とある箱庭学園の生徒物語   作:じょーく

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最終箱

「――――――――――――――――――――――――は?」

 

 大きく目を見開いて驚いている空に、真黒は確実に当たっているであろう異常の名前を告げた。

 

「『誇大妄想(ビッグドリーマー)』」

 

 そう。

 

「それこそが、君の真の異常だ」

 

 全部、ただの妄想だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――性格が変わっている、か。

 

 時計台地下で、もがなが空の変わっているところについて言ったあの言葉が、なんだかんだで一番のヒントになった。

 真黒が空に会うたびに少しだけ味わっていた違和感。それはきっと、そういうことなんだろうなと納得した。

 

 あるときは遠くから見守る冷静なキャラのように。

 あるときは女みたいな見た目を嫌うキャラのように。

 あるときは敵とか関係なしに説教をかまして改心を図る主人公のように。

 

 空の性格は真反対と言って良いぐらいに変わっていたことだろう。

 

 分かりやすく例を例えれば、『ハッ』と一声笑うことを極度に恥ずかしがっていたのに、今では全くそんなことはない、というのか。

 

 体重がまるで『ない』みたいに変わったのも然り。

 空は阿久根高貴を強いと思っていた。破壊臣の時代でも思い出していたのだろうか、最初から強いを前提に闘ったんじゃないのか、最初から勝てる気がしないと思っていたんじゃないのか、軽々(・・)と投げ飛ばされると思い込んでしまったのではないのだろうか?

 

 『誇大妄想(ビッグドリーマー)

 

 空が思い込んだことは全部彼にとっての現実になる

 

 転生したと思い込めば、彼の記憶では確かにそうあってしまうのだ。

 

 目隠しをし、手首に水滴を当てて、これは貴方の血だ、と言えばその言われた人物がそう思いこんで死ぬ、というのはもう有名な話か。

 

 彼はきっと――その思い込みが異常と呼ばれるまでとなった。

 爆発が大丈夫なぐらいに。多分銃弾だって、喰らったって分からなければ無傷でいられるぐらいに。

 異常だって作れてしまうぐらいに(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 だから、爆発を受けても無事だったのはきっと、それが爆発だって分からなかったからに違いない。受けても分からなった。視界が突然真っ白になって、それだけでは自分に被害が及ぶものだと考えが及ばなかった。だから無事だった。

 そして学校が崩れているのを見て、自分の傷一つ付いていない体を見て、彼は異常があると思い込んだ。

 

 爆発を受けても無事になれる異常があると、思い込んだ。

 それから――色々あって。

 自分には、『異常殺し』があるとまで、思い込む程になった。

 

「そういうことだよ守原空(かみはらあき)君」

「……ああ、そうですか」

 

 そういう、ことですか――

 

 空は悲しそうに、あるいは諦めたように目を外が見える窓のほうに向けてそう言った。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 似ているなあ、この感じ。

 名瀬さんに僕が人を殴ったことが無い、って言われた時と同じくらい動揺している。

 ひょっとしたら、僕があの時、あれだけ動揺したのも、そこから記憶を思い出すことを僕の異常、というか本能みたいなものが拒んでたからかな。

 

 もう全部分かった。

 いや、所々思い出した。

 

 善吉たちを襲った狼のことも――大神のことも。

 

 あれは――僕が作り出したものなんだ。

 なぜ、どうして作ったのか、いや、それも思い出した。くじらちゃんだ。

 

 黒神くじら、という黒神めだかの姉にあたり、黒神真黒の妹にあたる彼女。彼女はあろうことか自分が困難な状況であればあるほどより優れるようになると思い込んでいた。

 

 そんな彼女を見て僕は一匹の白い子犬をプレゼントした。迷惑を顧みない犬が、くじらの勉強を邪魔しながらも心を開かせてくれるのではないかと。

 自分でも呆れるぐらいに単純で、迷惑を考えないような行動だったと思う。だけどそれは、幸運にも目論見通り成功した。

 

