白猫プロジェクト~賢者と黒竜を従えし者~   作:片倉政実

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政実「皆さん、お久しぶりです、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです。
ようやく今回でアストラ島のNomarl編が終わるんだな」
政実「うん、ちょっと色々あって投稿するのが遅くなっちゃったからね……」
リオス「確かリアルの方が色々忙しかったんだっけ?」
政実「そんな感じだね。まぁ……今はそれなりに落ち着いたけどね」
リオス「ん、了解。
あ、そういえば今回の話では黒竜と前回名前だけ出てきた武器達が出てくるんだよな?」
政実「そうだね。名前とか考えるのはちょっと大変だったけど、それなりの物にはなってると思うよ」
リオス「了解した。
さて、そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第3話をどうぞ」


第3話 カイルとの別れと冒険の始まり

遺跡に向かう途中で出会ったアイリスとキャトラを仲間にし、俺達はキャトラの先導で森の中を歩き続けた。そして歩き続けてから数刻、俺達は目的地である旧古代王朝の遺跡に辿り着いた。

 

「どうやらここがその遺跡みたいだな……」

 

遺跡を見上げながらカイルさんが呟くようにそう言う。そして俺達の方を振り向くと真剣な顔でこう言った。

 

「中にはどんな罠があるかは分からない。皆、気をつけて進むぞ」

「「「はい」」」 「分かったわ」

「うん、良い返事だ。よし、行くぞ」

 

カイルさんの言葉に1度頷き、俺達はカイルさんを先頭に遺跡の中へと入っていった。

 

 

 

 

「この遺跡……まだ殆ど人の手が入っていないみたいだな。探索しがいがありそうだ」

 

遺跡の中を見回しながらカイルさんが笑顔でそう言う。カイルさんの言葉を聞き、俺とナギアも周りを見回した。

 

「確かに壁とかも綺麗な感じがするな」

「崩れてる様子もあまり無いし、誰かがここを訪れたような感じもしないしな」

 

そう周りを見回しながらナギアと話していた時、

 

「(アイリス……気づいてる……?)」

「(……うん。何かしら、この感じ……)」

 

アイリスとキャトラが小さな声で話しているのが耳に入ってきた。

この感じ……か。俺は何も感じないけど、ワイズなら何か分かるかな?

そう思い俺はワイズを取り出し、小さな声で質問をした。

 

「ワイズ、この遺跡について何か分かるか?」

『(申し訳ありません、リオス様……島の事と同様に深い部分については封印がされているようです。ですが……)』

「(どうかしたのか?)」

『(先程から遺跡の奥より何やら不穏な気配を感じます)』

「(不穏な気配……か)」

『(はい。ですので、気をつけて探索をして下さい)』

「(分かった、ありがとな)」

『(いえいえ)』

 

俺とワイズが話し終えた時、カイルさんが俺達に向かってこう言った。

 

「どんな罠があってもおかしくない。皆、焦らず進んでいこう」

「「「はい」」」 「了解したわ」

 

カイルさんの言葉にそう返事を返し、俺達は遺跡の奥へ向けて歩を進めた。

 

 

 

 

「……はぁっ!」

「せいっ!」

「えいっ!」

「そこだっ!」

 

そんな声を上げつつ、俺達は道中の魔物達を手持ちの武器や技で退け、行く手を阻む罠を突破しながら遺跡の中を進んでいた。そしてその内に少しだけ広い場所に辿り着いていた。

 

「ここは広間か……」

 

カイルさんが呟くようにそう言う。そして俺達の方を振り向くとこう言った。

 

「皆、少しここで休憩しよう。まだ先はあるみたいだからな」

「「はい」」

「分かりました」 「分かったわ」

 

そう言いながら俺達は手持ちの武器をしまい、休憩を始めた。

ふぅ……ちょっと疲れたな……

そう思い少しだけ壁により掛かると、背中に背負っていた武器達の固い感触が背中全体に伝わってきた。

む、ちょっと邪魔だな……今だけ壁に立て掛けとくか。

俺はそう思い、バロンさんの工房で受け取った武器達をすぐ近くの壁に立て掛けた。するとそれを見ていたキャトラが突然こんな事を言い出した。

 

「ねぇ、何となく思ったんだけどさ、リオスの武器ってかなり強くない?」

 

その言葉を聞き、俺とワイズを除いた全員が俺の武器に視線を向けた。

 

「確かにそうだな……【バアル・ベルゼ】は遠くから相手を撃ち抜きつつ、様々な状態異常を引き起こしている……正直なところ、そのおかげでかなり戦いが楽になってるしな」

「そうなると……他の武器もかなりの力を持っているのかもしれませんね……」

 

カイルさんはここまでの戦闘を振り返りながらそう考察し、アイリスは他の剣と槍を見ながらそう推察する。

ふむ……そう言われると俺もちょっと気になるな。

そう思った俺はワイズを取り出し、武器についての質問を始めた。

 

「ワイズ、【バアル・ベルゼ】以外の武器について教えてくれるか?」

『かしこまりました。それでは……まずはその剣からにいたしますね』

「これだな?」

 

俺はそう言いながら傍らに立て掛けた剣を手に持った。剣の刀身は綺麗な銀色をしていて、鍔の片側には天使の羽を思わせる装飾があり、鍔と柄の間には透明な球体が収まっている。

 

『はい。その剣の名は【ソードオブマギア】と言いまして、埋め込まれているオーブの力により、炎と水と雷の魔力を放つことが出来るようです』

「放つ、ってことは剣をかざせば炎とかが出てくるのか?」

『はい。更にはその魔力を刀身に宿す事も出来るようです』

「そしてその状態で相手を切りつけると、同時に炎とか雷のダメージを与えることも出来るって事か」

『その通りです。

さて……次はそちらの槍ですね』

「これだな」

 

