「部活動対抗水中運動会?」
「な、なにそれ」
「お前は知ってんだろ」
認めなない、運動会があと少しで始まるなんて、僕は認めないぞ。運動会なんて大嫌いだ!
「いや、部活限定だよ。ちゃんと聞いとけ」
「……また、顔にでちゃった」
僕はこの前、太刀洗先輩に顔に出やすいと指摘されたので、それを直そうと努力している。
だが何年もそのままなのでやはり、そう簡単には直らないみたいで大変だ。だけど僕、どんな顔してるんだよ。運動会があとちょっとで始まることを嫌がっている顔って、何なんだよ。
まあいいや、これからじっくり直していこう。
「じゃあ、話しを戻すぞ」
そして善吉は、僕と不知火ちゃんに話し出す。これまでの経緯を――。
というのは嘘で、適当にザックリと説明をした。
「こないだ完成した、バカでけえ屋内プールがあっただろ。次の日曜にそこでイベント開催して、優勝した部が増額予算総取り、って段取りだ」
――……また水着か!
――また水着だ!
逃げよう。
「ふぅ~ん。でも、それじゃあ水系の部活が有利じゃない?」
「カッ! その辺はちゃんと考えてるよ」
あくまで公平に。
予算の文句が多いことから、今回のイベントを企画したが、その前に全員が全員公平に。そして、もともと交流会みたいなイベントだったので、楽しめることが前提だ。
「水中パン食い競争とか、水中棒倒しとか、泳ぎとあんま関係ねー競技しかやらねーつもりだし」
これを聞くと、陸上でやれよ。と言いたくなるかもしれないが、それでは陸上部が有利になってしまう。それにプールを新設したのに全然活用しておらず、もったいない。という依頼というかアドバイスを目安箱から頂いたので、必然的にこうなった。
そして、不知火ちゃんは本日十二個目のドーナツに手をかけてから、返事をする。
「ふっうぅ~~~~ん」
長いな。
言葉も溜めも。
「……なーにー、不知火ちゃん?」
「別にー、なんでもないよー♪」
嘘を吐け。
それを聞いた善吉は、自分のアイディアも入っていたのもあってか、すねて、そっぽを向いてしまった。
「たっだー。場所が水中じゃあ、公平なんてありえないんじゃあないかしら? って言いたいだけだよーん☆ 何せ箱庭学園には、金にうるさい三匹のトビウオがいるからさ」
「え! 人間以外の生物でも参加できるの!?」
「……空ってさー。時々バカっていうか、天然だよねー」
天然?
失敬な! 北北西から見ても頭の良くてハンサムで、背が高くて、体重も人並みで、細マッチョでモテモテな人生を歩んでいる僕に、そんなもの入っている訳が無い。というのはもちろん嘘なんだけど。
多分、全部間違ってる可能性もある。
悲しい可能性だ。
「ま、せいぜい用心しとけば? あのお嬢様は
□ □
■ ■
今回の水中運動会、ルールは大まかに分けて3つ。
一つ――代表者4名の参加。
二つ――男子生徒へのハンデ加算。
三つ目は――、
『参加することに意義がある。そう思って欲しい』
黒神ちゃんが、集まったみんなにマイクを通して言った。
『貴様達には今日は楽しんで帰ってほしい。そこで私は、楽しい楽しい、愉快なボーナスルールを提案する』
楽しい楽しい。
愉快な愉快な。
ボーナスルール。
文字ならば何とも思わないような言葉。だが、今の黒神ちゃんには、笑みが――怪しい笑みが浮かんで見える。
『この水中運動会には我々、生徒会執行部も参加する!』
……代表者4名。
生徒会会長。黒神めだか。
生徒会庶務。人吉善吉。
生徒会書記。阿久根高貴。
……おっかしいなー! 一人足りないぞ!
『また、生徒会よりも総合点が高かった部はその順位に関わらず、私が私財を投じ』
そこで黒神ちゃんは一度言葉を切る。
空気を吸って。
言葉を溜めた。
『無条件で予算を三倍としよう!』
……あれ?
大変な事になってきた?
