白猫プロジェクト~賢者と黒竜を従えし者~   作:片倉政実

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政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです。
今回は途中で俺視点とナギア視点の話に分かれるみたいだな」
政実「うん。一応、次回の第3話もそうなる予定だけどね」
リオス「ん、了解。
さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「だね」
政実・リオス「それでは、第2話をどうぞ」


第2話 呪われた王子と働き者の娘

 

「……ん」

 

明るい陽の光を感じ、俺はゆっくりと目を開けた。すると、目に飛び込んできたのは、のどかな村の風景や季節を無視した色とりどりの花々、そして俺達とはどことなく雰囲気の違う衣服を身に纏った通行人達、更に遙か遠くにあるとても大きなモミの木だった。

(……あれ、何で俺達、こんなところにいるんだ……?)

そんな事を思っていると、ナギアがわけが分からないといった様子で話し掛けてきた。

 

「……俺達、さっきまでディオニスさんの屋敷で皆とクリスマスパーティーをしてたよな……?」

「ああ、でもここは……」

 

明らかにさっきまでいた場所とは違う場所の様子に俺達が戸惑っていると、突然ディオニスさんが驚愕の表情を浮かべながら大きな声を上げた。

 

「なっ……! なんて事だ……! ここは……!」

「明らかに本の中ね……!」

 

ディオニスさんの言葉にキャトラが少し緊張した様子で答えたその時、ルーシーとエシリアがとても嬉しそうな様子で声を上げた。

 

「えっ!? ここ、ご本の中なのだ!?

わ~いなのだ~!」

「ここ、本の中か~♪ へへへ~♪ おっもしろ~い♪」

 

ルーシー達が楽しそうにはしゃぎ出すと、シャオフーさんが静かな声でルーシー達に話し掛けた。

 

「これこれ、あんまりはしゃぐと転ぶでのぅ」

「うーん……たしかにこの衣装だと、ちょっと走り辛いでござる~」

「フラン、子供に張り合っても敵わないんだから、止めておきなさい」

 

レンファさんがフランに対して静かに言っていると、この皆の様子を見たメルクリオが片手で頭を抑えながら理解出来ないといった様子で独りごちた。

 

「なんだこの者達……! この不可解な現象に、一切疑問が湧かないのか!?」

 

(まぁ……その気持ちは分かるけどな)

メルクリオの様子を見ながら苦笑いを浮かべていると、

 

「――はっ!?」

 

突然シズクさんが大きな声を上げた。そしてすぐに隣に立っていたシズクさんの竜―シュゴウの方へ視線を向けた。

 

「……どうやら、私はまたふにゃふにゃとしていたようですね。

シュゴウ、ありがとうございます」

 

シュゴウに対してニコッと笑いながらお礼を言った後、シズクさんは周りをキョロキョロと見回しながら不思議そうに声を上げた。

 

「ところで……ここはどこですか?」

「絵本の中の世界でござる」

「なるほど。把握しました」

 

シズクさんがすぐにその事を理解すると、メルクリオが大きな声を上げた。

 

「おいっ!? そんな簡単に納得するのか!?」

 

(……メルクリオがツッコミをしてくれる分、凄く楽になるな……)

そんな事を考えていると、難しい顔をしていたディオニスさんが静かに口を開いた。

 

「言い伝えの通りだ……

こうなってしまっては、俺達がここから出るには――」

「出るには……?」

「この物語を、終わらせなくてはならない!」

「この……」

「物語を……」

「終わらせる……?」

 

俺達が不思議そうにしていると、ディオニスさんが静かな声で語り始めた。

ディオニスさんの話によると、この本は、結末を封じられた呪われた本であり、誰もこの本の終わりを知らない。

そして本に誘われてしまった者は、この物語をハッピーエンドに導くまで外に出ることが出来ないとの事だった。

(結末を封じられた呪われた本……それなのに、ハッピーエンドに導かないといけないって……)

 

「<祝福されし最後のページ>……それを作り上げるしか、ここから出る方法は無いのだ……」

 

ディオニスさんが暗い顔で語り終えると、メルクリオがマントを広げながら自信満々な様子で言い放った。

 

