から情報が互いに交換された可能性は皆無に等しい。

 只でさえ、これから営業を仕掛けるにあたって自覚していないとなれば、少しだけ面倒になると判断した結果だった。

 

 

 

 

 

「では、今回の破軍学園襲撃に関しては、解放軍による襲撃と見て間違いは無いと政府は認定したのでしょうか?」

 

「そうだね。今回の件に関しては、政府内では解放軍によるテロ事件として既に捜査している。だが、伐刀者に関しては未だ捜査中だね。何せ手がかりらしい物が何一つ無いんだから。逆に君達の方が詳しかったりするんじゃない?」

 

「実際に被害の程はどうなんでしょうか?」

 

「現在治療中の教職員、生徒に関しては死者こそ出ていないが、負傷者はかなりの数になっている。現時点では負傷者に関しては直ぐに治療出来た人間も居る為に、詳細までは分からない。ただ、今もなお意識の回復が見込まれていない人間も居る。少なくとも現状を把握する為には少しだけ時間が欲しい」

 

「この国に対する戦線布告の様な物があったと懸念されていますが?」

 

「それに関しては各国にも確認したものの、その事実は無いね。仮にそんな事実があれば真っ先にどうなるのかは、君達の方が分かると思うけど」

 

「今回の件に関しては軍と警察の初動が鈍かったと言われていますが、その辺りはどうなんでしょうか?」

 

「その点に関しては現在調査中だね。結果が出れば事実は公表しよう」

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな………だって、私が聞いたのは…………」

 

「貴様の都合など知らん。だが、襲撃犯がテロリストであると国が認めている以上、救出に来る道理はあるまい」

 

 事前に聞いた事実とは明らかに違った事によって凛奈は呆然としていた。

 元々平賀玲泉から聞いた計画は自分達の実力を世に示す行動であって、その為に近くにあった破軍に目を付けただけの事。それ以外に他意は無いとの話だった。

 しかし、これが政府の公式見解とした時点で凛奈は愚か、あそこに居た伐刀者は事実上のテロ集団であると認定されたも同じだった。

 先程までの勢いが完全に消える。突然の出来事にどうすれば良いのかを理解するだけの余裕は無くなっていた。

 

 

「安心しろ。まだ国は貴様達を見つけた訳では無い。我々が先に保護したんだからな」

 

 仮面の男の言葉に凛奈は少しだけ光明が見えた気がしていた。犯人が分からないのであれば、まだ自分にも生きる目が生まれる。しかし、その後に続くのが何なのかがここで漸く理解出来ていた。

 

 

「まさかとは思うけど、金銭でも要求するの?」

 

「察しが良いな。そうだ。お前はこれから交渉にあたっての質となってもらう。政府が発見していないのであれば、言葉の意味は分かるな?」

 

「そんな犯罪、認めると思うの?」

 

「貴様は馬鹿なのか?テロリストと国は本来は交渉しない。仮に公表すれば、貴様の人生は終わるだけだ。それともこの場でひっそりと始末されたいのか?」

 

 表情が見えないはずの仮面の向こうから感じる威圧は明らかに凛奈に襲い掛かっていた。

 肉食獣の様な獰猛な威圧の前に凛奈は震えあがるしかない。自分の命が金で決着が着くのであれば、後は大人しくするよりなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。取り合えず第一段階は終了ってとこだね」

 

「お疲れ様でした。早速ですが、両方の長官が来ています」

 

「そう。じゃあ、通して」

 