俺は剣を再び立て掛け、その隣の槍を手に取った。槍は綺麗な青色をしていて、銀色の穂には同じように銀色の斧のような刃が付いていた。そして穂の根元には【ソードオブマギア】同様に透明な球体が収まっていた。

 

『そちらの槍の名は【グラントスピア】と言いまして、先程の【ソードオブマギア】と同様に埋め込まれているオーブの力により、周りの味方に様々な影響をもたらす性質を持っているようです』

「様々な影響?」

『はい。例えば……周りの味方の武器に炎の魔力を宿らせ、その味方自身の力も高めたりと言ったところでしょうか』

「つまりは味方の武器での攻撃力の上昇と武器への魔力の付与を同時に行えるって事か」

『その通りです。そしてこの槍は形状上、何かに騎乗した状態で振るうのが望ましいと思われます』

「何かに騎乗した状態……」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に竜の姿が浮かんだ。

もしかしてこの槍ってそのためにあるのか……?

そう考えていた時、

『リオス様……? どうかされましたか?』

 

突然ワイズの心配そうな声が聞こえ、俺の意識が引き戻された。

もしかしたら俺が黙り込んだ事で、俺に何かが起きたと思ってくれたのかもしれないな……

そう思った俺は落ち着いた声でワイズにこう返した。

 

「大丈夫だよ、ワイズ。ちょっと考え事をしてただけだからさ。それよりも武器について教えてくれてありがとな」

『いえ、それが私の役目ですので。もしまた何かありましたら、遠慮無く訊いて下さい』

「分かった、その時はよろしくな」

『かしこまりました』

 

ワイズとの会話を終え、俺はワイズを懐にしまうと同時に、カイルさんは立ち上がり俺達を見回しながらこう言った。

 

「よし……皆、そろそろ探索を再開するぞ。準備は良いか?」

「はい」

「もちろんです!」

「私も大丈夫です」 「アタシもオッケーよ!」

「分かった。それじゃあ出発しよう」

 

こうして俺達は再び遺跡の探索を始めた。

 

 

 

 

俺達が再び魔物達を退けつつ、罠を突破しながら遺跡の奥へ進んでいると、突然目の前に大きな壁画が現れた。

 

「こ、これは……!」

 

そう言いながらカイルさんが壁画の近くまで寄り、壁画を調べ始めた。それを見て俺達もすぐに壁画まで近づいた。するとそこにはよく分からない文字と2匹の猫と島のような物の絵が刻まれていた。

この島みたいなのが飛行島……なのか?

俺がそう考えながら眺めていると、

 

「解読するのに、何十年かかるか……それに、この壁画……間違いない。飛行島だ!」

 

壁画を調べていたカイルさんが大きな声でそう言った。

そっか、やっぱりこれが飛行島か。でもこの2匹の猫はいったい何を表しているんだ?

俺がそう考えていると、アイリスが壁画を見ながら呟くようにこう言った。

 

「―敬愛する君へ。これを読んでいるとき、きっと―」

 

その様子を見てカイルさんが驚きの声を上げた。

 

「読めるのか!? はるか昔に失われた言葉だぞ?」

「……わかるんです。なんとなく。……続き……読みますね」

 

そう言うとアイリスは壁画に刻まれた文章の続きを読み始めた。

 

「―罰を受けよう。禁忌を犯した報いとして―

―闇を抱え永遠へさまようことが償い―

―悠久の果て、もし君がこの地を訪れたなら―

―それはさらなる罪の始まり―

―その日がこないことを願い―

―ここに、光の翼を封印する―」

 

文章はそこで終わりなのか、アイリスは静かに口を閉じた。

 

「光の……翼?」

 

カイルさんがそう呟くような声で言うと、

 

「ここ……」

 

アイリスが壁画のある部分を指差しながら俺達にそう言った。そしてアイリスが指を差した部分には飛行島の絵があった。

 

「飛行島……この遺跡に封じられてるっていうのか!?」

 

カイルさんが再び驚きの声を上げている中、アイリスはジッと壁画を見つめていた。

 

「……アイリス?」

 

その様子を見てキャトラが不思議そうにアイリスの名前を呼んだ。しかしアイリスはそれには答えず、壁画を見つめたまま言った。。

 

「こう……でいいのかな……

×△※×□○♯%!”」

 

すると突然地震が起こり、それと同時に壁画が音を立てながら崩れ始めた。そして完全に崩れた時には俺達の目の前に広間の奥へと続く道が現れた。それに驚く俺達をよそにアイリスは小さな声で呟いた。

 

「―君が、光の翼を望むなら―

―その名を祭壇に刻め―」

 

そう言い終わるとアイリスは俺達の方を振り返りこう言った。

 

「……行きましょう。この奥に、光の翼が―飛行島が、あるはずです」

 

アイリスはそう言うが、正直なところ俺達はここまでの展開に未だ驚いたままだった。しかしカイルさんだけはすぐに落ち着いた様子に戻り、アイリスに返事を返した。

 

「あぁ、そうだな。せっかくアイリスが先へと進む道を見つけてくれたんだ、ここで進まない手は無いな」

 

そして俺とナギアの方を向くとこう言った。

 

「行こうぜ、2人とも。この先にある飛行島を見つけるためにさ」

 

カイルさんの言葉に俺とナギアは1度顔を見合わせた。そしてどちらとも無く微笑むとカイルさんにこう言った。

 

「「はい、もちろんです!」」

 

俺達の返事にカイルさんは微笑みながら1度頷くと、現れた道の方へ再び顔を向けた。

 