「ふん。簡単なことだ。ここは本の中なのだろう? それならば元々のストーリー通りのシーンを作れば良いだけじゃないか」

「メルクリオ、この本の終わりを誰も知らないって、ディオニスさんが言ってただろ?」

「何だと!? それじゃあ、分からないではないか!」

「だから、みんな困ってるんだよ……」

 

俺がため息をつきながら言っていると、ルーシーとエシリアが楽しげに笑いながらはしゃぎ始めた。

 

「わーい! 祝福されるのだー!」

「へっへへ~♪ エシリア、そ~ゆ~の得意だもんね~♪

行こっ、ルールー♪」

「うんっ! なのだ~!」

 

そしてエシリアとルーシーは手を繋ぎながら村の奥の方へと走り出してしまった。

(はぁ……こういう時の個人行動はマズいだろうに……)

俺は心の中でため息をついていると、

 

「これこれ、勝手に行ったら、迷子になってしまうぞぇ~」

「あっ! こらっ! 僕を置いてくな!」

 

シャオフーさんがエシリア達を追うために歩き出し、それを追う形でメルクリオまでもが歩いて行ってしまった。

(ふぅ……しょうがないか)

心の中で静かに呟いた後、俺はナギア達の方を向いた。

 

「皆、とりあえずここは二手に分かれよう。走って行ったエシリア達の事を放っておけないし、皆で一緒に動くよりは分かれて情報収集をした方が良いからな」

「たしかにそうだけど……組み分けはどうするんだ?」

「俺はエクセリアとネロとラピュセルと一緒にエシリア達を追う。だからナギア達はディオニスさん達と一緒に情報収集を頼む」

「分かった。それじゃあ、集合場所は……」

 

ナギアは遠くに見えるモミの木を指さしながら言葉を続けた。

 

「あのモミの木のところにしようぜ」

「分かった」

 

相談を終え、俺はエクセリア達の事を見ながら声を掛けた。

 

「よし……それじゃあ、行こう!」

「はい!」

「(おうよ!)」

「♪」

 

そして俺達は、ルーシー達の後を追うべく、ネロ達の背に乗って走り始めた。

 

 

 

 

リオス達が走って行った後、俺は皆とこれからのことについて話すため、皆の事を見回した。

 

「さてと、先に情報収集をしててくれって言われたけど……どうやって情報を集めたら良いのかな……」

「うーん……終わりを誰も知らないわけだから、この世界の人に訊いたところで、知ってる人がいるわけは無いわよね?」

「うん……」

「そうですね……」

「その通りでござる……」

 

(うーん……本当にどうしたら良いのかな……)

俺達が少し途方に暮れかけていた時、ディオニスさんが顎に手を当てながら静かに呟いた。

 

「いや……まったく手がかりが無いわけではないぞ?」

「ディオニス、何か考えでもあるの?」

 

キャトラが不思議そうに訊くと、ディオニスさんは静かに頷きながら答えてくれた。

 

「ああ、まあな。

皆はこの本のタイトルがどんなものだったか覚えているか?」

「たしか……『あるあるおうじとまんぞくひめ』ですよね?」

「ああ、そうだ。本のタイトルにもなっているという事は、この二人はこの本の世界において重要な人物、つまり……」

「なるほど、そのあるある王子またはまんぞく姫のどちらかに該当する人物を捜し出せば……!」

「<祝福されし最後のページ>に少しでも近づけるかもしれないでござる!」

「その通りだ」

 

シズクさん達の言葉を聞き、ディオニスさんが深く頷いた。

(たしかにそうだ。タイトルにもなってるくらいだし、あるある王子とまんぞく姫の二人はこの世界の中ではとても重要な人物のはず。だからそのどちらかに会うことさえ出来れば、<祝福されし最後のページ>に少しでも近づけるかもしれない……!)

