「もう何年外に出てないだろうか」
声から察するにその男はそう一言発した。
「転移してもう100年くらいかな、言ってもずっとここに引きこもってたから大体だけど」
ふと記憶を辿る。一世紀前の事も鮮明に思い出せる。
これは身体が変わってしまったからなのだろうか?
YGGDRASIL
これは彼が人間時代にプレイしていたゲームだ。
二一二六年に発売されたDMMO-RPGで圧倒的な自由度を売りにしたゲームだった。
RPGは苦手だったが友人に無理矢理誘われる形で遊び始めた。無料じゃなかったらやってなかったかもしれない。
話は約112年前に遡る。
いくら人気のゲームであっても時間の経過による人口の減少は避けられないものであった。
それはYGGDRASILであってもだ。
サービス終了のアナウンスがされた時には
「あぁ終わるのか、それなら久々にやろうか」程度のものだった。
事実彼も最初の数年はやり込み、仕事以外の時は殆どログインしていたのだが、だんだんとマンネリ化して来てログイン頻度は月2回程度まで落ちていた。
それでも引退までいってなかったのは数多くのアップデートやフレンド達がいた(あった)からだ。
一時期他のゲームに浮気していたがやはりそこまで続かなかった。
基本料金無料ではあったがかなり課金していた。
最初は「こんなゲームに課金なんてしないよ」なんて言ってたのに結局課金していた。
それも今日で終わりだ。
サービス終了日
彼はフレンド達と集まって話をしていた
「今日で終わりか〜」
「結構課金したよなwww」
「あー勿体ない」
などとフレンド達と話していた。
別にこれ自体は珍しくない、ここ数年はこの意味の無い会話の為にログインしていたようなものだ。
それでも良かったと彼は思う。
話してるだけで楽しかったし何よりここまでやり込んだのだ。
もう思い残すこともない。そう思っていた。
1人のフレンドが思い付いたように話し出す。
「そう言えばバザーどうなってんの?」
バザーとはプレイヤー間でアイテムの売買が出来る機能である。
「どうせ今頃インフレ起こしてるよ」
「案外誰もいないんじゃね?ww」
などと詮索し始める。
「なら覗いてみるか」
1人の発言で皆がメニューを開く。
バザーは街にもあるのだが彼らは異形種だ。
入れる街も多くないしわざわざPK(異形種狩り)される趣味はない。
「しかし異形種狩りも減ったよな」
「そりゃそうだ、あのDQNギルドのお陰だろ」
「八ギルド連合全滅させたんだろ?そりゃ減るよ」
「マインズウールゴウン様々だな」
「あれ?そんな名前だっけ?」
「違うっけ?言われてみれば違うような…」
「アインズウールゴウンでしょwww」
「そっかそっか」
何でもない会話をしながらバザーを眺める。
「これワールドアイテムじゃんwww」
「まぁ最終日だしね」
「高過ぎだろwwwwww」
「そんな金ないもんなー」
「そりゃそうだ、ここ何年も喋ってるだけだぞ」
「そうかwwwそうだわなwww」
「てか最終日に物買ってどうすんの?」
この一言で皆メニューを閉じ始めた。
「じゃあ花火撃って終わろうか」
「それがいい」
「俺持ってないよwwww」
「ならあげるよ〜」
「これ使った後じゃんwwwwww」
「冗談冗談(笑)」
「ホントかよw」
そして思い思いに花火を撃ち始める。
「じゃあね〜、また別ゲーで〜」
「お疲れ〜」
「乙乙〜」
そして2人いたフレンドがログアウトしていく。
ふと時間を見る
23:32
「まだちょっと時間あるな〜、どうせなら最後まで残るか」
そして立ち上がると全身を眺める。
「こうして見るとデカイな〜」
彼が選択したアバターはクリスタルゴーレム。
身長は3m近くにもなり基礎能力もかなり高い。
しかしながら職業構成はかなりバラバラだ。
回復の出来るゴーレムは珍しいと言う理由で神官系の職業を取ってみたり、意外性のある物ばかりを取得していた。
何でもこなせる万能ゴーレムと言えば聞こえは言いが、実際は90Lvのガチ構成にすら負ける性能でPVPの勝率はほぼ0だ。
それでも楽しかったんだから問題ない。
そう自分に言い聞かせるとアイテムを眺め始めた。
「ガチャの外ればっかだ…」
見ると虚しくなってきてなんだかやるせなくなってきた。
「もういい時間だ」
23:58
草原に寝そべっていろいろ思い出す。
ーー楽しかったなーー
語彙力が無いせいでそれしか思い浮かばない。
でもそれでいい。今までそうだったんだから。
そして時は来る。
ここまで見て頂きありがとうございました。