 会見が終わったと言えど、時宗にはまだやる事が幾つもあった。既に月影の辞任は国会次第ではあったが、実際に国会が拒否する事は無かった。

 本当の事を言えば国会が紛糾するのは間違い無く、また下手に情報を出せば次は強硬論が浮上する可能性もあった。当然ながら月影が予言した未来に進むつもりは毛頭ない。

 そもそも未来は今の時点では未定であり、確実にそうなる訳では無い。

 当然ながらその先に進まない様にする為には、今の内に膿を完全に出しきる必要があった。

 事務方は基本的には現場の事など何も知らない。それは政府の中だけでなく、騎士連盟もまた同じだった。

 今回の件に関しても、本来であれば軍と警察が動かない時点で騎士連盟が率先して動く必要があった。

 実際には、それなりに時間が経過すれば事案の終息に向けて組織が動くかもしれない。しかし、時宗が小太郎に依頼した時点で事態の収束は約束されていた。

 そうなれば、待っているは無能者の排除。月影に心酔するだけならまだしも、これまでに幾度となく内偵した結果、不穏な未来に関与する可能性がある人間の排除をこれ幸いに一気にやるつもりだった。

 税金を食みながら力を示さないのであれば、そんな組織は不要でしかなない。月影に辞職を迫った時点で、それに与する事務方の未来は決まっていた。

 

 

 

 

 

 

「さて、今回の件に関してなんだけど、君達は職務放棄による懲戒免職処分になる」

 

「待って下さい。今回の件は元々総理からの肝煎りでの訓練ではなかったのですか?」

 

「肝煎り?君達はそれでもこの国の防衛と治安を守るトップの自覚はあるのかな。何処の世界にテロ行為がそのまま見逃されて平然としている国がある?」

 

「我々は()()()()()()()()()今回の件に関して聞かされています。であれば、官房長官の貴方では話になりませんな。総理には確認されたんですか?」

 

 それ程広くない部屋に呼びだされたのは、警察庁長官と軍の長官だった。

 今回の件に関しては元々月影から直接聞いている為に、仮に連絡があっても訓練であると下に事前に知らせていた。

 万が一、通報があったとしても訓練であればその時点で納得する。そもそも負傷者が出ないのであれば、その処置は当然の事だった。

 

 既に負傷者が出ていたとしても、それは訓練による結果でしかなく、万が一の際にはIPS再生槽を使えば良いだけの話。軍や警察もまた同じ事を経験しているからこそ、今回の騒動に関しての認識はその程度だった。

 勿論、ここに来るまでに時宗が行った談話の放送は確認している。テロ行為があったとは言え、事実上の調査中であれば、不確定な結果になる可能性が高い。少なくとも呼び出された二人はそう考えていた。だからこそ警察庁長官は多少は驚くが、軍務長官に関してはこの程度の認識で捉えていた。

 更には自分達には後ろ盾もある。完全にそれを認識した言葉だった。

 

 

「君達の言う総理だが、当の前に議員を辞職したよ。まだ国会では承認されていないけど、正式な文章で受理している。党としても既にその方向で動いている」

 

「北条官房長官。失礼ですが、我々を謀るのは止めて頂きたい」

 

「面白い冗談だ。何故、僕が君達を謀る必要があると?目の前で市民が血を流し、助けを求めても何もしない組織であれば無いのと同じだと思うけど」

 

「我々はあくまでも訓練である。内閣総理大臣よりその命を賜っています」

 

「内閣総理大臣……ね。で、証拠の提示は?」

 

 あっさりとした時宗の言葉に、自分達の後ろ盾が既に消え失せていた事は直ぐに理解していた。

 幾ら事務方とは言え、最終決断は総理自身が行い、それを現場が実行する。当然ながらそうなれば命令である事実が必要となっていた。

 元々予測したからなのか、軍務長官はその証拠を持参している。どちらが下手に手を出したのかを理解させる。そんな事を考えていた矢先の事だった。

 

 

「因みに、総理が辞職したのは襲撃の前なんだ。残念ながら総理は極秘裏に入院していてね。公務が無い日は基本的には病院なんだよ」

 

「そんなはずは………」

 

 時宗の言葉に、二人ともそれ以上は何も言えなかった。

 実際に証拠として出すつもりだった日付よりも前に書類が出されれば、依頼の信憑性が疑われる事になる。

 ましてや今回の件に関しては、限りなく怪しい部分が幾つもあった。

 本来とは異なる結果は組織の長として考えた場合、限りなく最悪の結果なのは明白。

 死者こそ出ていないが、明らかなテロに対し、何一つ有効的に結果をもたらさないままの収束は、自分達への存在意義にまで及んでいた。

 