ディオニスさん達と話し、これからの事について、少しだけでも前進したような気がしたその時、近くから誰かの声が聞こえた。

 

「――もし?」

 

声がした方に向いてみると、そこには左右に分かれた茶色の三つ編みの優しそうな笑みを浮かべた女の人が立っていた。女の人は俺達の姿をジッと見つめながら少し首を傾げて言葉を続けた。

 

「あなた方は……旅人様でございますか?」

「旅人……まぁ、そうね。そういう風に言えなくも無いわね」

 

キャトラが答えると、女の人はニコッと笑いながら優しい声で言った。

 

「それでは、見知らぬ土地で何かと不便もあるでしょう。

わたしはナンシー。よろしければ、皆様のご案内をさせては頂けませんか?」

「そんな。初対面の方に、迷惑を掛けるわけには……」

 

シズクさんが申し訳なさそうに断ろうとすると、女の人―ナンシーさんは笑顔を崩すことなく答えた。

 

「面倒などではありません。

私は――満足しておりますから」

 

(満足……それって……)

ナンシーさんの口から溢れたその言葉が少し気になっていると、ディオニスさんが静かな声でナンシーさんに返事をした。

 

「分かった。では、案内をお願いしよう、ナンシー殿」

「はい。それでは、どうぞこちらへ」

「ああ」

 

ナンシーさんの後に続いて歩き始めた後、キャトラが小さな声でディオニスさんに話し掛けた。

 

「ねぇ、ディオニス。ナンシー本人がああ言ってたとはいえ、案内をお願いしたのは、流石に悪かったんじゃないの?」

「たしかにそうだと思う。だが、さっき彼女の口から溢れた、『満足』という言葉を聞いた瞬間、彼女と共に行動をした方が良いと感じたのだ」

「『満足』……それは、もしや……」

「ああ。もしかしたら勘違いなのかもしれないが、少なくとも可能性があるのなら、それに乗ってしまうべきだからな」

「なるほど……」

 

俺は呟くように言いながら、俺達の前を歩くナンシーさんに視線を向けた。

(ナンシーさんが俺達の探しているまんぞく姫かは分からないけど、とりあえずここはディオニスさんの言う通り、付いて行ってみるのが一番みたいだな)

そんな事を考えながら、俺は皆と一緒にナンシーさんの後を付いて行った。

 

 

 

 

ナンシーさんに案内をしてもらいながら村の中を歩いていると、村人の一人がナンシーさんの顔を見て不思議そうに話し掛けてきた。

 

「あら、ナンシー? そちらはお客様?」

「はい、ご案内しているところなんです」

「そう。ところで、後でどぶさらいをお願いできる?」

「はい、分かりました」

 

ナンシーさんが微笑みながら返事をすると、それに気付いた別の村人がナンシーさんに近付いてきた。

 

「おお、ナンシー。後でウチの子のお守りをお願いできるかな?」

「ええ、任せて下さい」

 

すると、それを見た他の村人達までもが次々とナンシーさんに頼み事を始めたが、ナンシーさん本人はニコニコとしながらその頼みを次々と聞き入れていった。

(なんだろう……何でかは分からないけど、ナンシーさんの様子に妙な違和感を覚えるな……)

俺が小さく首を傾げていると、村人達との話を終えたナンシーさんにキャトラが少し驚きながら話し掛けた。

 

「ちょっとちょっと、ナンシー? 流石にヒトが良すぎない?」

「何がでしょう?」

「何がって……あんなに村人達からの頼みを安請け合いしちゃってる事よ!」

「……ああ、その事ですか」

「その事ですかって……」

 

ナンシーさんの言葉にキャトラが唖然としていると、アイリスが申し訳なさそうな顔でナンシーさんに声を掛けた。

 

「あの……お忙しいようでしたら、私たちの案内は……」

「いいえ、私は大丈夫ですので、お構いなく」

「そうは言われても……何だか悪いわ」

 

レンファさんが申し訳なさそうな様子を見せたけれど、ナンシーさんは笑顔のままで返事をした。

 

「何も悪いことはありませんよ。私は満足していますから」

「うーん……それなら……良いでござるが……」

「ああ……そう、だな……」

 

フランとディオニスさんの言葉を聞くと、ナンシーさんはニコニコとしたまま俺達の案内を続けた。

 

「さあ皆様、こちらです」

 

そしてナンシーさんは村の色々なところを指さしながら言葉を続けた。

 

「空気も自然も人も素晴らしい、私の自慢の村なんです。

皆様、どうぞごゆっくりしていって下さいね」

 

