とある箱庭学園の生徒物語   作:じょーく

20 / 41
タグの厳しいところを学んだ話。


19箱

 今日は土曜日、つまり学校は休みだ。部活をやっている生徒は今ごろ、汗を流しているのだろうが、空はどの部活にも入っていないので、ゆっくりと休みならではのできることをしている。

 ピンポーンと、チャイムを鳴らし、パタパタと玄関に向かってくる音が来た。その音が扉のすぐ向こうに着くと、入り口が開かれた。

 

「……本当に来たんだな」

 

 風紀委員の白い制服ではなく、全体的に黒い服で、パーカーがついている。だが、冥利の額や腕に巻かれている白い包帯が、全体的に白黒という印象を受けさせた。

 

 昨日、空は冥利に遊ぶことを提案した。最初は断ってきたが、最終的に渋々と空の案を呑んだ。

 

 渋々と飲んだ。

 パタパタと玄関に向かってきた。

 

 あれほど嫌がっていたのに、音がこちらに聞こえてくるほど急いだのだろう。それに気づいた空の口角は勝手に上がっていった。

 

「なに笑ってんだよ」

 

 不機嫌そうにこちらを睨んでくる。昨日なら怖さを感じたのかもしれないが、今の空にはツンデレのツンの部分にしか思えなく、顔がにやけてしまう。

 これでは余計ツンが出てしまうと、顔を明後日の方向に向け、なんでもない、と返した。

 

「ケッ、まあ良い。ほら入れよ」

 

 冥利に促され、空はにやけた顔を下に向けながら、冥利家へとお邪魔した。

 

 『異常』。その人が住んでいる家とはどんなものか覚悟してみれば、なんのことはない。平均より少し広いだけの、普通の家だった。

 入ってまず目に入ったのは靴。女性者らしい靴もある。不知火に聞いた、冥利(姉)の物なのだろう。可愛らしい靴だ。

 何気なく右を見てみるとカレンダー。巨乳の水着娘がセクシーポーズを決めている。

 

「こっちだ」

 

 いつの間にか、冥利が既に靴を脱いで廊下に上がって、先の角にまでいた。急いで空も靴を脱ぎ、冥利の後を追いかける。

 

「なあ、守原」

 

 追いついた頃に、冥利が背中越しに言ってきた。

 

「ありがとうな」

 

 感謝。昨日言った自分の言葉なのか、守ったことか、どちらといえど、空はその感謝をまともに受ける気にはなれなかった。

 

――ありがとうなんて、言わないでくれ。

 

 冥利がめだかと闘って傷ついたのは、自分というイレギュラーのせいでそうなったかもしれないのだから。

 そこまで考え、空は冥利にぶつかりそうになる。ボーっとしていて、冥利が立ち止まったことに気づかなかった。

 

「と、ここがオレの部屋」

 

 冥利が扉を開き、空に部屋の中を見せる。ゲーム機が多い、漫画も結構の数を所持しているようだ。普通の高校生らしい。普通な部屋だ。

 普通にしてはゲームが多い気がしたが、多いだけで普通とはなんら変わらないだろう。

 

「……で、どうすんだ?」

「ゲームしよう」

 

 空も実は結構なゲーム好きで、家には十数本のゲームカセットを所持している。捜してみると、同じゲームがここにもあった。妙な親近感を覚え、嬉しくなって語りたくなるが、自重する。

 

「これだ、大乱闘スペースブラザーズZ!」

「まあ、妥当だな」

 

 合計50キャラに及ぶ中で一人選び、地球のピラミッドや万里の長城。はたまた月などのほかの惑星で、相手を吹き飛ばし、闘うゲームだ。単純に見えて、実は奥が深い。

 

「ルールはストック制。コンピューターを入れて、アイテムは全部ありでおおい、時間制限もなし。オーケー?」

「おーけー。叩き潰してやんよ」

 

 二回戦目。

 

「……まあ、まだぁ、始めですしぃ。僕は尻上がりなほうだしぃ」

 

 十回戦目。

 

「アイテムずっる! 上から爆弾兵が降ってきたぞ!」

 

 三十回戦目。

 

「……ふぅ」

 

 一度も勝てなかった。これが『異常』の成せる技なのだろうか。これでも空は自信のあったゲームを選んだつもりだった。空が負けた理由に、冥利のゲームの腕が高いのもあったが、なにより運が良い。

 冥利に攻撃をしようとすればコンピュータに邪魔をされ、逃げればステージの都合で画面外にいき、攻撃を当てようとすれば、爆発するアイテムが上から降ってくる。

 

「オレは『異常』だ。そんなオレがやれば、ゲームも『異常』な結果になる」

「なにそのチート設定」

 

 『異常』。どうやら知力や体力が優れすぎているからといって、言われるものでもないらしい。常識とは常に異なる者。それが『異常』だという。

 

「ケケケ、ま、テメーがオレに勝つのは不可能ってこった」

 

 普通が『異常』に勝つ、という異常な結果は起きないか考えてみたが、異常とはプラス補正なのだろう。つまり百連敗という『異常』な結果よりも、百連勝という『異常』な結果を出す方向(ベクトル)で、できている。

 それでは一生この先輩に勝つのは不可能なのか、そう考えて、再びゲームコントローラーに手を伸ばす。

 

 五十戦目。

 

 心を折らずによくここまで戦ってきたと思う。現実は残酷だが。

 冥利のほうを見ると、もはや片手でコントローラーを操作している。大乱闘スペースブラザーズZ、略してスペブラ。このゲームはもう二度と冥利家ではやらないと、空は硬く決心した。

 

「……違うゲームやろ」

「ああ」

 