「よし。皆、行くぞ」

「「「はい!」」」 「了解よ!」

 

カイルさんの言葉に大きく返事をし、俺達は遺跡の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

ゴゴゴゴ……

新たに現れた道を進む俺達の耳にそんな音が聞こえてくる。

さっきの地震がまだ続いてるのか……

 

「地震……やまないね。大丈夫かな。いきなりグシャッと潰れたりしないよね?」

 

キャトラもそう思ったらしく、不安そうな声でそう言う。

 

「耐えてもらわなくては困る。まだまだ調査したいところが山ほどあるからな」

 

キャトラの言葉にカイルさんがそう返す。そしてそのまま進んでいくと、俺達の目の前に大きな扉が現れた。

 

「あのトビラ……どうやらあそこが最終地点みたいだな。飛行島―いよいよか」

 

カイルさんが扉を見ながら真剣な声でそう言う。

いよいよ飛行島とのご対面か……カイルさんじゃなくても緊張するな……

ふと隣を見ると、ナギアとアイリスも緊張した面持ちで扉を見つめていた。

 

「よし、開けるぞ」

 

カイルさんの言葉に俺達は何も言わずに頷く。カイルさんはそれを確認すると静かに目の前の扉を開き、俺達は扉の向こうに足を踏み入れた。しかし扉の向こうにあったものは……

 

「ドラ……ゴン? 冗談だろ、なんでこんなところに!」

 

俺達の目の前に現れたのは、目的の飛行島では無く、禍々しい気配を放つ紫色のドラゴンだった。

ワイズの言ってた不穏な気配ってコイツのことだったのか……!

 

「光の翼の……守護者?」

「ど、どど、どうしよう。逃げた方がいいよね、きっと!」

 

アイリスが目の前のドラゴンを見ながら呟き、キャトラが慌てながら俺達にそう訊く。

しかし……

 

「グオオオオオッ!!」

 

ドラゴンは敵意を隠すこと無く俺達に向かって咆哮する。

 

「逃がしてくれるつもりは無さそうだな」

 

その様子を見たカイルさんが武器を構えながらそう言う。それを見て俺は【バアル・ベルゼ】を、ナギアも手持ちの武器を構える。

 

「ごめん……なさい。まさか、ドラゴンが眠っていただなんて」

 

アイリスが申し訳なさそうにそう言うが、カイルさんはニッと笑いながらこう返した。

 

「オレはオレの意思でここに来た。別にアイリスのせいじゃないさ」

 

そして俺達の方を向くと真剣な顔になりこう言った。

 

「リオス、ナギア、いくぞっ!」

「「はい!」」

 

こうして俺達とドラゴンの戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 

 

「くらえ、『トルネードスピア!』」

「そこだ! 『ダブルスラッシュ!』」

 

ドラゴンに近い場所でカイルさんが槍で突き刺し、ナギアが剣を振るう。だが……

 

「グゥ、グオオオオオッ!!」

 

ドラゴンは先程と変わらぬ様子でその場に立ち、再び俺達に向けて咆哮する。

 

「くっ! 俺達の攻撃が効いてないとでも言うのかっ!?」

「ダメージは確実に入ってる筈なのに……!」

 

カイルさんとナギアがドラゴンの様子を見てそう言う。

普通の攻撃があまり効いてない……それなら別の手段で!

 

「ならこれはどうだ!『ヴェノムスナイプ!』」

 

俺は【バアル・ベルゼ】から毒の力を宿した矢を数発ドラゴンに向けて放った。放った矢は全てドラゴンに当たり、瞬時にその効力が表れた。

 

「グ……グウゥ……!」

 

ドラゴンは苦しそうな呻き声を上げ始めた。

よしっ、これなら行ける!

そう思った俺はカイルさん達に呼びかけた。

 

「カイルさん! ナギア! 今の内にアイツを!」

「ああ……恩に着るぜ、リオス!」

「今の内に倒してやるぜ!」

 

俺の呼びかけに応えながら、カイルさんとナギアが再びドラゴンに向けて攻撃を仕掛けた。

だがその時だった。

 

「グ……グオオオオオッ……!」

 

ドラゴンは雄叫びを上げながら、カイルさん達を視界に捕らえると、カイルさん達に向けて炎を吐き出した。

 

「なっ!?」

 

カイルさんは瞬時にそれに気づくとすぐさまナギアの前に立ち、防御の姿勢を取った。

 

「カイルさんっ!」

「だい……じょうぶだ……! これしき……耐え……てみせるさ……!」

 

カイルさんはそう言うものの、声が徐々に苦しそうな物へと変わっていく。

これ以上はまずい……!

俺はそう感じ、武器を【バアル・ベルゼ】から【ソードオブマギア】へと持ち替え、ドラゴンに向けて剣をかざした。

 

「これ以上はやらせない! 『ライトニングボルト!』」

 

かざした剣の先から稲妻がほとばしり、ドラゴンの頭部に命中した。

 

「グオォォッ……!」

 

ドラゴンは稲妻が当たった衝撃で少し怯んだ様子を見せた。

この隙に……!