かくして、楽しい楽しい
こう書くと、もう一話が終わるように思えるが、そんな事はない。
まだ、始まったばかりだ。
むしろこれからだ。
僕の地獄の水中運動会は。
「空君の質問コーナー! 答える人は生徒会メンバーだ!」
「わー! ぱちぱちぱちー」
「はい、じゃあ本日のお便りはこちら! 善吉君、なんで空君はまた、女物の水着を着ているのでしょうか!?」
「変態だからです! でも、空ちゃん超可愛いー!」
躊躇なく突き落した。
50メートルプールから大きな水柱が立ちのぼり、雨のしぶきが周りに飛んで、きれいな虹を描くと、しぶきが当たった人も、当たっていない人も、小さな歓声をあげた。
「……次」
「……空クンが女顔だからです!」
正解には不正解が付き物だ。
不正解には罰ゲームが付き物だ。
罰ゲームにゲームは別に必要ない。
「いいかげん正解がホシイナー」
「……私が女物の水着を用意した!」
「貴様が全ての元凶か!」
プールに浮かんでいる2つの死体を背に(別に突き落しただけだけれど)、僕は黒神ちゃんに襲いかかった。
そもそもの話、僕が、水着に着替えなくちゃいけなくなったのも、黒神ちゃんが、生徒会執行部も参加する、などという戯言を仰ったからだ。
代表者4名。生徒会執行部は3名。
まあ、僕が参加するのは百歩譲っていいだろう。
だがなぜか僕は
それなら水着に着替えなくても良いのに。空君は律義! というわけではもちろんない。
僕が水着になるために、まず、男子更衣室に入ってから(ただし男子生徒のみんなと入るのは黒神ちゃんに止められた)上の服を全部、脱ぎます。
次に、下の服も脱ぎます。
するとあら不思議。僕の脱いだ上下の制服と、男性用の水着がないじゃあないですか!
しかもご丁寧に女性用の水着、スクール水着が置いてありましたとさ。
「ふざけるな、僕の服を返せ。僕を常識人として見る、みんなの目を返せ!」
「反省はしてない。後悔もしていない!」
「反省はしろ。後悔はもっとしろ!」
「はっはっはー。それにしても私に抱きついてくるなんて、空は甘えん坊だなあ」
僕は抱きつこうとして抱きついたわけじゃない。
僕が襲い掛かると黒神ちゃんは、一気に間合いを詰めてきて。僕が手を前にやっていたのを、右手は右方向に、左は左方向に変えて、まるで、抱擁をするために向かったのかのようになり、僕はそのままの勢いを止められず、黒神ちゃんに抱きついたようになってしまった。たった数秒の出来事。
「見ろ、あの有明先輩の顔。僕を少しは尊敬してたのかもしれないのに。もう、可哀想な子としか見られて無いよ!」
「可愛い子だろ?」
「それも嫌だ!」
「あ、赤先輩。撮影はよしてください」
「赤さーん、そんな事は止めて、僕の心の傷を治して!」
「……さすがの私でも、妄想性障害までは――」
「妄想じゃない!」
はずだ。
『はーい、そこの人ー。もうコントはいい加減にやめて、第一種目の水中玉入れを始めますよー!』
「……だって、赤さんもその使い捨てカメラを置いて観客席へGO」
「えー」
「残念そうな顔をしない!」
とりあえず水中に入ることで、僕は水着を隠すことにした。
その際に、残念そうな声が結構聞こえたが、きっと僕の気のせいだろう。
……気のせいだよね。
そんな訳で、第一種目の水中玉入れ。20個あるお手玉を制限時間内にカゴに入れれば、そのまま1個1ポイントとなる、というルールだ。玉は水中に埋まっているので取りにくい状況となっている。
『おっと、申し送れました。本大会実況は、わたくし、放送部部長代行、阿曽短冊が! 解説は――』
『この世に知らぬことなし! 一文字流の、不知火ちゃんでーっす♪』
何時そんな流派に入った!
『そういえば今、女物の水着を着ている空さんとは、どういったなれそめで?』
『えーっとね。お昼ごはんを食べようとしたら、お弁当を忘れちゃった所を、空が、『おにぎり10個も作っちゃったから、あげるよ。』って言ってくれたのー♪』
『はー』
『10個もありがとねー、空ー』
『全部食べたんですね!?』
……まさか全部食べられるとは思わなかったなあ。
だってあの時、まだ不知火ちゃんの事全然知らなかったし。
誰があの小さい少女に、ブラックホールみたいな胃袋を持ち合わせていると考える。考えられないよ。そこまで想像豊かじゃないよ。
「……善吉は、消しゴムを拾っただけだよね?」
「そうだっけ?」
あー、そういえばその時に、空っぽの弁当箱が不知火ちゃんの横に、たくさんあったな。なんであの時に気づかなかったんだろう。
そして何でおにぎりを、そんなにたくさん作ったんだろう、僕?