ナンシーさんの様子に、何か引っ掛かるものを感じながらも、俺達はそれについては何も言わずにナンシーさんの案内を受けながら村の中を歩いて行った。

 

 

 

 

ルーシー達を追うためにナギア達と別れ、ネロ達に乗って走り出した後、俺達は村の様子を眺めながら先に行ってしまった皆のことを探していた。

 

「さて……早く皆を見つけないと……」

「そうですね……あまり遠くに行っていないと良いんですけど……」

「(ルーシー達はともかく、シャオフーとメルクリオならそろそろ見つかるんじゃないのか?)」

「だと良いけどな……」

 

エクセリア達と話をしつつ、村の様子を眺めながら歩いていたその時、道の先の方に見覚えのある姿が見えてきた。

 

「あれはもしかして……」

「(ああ、メルクリオとシャオフーみたいだが……)」

「どう見ても……メルクリオがシャオフーさんを負ぶってるような……?」

(何があったのかちょっと気になるし……メルクリオ達を拾うついでに何があったのか訊いてみるか)

俺達は顔を見合わせながらコクンと頷いた後、ゆっくりとメルクリオ達に近付き声を掛けた。

 

「メルクリオ、ちょっと待ってもらっても良いか?」

「ん……いったい誰だ……って、何だ、ようやく来たのかお前達」

「ようやくって……お前なぁ」

 

メルクリオの言葉に俺が苦笑いを浮かべていると、負ぶさっていたシャオフーさんが俺達の方へゆっくりと振り返った。

 

「おやおや、誰かと思うたらぼん達じゃったのか」

「(そうだぜ、シャオばあちゃん。ばあちゃん達がルーシー達を追ってった後、俺達はナギア達とこれからのことについて急いで話してから、ばあちゃん達の事を追ってきたんだ)」

「そうじゃったのか……それは他の皆にも申し訳ないことをしてしまったのう……」

「あ、いえ……シャオフーさん達がルーシーさん達を心配して追って行ってしまった事を、皆さんはしっかりと分かっていらっしゃいますから、大丈夫ですよ」

「エクセリアの言う通りですよ、シャオフーさん。だからこの事についてあまり気にしないで下さい」

 

俺とエクセリアの言葉を聞くと、シャオフーさんは目を細めながらそれに答えた。

 

「ありがとうね、ぼん達。ぼん達は本当に優しいのう」

「いえいえ。

ところで……シャオフーさんはどうしてメルクリオに負ぶさっているんですか?」

「それがのう……あの子らを追っていったまでは良かったんじゃが、途中でちょっと動けなくなってきてしまったんじゃ。じゃがその時に、この子が自分から負ぶってくれると言ってくれてのう」

「……動けないまま放っておくわけにいかなかったからな。だからこんな形で追うことにしたわけだ」

「なるほどな」

 

シャオフーさん達の説明に俺が納得していると、ネロがメルクリオのことを見ながらニヤッと笑った。

 

「(へぇ~……)」

「な、何だ……」

「(いや~? メルクリオにも良いとこがあんだなぁ~……と、思ってな?)」

「お、お前はぁ……!」

 

ネロの言葉を聞き、メルクリオはシャオフーさんを落とさないように気を付けながらネロに対して静かに怒りだした。

(まぁ、メルクリオの気持ちは分かるけど……今はルーシー達を探さないといけないし、とりあえず止めないとな)

俺はネロの背中から降りた後、ネロ達の間に立ってからメルクリオに頼み込んだ。

 

「メルクリオ、頼む。ネロには後でちゃんと言っておくから、ここは矛を収めてくれないか」

「お前……」

「(リオス……)」

 

メルクリオはネロと同時に呟いた後、一度深く息を吐いてから、俺の後ろにいるネロに声を掛けた。

 

「おい、黒竜――いや、ネロ」

「(……ああ)」

 

ネロが静かに返事をした後、俺の陰からゆっくりと顔を出した。そしてメルクリオとネロは同時に息をつくと、同時に口を開いた。

 

「ネロ、ムキになってすまなかった」

「(メルクリオ、からかいすぎてすまん)」

 

メルクリオ達は同時に言い終えると、揃って俺の方へと顔を向けた。

 