そう思った俺は大声でカイルさん達に呼びかけた。

 

「カイルさん! ナギア! 1度下がってください!」

「ああ、分かった……!」

「くっ、仕方ないか……!」

 

そう言いながらカイルさん達が後ろの方へと下がってくる。カイルさん達に目立った怪我は無いものの、さっきの炎によるダメージでカイルさんの体力はかなり消費しているようだった。

 

「カイルさん、大丈夫ですか!?」

「何とかな……だがあの炎でそれなりに体力を使っちまったみたいだ……」

 

カイルさんの声にさっきまでの元気が無い。

これはかなりまずいな……

俺がそう思っていると、 アイリスがカイルさんの目の前まで進み出てこう言った。

 

「皆さん、少しだけジッとしていて下さい。……『イノセントヒール』」

 

アイリスが杖を構えながら詠唱をした。すると俺達の足元に緑色の魔法陣が現れ、その魔法陣から光が立ち上る。

 

「……ん、さっきより体が楽になったな」

「俺もさっきより体が軽いです!」

 

そう言うカイルさん達の声に元気が戻っている気がする。

これでとりあえず一安心かな。

 

「ありがとう、アイリス」

「いえ、私に出来るのはこのくらいですから」

 

カイルさんからのお礼の言葉にそう返すと、アイリスは真剣な顔になりながら俺達にこう言った。

 

「ここからは私も戦います。いつまでもクヨクヨしてるわけにはいきませんから」

「アイリス……ああ、分かった。一緒に戦おう」

 

アイリスにそう言うと、カイルさんは再びドラゴンの方へと顔を向けながらこう言った。

 

「よし……皆、行くぞ!」

「「「はい!」」」

 

再び俺達とドラゴンの戦いが始まった。

 

 

 

 

「ハアッ、ハアッ……これで……終わりだっ!」

 

そう言いながらカイルさんがドラゴンの体に槍を突き刺す。すると、

 

「グ……グオオォ……」

 

ドラゴンはそんな声を上げ、横向きに倒れ込むと、そのまま動かなくなった。

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……やった……みたいだな……!」

 

カイルさんが息を切らしながら俺達にそう言う。

 

「か……勝ったの……?」

 

倒れ込んだドラゴンの姿を見ながらキャトラがそう訊いてくる。

 

「ああ、そうだ。

リオス、ナギア、アイリス。良く戦ったな。オレ達、もしかしたらいいチームになれるかも―」

 

カイルさんが微笑みながらそう言った時だった。

 

「カイルさん―離れて!」

 

アイリスがカイルさんに声を掛けた瞬間、

 

「グオオオオオッ!!」

 

ドラゴンがいきなり声を上げたかと思うと、突然ドラゴンの体が溶け出していた。

 

「な……なんだコイツ。体が溶けかけて……!」

 

そして溶けていくドラゴンの体から闇のような物が現れ始め、徐々にカイルさんの体を包み込んでいく。

 

「カイルさん!!」

 

アイリスがカイルさんの名前を呼ぶが、

 

「ッ……ぐ……せッ……ッ……!」

 

カイルさんはそんな声を上げながら闇の中へと姿を消した。そしてカイルさんを取り込んだ闇は瞬く間に大きくなり、俺達の姿も飲み込み始めた。

 

「わわわわわ!? か、からだが……うごか……」

「…………っ!」

「いったい何がどうなって……!」

「くっ……!」

 

そう声を上げながら俺達は闇に呑み込まれ、やがて俺達の視界は完全な黒一色に染まった。

……? 俺達、いったいどうなったんだ?

そう思いながら周りの状況を確認しようとした時だった。

 

「リオス……! ナギア……!」

 

声の方に顔を向けると、おぼろげにカイルさんとナギアの顔が目に入ってきた。

よかった……無事だったんだな

 

「……まったく大変なことになっちまったな。どこまで続くんだ、この闇は」

「そう、ですね……」

「……ま、仕方ないか。冒険にアクシデントは付きものだ。……なんてな。悪かったな、巻き込んでしまって」

「そんな……別に良いですよ。な、ナギア」

「リオスの言う通りですよ。カイルさんの言う通り、冒険にアクシデントは付きものですから」

「リオス……ナギア……ありがとな」

 

俺達が闇の中でそう話していると、

 

「カイルさん、リオスさん、ナギアさん! 私の声、聞こえますか!?」

 

俺達の耳にアイリスの心配そうな声が聞こえてきた。

どうやら全員無事みたいだな……

 

「この声……アイリス。君こそ大丈夫か!」

「はい! 少しだけ、待っててくださいね。今、光を……

*×○■!&%$…………」

 

静かにアイリスの詠唱を聴いていると、

 

「不思議な子だ。詠唱の声を聞いているだけなのにどこか安心するような……何者なんだろうな、アイリスは」

 

カイルさんが呟くようにそう言う。

確かにさっきの件といい、今の件といい、アイリスはいったい何者なんだろうな……?

そう思っていると、徐々に視界から闇が消えていき、先程の遺跡の様子が再び目に入ってきた。そして、

 

「おかえりなさい、みなさん」

 

安心したような顔のアイリスとキャトラの姿が見えた。

 

「ありがとう、アイリス。君がいなかったらどうなっていたか」

 

カイルさんがアイリスにお礼を言っていると、

 

「ねぇ、こっちこっち! 外につながってるみたいだよ!」

 

キャトラが来た方とは逆側を指差しながら俺達にそう言う。そしてアイリスも微笑みながら俺達にこう声を掛けてきた。

 

「行きましょう。みんなで、一緒に!」

「ああ……もちろんだ!」

 

俺がそう返事を返すと、アイリス達は1度頷いてから、キャトラの指差した方へと歩いて行った。

 

「よし、俺達も行くか」

「そうだな」

 

俺達もそちらの方に行こうとした時、カイルさんだけは一切動く様子が見られなかった。

 

「カイルさん……?」

 

ナギアが不思議そうな声で訊くと、カイルさんの口から信じられない言葉が出てきた。

 

「悪いな、ナギア、リオス。ここで、お別れだ」

 

カイルさんは目を伏せながら俺達にそう言った。

 

「えっ……?」

「それはいったいどういう……?」

 

俺達がカイルさんにそう訊くと、カイルさんは自分の腕を見せながらこう言った。

 

「これ……見てみろよ」

 

すると、カイルさんの腕からさっき俺達を包み込んでいた闇が姿を現し、カイルさんの半身を包み込んだ。

これはいったい……!

