とある箱庭学園の生徒物語   作:じょーく

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「あ」

 競泳部には3人の特待生がいる。

 茶髪で今時の女子高生といった風な女性で喜会島さん。

 金髪で色黒の種子島さん。

 そして黒髪で、常識人と思われる部長の屋久島さん。

 

 喜会島さんは唯一、競泳部特待生の女性なのだが今はそんなに関係ない。

 注目すべきところは全員が特待生だということだ。

 特待生には生まれ持った才能もあってか、だいたいの人物がひねくれてたり、ずれてたり、逆に、真っすぐすぎたりする性格をしている。それもあって、特待生の仲が良い、というのは実はあまりない。

 なので、特待生同士がチームを組むような今回の例は、非常にめずらしい――。

 

『――増額部費争奪、部活動対抗水中運動会! 第二回戦。水中二人三脚です!』

『いえー。どんどん、ぱふぱふー♪』

 

 水中運動会。玉入れが終わって第二回戦。

 前回、生徒会が有利に見えたが、不知火ちゃんの発言によって、ほとんどの部活が最大の20ポイントをゲットしてしまった。だから、この第二回戦でも油断せずに望みたいところだ。

 

 あ、諫早先輩と有明先輩だ。

 諫早先輩も罪悪感とかあってなのか、一緒に走るのを恥ずかしがってる。

 

 かーわーいーい。

 

「ぐぼはっ!」

 

 黒神ちゃんが、持っていた扇子を僕に投げてきて、僕のこめかみに当てた。

 いたい。すっごく痛い!

 まずい、何かくらくらしてきた。

 知ってるかい? 黒神ちゃんが本気で投げるボールは160キロなんて軽く超えるんだぜ。

 でも、さっきのは今まで以上だ。

 なんて玉を投げるんだ黒神ちゃん。僕は今、猛烈に感動している!

 

「な、訳がないだろ!」

「……貴様が、誰を応援しようが自由だ。しかし、今は生徒会のチームだという事を忘れるな」

 

 無理やり入れたくせに。

 ……ごめんなさい、別になんの文句もありません。なので、その構えてる拳を控えてください。

 

「ククク! 仲がええなあ。あいかわらず」

 

 そう言って僕らに近寄ってきたのは、柔道部の元部長、鍋島先輩だった。

 黒神ちゃんの怒った空気が多少和らいだのを感じて、僕も少し安心する。

 

「……鍋島三年生か」

「しっかし競泳部も、とんでもない連中を参加させたもんやな」

「……鍋島先輩は競泳部のこと知ってるの?」

「んー、ま。リーダーの屋久島部長とは同じクラスやし?」

 

 へー、仲が良いのかな。

 けれど案外、不知火ちゃんみたく他人の情報に詳しいってだけなのかもしれないので僕はそのことを聞かなかった。

 仲が悪いって返されても困るし。

 むしろ嫌い、って言われても怖いし。

 

「その実力自体は素直に尊敬するけど、何を考え取るかわからへんし、何がしたかいもわからへんねー」

「――別に、わかってもらおーなんて思ってないよ。あたし達は」

「っ!」

 

 鍋島先輩の言葉を返したのは競泳部、唯一の女性。喜界島さん。

 どうやら、今回の水中二人三脚のレースには参加しないみたいだ。

 

「でも、何がしたいかは教えてあげるよ。あたし達はね。札束のプールを作りたいんだ。そこで一日中泳ぐのが、あたし達三人の夢なのさー」

 

 クスリとも笑わず。

 感情を一欠けらも見せず。

 今時の女子高生であるはずの喜界島さんは、そうやって夢を語った。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 水中二人三脚。1位は、25メートルから足をつないだまま泳ぐという驚きのやり方をした競泳部だった。

 

 続く3回戦。『ウナギつかみどり』一匹、1ポイント。

 当初の予定通り、生徒会は黒神ちゃんが参加したが、

 

「…………」

 

 ここで、黒神めだかの真骨頂②である『動物避け』発動。

 人として強すぎる黒神ちゃんには動物も拒絶して、黒神ちゃんに1匹も近寄らず、生徒会執行部まさかの0ポイント。

 それに対して、競泳部は一年生エースの喜界島さんが13匹ものウナギをつかまえて、またもや1位を獲得。

 

 黒神ちゃんがこの3回戦に参加した理由は、生徒会の独走を防ぐためのものだったが、8位となってしまったのを見ると、それは余計な判断だったのかもしれない――。

 