「リオス、恩に着るぞ」

「(リオスがああ言ってくれたおかげで、俺は……いや、俺達はこうやってお互いに謝れたからな)」

「……どういたしまして」

 

メルクリオ達の言葉を聞き、俺は小さく笑いながら返事をした。

(本当はそういうつもりで言ったわけじゃないんだけど……まあ、良いか)

俺は心の中で結論づけた後、俺は皆に話し掛けた。

 

「それじゃあ、ルーシー達探しを再開しようと思うんだが、その前に……」

「何だ、何か気になることでもあるのか?」

「せっかく皆で行動するわけだから、メルクリオ達もネロ達に乗ってもらおうと思ってな。それにメルクリオもシャオフーさんを負ぶって疲れてるだろうし」

「なるほどな……まあ、僕はまだまだ体力に余裕はあるが、そういう事なら乗ってやる事にしよう」

「わしもそれで大丈夫じゃ」

「分かりました。エクセリア達も大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。ね、ラピュセル?」

「♪」

「(もちろん、俺も大丈夫だぜ?)」

「分かった。それじゃあ……メルクリオは俺と一緒にネロに乗ってくれ。そしてシャオフーさんはエクセリアと一緒にラピュセルの方へお願いします」

「ああ、分かった」

「ふぇっふぇっふぇっ、了解じゃ」

 

そして俺はメルクリオと協力してシャオフーさんをラピュセルに乗せた後、メルクリオと共にネロに乗り、再びルーシー達を追うために村の中を進み始めた。

 

 

 

 

ルーシー達の捜索を再開してから数分後、俺達は村の外れ辺りにまで来ていた。

 

「ルーシーさん達、一体どこまで行ってしまったのでしょうか……」

「そうじゃのう……ケガとかをしてないと良いんじゃが……」

「ふん、アイツらならその心配は無いだろう。

それよりもリオス、今度はあのモミの木の辺りに行ってみてはどうだ?」

「モミの木か……たしかによく目立つから、興味を持って走って行ったかもしれないしな。

よし……それじゃあ、次は……」

 

俺が進路をモミの木へと変えようとしたその時、ネロが何かを見つけたように声を上げた。

 

「(……おい、お前ら。あそこにいるのってアイツらじゃねぇか?)」

「え?」

 

ネロの視線の先に俺達が顔を向けると、そこには仲良く手を繋ぎながら走っているルーシー達の姿があった。

 

「あ、本当ですね」

「どうやらそのようだな。

……まったく、世話の掛かる連中だ」

「ふぇっふぇっふぇっ、でもケガとかがなさそうで良かったわい」

「そうですね。

よし……それじゃあ、早速……」

 

俺達がルーシー達の方へ走り出そうとしたその時、ルーシー達の前方にある建物の陰から誰かがゆっくりと姿を現し、そのままルーシー達とぶつかった。

 

その様子を見て、ネロが小さくため息をついた。

 

「(……まったく、前も見ずに走るからそうなんだろうがよ……)」

「まあまあ。その事は後にして、まずはルーシー達のところへ行こうぜ」

「(まあ……そうだな)」

「よし……それじゃあ、改めて行こう」

 

皆が頷いたことを確認した後、俺は皆と一緒にルーシー達のところへと走って行った。

 

「(おーい! ルーシー! エシリア-!)」

 

走りながらネロが声を掛けると、ルーシー達はクルッと俺達の方を振り向いた。

 

「あーっ! リオス達なのだ-!!」

「あ、本当だ~♪」

 

ルーシー達が大きな声を上げている内に、俺達はルーシー達の所へと辿り着いた。そしてネロ達から降りた後、俺は少し呆れ気味に声を掛けた。

 

「あ、本当だ~、じゃなくてさ。

ダメだろ、勝手に走ってったら……」

「ごめんね、みんな~……」

「みんな、ゴメンなのだ……」

「(まったく……まあ、ケガとかはねぇみてぇだから良いけどな)」

「そうだな。

さて……」

 

俺は次にルーシー達がぶつかった獣人らしき男性の方へ顔を向けた。

 

「すいませんでした、俺達の仲間がご迷惑をかけてしまったようで……」

「ふん! 仲間だというのならば、しっかりと見ておくことだな!」

「はい、本当にすいませんでした……」

 