 アクションとは異なるゲームで、再戦を図る空。結果は変わらず惨敗であった。

 だが、それを気にするような様子をだすことなく、冥利に何気なく話しかける。

 

「冥利先輩」

「なんだ?」

 

 画面から目を離さず、自分のキャラがやられていくのを気にせずに、そのまま手を動かし続ける。これで89連敗に達しただろう。無論一勝もできていない。

 

後ろにいる女の子(・・・・・・・・)だれ(・・)?」

 

 見ると、空の後ろ、正確には後ろにある入り口で、顔の半分と手を覗かせながら、こちらを見ている女性がいる。手首にはなぜか鎖が繋がれていて、その先には鉄球が下がっていた。

 

「……姉ちゃん?」

 

 振り向いている間にも、冥利の指がもの凄い速さでボタンを叩いている。空のキャラはすでに画面にいない。90敗目だ。

 じ~っ。

 穴が開くほどみる、という言葉はこういう時に使うのだろう。

 

 空は軽くため息を吐いて、何も操作できないコントローラーを置き、冥利の姉――不知火は雲仙冥加と言ったか――という女の子へと歩を進める。冥利は「あ、おい」と呼び止めているが、そのまま近づくと冥加は、クエスチョンマークを浮かべた顔でこちらを見守っている。それを気にすることなく、話しかけた。

 

「えーっと……お邪魔してます。冥利君の後輩です」

「い……」

 

 い?

 いから始まる返事を考えたが、答えを出す前に目の前の人物が続きをした。

 

おっぱい(132435)

 

 132435、それがどういう意味で、何を言っているのかは空には分からなかった。かろうじて分かったのは数字で何かを表している、ということだ。

 

お前、おっぱいについてどう思う?(1358413216854659)

 なんて(233)弟以外に(5312)この言葉を(99823)分かる人間なんて(672130918)いないと分かっているがな(5687466723313)

 

 フッ、と冥加は静かに笑った。

 

「守原。姉ちゃんは……独自の言語で喋るんだ」

「あ、そういうことか」

 

 てっきり姉弟同士で伝わる暗号か何かだと思ったが、暗号じゃなくてこっちが主軸らしい。普通ならば驚くところなのかもしれないが、あいにく空はこのような事態に慣れてしまっている。自分が相手の喋る言葉の意味が分からない時はどうするか、どうすればよく分からない場合でも空は、いろいろな事を試すことにしている。

 

「……ドラゴンボールについて、どう思う?」

 

 自分が分からなければ姉はどうなのだろうか。まずはそれを試すことにした。内容については、弟がゲームと漫画好きなので、姉もそうなのでは、と考えてだ。

 

ドラゴンボールについて聞いたのは分かった(76456146998416512

36886)初期のブルマのおっぱいと(475931279862553)赤ちゃんを産んだ後の(2286413597836510)おっぱいの大きさでも聞いているのか(245648864513132576764)?」

いや違うよ(2548454)!?」

「!?」

 

 この時、空は言葉の壁を越えた。

 

「……ほう(23)さすがは弟の友達(325768094)といったところか(642131248)これだけのやり取りで(109237860)私の言葉を理解できるとはな(124986971826403)

言葉(153)? そんなことは今(079138645)どうでもいい(5698312)今はドラゴンボールについて(4329781536)(2)

よかろう、受けて立つ(3648649037)!」

 

 この日、世界一くだらないと思われる普通と『異常』の戦いが、火蓋を切って落とされた!

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

「おい、時間、大丈夫なのか?」

 

 冥利に問われて見ると、時計の短い針は6を指していた。外はまだ明るいほうだが、ここから急に暗くなってくるだろう。

 

「げ、いつの間に!」

 

 親は気にしないだろうが、空は気にしてしまう。暗いのは苦手だ。怖い話も苦手だ。

 

「……帰るのか(080384)?」

「ああ、うん……」

 

 表情を出さず、じっとこちらを見る。残念そうな顔に見えなくもない。

 冥利を傷つけて、自分と仲良くしてくれる。それに空は嬉しさを感じた。はっきり言って、殴られる覚悟で冥利の家に来たのだが、思ったより良い歓迎振りに申し訳ないとさえ思った。

 

 それにしても怪我の回復の早さには驚かされる。昨日あれだけの戦いをしたのに、包帯が巻かれている腕を痛がっている様子も見えない。ゲームをしている最中に聞いてみたら、そういう効能の温泉に入ったかららしいが……。冥利と温泉、どちらがすごいのか。

 

「……そうか(847)

 

 視線を落とす冥加に、空は右手を差し出した。

 

「……?」

「握手」

 

 おずおずと、冥加は空の手を握った。それに対して、優しく空は握り返す。

 

「これで僕らは友達っ」

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

――暖かい。

 

 人肌に触れたのは何時ぶりだろうか。

 引きこもっていた間、銀色のコントローラーに触れていて冷たくなった手が、人の手から温もりを貰い受ける。人の体温を感じたのは本当に久しぶりだ。弟にもずっと触れていなかった。

 

 弟である冥利とは、クラスも違えば学年も違う。学校ではあちらのほうが先輩だ。

 弟が先輩になったせいで姉としての立場が微妙になり、ショックで引きこもってしまったのはここだけの秘密。

 

 手のひらを見てみる。何時もの自分の手だ。だけど、暖かい。

 空が差し出してきた手、いや、空を思い出すと、手と一緒に胸のあたりがポカポカとぬくもりを感じる。

 

「……冥利(421)

何だ(523)姉ちゃん(7908)

 

 家に帰った空の顔を思い浮かべながら、冥加は何食わぬ顔で、気になっていたことを聞いてみた。

 

あいつ(892)おっぱい小っちゃいな(123419874123)

 

 弟が、飲んでいたジュースを噴出した。

 




(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。