 銃弾に倒れた生徒を見殺しにする組織に、市民からの尊敬の念は無い。これが身内の中で話す内容であれば想定外の言葉で終われるが、生憎と目の前に居るのは身内ではない。

 互いの全身が、まるで氷水を浴びせられた様に寒くなる。そこから先に出る言葉は何となく予想出来ていた。

 

 

「改めて言うけど、君達は予測出来たであろう事実に目を背け、一般人とは言い難いが、未来ある青少年を見殺しにしたのと同じ。それぞれが責任を取るのは当然じゃないかな」

 

「ですが、我々として大きな組織の中の出来事を完全に把握する事は困難。全てを掌握するなど不可能です」

 

「……君らは本当に馬鹿だね。良いかい。組織の長は、()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。そうで無ければどうしてそんな無駄に権力を持たせてると思う?」

 

 あからさまに責任逃れを口にしたからなのか、時宗の感情は僅かに歓喜していた。

 元々責任を回避する事は時宗に限った話では無く、誰でも容易く予測出来る。

 だからこそ次に繋がる一手を打つ事によって、今後の不穏の下になるであろう物を一気に排除するつもりだった。

 

 

「そうだね………だとすれば、今回の件に関する人間の処分を、直接君達にしてもらおう。その方が後腐れも無さそうだし。因みに処分者のリストはこれだから」

 

「な………」

 

 何気なく渡された内容に、二人は固まるしかなかった。処分者の大半が懲戒免職。緩いと思われても最下級への降格だった。これまで局長級の人間でさえもが一番下へ降格される。それがどんな意味を持つのかは言うまでもなかった。

 

 

「それと、今回の破軍学園の補修費用と、派遣した部隊への報酬はそれぞれの組織に均等に請求する事になる。因みに各自三十億程だね」

 

「待って下さい。既に予算は決定してます。そんな状態で支払う原資はありません」

 

「気にしなくても大丈夫。君達がこれまでに着服した裏金と出る予定の退職金、それと来年の予算からも捻出してもらうからね。既に財務に関する事は通達してあるから」

 

「それは横暴では!」

 

「横暴……成程。確かにこのままではそうかもしれない。ならば、こうしよう。今回の襲撃に関して相応の被害を被った家族に対して、相応の手続きをしてもらおう。全ての家族からの了承が貰えれば、規定に準じた物を出す。これが妥協案だね」

 

 官僚の言葉を鵜呑みにするつもりが無いからなのか、時宗の言葉に絶句するよりなかった。

 裏金は組織の維持の為に使用される物。幾ら何を言おうが、無い袖は振れないとこれまでは突っぱねていた。にも拘わらず、平然とその事を口にした時点で、既に裏は取られているのと同じ。

 只でさえ今回の件は痛恨の極みではあるが、追い打ちをかける様に予算と金銭を吐き出させるのは自分達の立場をも危うくする物。

 そこに来ての幹部から最下級への降格。それから予測出来る未来は決して明るいとは言い難い物だった。

 当然ながらこれ程の不祥事を作った当事者が天下りする事も出来ない。冷徹とも取れる時宗の言葉に二人が崩れ落ちるしかなかった。

 

 

「で、反論するなら聞くけど?」

 

「……いえ。何もありません」

 

「一応は言っておくけど、名誉の為じゃなくて治安維持の為に見殺しにした云々は公表しないから」

 

 あっけらかんと話す時宗の言葉の裏にはこれまで自分達が行ってきた事全てが無に帰す事を暗に伝えていた。

 本当の意味で事実を話せば、今後の組織運営は厳しい物になる。それは残された人間が膨大なツケを払う事になるから。それならば、一定上の情報は態とボカす事によって少しだけ事実を歪曲にする。内部では厳格な処分をし、対外的にはそれなりに済ませる。