俺が謝りながらその男性に頭を下げると、メルクリオが不審そうな声で男性に話し掛けた。

 

「……ところで、お前は何者だ? 服装から察するに……その辺の村人とかでは無さそうだが」

「……俺か、俺はアルカ。王子のアルカだ」

「ふん……王子か」

 

メルクリオは男性が王子だと知っても、平然とした様子で返事をしたその時、突然アルカ王子がメルクリオのことを見ながら大きな声を上げた。

 

「む、貴様!」

「何だ、やる気か!?」

「『普通にしているのに、偉そうにしていると言われる!』

こういう事って、あるよなぁ!?」

「……何の事だ?」

 

突然の問い掛けにメルクリオが少し戸惑いの表情を浮かべたが、それも構わずアルカ王子はまた大きな声を上げた。

 

「良いから答えろ!」

「……まあ、たまにな」

「そうだよなぁ!?」

 

メルクリオの返事を聞き、アルカ王子は少しだけ喜びが混じったような大声を上げたが、すぐにまた不機嫌そうな表情を浮かべた。

 

「……フン!」

 

アルカ王子は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、別の方向に向かって歩き去って行った。

(……今の王子の言葉を考えるに、たぶんあの王子がそうなんだろうな……)

 

「あれ~? あの怪獣さん、何か様子が変だね~?」

「どうしたのかのぅ?」

「変なのだー」

 

アルカ王子が歩いていった方を見ながら、エシリア達が不思議そうに話していると、メルクリオが鼻を鳴らしながら話し始めた。

 

「ふん、察しの悪い奴らめ。我には先が読めたぞ」

「さき~?」

「ああ。リオス、エクセリア、ネロ。お前達もわかっているだろ」

 

メルクリオの言葉に俺達は静かに頷きながら答えた。

 

「ああ、アルカ王子はメルクリオに『あるある』って共感をして欲しかったんだと思う。つまり……」

「奴はこの本の主要人物、『あるある王子』である可能性が高い」

「そして俺達は、『あるある王子』と『まんぞく姫』を捜し出す必要がある」

「つまり、奴を導くことが、『祝福されし最後のページ』への手掛かりというわけだ」

「おお-!!」

「おお~!!」

 

俺達の予想を聞き、ルーシー達が顔をぱあっと輝かせた。

(まあ、あくまでも予想に過ぎないけど、可能性は高いはずだ)

ルーシー達の顔を見ながらそう考えていると、シャオフーさんが感心したように声を上げた。

 

「ふぇっふぇっふぇっ、ぼん達は賢いのぅ」

「いえ、そんな事は……」

「ふん、当然だ」

 

俺達の対称的な答えを聞いて、ネロがジトッとした目をしながらメルクリオに話し掛けた。

 

「(メルクリオ……少しは謙遜したらどうなんだ?)」

「ふん、当然の事を当然と言って何が悪い」

 

メルクリオの反応を見て、ネロが諦めたように呟いた。

 

「(まあ……良いか。

さてと……とりあえずあの王子を追うとするか)」

「そうだな。

よし……それじゃあ行くぞ、皆!」

 

皆が頷いたのを確認した後、俺は皆と一緒にアルカ王子の後を追い始めた。

 

 

 

 

アルカ王子を追って皆と一緒に走っていたその時、少し先の方で村人に向かってどすどすと歩いていくアルカ王子の姿が見えた。

(あの様子だと、あの村人にメルクリオにしたのと同じような質問をしようとしてるみたいだな)

アルカ王子の様子を見ながら静かに考えていると、アルカ王子が大きな声で村人に話し掛け始めた。

 

「おい! そこのお前!」

「は、はい、何でしょう……」

「『せっかく並んでたのに、自分の目の前で売り切れてしまう!』

こういう事って、あるよなぁ!?」

 

アルカ王子が強い口調で訊くと、村人は震えながら小さな声で答えた。

 

「は、はは……そうですね、ありますね……」

「そうだよなぁ!?」

 

アルカ王子は強い口調で言った後、静かに自分の手などを見ていたが、すぐに不機嫌そうな顔になると、村人を睨みつけながら大きな声を上げた。

 

「……行け!」

「は、はい!」

 