 自分を傷つけてまで勉強していた行為は次第に慎むようになって、引きこもり気味でめだか達とのコミュニケーションを避けていたのも治っていった。

 だけどある日のことだった。彼女はその子犬を連れて家から外に出て散歩をした。

 

 そして。

 その犬は轢かれた。

 

 それはあるいは必然だったのかもしれない。

 

 家に引きこもってばかりで、運動も食事もろくにせず、ただただ頭の良さだけを追い求めていた彼女が、人を遙かに超えたスピードで車が走っている道路を一つの命を預かって散歩していた。

 

 楽しそうだった。

 幸せそうだった。

 僕も嬉しかった。

 

 だけど、犬も嬉しかったのかなあ。

 

 刺激溢れる街中が。

 そして、少しだけ周りに注意しすぎたくじらちゃんは、手の力を緩めてしまった。

 

 一瞬自由になる子犬。

 

 それは、一瞬危険にもなった。

 

 そんな経緯で、犬は命を落とした。

 

 僕はなんて言っただろう。

 

『ごめん……』

 

 ああ、思い出した。

 

『ごめん……』

 

 僕がプレゼントなんてしなければ。

 僕が変な正義感で君の行為が正しくないと思っていなければ。

 

『…………』

 

 彼女は泣かずに笑った。

 なぜ、笑ったのかは僕には分からないな。

 

 そして、その一か月もしない間に、黒神くじらは数年にも渡る家出を決行した。

 

 僕は。

 作りたかった。

 車に轢かれても大丈夫なぐらいの犬を。車が走っていない世界を。

 

 それがあの大神だろう。

 

 なんで犬じゃなくて狼作ったんだっけ、と、これもそれで合っているのかもしれないな。

 ボルゾイって種類のれっきとした犬がいて、別名ロシアンウルフハウンドなんていうドッグじゃなくてウルフを、不知火ちゃんは犬って言いきってたし。

 

 そしてなぜわざわざ中学二年生の春休みを迎えたところで、あの犬を作り出そうとしたその理由は果たして忘れてしまったが、それでも僕は完璧な犬を作らなきゃいけないと思い込んだのは覚えている。

 

『作らなきゃ』

 

『作らなきゃ』

 

『作らなきゃ』

 

 なんで善吉たちを避けてたか……その理由は笑ってしまうようなことだ。

 

 天才は不幸からしか生まれない。

 

 自分に苦行を強いていた頃のくじらちゃんの、あの言葉。

 

 死んだ犬のために、完璧な犬を作りだそうとして思い出した、あの言葉。

 僕はただ、あんなに頑張っていたくじらちゃんの真似をすれば、きっと、もっと凄くなれると――完璧な犬を作れるぐらい凄くなれる思ったんだ。

 

 だからできるだけ幸せになれることは避けていた。

 

 それは、友達を避けることでもあった。

 

 もちろんのこと、それ以外でも僕は幸せになれるようなことは止めた。

 

 行きたくもない学校に行ったら、必死に善吉たちを避けながら、周りの人全員が僕を苛めるようなことを想像したりなんてことを……ああ、それで転生前に苛められたとか思い込んでたのかな僕。

 

 ああお笑いだ、大笑いだ。

 

 くじらちゃんを思い出しただけで必死に不幸を追い求める自分。

 

 そして、それで僕は春休みになった時には――狂った。

 まるで自分には失敗なんて有り得ない、とか、そんな感じ。きっと僕の異常も相まって、僕にとってはくじらちゃんのあの言葉が本当になってしまったんだろう。

 不幸を追い求めて、自分が不幸だって思い込んで、僕は天才になった。

 

 黒神ちゃんを倒せるような犬を作れるぐらいの天才に。

 

 犬が、世界が完成して、僕はどうしたんだっけ。実験?

