2008年。その男は「竜」という名前でカードゲーム、遊戯王という世界に入っていった。
2016年。普通の大学生のするバイトや友人との接触、部活等に竜は一切の興味を示さず、部屋には遊戯王の物ばかり。デッキやマット、電卓や遊戯王のカードケースが至るところに散乱していた。
5人の家族にも愛想つかれてる位に竜は遊戯王にのめり込んでいた。平日の大学生活なんてものは竜にとっては遊ぶための通過点に過ぎなかった。高校まで数人いた友達と分かれ、一人キャンパスライフを過ごす。
彼が一番活発に動くのは土日。そう、遊戯王の大会である。常連客であればあるほど、人との関わりが深くなり知り合いも増えていく。そのなかで切磋琢磨していけるのだ。
土曜日の今日も彼は戦いへと走る…
昼飯も食べ、大会先のショップで友人に出くわした。
カイ「お♪今日も来てるな竜!とりあえずエントリーしてからデッキ調整に付き合ってくれよ」
竜「お前のデッキに相手はいらねぇw先行で場を制圧するデッキだろ?」
カイ「」
こんな他愛もない会話ができるのも遊戯王があってこそだ。これがあってこそ竜は色んな人に心を開くことが出来たのだ。
大会が始まった。今回はトーナメント形式。ペアリングが発表され竜はそそくさと卓に着く。相手は初心者にも見える感じだった。スリーブも安物でマットもない。まぁカードゲームに本気で金を使える人も多くはないから仕方ないのである。
竜のデッキは大量のドローソースと高打点モンスターに優れたデッキ。相手はやはり普通にモンスターと伏せカードで場を作る展開。やはりキャリアの差が明確であった。
竜「うっしゃぁ!!勝ったぁ!!うひぉぁ!!」
竜は素人相手に大喜びしていた。そう、遊戯王は上位のデッキを作れば勝てる強さが手に入る。そして運営が得をするという、あまりにも見え透いた金儲け・ビジネスと化していた。
当然とわかっていても竜はその循環を許すことができず、運営に逆らうかのように「中堅デッキ」と呼ばれるスペックのないデッキを何年も使っている。
既に1つのデッキに惚れ込む「デッキ愛」の領域に達していた。
そして2回戦。竜は僅差で負けてしまった。そう、1つ負けるだけでも、悔しさ・怒り・不甲斐なさ等が同時にやってくる。なんとも不思議な感覚である。
自転車で一時間かけてやって来てるのに本命の大会はすぐ終わってしまう。その儚さに竜は大会終わりにいつも「はぁぁぁぁ」っと1つ大きなため息をする。
他の友人と遊んでいるカイと別れ一人、自転車を走らせ家に戻る。こんな他愛もない人生を淡々と過ごしていく。
部活や会社と違い上下関係に浸ることも、無駄にお金を使わなくてもよい。
それで楽しさを味わえる「遊戯王」に竜は惚れ込んでいった。
大会翌日。月曜日。重たい体を起こし、竜は大学へと向かう。電車に乗り、人という人とかき分けていく。人から見たらデブという点でしか特徴のない大学生なのである。
昼前から始まる二時間目。無気力で受ける。何事も無かったような顔をして受け終わる。
飯を食べ、1時からの三時間目。お祖父さん先生とのゼミを受ける。
成り行きでこんな人のゼミを受けたと親には言ったものの、竜が狙って入ったもの。人とできる限り関わらないという精神が生み出したものである。
先生があるチラシを渡してきた。どうせ学校通信だの自分に関係のないものだと思い、ふとそれを覗く。
「!?」
それには見慣れている遊戯王のイラストと共に、「WCS大学枠」と書かれていた。
この1文で竜は全てを察した。察したからこそ、信じることができず鳥肌が止まらない。
竜「先生…これは?」
先生「なんかようわからんがのぉ、興味があるなら学生課に行きな」
そう言いながら先生はいつもの授業の用意をしていた。
その授業も次の授業も、右から左へ抜けていった。当然である。竜にとっては生き甲斐である遊戯王の大規模大会の大学生枠である。
中堅デッキ使いの自分にこんな大舞台に出てもカモにされるだけだという気持ちもあったが、大学を背負って戦うことが出来る、そのチャンスがあるということ。
それだけで、竜の気持ちは高まっていた。凄く…物凄く。
竜は授業が終わると真っ先に学生課へ向かった。コミュ障である自分を押し殺し、いい放つ。
「この大会に出たいです!!」