とある箱庭学園の生徒物語   作:じょーく

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「何? モデルになってほしい、だと?」

「黒神ちゃんに?」

 

 夕原 兆。一年十二組の特別芸術家で芸術部。

 コンクールに出展する作品を描くつもりが、良いモデルが見つからず、黒神ちゃんに頼むことにしたらしい。

 

 ちなみに、僕はそんなに絵は好きじゃない。下手な絵をいくら描いたって無駄だと思ってしまうからだ。

 そりゃあ何時間も、何日もかけて無駄だ、と思いながら描いている人の絵が、写真を超えるような絵を描けるはずもないだろう。

 

 だけどそれが分かっても思ってしまう。不思議。

 

「モデル? いいだろう」

「いいんだ」

「やるぞ」

「やる気だね」

「やらせろ」

「命令するほど!?」

「やらせれば?」

「本当にやらせてくれるか心配になっちゃったんだね!」

 

 確かに、モデルというのは同じポーズをとり続けるので、想像以上に辛い仕事だ。何も訓練をしていない人がしたら、大の大人でも20分から30分が限界だろう。

 

 しかし、それは一般人の例で今回モデルをやるのはあの黒神ちゃんだ。簡単にその願いは叶えてくれると、別に大丈夫かと思われた。

 いや、確かに『女神の浜辺』というテーマだからってこの場でいきなり制服を脱いで下着姿になって水着に着替えようとした黒神ちゃんには気絶しそうになって大変だったけど……。まあその話を抜きにすれば、他は別に問題ないかと思われた。

 

 が。

 

「駄目だァ!」

 

 黒神ちゃんを描いている途中、依頼者である夕原君はいきなり立ち上がり、先程まで描いていた絵を床に叩きつけた。

 

 ああ、もったいない! せっかく上手くできてたのに。

 それを捨てるなんてとんでもない! だよ。

 

 途中までスラスラと描いていたのに何所をミスしたのか気になり、僕は有原君が床に投げつけた絵を拾って、絵を見てみるが、別に失敗したような場所は見つからなかった。写真と比べても上等だ。

 

「描けない、僕には黒神さんが描けない!」

「ああ? 何言ってんだ、いい絵じゃん」

「うん、確かにそっくりだし、良いんじゃあないのかな?」

 

 その絵には、モデルである黒神ちゃんが写真に負けないぐらい、そっくりに描かれている。素人目からしても上手いと思うが、それでも夕原君は納得いかない様子だ。

 

「いや、人吉クン、空クン。俺には夕原クンの言っていることがよくわかる」

 

 えー、いい絵じゃーん。もちろん贔屓をしている訳ではないが上手い、少なくとも僕より上手い。

 ……自分で言って悲しくなってきたな。

 

「この絵はめだかさんの『美』を表現し切れていない! モチーフ以上のものを描かなければ絵画とは言えんのだ!」

「その通りです。モチーフの通り描きたいのなら、写真でも撮ればいいんだ。僕たち芸術家は常に、現実の上を行かなければならない」

 

 僕の絵は常に下をいってる訳だ。

 よろよろと夕原君は立ち上がり、黒神ちゃんに指を指しながら言い放つ。

 

「つまり、完成した美であるところの黒神さんには、芸術性がない!」

「……美しすぎる美は逆に駄目、って何か皮肉だね」

 

 それとなく、黒神ちゃんをフォローしてみるが、黒神ちゃんはどうする? 怒る? 怒るなら逃げるよ。

 だけどそれはさすがにないようで、黒神ちゃんは怒る気配など微塵も出さず、長い沈黙の後、静かに笑った。

 

 僕は念のため、黒神ちゃんが怒ってもすぐ逃げられる様スタートダッシュの構えを取りながら黒神ちゃんを見ていた。だがそれはないようだ。怒ったりすねたりしないなんて、黒神ちゃんも成長したな。

 そして、なんとなくそのまま黒神ちゃんを見ていると、黒神ちゃんは壁の前にまで歩き、手の平を壁につけ、頭を下げて……って。

 

「めだかちゃんが落ち込んだーっ!」

 

 駄目だ、思ってより傷ついてたみたいだよ黒神ちゃん!

