作者、書き溜め向いてませんでした。
もはや作者にとっては伏線回収しかしてない今章、どうぞ最後まで見てやってください。
26箱
引きこもりの女性がいた。
幼馴染の姉だった。
僕はそれを見て、聞いて、なんとかしてあげたいと思った。
僕は何をしたんだっけ。
□ □
■ ■
ここまできたら、わざわざ『フラスコ計画』についての説明は特に必要はないと思うのだが、説明をさせていただこう。
空が聞いた話では、天才たちを作る計画で、その最後の目標は人類全員を100点の存在にすることだ。
100点満点。
別に、これだけならただの夢物語として話が進むのだけれど、問題はその計画には犠牲者がでる、という点だ。理事長の孫である
不知火は深く言わなかったが、犠牲になった生徒は人生をちゃんと送れなくなることだろう。もしも少しぐらいの怪我などで済むのなら、なにもここの生徒を利用しなくて良いのだから。適当な人材を募れば良い。それをしないのは、
結局のところ、『フラスコ計画』というのは、人を犠牲にして人を成り立たせるような、馬鹿げた計画、というわけである。
さて、それでは復習も終えたところで、最低最悪の冒険物語の、始まり始まりっ。
――地下室
「三時かー……」
付け加えておくならば、午前、である。
「フラスコ計画を止める前に、パスワードを必要されるのは予想外だなー」
正確には、だった、である。
昨日の午前六時から今日の午前三時まで、不眠で十九時間を過ごしたためか、日本語がところどころおかしくなっていた
「異常者にしか通れない門って……僕って異常じゃあなかったのか……」
箱庭学園の誇りとしている一つ、広い広い敷地。その敷地の中にポンと、大きく置いてある時計台。その地下。不知火の言ったとおり、フラスコ計画はどうやら時計台地下で、密かに進められているようだった。そのための空の手こずった門だろう。
六桁の暗証番号。
フラスコ計画を止めようと決めたときには、部活に励んでいたほとんどの生徒も、家に足を向けていた。そんな中、職員室に行って、時計台に入るための策やら何やら理由作りやらで頑張った。
そしてなんとか入ることを許されて安心したのも束の間、時計台地下に入ろうとする空の前に、六桁の番号を入力する、パスワード制の門が立ちはだかった。
五個のさいころを転がせば、数字がそろう、積み重なる、割れる、無くなる、など、何度やっても、どうやっても、呪いともいえる、ありえない結果が残ってしまう。
暗証番号しかり。
0~9までの数字、そして六桁となると、10×10×10×10×10×10と、百万通りの組み合わせができる。
それを一回で当てるなんて、奇跡に近いだろう。
フラスコ計画には、異常者しか必要としていない。
まあ、数時間かけて入った例外が、今ここを歩いているのだが。
「もう、疲れた……」
泣きそうになっているのだが。
「たくっ、百万通りぐらい見逃してくれたって良いじゃん。たまたま一回で当たった、空クン超カッケーで良いじゃん。じゃんじゃん」
わけの分からないことでも、それを口走って、自分の意識を保っているものの、眠気から視線がとろんと下がり、背中を丸めさす。睡眠欲に負けるのも時間の問題だ。
「それにしても、門を開ける答えが、冥加ちゃんの言語で、132435……おっぱい、だった、とは、なぁ……」
冥利か冥加に、なんでもいいから六桁の数字を言ってもらえば良かった、と気づいたときの絶望を味わうのは、あと、どれぐらい先だろうか。
とぼとぼと、空は足をふらつかせながらも前に歩いている。
「――なに言ってんだ、お前?」
自分のものではない声が、空の耳に届いた。
「……一億倍って言ったんだ」
声が差した方向に、空は振り向かなかった。というか、振り向きたくなかった。何が嬉しくて、昨日と同じく、人の前でおっぱい、と言わなければいけないのか。
「ふーん」
断っておくが、空が歩いているこの、門を開いた先にあった通路は、それほど複雑な経路をしていない。たまに岐路があるぐらいで、隠れるところなどない、真っ白でまっさらなキレイな道だ。
だから、たとえ眠かったからといって、この男が居たことに、気づけないはずがない。
相手が普通なら。
「まったく、見ず知らずの人に会ったおかげで、目が覚めちゃった。おっと、顔が赤いとか言うなよ。僕にとってはこれが普通なんだ。けっして恥ずかしがってなんかいない! はじめまして
言いながら空は観念して振り返り、相手の姿を確認した。
服装は、膝まである赤の半ズボンと、肌に吸い付いているような半そで。ドレッドヘアーの髪型をして筋肉質。どこかの国の外人のように色黒の男である。
「……それじゃあ俺も見習って自己紹介と行こうか。
パチン!