村人は震えながら返事をすると、逃げるようにして走り去っていった。

(さて……そろそろ話し掛けてみるか)

俺はアルカ王子との距離を縮めながら声を掛けた。

 

「さっきぶりですね、アルカ王子」

「さっきの連中か……俺に何の用だ?」

「はい。王子がこのメルクリオやさっきの村人に質問をしている理由を教えてもらいたいんです」

「その事か……お前達に話したところで意味は無いと思うが……まあ、良い。話してやる」

 

アルカ王子は少し声を低めながら言葉を続けた。

 

「……俺は、誰もが『あるある』と共感する話を探している」

「誰もが『あるある』と共感する話……」

「だが、何のためにそんな事を?」

 

メルクリオが不思議そうに訊くと、アルカ王子は自分自身を指差しながらそれに答えた。

 

「見ろ! 俺のこの姿を!

皆が恐れ、忌み嫌う、醜い怪物のこの姿!

これは呪いなのだ!」

「ふぇー? 呪い、とな?」

「そうだ! 魔女に掛けられた呪いだ!

これを解くためには、誰かと心から共感する事が必要なのだ!」

「だから、メルクリオさんや村人の方に質問をして、共感をしてもらおうとしていたのですね……」

「ああ!

……これで良いだろう、俺は忙しいんだ、さっさと去れ!」

 

アルカ王子はイライラした様子で言い放つと、他の村人の所へと歩き去って行った。

(心からの共感、か……)

アルカ王子の言葉を心の中で繰り返していると、メルクリオが静かな声で呟いた。

 

「……下らん悩みだな」

「そうとも言えないのだ」

「ルーちゃん?」

 

シャオフーさんが首を傾げていると、ルーシーがポツリポツリと話し始めた。

 

「誰かに分かって欲しいって、気持ちって、きっと持っているのだ。ルーシーは、シスターにわかって欲しいし、シスターのことをわかりたいのだ」

「ルーシーさん……」

「それと同じなのだ。悪魔も同じなのだ。きゅうけつきにはないのだ?」

「……無いな」

 

メルクリオがそっぽを向きながら答えると、エシリアが小さく笑いながら声を掛けた。

 

「えっへへ~強がってるね~?」

「そんな事ないっ!!」

「(へへっ、どうだかな?)」

「そんな事無いって言っている!!」

 

エシリア達の言葉にメルクリオが怒りながら答える中、エクセリアとシャオフーさんがアルカ王子を見ながら心配そうな様子で話し始めた。

 

「あの王子様、大丈夫でしょうか……」

「そうじゃのぅ……あのぼんは、ちょっと乱暴のようじゃからのぅ。

見てみぃ、話しかけられた村人が、怯えておるわぃ」

 

俺達がアルカ王子の方へ視線を向けると、シャオフーさんの言う通り、話しかけられている村人達の顔には、恐怖の色が浮かんでいた。

(……あれじゃあ、いつまで経っても心からの共感なんて得られそうもないな)

俺は一度フーッと息を吐いた後、皆に声を掛けた。

 

「皆、ナギア達との集合場所に行く前に、アルカ王子の事を何とかしてみよう」

「はい、このまま放ってはおけないですから!」

「(アイツをどうにかしねぇと俺達も帰れねぇからな!)」

「うんなのだ! ルーシー達で助け船を出してやるのだ!」

「ちっ……仕方ない。ここを出るまで、辛抱してやるか」

「ふぇっふぇっふぇっ、わしらで精いっぱいあのぼんを支えてやるかのぅ」

「はい。

よし……行こう」

 

皆が頷いたのを確認した後、俺は皆と一緒にアルカ王子の所へと歩いて行った。




政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
リオス「この調子だと……4話くらいで終わる感じなのか?」
政実「恐らくそうなるかな。もっともまだ断言は出来ないんだけどね」
リオス「分かった。
さて……次回の投稿はいつくらいになりそうなんだ?」
政実「まだ未定だけど、出来る限り早めに投稿する予定だよ」
リオス「了解。
そして最後に、この作品への感想や意見もお待ちしています」
政実「よし……それじゃあそろそろ締めよっか」
リオス「ああ」
政実・リオス「それでは、また次回」

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