俺がそう思っていると、カイルさんが俺達に説明をしてくれた。

 

「あのドラゴンは、仮の宿に過ぎず、闇こそが……本体だったのさ。そして今度は、オレが宿主ってわけだ」

「そんな……」

「……そうだ、今すぐアイリス達を呼び戻せば……!」

 

俺は急いでアイリス達の元へ走ろうとしたが、

 

「よせ、あの子を呼び戻してももう……遅い」

 

カイルさんが静かな声で俺にそう言った。

 

「でも……」

「それに、闇が……訴えかけてくるんだ。アイリスを殺せってな」

「アイリスを……?」

「ああ。どうやらあの子は、コイツにとって重要なカギを握っているらしい。もう一度あの子を見たら―オレはきっと、オレではなくなる」

「カイルさん……」

 

ナギアが悲しそうな顔でそう呟くと、カイルさんが優しい口調でこう言った。

 

「そんな顔をするなって。念願だった飛行島まで、もう1歩までたどり着けたんだ。冒険家としてはそれで充分だ。本当は最果ての地まで行ってみたかったけどな」

 

そこまで言った時、カイルさんが何かを思いついたような顔になった。

 

「……そうだ、お前達にこれを渡しておこう」

 

そう言いながらカイルさんが四角い物をナギアに手渡した。

 

「カイルさん……」

 

ナギアが呟くようにそう言うと、カイルさんが微笑みながらこう言った。

 

「だからそんな顔をするなって。死ぬって決まったわけじゃない。この闇を押さえ込んだら―オレも後からお前達を追うさ」

 

そして1度言葉を切ると、真剣な顔になりこう続けた。

 

「……振り返るなよ、リオス、ナギア。オレをお前達の足かせにしないでくれ」

「カイル……さん……」

「―さぁ、行け。早く! 早く……しないと……」

 

そこまで言った瞬間、カイルさんの言葉が途切れた。そして、

 

「きさ……ま……ノ……カラ……ダモ」

 

カイルさんの口からカイルさんでは無い誰かの言葉が聞こえてきた。

……くっ、こうなったら行くしかないか!

 

「……ナギア、行くぞ」

「……ああ!」

 

そう言い俺達はカイルさんの方を振り向くこと無く、アイリス達が歩いて行った方へと走り出した。

 

「―さよならだ。リオス、ナギア」

 

走って行く俺達の耳にそんな言葉が聞こえたのを最後に、カイルさんの声は聞こえなくなった。

 

 

 

 

「リオス、ナギア。こっちよ!」

「ほら、早く。ぐずぐずしてたら埋もれちゃうよ!」

「ああ、分かってるさ!」

 

途中で合流したアイリス達と共に遺跡からの道をひた走る。皆、さっきの戦いで傷ついているものの、そんな体を鼓舞し、1歩1歩、振り返る事無く俺達は走り続けた。

すると突然大きな揺れが俺達を襲った。

くっ……! ここまでなのか……!

そう思った瞬間、俺達の視界が光で溢れ、俺は目を閉じた。

 

……? あれ、俺達……生きてるのか?

そう思いながら目を開けると、そこには海や森、そしてどこまでも続く大地があった。

よかった……外に出られたんだな。でも変だな……この光景、まるで上から見下ろしてるような……

隣を見てみると、ナギアも目を丸くしながらその光景を眺めていた。

もしかして今俺達がいるのって……

そう思った時、

 

「びっくりした? 私たち、今……」

「雲の上にいるんだよ!」

 

アイリスとキャトラが俺達のところまで歩きながら話し掛けてきた。

雲の上……てことはやっぱりここが、飛行島なのか……

 

「ねぇ、向こうに見えてるあの島って……」

 

アイリスが1つの島を指差しながらそう言うと、

 

「アストラ……私たちの島よ」

「もしや、とは思ったが……まさか本当に飛行島を起動するとはな」

 

ヘレナさんとバロンさんがそう言いながら俺達のところまで歩いてきた。

って、何でヘレナさんとバロンさんがここに?

 

「どうしてヘレナさんとバロンさんがここにいるんですか?」

 

俺が代表してそう訊くと、バロンさんが落ち着いた声で答えてくれた。

 

「お前たちの帰りがあまりにも遅いのでな。ヘレナと共に後を追ったのだが―よもやこんなことになろうとはな」

 

バロンさんがそう言うと、アイリスが不思議そうな顔でバロンさん達にこう訊いた。

 

「あの……皆さんは……いったい?」

「私はバロン。いにしえの時代の命により飛行島の行く末を見守る者。お目にかかるのは初めてでしたな。白の巫女―アイリス殿」

「白の……巫女?」

 

アイリスが不思議そうにそう言うと、バロンさんは驚いた様子でこう言った。

 

「なんと―自らの過去をお忘れですか? ……ふむ、それでしたらいずれ、私の知る限りをお話しさせて頂きましょう」

「はい、お願いします」

 

アイリスとバロンさんがそう話していると、ヘレナさんが周りを見回しながらこう訊いてきた。

 

「……カイルさんは? 一緒じゃなかったの?」

「っ……!」

 

その言葉を聞き、ナギアが辛そうな顔になる。

……仕方ない、俺が話すか。

そう思い、俺は遺跡に取り残してきたカイルさんの事を話した。

 

「そんな―すぐに助けに戻りましょう!」

 