「ありゃー、このままじゃ競泳部が優勝だよ」

「うーん、そうだな。阿久根センパイ、最後の競技はなんでしたっけ?」

「生徒会が全競技を決めるのは不公平だからね。最終競技の内容は、実況の人に任せてるよ」

 

 生徒会執行部よりも上の部は、元の予算の3倍だから、3×7で21。

 ……21倍分のお金を払うのか。えーと、大体の部活の予算が1万円だとしても21万円のお金を出さなきゃいけなくなるから、僕のサイフの中身を420倍しなきゃ払えないな。僕がお金を出すつもりはないけど。

 

「ヒャハ! 意外と歯ごたえねーなァ、生徒会!」

 

 お金についての計算をしていたところにまた、競泳部のみなさんが現われた。

 

「まあね!」

「威張るな」

 

 あー、競泳部のみなさん。なんかごめんなさいねー、歯ごたえが悪くて。

 

「忘れんなよ! 増額分の予算、全額と。それから、元の予算の3倍だからな!」

 

 黒神ちゃんも一応お金持ちだから払えない訳じゃあないだよね。何か、すごい問題を解いたとか言ってマスコミも大騒ぎ。その時にすごい懸賞金を得たらしいし。

 

「金・金・金って……、アンタら、他に何かねーんですか」

「ヒャハ! 何にもねーなぁ。この世にあるのは金だけだぁーーっ!」

哀れなことだ(・・・・・・)

 

 どこからともなく現われた黒神ちゃんが、そう言った。

 

「貴様達も、かつては目先の利益に惑わされぬ純粋な水泳選手だったに決まっている。想像を絶するほどの重度のトラウマを負い、そのような金の亡者になってしまったとしか考えられん」

 

 黒神めだかの真骨頂①。『上から目線性善説』。

 

「……ヒャハ! それで、どうすんだ! また生徒会長のお前が俺たちを改心させるってか! 生憎そんな展開はもう飽き飽きだぜ!」

 

 この前に絵のモデルで失敗したばっかりだけどね。

 それにまだそんな展開は僕が高校に入ってから、20回ぐらいしか見たことないよ。

 だけど黒神ちゃんは、その挑発を受けたか受けてないか知らないが、僕に閉じた扇子を向けて、こう言った。

 

「安心しろ! この空が(・・)貴様達を改心させてやる!」

 

 

 ……もう良いよ。この展開。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

『最終競技は水中騎馬戦です。ルール説明は不知火さん。お願いします!』

『はいはーい。ま、別にひねくれたルールがあるわけじゃなくて、フツーの騎馬戦だよ。ハチマキの奪い合い。ハチマキ取られたり、騎馬が崩れて水中に落ちたりしたら失格です☆』

 

 長く続いた水中運動会もこれで最後。

 栄えある最終競技は水中騎馬戦。

 騎馬は善吉と阿久根先輩。

 それに乗っているのは――武士役は、僕。

 

『たっだし~、今のままじゃ下位のチームに望みがなさすぎなので、クイズ番組的な救済ルール』

 

 不知火ちゃんの考えた水中騎馬戦、特別ルール。

 取ったハチマキの数じゃなく、質でポイントを決定。

 1位は16ポイント分。

 2位は15ポイント。

 3位は……、という風に上位チームほどポイントを高くする。

 

 ……競泳部と戦えと?

 

 言ったと思うが、ただ今の僕らと、競泳部の差は15ポイント。つまりここで1位の競泳部と戦えば16ポイント取れるので、僕らの逆転となる。

 ……なってしまう。

 

「さっすが不知火ちゃん。憎い演出をしてくれるね!」

「おう。大好きだぜ、不知火ーっ!」

『イエー、あたしもあたしが大好きー!』

 

 僕は大嫌いになりそうだ!

 

「お、でも競泳部の皆さん僕らと戦うの避けそうだよ」

 

 競泳部を見ると、僕らから離れている。どうやら別の部活のハチマキを取ろうと考えているようだ。

 ラッキー。

 

「空ー、がんばれー」

 

 ……黒神ちゃーん。分かったからその怒気を止めてー。

 

「え、えーっと競泳部さん。ぼ、僕らと戦わない?」

「……君らと戦っても私たちは別に1銭の得にもならないし。それなら別の部活のハチマキを取って、確実に安全圏に逃げさせてもらうよ」

 

 駄目だ。黒神ちゃんが怖い。

 こうなってしまうと僕は精一杯やらせてもらうしかないので、説得を続ける。

 