 

「夕原くーん、もうちょいオブラートに包んであげて。一応、お願いしてる立場なんだしさ」

「芸術家とは勝手なものだよ守原くん。否! 勝手でなければ、芸術家ではない!」

「えー」

 

 本当に勝手! でも勝手じゃなくても芸術家だと思うな、僕は!

 それでもやっぱり、この絵では納得してくれないので、仕方がなく、善吉と阿久根先輩と僕とで緊急会議を始める。 

 

「どーします。阿久根センパイ」

「どーするも何も。めだかさんがあんな感じじゃ、俺達が代わりのモデルを捜してくるしかないだろう」

「オッケー。黒神ちゃんは善吉に任した」

「オーノー。面倒事を任された」

 

 それにしても代わりのモデル、ねえ。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

「ってな訳で,頼みに来てみましたよ諫早先輩」

 

 そんなわけで、来てみました校庭へ。

 放課後という事で、陸上部も現在絶賛活動中。見渡す限り活気溢れながら真剣に部活の練習に取り組んでいて、応援の声や賑やかな声が僕の耳に届く。諫早先輩も先ほどまで練習をしていたのだろう、うっすらと額に汗が浮かんでいる。

 

 僕の知り合いの女性で、モデルを頼める人といったらこの人だろう。別に頼めるような女性が他にいないわけじゃないぞ!

 ……ごめんなさい。ウソでした。

 

「はぁ! モデル!? 水着で!? 嫌に決まってるでしょそんなの!!」

「う」

 

 驚きと怒りが混ざったような顔で、諫早先輩は僕に断りの言葉を一気に畳み掛けた。僕はそれに思わず怯んでしまう。

 先輩だからという意識もあってか結構怖い。

 

「そこをなんとかお願いしますよ、この通り。黒神ちゃん意外に頼める女性なんてあなたぐらいなんです」

 

 不知火ちゃん? いやいや無理だろ。

 有明先輩? ちょっと恥ずかしい。

 赤さん? 代わりに病気をお土産に貰っちゃうなあ。

 太刀洗先輩? 今日は休み。

 他は……いないなあ。

 

 やっぱり女性の知り合いが少ない僕。友達が少ないわけじゃないんだからね!

 まあ。

 女性の知り合いが少ないのは本当なので、仕方がなく、渋々と、僕は諫早先輩にもう一度頼みながら軽く頭を下げる。

 

「本当に頼みますよ。他に美人で、スタイルも良くて、頼めるような先輩なんていないんですよ」

 

 諫早先輩の体つきは健康的だ。

 骨格を柔らかな脂肪でしっかりと包み隠し、その上からそっと筋肉が置かれている。高校生の中でもスタイルの良い体に分類されるだろう。

 

 さっき言った美人で、スタイルの良いと。言ったのは半分本音、半分お世辞。

 まあ、こんなバレバレのお世辞で引き受けてくれる人なんて、そうそういないんだろうな。

 

「ま、まぁ。そこまで言うならやってもいいかな」

 

 いたよ、いちゃったよここに。

 なぜか嬉しさよりも残念さのほうが勝るという、珍しい体験をした僕。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 善吉は黒神ちゃんの肩をポンポンと叩きながら慰めていた。

 そして、まだ落ち込んでいる黒神ちゃんの向こう側のドアから、阿久根先輩が現われて鍋島先輩を連れてきて入った。

 つまり。

 

「アスリートと! ファイターの! 夢の共演や!!」

 

 柔道部と陸上部とのコラボ。こんな豪華な共演にいったい誰がケチをつける!