アイリスはそう言うが、俺とナギアは静かに首を横に振った。

「振り返るな」、そうカイルさんは言っていた。それならば……前に進もう、カイルさんが追い掛けてくるのを待ちながら。

俺がそう決意した時、バロンさんがナギアが手に持っている物を見て、驚いた様子でこう訊いてきた。

 

「これは……ルーンドライバーか? お前達、どこでこれを」

「カイルさんが別れ際に渡してくれたんです。まるで俺達にバトンを渡すかのように……だから俺は、いや俺達は前に進もうと思います。いつかカイルさんが追い掛けてくる日を待ちながら。な、リオス」

「そうだな。前に進まなきゃこれを渡してくれたカイルさんに申し訳ないし、カイルさんの事を裏切ることにもなる。それならカイルさんの言葉を信じて前に進むべきだと思ってる」

 

俺達がそう言うと、バロンさんは1度考え込むような仕草を見せてからこう言った。

 

「決意は固いようだな。よし、今日からお前たちがこの飛行島の所有者―」

 

その時だった。

 

「きゃああああ!!?」

 

突然ヘレナさんの叫び声が聞こえてきた。

 

「どうしたのだ、ヘレナ!」

「ほ、星たぬきたちが……」

 

ヘレナさんが指差す方を見ると、そこには2匹の青い星たぬき達がいた。

青い星たぬきなんて珍しいな……

俺がそう思っていると、

 

「いつの間に忍び込んだ―!? リオス、ナギア、叩き出すぞ!」

「は、はい!」

 

バロンさんとナギアが武器を構えながら星たぬき達へ近づくと、星たぬき達はビクッと体を震わせ、2匹とも体を寄せ合いつつキューキューと鳴きながらブルブルと震え始めた。

……もしかして俺達を襲う気なんて無いのか?

そう考えていると、キャトラが慌てたようにこう言った。

 

「ちょ、ちょっと、2人とも! このタヌキたち……戦うつもりは無いみたいよ?」

「キャトラ―彼らの喋っている事がわかるの?」

 

アイリスの問いかけにキャトラは1度頷くと、星たぬき達の通訳を始めた。

 

「『ボクらはずっと空に憧れていて、島が浮かび上がるのを見て―いてもたってもいられずに飛び乗っちゃったんだ……何でもするから、連れてって!』

―ですって。どうする……?」

「ほう―何でもすると言ったが、お前たち、なにができる?」

「『巣作りで鍛えた力仕事ならまかせて!』って言ってるわよっ~?」

「ふむ―星たぬきたちはみな、人も立ち寄らぬ高所に、丈夫な巣を作る習性を持つと聞いている」

 

バロンさんはそう言うと、俺達にこう提案してきた。

 

「どうだ、リオス、ナギア。彼らに、島の施設建築を任せてみては?」

「俺はもちろん賛成です! リオスはどうだ?」

「俺も賛成かな」

「そうか。ならば、タヌキたち―ちょっと待っていろ」

 

そう言うと、バロンさんは近くの建物の中へと入っていった。数分後、戻ってきたバロンさんの手にはハンマーの付いたヘルメットが2つ握られていた。

 

「お前たちに、これを贈らせてもらおう」

 

そう言いながらバロンさんは星たぬき達にハンマー付ヘルメットを被せていった。

すると星たぬき達は嬉しそうにキューキューと鳴き声を上げながら、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。そしてそれを満足そうに眺めながら、バロンさんが星たぬき達にこう言った。

 

「これからよろしく頼むぞ。今日からここが、私たちのアジトなのだから」

 

バロンさんがそう言い終わると、星たぬき達は俺達の顔を見ながら、再びキューキューと鳴き声を上げた。

 

「キャトラ、星たぬき達は何て言ってるんだ?」

「えっと……『これのお礼に、飛行島に眠る黄金を掘り出すための施設を造るね!』……ですって!?」

「飛行島に眠る黄金か……確かに何かのために金は必要かもな。

……分かった、それじゃあよろしく頼むぞ、星たぬき改めて大工星たぬき達」

 

俺がそう言うと大工星たぬき達は金鉱の建築に取り掛かるべく、島の向こう側へと走って行った。それを眺めていると、ナギアが俺の肩を叩きながらこう訊いてきた。

 

「なあ、大工星たぬき達がどんな風に建築をするのか見に行ってみようぜ!」

「大工たぬき達の建築の仕方か……確かに気になるな」

「へへっ、そう言ってくれると思ってたぜ! それじゃあ早速……」

「ああ、行ってみるか」

 

そう言いながら大工星たぬき達の建築現場に向かおうとした時、突然懐から何かが落ちた。拾ってみるとそれはワイズと一緒に落ちていた横笛だった。

そういえばこれの事をすっかり忘れてたな……

横笛を眺めながらそう思っていると、

 

「リオス、その横笛は何だ?」

 

バロンさんが物珍しそうな目で横笛を見ながらそう訊いてきた。

ふむ……ちょうど良いからこれについて説明しとくか。

そう思い俺はその場にいた全員に横笛を手に入れた経緯について説明を始めた。

 

「なるほど……ワイズと同じ場所にあったものか」

「はい。と言っても吹く機会も特に無かったので、さっきまですっかり忘れてたんですけどね」

 

そう言いながら俺は再び横笛を眺め始めた。

ワイズのそばにあったってことは、これが多分黒竜に関するアイテムなんだろうな……

 

「ねぇ、リオス。せっかくだからここで吹いてみたら? どんな音がするかすごく気になるし」

 

キャトラが興味津々といった様子でそう提案してくる。

まあ……吹いてみるくらいは良いか。

そう思い俺は横笛を吹き始めた。

 