「で、でもさあ。あれだよ。せっかくのイベント何だから、もっと、お金よりも大切なものをさあ……」

「……ごめんなさい」

 

 唐突に謝られた。

 喜界島さんに。

 

「さっきの事は取り消します。ムカついた。だから、あんたを売り飛ばす」

 

 いーやっほー! 怒気が消えて殺気ができたぜ。

 

「どうしよう。何でこうなったんだろう」

「……多分、お金よりも大切な何か――っていう言葉に、スイッチが入っちゃったんじゃないかな」

 

 阿久根先輩。それに気づくの、ちょっと遅かった。

 どうしようかな。ここで負けたら黒神ちゃんに怒られちゃうし、戦わなくても怒られそうだ。

 でも戦いにいくのも怖いしな。

 あー。

 

「逃げよう、善吉君」

「だめだ。空君」

 

 断られた。

 

「阿久根先輩……」

「さ、準備はいいかい?」

 

 僕の助けを求める声は無視された。

 

『それでは水中運動会、最終競技! 位置について、よぉーーーい……ドン!』

「ギャ――――――――アアアアア」

 

 実況の開始の合図と共に、善吉と阿久根先輩が競泳部の騎馬一直線に向かいだした。

 そのあまりの速さに、騎馬に乗っている僕は置き去りになってしまいそうになり、気がついたときにはもう、競泳部の前だった。

 

「わ、わわわ。ムリムリムリ!」

 

 騎馬に乗っている喜界島さんが僕のハチマキを奪おうと、手をどんどん伸ばしてきて、それらを僕はなんとか紙一重でかわし続ける。

 

「おい! かわすな空、組み合え!」

「ムリだってば!」

 

 どうしようどうしようどうしよう。

 黒神ちゃんのお願いなんて聞くんじゃなかったなあ。

 諫早先輩、有明先輩と仲良くなって良かったな、委員長の人たちは何をやってるんだろう。鍋島先輩は今も卑怯を志に頑張ってるのか。

 昔の記憶が僕の頭に浮かんでは消える。

 

「走馬灯か!?」

「大丈夫か空クン!?」

 

 急に頭が覚醒した僕は、僕に向かってくる手を思わず掴んで止めてしまう。

 

『生徒会。そして競泳部。すさまじい攻防の末に、やっとのことで組み合いました!』

「組み合っちゃった!」

 

 あの走馬灯を見てる間、僕は無我の境地状態だったのか。

 これなら走馬灯を見たままでよかった。

 良い夢を見させてもらいました。

 

「ちょっと強い、強いよ競泳部!」

「頑張れ!」

「ムリです!」

『おっと! すさまじい攻防でしたが、生徒会、力では負けるか!?』

「だー、もう! なんで、なんでそんなにお金にこだわるの! 本当に溺れちゃいそうなことまでして! 命よりも、お金が大切なのか!?」

「大切よ!」

「命あっての、お金でしょ!」

「黙れ! あんたに、何がわかる!」

『生徒会。ギリギリのところで、なんとか持ちこたえております!』

「お金がなかったせいで、あたしのお父さんは蒸発したぞ! ――お母さんは働きすぎて、体を壊した!」

「……!」

「屋久島先輩のご家庭は、お金がなかったから離散しちゃったし!

 種子島先輩の育った養護施設は、お金がなくて潰れたぞ!

 誰が(・・)どー考えても(・・・・・・)! お金は命より大切じゃん(・・・・・・・・・・・)! あたしは(・・・・)命よりも(・・・・)お金が欲しい(・・・・・・)命知らずで大いに結構(・・・・・・・・・・)! お金のために死ねたら(・・・・・・・・・・)本望だ(・・・)! お金を使えば《・・・・・・》、誰でも幸せになれる(・・・・・・・・・)!」

「…………それが」

 

 どうしたんだよ。

 

「何!」

 

 喜界島さんが怒った。

 僕の言葉に怒った。

 僕もこれで、喜界島さんが怒る事は分かっていた。

 それでも言った。

 僕は言った。

 

「父親がいなくなったからって、なんなんだよ。母親が体を壊して、それが、どうしたんだよ。金が無いからって、離婚した? そりゃ運が悪かったね! 思い出の養護施設が潰れた? 残念だったな!」

「な――」

 

 貧乏に生まれて、不幸だったな!

