デート・リ・メイク ~再度奏でしは、精霊との恋歌~   作:角に足当て

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第二話 二重奏〈デュエット〉

 急がなければ、速くしなければ折紙はまた、自分の両親を殺してしまう……‼

 

「確かあの時は…こっちだ!」

 

 あの時は空で戦う折紙とファントムを追いかけていたからよかったものの、今回は琴理の、精霊〈イフリート〉の暴走を止めていたら彼女たちはもうすでに見えなくなっていた。

 

 もしかしたら、折紙はもう……。

 

 頭をぶんぶんと振るいその思考を投げ捨てる。俺らしくもない、あきらめの悪いことで有名な五河士道はどこに行きやがった。

 

 俺はあの時の記憶を頼りに燃え盛る街を駆け抜ける。

 

「見つけた…」

 

 肩口をくすぐるくらいの髪、利発そうな顔立ち。加えて身長は小学生程度。間違えるはずがない、あれは六年前の折紙だった。

 

「折が……」

 

 思わず息を吞んでしまった、なぜなら折紙は、クレーターのように窪んだ場所に居て、辺りには幾つもの『人だった物』があちこちに散らばっていた。

 

 あまりにも凄惨な光景に胃酸が逆流してくる。だが俺は、見てしまった。

 

 折紙が地面を這うかのように両親だった『何か』に縋りついている折紙を、そして歯をカタカタの鳴らし、憎悪の視線を空に向けていたこと。

 

「てん――――し……」

 

 呟かれた折紙の一言。

 

 そして俺は理解した、俺はあいつを守れなかったんだと。

 

「お父……さん、お母、さん……、わ、たし、は」

 

「折紙……!」

 

 どうしたらいいのかまったくわからなかった。何をすればよいのかもわからなかった。だが、彼女を放っておくことは出来ないと、体が半場無意識で動き彼女を抱きしめていた。

 

 憤怒、怨嗟、喪失、そして絶望、荒れ狂う負の感情を抑え込むように、強く、強く抱きしめた。

 

 手が震えてまともに彼女の背中さえ掴めていないかもしれない。

 

 そして、彼女はやっと俺に気付いたのかのように小さく声を漏らす。

 

「……っ、あ、なた、…は……」

 

「大丈夫だ、大丈夫、だから……!」

 

 解っている。その言葉がどれだけ無責任であるかも、しかし俺は、言わずにはいられなかった。

 

 高校生だったころに比べ格段に小さくなった俺の両手で簡単に抱きしめられるような少女が立ち向かい、そして受けるにはあまりにも残酷で、無慈悲だったから。

 

 本来慈悲を与える天使、だが今回はその天使そのものが、まだ少女の域を脱していない彼女にはあまりにも過酷、大きすぎる試練だ。

 

 だが彼女がこれから歩む道のりにも辛く、難しく、厳しい道を俺は知っている。そのたどり着くであろう『事実』も、残酷すぎる結末に、俺は叫ばずにはいられなかった。

 

「折紙……!、お前は気付く、全てに、真実に、だけど、これだけは忘れないでくれ……!」

 

 微かに体を震わせながら彼女は目に水滴を集めていた。

 

「お前は一人じゃない、お前の哀しみも、怒りも全部俺が引き受けてやる……!、困ったなら、迷ったなら、俺を頼れ……!お前の力じゃどうしようもないときは、俺を使え!全部、全部俺にぶつけてくれ!だから、だからお願いだ……!」

 

 折紙を強く抱きしめながら、続ける。

 

「絶望だけは、しないでくれ……!」

 

 折紙は茫然とばかりに俺の言葉を聞いていたが、その目から水滴が溢れる。

 

「―——ぁ、ぅ、ぁ……!うぅ、うぁぁぁ……、あぁぁぁ……!」

 

 俺の服を摑み、胸に顔をうずめると、押し殺したかのような声で泣き始めた。

 

「お父さん……、お母さん……!」

 

「折紙……」

 

 今日だけで二人の女の子の泣いているところを見てしまった。

 

 やっぱり女の子の泣いてる姿は、苦手だな……。

 

 

 

「ありがとう、ございます……」

 

 ひとしきり泣き終えた折紙が小さな声でそう言い、俺の服から手を放し、その場に立ち上がった。

 

 そして涙を袖で拭うと、怨念がこもったような目で空を見つめた後、俺の方にその充血した目を向けてきた。

 

「あなたは……、いったい誰ですか?」

 

「っ、あ、ええと……」

 

 考えてみれば至極当然の質問だ、突然出てきて、名も名乗らず抱きしめたのだ、普通なら不審者と言われ牢屋にぶち込まれるところだっただろう。

 

「俺は……士道、五河士道、近所に住んでいるものだ」

 

「五河…士道」

 

 折紙はくるりと回り、俺に背を向けた。

 

 まるで俺から表情を隠すかのように。

 

「さっきの言葉は、本当ですか?」

 

「ああ……、本当だ」

 

「そうですか、なら……よかった」

 

 折紙は俺に顔を見せないまま、続けた。

 

「私の涙は、貴方に預けます。私の笑顔も、貴方に預けます。喜びも、楽しいことも、全部、預けます」

 

 ここだ、俺は思った、この出来事のせいで折紙は笑わなくなった。泣かなくなった。今の俺なら、折紙の未来を戦いに明け暮れたものから、普通の女の子の生活に戻せるかもしれないんだ。

 

「だから、私が泣くのは、今が最後です。私が笑うのも、これが最後です」

 

 涙に濡れた笑顔を俺に向けてくる折紙。

 

 赤く染まっていた空も、今では青白い光が差し込み、折紙の笑顔をより際立たせる。

 

 ―――ああ、折紙、やっぱりお前は……

 

「だけど、この怒りは、私のもの、この醜い感情だけは、私だけのもの。———私は殺す。あの天使を、どれだけ時間がかかっても。たとえ、どんな手段を使っても。

 だから、待っていてください、私が、あの天使を殺すまで」

 

「駄目だ、それは引き受けられない」

 

「っ、……どうしてっ……!」

 

「俺が預かるのは、後者の感情だけだ、前者の感情は折紙、お前だけのものだ。

 

 あんな綺麗に笑えるのに、復讐なんて似合わない」

 

「っ……、……ありがとう、ございます……」

 

 ダッ、と折紙は走り出した、俺の行動は折紙に通じただろうか?

 

 そうだ、と思い俺はめいっぱいの声で叫ぶ。

 

「俺の家は南甲町二丁目、3—4—2だ、いつでも来ていいからな!」

 

 

 

 一方走っていた折紙は士道の声を聞き

 

「女たらし……」

 

 と呟くのであった。

 




原作との相違点

①士道君折紙夫妻のスプラッタシーンに間に合わない
②ネタバレなので言えない

感想アドバイス、お願いします。

次回予告
「士道……」
「なんでお前がこのクラスにいるんだよ!」

次回、第三話 三重奏〈トリオ〉
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