「~♪

……ふぅ、こんなもんかな?」

 

一通り吹き終え、俺は横笛を懐にしまった。

横笛を吹くのは初めてだったけど、意外と吹けるもんだな。

 

「すごく綺麗な音だったわね」

「ふふ、そうね」

「うむ、やはり楽器の演奏というのは良いものだな」

 

皆が次々と横笛の感想を述べていく。

これを機に本当に横笛を始めてみるのも良いかもな。

そんな事を考えていた時だった。

 

「……あれ?」

 

突然ナギアが不思議そうな声を上げた。

 

「どうかしたのか?」

「何か向こうに黒い点みたいなのが見えるんだけど、あれって何だ?」

「黒い点……あぁ、あれか」

 

ナギアが指差す方を見ると、そこには確かに黒い点のようなものがあった。

……って、何か段々大きくなってきてないか?

 

「ねぇ……アタシの見間違いかもしれないけど、あれって……ドラゴンじゃないの!?」

 

キャトラが黒い点らしき物を見ながらそう言い始める。

 

「ドラゴン!? でもどうして……?」

「アタシにも分かんないわよ! けどドラゴンだとしたら一大事よ!」

「む、そうだな。ヘレナよ、お前は建物の中に隠れていろ。リオス、ナギアは迎撃の準備を。そしてアイリス殿には大工星たぬき達に避難するように言って来てくだされ」

『分かりました!』

 

バロンさんの指示に従い、ナギア達が自分達の持ち場へと急ぎ始めた。そんな中、1人だけ動かずにいる俺にナギアが話し掛けてきた。

 

「どうした、リオス。早く迎撃の準備に……」

「皆、ちょっとだけ待ってもらっても良いかな?」

 

俺はバロンさんの言葉に被せるようにそう言った。

 

「……何故だ?」

「少しだけ試してみたいことがあるので」

「……分かった。だがそれが駄目だったらすぐに然るべき手段に出るからな」

「ありがとうございます」

 

俺はバロンさんにお礼を言うと、その場に立ち止まりドラゴンの到着を待った。そしてそれから程なくしてドラゴンが俺達の目の前まで姿を現し、俺達の姿を認めると、俺達のすぐ近くに降り立った。俺は意を決してドラゴンへと近づいた。

 

「なぁ、そこのドラゴン……」

 

俺がそう話し掛けた時、

 

「(……ん? おっ、もしかしてお前が例の笛の持ち主か?)」

 

ドラゴンは突然俺の方を向くとそう訊いてきた。

 

「え? 笛って……これの事か?」

俺は驚きながらも懐から横笛を取り出し、ドラゴンに確認した。

 

「(んー、多分そうだな。すまねぇが、ちょっと吹いてみてもらっても良いか?)」

「……あぁ、分かった」

 

俺はそう返事を返してから横笛を吹き始めた。するとどこからか笛の音色がもう1つ聴こえ始めた。

でもいったいどこから……?

そう思い笛を吹きながら音の出所を探ると、それはドラゴンが首から提げている箱からすることが分かった。

 

「~♪

……っと、こんな感じで良いのか?」

「(おう、バッチリだ!

……てことは、やっぱりお前で間違い無かったみたいだな)」

「間違い無い……って、いったい何の話を……」

 

そこまで言った時、俺はあることに気づいた。

あれ? 何で俺はコイツと会話が出来てるんだ?

気になった俺はそれについてドラゴンに確かめることにした。

 

「なぁ、何でさっきから俺とお前の間で会話が成立してるんだ?」

「(ん? あぁ、その事か。それはコイツのおかげだな)」

 

ドラゴンがそう言いながら首に提げている箱の方に目を向けた。

 

「この箱のおかげ?」

「(ああ。コイツは<ルーンリンガル>って名前らしくてな、何でもこの中にある<翻訳のルーン>の力で俺達ドラゴンとかの言葉をお前ら人間の言葉に直してくれる代物なんだとさ」

「ルーンリンガル……そんな物が……」

「(それにコイツにはもう1つ役目があるみたいでな、誰かがさっきの笛を吹くと、ここの網状になってるところから笛の音が聞こえる上に、首に掛けてるやつの頭に笛を吹いているやつがどこにいるかっていうのが自動的に送られるらしいぜ?)」

「なるほどな……因みにお前はそれを誰から聞いたんだ?」

「(ちょっと前に自称変わり者の老人ってやつが来てな、いきなり「冒険者と一緒に旅をしてないか?」って言ってきたんだ。まぁ俺的には面白そうだと思って即決したら、ルーンリンガルをくれた上に説明をして行ってくれたんだよ)」

「そうだったのか」

 

自称変わり者の老人……アンタ、本当に何者なんだよ……

 

「ね、ねぇ……てことはアンタは敵では無いのよね……?」

 

キャトラがアイリスの陰に隠れながらおそるおそるドラゴンに質問をする。

 

「(んー、まぁそうなるな。それにこんなところで争ったって何の得もねぇ事くらい分かるしな。それに……)」

 

ドラゴンは1度言葉を切ると、飛行島全体を見回しながらこう続けた。

 

「(こんな住み心地良さそうな場所を壊すなんて出来るわけねぇだろ?)」

「アンタ……」

 

そう言うとキャトラはアイリスの陰から離れ、ドラゴンへと近寄った。

 

「見た目はちょっと怖いけど、アンタって実は良いやつなのね」

「(まあドラゴンにも色々いるってこった)」

「そうね。疑っちゃったりしてゴメンね」

「(へっ、別に気にしちゃいねぇよ、にゃん公)」

「にゃん公じゃなくて、アタシはキャトラよ!」

「キャトラな。しっかりと覚えたぜ!」

「分かってくれれば良いのよ!」

 