 本来であれば政治家が役人に対する人事をする事はないが、今回の様な事態に陥ればある意味では仕方がないとも取れる。これ以上の抗弁は不可能だろ二人は判断していた。

 

 

「人事案に関しては明日には出す。それまでに内部調整はする様に」

 

「……承知しました」

 

 力無く二人は部屋から出るしかなかった。

 幾ら自分達の恩人とは言え、今回の件に関しては完全に公私混同していた。

 自分達もまた権力と言う名の力をかざし、目的にまい進してきた。

 結果的には思う部分があるが、被害が多きなったのも事実。仮にその計画が第三者によって立案され、実行されたとしても自分達の本分を全う出来ないのであれば、無意味でしかない。

 事実上の決定に対し、余りにも危険予測が緩すぎていた。

 自分達の未来は終われども、残された人間はまだこれからも続く。

 覆水盆に返らず。浅はか過ぎた代償は余りにも大きすぎていた。

 騎士連盟からの独立。その野望は今を持って完全に潰えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総裁。明日の予定の件ですが、一旦予定は全てキャンセルとさせて頂きました」

 

「何があった」

 

 不意に出た秘書の言葉に財団の総裁は僅かに疑問を浮かべていた。

 記憶が正しければ、明日は財界の会合が予定されているはず。グループの会議もまた入っていたからこそ、この日程の調整をする為に幾つもの仕事をこなしていた。

 訝しく思いながら秘書を見る。その答えは直ぐに知らされていた。

 

 

「お嬢様の身柄が確保されています。相手からの接触がありました」

 

「身柄?何の事だ」

 

「お嬢様に関する事とだけ」

 

 秘書の言葉に総裁は僅かに思案していた。

 身柄の確保から想像出来るのは学園の襲撃に関する事由。その襲撃に自分の娘が関与している事実だった。

 

 

「察しが悪いな。まだ意味が分からないのか?」

 

 突如部屋に響くのは秘書の声ではなく、どこかくぐもった様な男の声。気が付けば目の前に居る秘書もまた先程とは違い、僅かに笑みを浮かべていた。

 ここは風祭財閥の総裁の部屋。容易く侵入出来る様な場所では無かった。

 声が止んだ瞬間、仮面の男の姿が浮かび上がる。そこに居たのは漆黒の仮面を着けた男の姿があった。

 

 

「まさか……風魔……小太郎…か」

 

「そうだ。お前には先程言った件でここに来ている。用件は一つ。お前の娘の身柄は我々が拘束している。

 既に今回の作戦に関しては失敗に終わり、既にこの件に関しては内閣預かりとなっている。実行犯に関しても他に拘束している」

 

「そうか……で、要件は金か?」

 

「察しが良いな。実に単純な話だ。このまま放置すればお前の娘は今回の襲撃に関する実行犯として身柄は移される。恐らくは今回の首謀者扱いになるだろう」

 

「そんな事は知らん。あれは解放軍絡みの事案だと聞いている。我々とて情報網は持っているんでな」

 

 突然の言葉に総裁は可能性の一つである未来が嫌な結果として的中した事を悔やんでいた。

 元々今回の襲撃に関しては、娘からは碌に話を聞いていない。がしかし、配下にある重工業には銃器の部品に関する依頼があった。

 武器の製造に関しては公にはしていないが、幾つかの細かい形で指定された場所に運搬していた。

 

 銃器を扱うのは軍と警察だけではない。あるとすれば純粋な買い付けによる物。勿論、総裁はその依頼主は誰なのかを理解した上で製造販売をしている。

 仮に情報が漏れたとしても、絶対に分からない様に偽装されているはずだった。

 そんな事すら吹き飛ばす程の情報。それが風魔小太郎からとなれば、内容は間違い無く事実でしかない。

 不意を突かれたからなのか、心臓の鼓動は僅かに大きくなる。これまで海千山千の場を乗り越えてきた為に表情にこそ出ないが、内心はかなり動揺していた。

 

 

「そうか。ではこれを見るんだな」

 

「これは…………」

 