 

「けど、本当に不幸だったのかよ。笑ったことがなかったのかよ。貧乏でも、貧乏なりにやってなかったのかよ。幸せだって、一度でも思わなかったのかよ!」

 

 思え――なかったのかよ。

 

「貧乏だって、笑えるんだよ! 金持ちだって、笑えないときがあるんだよ!」

「……黙れ」

「金が命よりも大事? 金のせいで父親がいなくなって、母親が体を壊して、離婚して、養護施設が潰れたのは、自分たちが不幸なのは全部、全部全部、金のせい? ふざけんな。金のせいなんかじゃねえ」

「……黙れ!」

「それは《・・・》、金を言い訳の道具に使ってるだけだろうが(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 命より金が大事? 違う。少なくとも今(・・・・・・)そいつのためにも怒れる(・・・・・・・・・・)お金より大切な仲間がいるだろ(・・・・・・・・・・・・・・)!」

 

 黙れ。という言葉はもう、聞こえなかった。

 聞かなかった。

 聞く前に僕は、跳んだ。

 

「分かりたくないってなら、この僕が、この天然高校生が、後で好きなだけ分からせてや……あ」

 

 跳んだ。

 跳ぼうとした。

 跳ぼうと試みた。

 

「え?」

 

 足、スベっちゃった。

 

 それでも僕は、ハチマキだけは取ろうと手を伸ばした。

 しかし、それがいけなかった。それと一緒に顔も動き、喜界島さんと向き合ってしまった。

 

『あ』

 

 口と口、もしくはくちびるに近いどこかに僕のくちびるが当たった。

 キス。

 マウストゥマウス。

 

 僕は取ったハチマキを握り締めたまま、喜界島さんを巻き添えにして、落ちた。

 大きな音がプールに響き渡った。

 

『――――――!』

 

 水の中から、実況の声が響き渡る。

 あー、どうしてこうなったんだろう。

 そんな事を考えながら、僕は顔が真っ赤に染まっている喜界島さんをプールから出して、そして。

 

 

 逃げた。

 

 

「逃がさねェよ」

「……反省はした。後悔もした。ごめんなさい!」

 

 さよなら!

 

『ヘルプ! 不知火ちゃん。君ならこの状況を――あれ?』

『あ、不知火さんなら用事が出来たと、もう外に……』

 

「……なにやってんだあいつ」

 

『ゴラァ! かぁみぃはぁらァ。うちの喜界島にあんなことして、覚悟はできてんだろうなあ!』

 

「――で、金よりも大切なもの、分かったのか?」

 

『あっれー!? 屋久島先輩までそんな怒っちゃって、ますます僕に逃げ場が……』

 

「……お金よりも大切なものなんて、やっぱり分かんないよ」

「…………」

 

『もうねえよ!』

 

「でも」

 

『種子島先輩! ……ぐっ、まだだ。一万円札あげるのでどうか許してください!』

 

「でもね」

 

『……あァ、俺たちは命よりも(・・・・・・・・)喜界島よりも金のほうが大切だよ(・・・・・・・・・・・・・・・)けどなあ(・・・・)金より喜界島のほうが(・・・・・・・・・・)好きなんだよ(・・・・・・)!』

『ギ――――――――』

 

 プツン。

 

 

「あたしも二人が好き、お金より大好き」

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 第一回水中運動会。

 結果は、一位のハチマキを取った僕ら生徒会の勝利。と言いたいところだが、さりげなく他の部活の、全てのハチマキを取った柔道部が一位、という結末に終わった。

 けれど、鍋島先輩は獲得賞金を、『こんなにいらんわ』と言って適当に他の部活に分配してしまったそうだ。

 

「……運動会なんて、大嫌いだ」

「そんなわけで、本日のイベントは終わった。しかし、私が学校行事において私財を投じたことについて、批判が多かったのも事実である。よって今後、そのようなことのないよう、生徒会にお金の専門家を雇い入れることにした」

 

 そう言いながら、若干ブルーに入ってる僕を置いて、黒神ちゃんは扉を開けた。

 僕のブルーは吹っ飛んで、僕の顔がレッドになった。

 

「これから会計職を任せる、喜界島同級生だ。競泳部からのレンタルなので、大切に扱うよう」

「荒稼ぎに来ました。喜界島もがなです。無駄遣いしたら売り飛ばしますから、そのつもりで!」

 

 

 ああ、そうかい。

 

 分かった。分かったけど、最後に言わせてくれ。

 

 

 

 

 運動会なんて、だいっきらいだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤さーん。怪我なおしてー」

「♥」

「目を刺す意外の方法で!」

 




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