さっきまでの様子とは打って変わって、キャトラとドラゴンはすっかり仲良くなったみたいだった。

一時はどうなることかと思ったけど、これで一安心だな。

 

「そういえばアンタの名前は?」

「(名前か……そういえば無かったな)」

「あれ? そうだったんだ」

「(今まで俺だけで暮らしてきたからな)」

「そうだったのね……あ、それならリオスに決めてもらったら?」

「(おっ、それもそうだな。形式的にはリオスが俺の主人になるわけだしな)」

「そうゆうこと! さっ、リオス。ちゃちゃっと名前を付けたげて!」

 

ちゃちゃっとって……

俺はキャトラの言葉に苦笑しながら、懐からワイズを取り出した。

 

 

「(リオス、ソイツは何だ?)」

「俺の仲間のワイズだよ。

ワイズ、何か良い案はあるか?」

『そうですね……彼の色である黒色から採るのはいかがでしょう?』

「色からか……確かにその方が良いかもしれないな」

『それでしたら……別の国の言葉ですが黒色という意味を持つ【シュヴァルツ】や【ネーロ】などはいかがですか?』

「【ネーロ】か……それを縮めて【ネロ】とかはどうだ?」

「【ネロ】か。へへっ、何か良い感じだな!」

「そう言ってくれて嬉しいよ。それじゃあ……」

 

俺はネロに手を差し出しながらこう続けた。

 

「これからよろしくな、ネロ」

『よろしくお願い致します、ネロ様』

「よろしくね、ネロ!」

「おう! これからよろしくな!」

 

ネロは俺と握手を交わしつつ、俺達を見回しながら明るく答えた。

何だかこれからの冒険が楽しみになってきたな。

俺がそう思っていると、

 

「ふむ、ルーンドライバーだけでも驚きだが、まさか黒竜まで仲間にしてしまうとはな」

 

バロンさんが俺とナギアとネロを見ながら落ち着いた声でそう言う。

 

「ルーンドライバーだけでもって、これはそんなに貴重な物なんですか?」

「その通りだ。これは世界でも数えるほどしか見つかっていないレアな道具。よほどカイルはお前たちを気に入っていたと見える」

「そうなんですね……」

 

俺はいつの間にか光を放っていたルーンドライバーを見ながら、カイルさんの事を思い出した。

カイルさん……大丈夫なのかな……

ふと隣を見るとナギアも心配そうな顔をしていた。

さっきはああ言ったけど、やっぱり心配だもんな……

 

「この光……いったいどこに向かっているのかしら?」

 

アイリスがルーンドライバーから放たれている光を見ながらそう言う。

 

「飛行島が復活した今―

我々は世界に散らばる七つの大いなるルーンを探し出さねばなりません」

「大いなる……ルーン?」

 

バロンさんの言葉にアイリスが不思議そうな声を上げる。

 

「あらゆるルーンの源となる、強大なルーン。その全てを集めた者のみが世界の果てに浮かぶ約束の地へと足を踏み入れる事が出来るのです。そのルーンドライバーは、大いなるルーンへの道を指し示す道具なのです」

 

これってそんなに大事な物だったのか……

ルーンドライバーを見ながらそう思っていると、アイリスがジッとルーンドライバーを見つめていた。

 

「…………」

「アイリス、どうしたの?」

 

キャトラが不思議そうにアイリスにそう訊く。

 

「ううん……何かしら……この気持ち。私、きっと―」

 

アイリスが何かを言おうとした時、ヘレナさんが明るい口調で皆に呼びかけた。

 

「ねぇ、みんな! 向こうに大きな島が見えてきたわよ!」

「えっ? 本当ですか!?」

 

ナギアはそう言うとヘレナさんが指差す方向へと走り出した。

ナギア……せっかくアイリスが何かを言おうとしてたのに……

そう思いながら呆れ気味にため息をついていると、アイリスが俺の肩を叩きながらこう言った。

 

「さぁ、私達も行きましょう?」

「……だな」

 

アイリス本人がそう言うんだし、さっきの事については次に本人が話そうとした時でも良いか。

そう思い俺もナギアが走って行った方へと走って行った。

 

 

 

 

「おぉー! でっかい島だな-!」

 

ナギアが見ている方を見てみると、そこには1つの島を幾つかの島が囲んでいる光景が広がっており、そしてナギアが手に持っているルーンドライバーの光もその島に向かって伸びていた。

てことはあの島に大いなるルーンがあるのか……

そう思いながら島を見ていると、バロンさんが歩きながら皆に向かって大きな声でこう呼びかけた。

 

「皆、そろそろ到着のようだ。揺れには十分気をつけるのだぞ。

さぁ、着陸だ!」

 

バロンさんの言葉通り、飛行島が目的の島の傍への降下を始めた。

これからこの島で俺達の冒険が幕を開けるんだな……!

俺は自分の心がワクワクしているのを感じながら、心の中でこう叫んだ。

 

『さあ、冒険の始まりだ!』




政実「第3話、いかがでしたでしょうか」
リオス「今回はかなり長い感じだな」
政実「うん……遺跡のところからアストラ島のストーリーの最後までの中にネロの事とかを入れ込んだら、いつの間にか長くなってて……」
リオス「なるほどな。さて、今回でアストラ島のNomarl編が終わったから、今度はイスタルカ島のNomarl編だな?」
政実「そうだね。更新は出来る限り早めにやる予定だよ」
リオス「了解した。
さてと、それじゃあそろそろ締めてくか」
政実「うん」
政実・リオス「それではまた次回」

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