 

「次の方、お願いします」

 

 …………oh

 

 

 さてはて。

 僕の視界に壁に手をついて落ち込んでいる女性が3人。

 一人は箱庭学園生徒会長黒神めだか。

 一人は反則王と名低き異名を持つ鍋島先輩。

 一人は陸上部の諫早先輩。

 言っちゃあなんだがどの人もちょっとやそっとの事では傷つかないような女性ばかりだ。その3人を傷つけたのは僕等と同じ一年生の文化部さんと言うんだから驚きだ。

 

 勝手な夕原君は、落ち込んでいる3人の女性たちに慰めの言葉をかけず、自分がなぜ描けず終わったのか、その理由を話し始めた。

 

「芸術は人を脅すための道具ではない、というのが僕の持論です。正直、あの2人はちょっと怖いです」

 

 アスリートとファイターじゃ駄目だったか……。柔道も陸上も自分の肉体を強化するスポーツだし、確かに怖いかもなー。

 

「どうする、生徒会始まって以来の強敵だよ」

「どうするも何も……、次の方を連れてくるしかないんだが……」

「諌早先輩でダメって言われちゃったら……心当たり、全然ないんだけど」

「俺も鍋島先輩はかなりの切り札だったんだがな。さらに違うタイプとなると…………」

「一人もいないかもなあ」

 

 うーん。

 

 思

 考

 中

  。

 

「あ、そうだ! 迷い犬の時の秋月先輩!」

「思い出した! ラブレターの時の八代先輩だ!」

「! 上無津呂先輩がいた!」

 

 猫耳髪型系年上空手少女万歳!

 

――――断られました。

――――うん。俺も。まあそうだよね。

――――猫さんごめんなさい。

 

 絵以前の問題でした。

 

「もう、終わりか……」

 

 完全に手詰まりだ。

 だが、その言葉を拒否するよう、一人の女性が立ち上がった。

 

 え? いや、まさか、そんなバカな!? だってこの子は……。

 

「…………貴様達は、間違っている」

「く、黒神ちゃん! あそこから立ち上がったのか!」

 

 なんと、立ち上がったのは第一の犠牲者であった、黒神めだかだった。どうやら、ダメージは抜けていないようでフラフラしているが、あそこから立ち上がるなんて……。さすがは僕等の生徒会長!

 

「灯台下暗しとはよく言ったものだ。違うタイプというのなら適役がおろう」

「適役? どこにそんな人が……」

「発想は大胆に転換してこそ発想だ! 我が箱庭学園生徒会には、貴様達がおるではないか!!」

 

 ま、まさか……。

 

「生徒会を執行する!」

 

 逝ったー! 男2人。善吉と阿久根先輩のダブルショットだー! さすが黒神ちゃん。この発想はなかったぜ!

 

「お……。おおおお! 面白いように筆がすすむ! 描ける! 描けます。描けまくります!」

 

 そして、その言葉通りに、目に見えて描くスピードが上がっている。これはもしかして、もしかするのか!?

 

「……けど、こんなもん描けたからってなんだってんですか」

 

 そう言って絵を床に投げつける。

 ああ、……そのままでいいや。

 拾いには行かない、だって行く意味がないでしょ。それを捨てるなんてとんでもなくない!

 

「うむ、テーマは『女神の浜辺』だったな」

 

 女神なんて一欠けらもいないね。女ですらない。これじゃあ男神? ってことになるのかな。……祈りたくない神様だなあ。

 

「とするとだ」

「?」

 

 まだ策があるのか?

 心の中で他に誰がいるかを考えてみるが、僕には思いつけない。

 この場には女性が3人に先ほど終えた男性が2人。

 他に誰が? ……あ。

 黒神ちゃんの口が開き始めた瞬間に僕は全てを察っし、窓へと走り出す

 

「空、出番だぞ!」

「おっといけない! もうすぐ不知火ちゃんと買い食いする時間じゃないか!? 残念ながら今日はこれでさよならだね。じゃあ!」

 

 すぐさま窓のある方へと走り、そこから脱出しようと試みるが、先程までモデルだった善吉と阿久根高貴先輩により止められた。しまった、自分がもうやられたからって、犠牲者を増やそうとしてやがる!

 

「「まあまあ」」

「放して! もう男じゃあ無理だってわかったじゃん!? 意味ないじゃん!」

「何事もチャレンジだ!」

「絶対に無理だとわかるものをチャレンジとも挑戦とも言わない。自滅というんだ!!」

「「まあまあ」」

 

 この2人は!!