「うわーん。諫早せんぱーい」
泣きたくなった時は諫早先輩に抱きつきたくなる。
だがもちろん抱きつきはしない、手を握るだけだ。それ以上は僕が恥ずかしい。
「よしよし」
慰められた!
……なんだろう。何で僕は女物の水着で女の人に慰められてるんだろう。消えたい。
あーでも癒やされるー。ずっとこのままでもいいやー。
多分今の僕の顔へにゃへにゃしてんだろうなー。まあいいやー。
「いや、良くない!」
「うん、頑張って!」
僕は立ち上がる。
もちろんプールの中でも立ち上がっていたが、気持ちの問題だ。気持ちを立ち上げたと言うのが正しいだろう。
そのまま黒神ちゃんの元へと戻った。
僕、強気だ。
殴られた。
僕、弱気だ。
撫でられた。
やったー。
『では、そろそろ時間も時間なので、始めさせて頂きます。みなさん、準備は良いですか! 位置について、よおおおおおい――――どん!!』
やっと始まった第一種目目。水中玉入れ。
男子も女子も文化部も運動部もみんな潜って玉を取ろうとする。
その光景はまさに阿鼻叫喚。
「ヘルパー邪魔で潜れねぇ!」
「プール深すぎ!」
「玉が水吸って、重すぎて投げられねえよ!」
男子生徒のハンデ。ヘルパーを腕に装着。
もちろん強引に参加させられた僕に潜る気はない。
潜る気力もない。
だから。
「後は任した。黒神ちゃん」
返事はない。
それでも僕らは何も言わず、プールから出た。
「って、なにジブンら戦線離脱してんねん!?」
「鍋島先輩」
「なにって……、ほら」
「その辺うろうろして、めだかさんの邪魔、しちゃあいけませんから」
「はあ?」
鍋島先輩が疑問を上げるのも無理がない。
黒神ちゃんの姿は、辺りに見えないから。
彼女は
「反則と卑怯があなたの志なら、王道と覇道がめだかちゃんの志!」
その言葉に返事をするかのごとく黒神ちゃんは水中から顔を出し、何十個ものお手玉を
一固まりになったお手玉は一直線にカゴへと向かい。
『おっ、おおおおおおおおっ! 黒神めだかっ! お手玉をっ! 一気に! まとめて投げ……! はっ、入ったァァァッ!』
「はぁあああ!?」
20ポイントGET。
何もしていない善吉と、阿久根先輩がハイタッチをしているのが、何かムカつきます。
まあ僕も何もしていないけどさ。
「……でも、競泳部もさすがって言うのかな。僕ら
「ああ、溺死寸前のやり方でな……」
僕はプールから上がった黒神ちゃんの言葉に傾く。
何で溺死になるかは知らないけど、知ったかぶった。
「人間の比重は水より重い。それでも人が水に浮くのは、肺の中に空気が詰まっておるからだ」
なるほどなるほど。
でも黒神ちゃん。わざわざそれを競泳部に言うのは止めない? 宣戦布告のつもり?
「貴様達は、あえて逆に肺から全ての空気を吐き出して、浮き袋を空っぽにしてから潜ったな」
肺にある空気を空っぽに。
浮き輪の空気は、空にすれば浮けない。
だけどそれを人がやれば?
勝手に浮くことは防げるし、知ってる人はやっている。それでもヘルパーで勝手に浮くのを防げるほどの空気を吐くのは、普通はやらない。
「一歩間違えば、溺死確実の危険な行為だ。貴様達は、命がいらんのか?」
「命? そんなどーでもいーもん、いらねーよ」
競泳部の一人が笑いながら言った。
「俺たちは、命よりも金が欲しい! てめーら生徒会にはわかんねーだろーけど。俺たちは一円に笑って、一円に死ぬのさ!」
……あれあれ、何このバトル展開。
「今の内に、僕の制服を……」
「ああ、この女性用に改造された制服のことか?」
「僕の服ー!」
競泳部の4人目メンバー
脇谷くん。気づいたらそこにいる。