と、空は自分の頬を打った。
この男――高千穂は、十三組で最強、と言う。
「いきなし最強か……うん、ちょうど良い」
目の色を変える、とした表現がピッタリと当てはまる。空の予定では、自分が最強だと思っていた
それなら、
「じゃあ、高千穂先輩を諦めさせれば僕の勝ち、か」
フラスコ計画を止めるからと、それに関わる全ての人間を叩きのめせば良い、というわけでもない。叩けば伸びるし、傷つく。なにより時間が掛かる。今回、空が一番に気に掛けているものは時間だ。めだかたちに危害が及ぶようなことになったら、空がここまで来た意味はなくなる。空の中では言い訳作りという名目になっているが、それでもどうしても、めだかや善吉を傷つけたくないと思ってしまっている。
空にとって一番は、めだか達が来る前に終わらせる。そのための、空の立てた策はごくごく単純だった。
フラスコ計画で最も重要な――かけがえの無い人物を諦めさせれば良い。
「……オーケーオーケー。じゃあお前が一発でも俺に攻撃を与えることができたら、天才を作る、なんて素晴らしい計画を自分から下りてやるよ。忠告しておくが、お前は俺に爪一枚触れることすら出来ないぜ」
高千穂は余裕を含んだ笑みを浮かべながら、空を見下ろした。彼もフラスコ計画に参加しているだけあって、空の力量も、自分の異常性も理解できているようだった。
反射神経。
突き詰めてしまえば、彼、高千穂仕種の異常はたったそれだけだ。
だが、たった一つでも、それが異常なら、人はそれを天才と称せず、異常と怖がるしかない。
高千穂にかかれば、体が硬直してしまうような状況、真剣での切りあいや、不意打ち。どんなものにも反射的に的確に対応できるし、フィクションの世界でしかありえないような、命を狙ってくる無数の弾丸を回避する、という奇跡に近いことも彼にとっては簡単だろう。
そう、奇跡を起こすことが簡単なのだ。これを異常と言わず、なんと言おう。
「てい」
まあ、そんな奇跡を壊せる例外が、ここにいるのだが。
「は?」
空は触れた。
高千穂仕種に、触れてみせた。
「おお、爪一枚どころか、手のひらいっぱい触れられたよ……って、わわっ!」
あわてて空は手を引っ込めた。高千穂の蹴りが空をめがけて飛んできたのだ。これは、別に腹いせとか、そういうつもりではなく、高千穂は触れられたのに気がついて、反射的に蹴りを繰り出してしまったと思われる。驚いて、ビックリして足が出てしまった。
先ほどでも述べたとおり、高千穂ならば、いくら殺気や怒気を消したって、何も考えて無くったって、触れてくるものを避けるのは目をつぶったってできることである。
「……俺の異常は
高千穂の蹴りは、空の細い腕に当たっていた。今にも折れてしまいそうな、女の子みたいな白い腕に、当たっていた。
焦った声はしたが、空はどうやら防御しきっていたようだ。
回避ではない方法で。
自分の体を守りきった。
「本当なら」
防御して実はちょっと痛む腕に隠れて、空は声を出した。
「本当なら、ここで弱点とか知られたくないから、休日よろしく仮面ライダーみたく、敵に都合の良い説明はしないんだけど……僕も先輩を見習って異常紹介といきましょうか」
言いながら、思い出す。
転生したときのことを、思い返す。
『
そんな風に、格好つけたお願いをした。思い出している今も、顔から火が出てしまいそうだ。しかし、今はそういう状況ではないので、割愛。まあ、とにかく空は、そうやって、持っていても意味のなさそうなお願いをした。
だけどもしも。
もしもそれがこうだったら。
「神様の能力
□ □
■ ■
『異常殺し』
空の前では、どんな力――能力は等しく無効化される。それが空の導き出した自分の能力であった。
そう。
異常殺し。
でも、それじゃあどうして高千穂の攻撃を受け止めることができたんだ、能力を無効にできるだけで、攻撃は無効にできないだろう、という人もいるかもしれない。しかし、
転生。
天性。
天声。
天成。
てんせい、を漢字で書くだけで、これほどある。
そして空は、『能力』と自分の脳内で書き、ちから、と言ってしまった。
『神様の
『神様の
と、すれば、神様のような奇跡を超えた能力――異常も無効化できるし。
爆弾のような、自分に被害を与える力も無効化できるようになっている。
つまるところこの『異常殺し』。万物の力も能力も全て平等に無効化してしまうという能力だ。無論、最初にお願いした能力だけでなく、二つの能力を持たされた、というのも空は考えてみたが、考えてみればみるほど神様からそんなものを貰うほどの理由は無かった。それでは神様関係無しの自分だからこその異常なのか、それも無いだろう。性別も記憶も能力も才能も決めさせようとしておいて、そんなイレギュラーを許すとは思えない。なのでこれ一つ、という見解で良いだろう。
「弱点はこれかな……」
空の足は地についておらず、体を揺らしていた。
五分ちょっとの時間で、空と高千穂の勝負は結した。空が睡眠と高千穂との両方と闘っていると、先に諦めをつけたのは高千穂であった。眠気で記憶がところどころ飛んでいるが、様々な攻撃をくらったにも関わらず全く効いた様子もない空に対して、ダメージを加えるのを諦め高千穂は空を子供のように持ち上げて無力化することにした。
「うーん、攻撃以外はダメなのかな? ぶっちゃけると実は僕、まだ自分の異常とか把握しきれてないんだよね」
それも理由に、まだ自分が把握し切れていないこの異常をこの男が代わりに解明してくれないかなー、という淡い希望をもってわざわざ説明したのだが、残念ながらそれは叶わなかった。
「ていうか僕触れたんだからフラスコ計画から降りてよ、そして僕も下ろしてよ」
「気が向いたらな、つーか俺が抜けてもフラスコ計画は止まんねえぞ?」
「えー、マジで? うわぁ、どうしよう」
まあとりあえず揺りかごに揺られていた時代を思い出しながら、久々のおんぶの心地よさを味わおうと、空は惰眠を貪ることにした。