 2人に怒りを覚え、怒鳴りつけたい衝動にかかれるが、僕の服を脱がそうとしている黒神ちゃんにより、中断されてしまう。。

 

「ちょっ、待って! わかった! 自分で着替えるから!」

「む、私は別に構わんぞ」

「僕が構うんだ!!」

 

 あれ、でも待てよ。

 ざわ……ざわ……。

 その思考に誰かがざわめくような音が聞こえてくるような気さえする。それほどまでに逆転の一手を見つけた。

 そうだ、僕には。

 

「そういえば僕水着なんて無いよ」

 

 神はいた! 救いの神様はいたんだ!

 

「安心しろ、私が持っている」

「なんで!? しかも女性物じゃん!」

「こんなこともあろうかと……な」

「僕が変態になることを予測していたとでも言うのか!」

 

 神は死んだ! 僕の目の前で!

 

「え? マジでその水着着るの? 女性物だよ? 僕変態さんの仲間入りになっちゃうよ?」

「そうか、着替えるのに慣れていないか」

「慣れたくもないし、慣れるつもりも無い!」

 

 警察にご厄介になる予定も無い!

 

「では、私が着替えさせて……」

「うわーん! わかったよちくしょー!」

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

「う~、なんでだ……」

 

 まだ日が明るい上に、女性物の水着。人前で人肌をさらす恥ずかしさと女性物を着る恥ずかしさに、思わず背を丸め、顔を熱くする。

 今なら黒神ちゃんの、平気で肌をさらせる所をすごいと心の底から思える気がする。

 

「………………」

 

 何か言ってくれ……。

 

「に、似合ってるよ~」

「お似合いやなー」

「可愛いぞ!」

「それも止めてくれ!」

 

 せめて似合わないって言って欲しかった!

 

 そう付け加えてから僕が視線を下に向けて見ると、なんと水着を着ている男がいた。しかも女性物を着ていた。変態がいた。僕だった。

 少し自己嫌悪に似た感情を抱き、もはや罵って欲しい感情が出てきて善吉と阿久根先輩の方を、どうぞこの女性物の水着を着ている僕を罵ってくれという願いと共に見る。

 

「……空、実はお前めちゃくちゃ可愛いぞ!」

「そんな事を言われても!」

「今回は僕もそれを認めるしかないようだね、完敗だ……」

「こんなにも相手の負けを認めさせたく無いって思ったのはこれが初めてだ!」

 

 めちゃくちゃショック!

 そんな僕に黒神ちゃんが扇子を開き一言。

 

「ふむ、やはりもう少し露出の多い水着の方が……」

「よーし、モデルをやるぞー!」

 

 黒神ちゃんの恐ろしい一言を聞き、早く終わらせなければいけない事がわかった僕は、きちんと胸をはって、モデルを務めようとするが……。

 

「うぅ~~」

 

 やはり恥ずかしく背を丸めてしまう。

 女装する時点で変態なのに、堂々としたらもっと変態になってしまうよぅ。

 

「もう、このまま描いて……」

 

 どっちみち駄目なんだから……。

 もういい、色々諦めた。

 

「お、おおおおお!! 描けます! 描けますが、惜しい!!」

「ちょっと待て」

 

 自分が今、どんな格好をしているのかも忘れて、夕原君の言葉を止める。

 惜しいってなんだ!? 惜しいって!!

 

「少なくとも今までのモデルよりは良いとわかるのですが……」

「待って! それ以上言わないで!!」

 

 傷ついてるから! 言葉という凶器が刺さってるから!

 後ろの3人が落ち込んでいた方を見てみると、さらにその下を行く落ち込みようの女性達。

 

「大丈夫ですか! 諌早先輩!」

「鍋島先輩! 今までの練習を思い出してください!」

「黒神ちゃんもそんな複雑な顔しないで!」

 

 くっ、ペンは剣よりも強しって言葉がわかったよ。芸術家は何て強敵なんだ。

 

「……僕が惜しいって、じゃあ誰なら良いの?」

「それが分かれば苦労しないよ。『これだ!』というモチーフに出会えるまでは、芸術家は闇を彷徨うだけなのさ――――」

 

 これ以上闇に彷徨わせて、犠牲者も過剰攻撃の回数も増やさせてたまるか! だれかいないのか? だれか!