 小太郎は準備していた端末を総裁に向けていた。

 そこに映るのは自分の娘。目を塞がれ、手足は椅子に拘束されているが、声は間違い無く娘そのものだった。

 

 

「拘束している。で、どうする?別に誘拐犯だと警察を呼んでも構わんぞ。既に証拠もある。困るのはどちらになるのか分かるはずだ」

 

「……少しだけ考えさせてほしい」

 

「それは出来ない。既に時間はそれ程残されていないんでな」

 

「どう言う意味だ?」

 

「もう一度画面を見ろ」

 

 小太郎は再度画面を見る様に促していた。

 元々画面が小さい為に詳細まで見た訳では無い。改めて見ると、凛奈の右腕には何かが取り付けられていた。

 詳しくは見えないが何か細いチューブが付けられている。その先にあったのは何かの容器に落ちる赤い雫だった。

 

 

「貴様!何をしてるのか理解しているのか!」

 

「直ぐに答えを出せば命に別状はない。下手に時間をかけても、お互いメリットは何処にも無い。それに致死量近くになれば止める。そうなればそのまま直ぐに警察に行く事になるがな」

 

 理不尽とも取れる内容にそれ以上は何も言えなくなっていた。元々非公式ではあるが、風祭として総裁自身が解放軍とは一定の付き合いがある。世界秩序の安寧に賛同した事が始まりだった。

 事実、今回の件に関しても偽装して命令を自分自身が下している。当然ながら資金提供の裏には相応の対価もあった。

 

 元々暴力を得意とする側が出来る事は力による制圧。少なくともこれまでに幾度となくその力を行使していた。

 非合法な組織と付き合うのは相応のリスクを負う事になる。しかし、それを覆すだけのメリットもまた存在していた。

 解放軍の力で強引に抑えた取引はこれまでに幾つもある。当然この事実が公表されれば、自分だけでなく組織そのものが瓦解する。

 自分だけが知っている筈の事実に、気が付けば娘もまた関与している事は最悪の展開を招くだけだった。

 

 

「部屋では自分とお前、組織の事は全て吐いていたぞ」

 

「…………分かった。で、幾らだ」

 

「金額はお前が決めろ。我々はその件に関しては関与はしない」

 

 娘の事実を公表しないのであれば相応の対価を求めると総裁は考えていた。

 これまでに聞いた噂から考えれば、最低でも数億の費用が必要になる。ましてや内容が内容なだけに、こちらにボールが渡されたのは意外ではあったが、ある意味では厳しい選択を迫られていた。

 自分が決めるのはあくまでの娘に関してではなく、グループに対する信頼を金額にした物。価値を自分が決めると言う事だった。

 安ければ破談となり、高ければ相応の痛みを負う。どちらに転んでも厳しい未来しか無かった。

 直ぐに動かせる金額はたかが知れている。迫る選択肢は総裁をゆっくりと追い詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある週末。経済界には一つの噂がまことしやかに流れていた。

 情報の出所がどこなのかは分からない。がしかし、用意周到に添付された証拠は余りにも現実的過ぎていた。

 これが事実であれば、週明けのマーケットが大混乱になる。当然そこにあるのは経済界の仁義なき戦いの予感。

 既に耳が早い人間は休日にも拘わらず週明けの対策に時間を割くより無かった。

 下手をすれば国内の経済が大きな転換を迎えるかもしれない。そうなれば待っているのはこれまで膨れ上がった資産の破裂。

 これがただの不祥事であればまだしも、内容が内容なだけに無視する事は出来なかった。

 何も知らされない人間は自分の資産が確実に吹っ飛ぶ。そうならない為にも、この噂が事実なのか、虚偽なのかの確認をせざるを得なかった。

 

 

────風祭財閥。解放軍に関与か

 

 