 ……なんて願っても無駄だよなあ。

 そうして諦めかけたその瞬間、突然扉が開いた。

 

「ひっとあきくーん! まだお仕事終わんないのー? 早く買い食いしに行こーよー!」

「そうきたか」

「あれれ? 守原さんが変態さんにクラスチェンジしちゃった?」

「好きでなったわけじゃない! そしてさりげなく友達じゃないふりをするな!」

「ああ、悪いな不知火。まだまだかかりそうだから今日は先に帰ってて――」

 

 その善吉の言葉を遮り、夕原君が奇妙な言葉を出し始める。

 

「こっ、こっ、こここっ」

 

 こここ?

 鶏の物真似でもしてるのか? いやそれは無いか。

 

「これだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

――――――ええええええええええええええ。

 

 この場にいる6人の心が一つになった。

 もちろん心を読む力など僕には無いから、そんな事は分かるはずが無いのだが、少なくとも僕はそう感じた。感じざるをえなかった。

 

 だってあの不知火ちゃんだよ!

 胃袋意外は小さいって有名な、あの不知火ちゃんだよ!

 黒神ちゃんも鍋島先輩も諫早先輩も駄目なんて、勝手な事ばっかり言ってたのに。あの不知火ちゃんを……。

 

「イッツ! ショー! ターイム!!」

 

 どこからともなく取り出した、水着と浮き輪。それを不知火ちゃんに着させる。

 早着替えと言うには早すぎる。目に追えなかった。

 

「? ? ?」

 

 やばい、幼女にしか見えない! 下手したら警察を呼ばれる! 警察さんご厄介になりまーす!

 それにしても不知火ちゃんが水着姿になっても気絶しなかった僕はどうやらロリコンではないらしい。

 あれ、ロリコンってなんだっけ?

 いやっほーい。

 

 いきなりの事で思考が錯乱している僕と、いきなりの事でついていけてない不知火ちゃんを無視して、夕原君は勝手な批評を述べた。

 

「そのあどけなき横顔! 寸胴のようなボディ! 未成熟な四肢! これまでのモデルとは較べるべくもない! これこそが芸術だ!!」

 

 再び、3人の女性に言葉という名の凶器が刺さった。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 夕原君はどうやら、『可能性』という女神を描きたかったようで。

 つまり、黒神ちゃんや先輩方の成長を終えたような女性じゃ無理なわけだった。

 そして、僕には男性を超えた性別の可能性を見出してしまった事から黒神ちゃん達よりも惜しい、という事になったらしいが……。どちらにせよ迷惑な話だ。

 

「というわけで不知火はその後、食券五百円分と引き換えにモデルをつとめあげて、夕原は無事にコンクールに出品できました……って」

「黒神ちゃーん、聞こえてるー? 生きてるー?」

 

 五百円の女神に負け、心に深い傷ができた黒神ちゃん、及び先輩方。

 夕原君に代わりに心の中で謝ります。本当に、申し訳ございませんでした。

 

「……ふん、今回は完全に不知火にもっていかれたな。生徒会執行部として、不甲斐ないばかりだ」

 

 本当にごめんなさい。

 

「……でも夕原の奴はそうは思ってないみたいだぜ?」

 

 そう言いながら善吉は、手元にある絵を机の上に出して、黒神ちゃんに見せる。

 

 あれ、これって……。

 

「見ろよ、これお礼だってさ」

 

 そこには諫早先輩、阿久根先輩、鍋島先輩に黒神ちゃん、善吉、不知火ちゃん。そして僕。の絵が描かれていた。

 いずれもそっくりに描かれているが、写真とは違い、声が聴こえてきそうな程の、その場面が繰り広げられている所を脳内で再生する事が容易な程の出来栄えだった。

 

 

 

 芸術家はやっぱり僕とは違うようだ。

 

 

「あいつ、描きたくない絵は描かないんだろ?」

 

 

 

 僕と違って芸術家は、勝手気儘に、今日も人を笑顔にする素晴らしい絵を描いているのだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

「……私より、不知火と空のほうが前にいる!」

「拗ねた!?」

 

 成長してねー!

 

「良いもん! 空の水着姿は描き終えて貰ったから!」

「良くねえ! 可愛い子ぶりながら何を言ってるんだ!」

 

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