 月曜の情報媒体の全ての一面がこのニュースで示されていた。

 一企業ではなくグループとしてテロ支援をしている事実。破軍学園の襲撃のタイミングを考えれば最悪の情報だった。

 既に株式市場は関連会社の株価が軒並みストップ安に張り付いている。どの番組もまたその事実を最初に持って来ていた。

 当然ながら株式市場は大混乱となっていた。

 実際に財閥の関連企業そのものはそれ程大きな数がある訳では無い。しかし、その会社のどれもが国内における主要産業の一翼を担う規模。

 当然ながらその情報は余りにも破壊力が有り過ぎていた。

 

 

 

 

 

「思ったよりは稼げたな」

 

「全く……事前に言ってくれたから助かったけど、次はもう少し考えて貰いたいね」

 

 普段であれば何組かの客が居るはずの料亭には、今日はこの一組だけが客として来ていた。

 元々利用するのが政財界の人間が主立っている為に、今の混乱でそれ所では無かった。

 噂や嘘ではなく、れっきとした事実は数日間、コントロール不能の状態にまで追い込んでいた。

 主要産業を束ねる存在の企業が国を滅ぼそうとする組織と手を組む。これ程まで大規模なマッチポンプは国民にとっても問題を提起していた。

 当然ながら内容が内容なだけに民間だけで事態の収束が出来るはずも無く、また、政府が異例の記者会見をしたものの、完全に鎮静化する事は無かった。

 

 結果的には警察と検察による大規模な合同調査を行うな事によって事態はゆっくりと収束されていた。

 本来であれば完全に世間から切り離される可能性もあったが、実際には手助けする企業もあった。

 その筆頭が貴徳原財団。国益に叶う企業に関しては、全てとは言わなくとも一定の企業に対しての力添えを行っている。当然ながらそれが事態の鎮静化に一役買っていたのは考えるまでも無かった。

 

 

「我らが何も知らないとでも思ったか?」

 

「……こっちも少しだけ助かったけどね」

 

 経済面でのショックがまだ冷め止まない最中に、時宗もまた月影の議員辞職をコメントしていた。

 内容はともかく、発表の際には病気療養を理由としていた。

 如何に力がある議員と言えど、病気による辞職の場合、その殆どは再選する事は出来なかった。

 病気であれば先は短い。後援会も解散すれば、結果は見るまでも無かった。

 落選すれば只の人。政治家の末路はどの時代も同じだった。

 それだけではない。事務方の粛清もまた速やかに終了していた。

 

 本来であれば国会審議で確実に話題が出る内容。しかし、野党もまた今回の事案に踊らされている為に、そこまでの意識は完全に無くなっていた。

 仮に言われた所で、対処方法は既に決まっている。余りにも今回の事案は各方面にとっても大きな物となっていた。

 

 

「そんな事より、あの騒動には段蔵が絡んでるらしいんだけど」

 

「知っている。だが、あれは我々から抜けた()()の存在だ。敵対しないのであれば、態々追う必要も無い」

 

「本来ならば抜け忍の存在は処分じゃないのか?」

 

「何時の時代の話だ。そもそも今の我々も色々な物の集合体だ。機密が漏れないのであれば、始末する道理は無い。それに、あれは機密そものものに関心を持たん」

 

 小太郎は何かを思い出したかの様に言葉にすると、それ以上は語る事は無かった。

 事実、今回の騒動で出た利益は優に百五十億を超える。元から最後までの道筋を操っているからこそできた芸当だった。

 実際に貴徳原に対して話をしたのも小太郎が手引きしている。企業を救うだけでなく、自分にも旨味があるからこそ乗ってきた話。

 

 娘の金額が見合わなかった事に対する不足分の補填程度にしか考えていなかった。

 だからこそ段蔵が仮に絡んだとしても、自分達に影響が無ければ放置する。それが今の小太郎の方針だった。

 何事も無かったかの様にお猪口の中にある清酒を飲み干す。

 時宗もまた、ひっそりと情報公開が出来た為に政界でも大きな問題になる事は無かった。

 それが意味する事を理解するからこそ、互いにそれ以上はこの話をするつもりは無かった。喧噪から閉ざされた空間では、今回の事件の顛末がひっそりと完結していた。

 

 

 

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