 それとも犬が勝手に暴走したのかな。

 僕が覚えてるところは、僕が作り出した犬が、血まみれの黒神ちゃんを近くにして、戦意喪失している善吉の前にいたことだ。

 

 そう、それでキレた(・・・)

 

 だから殺した。

 僕が殺した。

 

 本当に大馬鹿だ。僕はいったい何がしたいんだ。でも仕方がない。失敗ぐらい誰だってするし、自分でも良くわからないことをしちゃうぐらいあるだろう、だって人間だもの。善吉だって不良を気取っていたように、僕だって良く分からないことをしてしまった。犬のためにあんな大規模なことをするなんて大馬鹿な真似を。

 そして僕はその失敗を認めたくなかった。いや、これも違うか。

 僕は、異常な黒神ちゃんが負けるような犬を倒せるぐらい、自分が異常だということを認めたくなかった。

 

 才能が嫌いな自分。

 異常じゃない自分。

 

 転生して、なんの才能もいらないと言った僕、そう思い込んでいたのがその時の僕だから。

 

 僕だったから、忘れた。

 

 大神のことも、忘れた。

 

 自分の設定の都合の悪いところは全部忘れた。

 

 だけど高校に入って異常な目に遭った僕は、異常者が沢山いる学園に入っていた僕は、また凄い爆発とか受けて、無傷である自分を今度は受け入れることができた。

 それは正しい能力の異常じゃなかったけれど、異常が普通みたいな学園のおかげで、自分も実は異常を持っているって、受け入れられた。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 考えがスッキリしてきた。黒神ちゃんたちの代わりにフラスコ計画を止める理由とかが散々グラついていたのも、僕の異常のせいなのかな。

 

 思い返してみよう。

 

 まずは暗証番号、132435、この並びは正しかったはずだ。

 

 そして、暗証番号の門の前に双子がいて、そして一回で開けられないようじゃ、何千回挑戦したって門を開けられない、なんて脅しをかけられたこと。

 

 132435。僕は一体どうやってこの番号にたどり着いた。

 僕の記憶では――偽物の記憶では、テキトーにやった一回目では当てられずに000000から順番にやっていったことだ。

 

 それは普通の考えだろう。何時間もやり続けていれば、いつしか同じ数字が被ることもある。そしてその考えは余計に暗証番号を解く気力を無くしてゆく。脅しをかけられていれば尚更その最悪を考えてしまう。

 だからそれを怖がった僕は000000から順番に打っていった。

 

 そのときの僕の記憶では(・・・・・・・・・・・)

 

 正しい記憶――思い出した今の記憶では、僕はそれを――本当は一発で開けた。

 

 きっとまだ受け入れきれていなかった。

 異常な自分を100万通りもある組み合わせを一発で解くような異常を持っている自分を、僕は結局まだ、受け止めきれていなかった。

 

 たとえば天井に足の指の痕があったからって、それが本当に足の指の痕だって思えるのに、普通の思考を脱し切れていなかったぐらいに。

 

 いや、でも番号のことは気づけたな。

 

 132435。

 

 十三万二千四百三十五回の挑戦。

 

 それがたった(・・・)数時間で、できるはずがないじゃないか。

 

 それじゃあ何で、数時間経って僕は門を開けた、という事実を偽物の意識が受け入れられたか。その一つの理由が、偽物の意識の中、暗証番号を何百回か挑戦しただけで何千回も挑戦した気分になって、良い加減開けられても良い、とか思ってたこと。もう一つは、多分、眠かった(・・・・)から。

 

 眠くて思考が変になっていた。

 余りの眠さで時々思考が飛ぶ――という体験をした男子高校生はきっと多いことだろう。

 

 では、果たして、そんな状態で、きちんと物事を考えることができるかどうか。

 

 目の前の門が数百回挑戦しても開かないのは、『確実に』当たり前のことだ。と、考えることができるか。答えはノーだ。

 

 だから、高千穂先輩の攻撃を受け止められて、古賀ちゃんの攻撃を痛がってしまったのも、それが理由に入っているのだろう。

 

 眠くて、僕はどんな異常も攻撃も無効化できる『異常殺し』を持ってるけど、この攻撃は受け止められないかもしれない、という余計な考えをしなかった。

 『異常殺し』を持ってるから受け止められる。という、眠気のせいでそんな単純化した思考にさせられた。

 思考が眠気でたびたび飛びかけたおかげで、失敗を心配する、という暇さえなかった。

 

 それこそ敵地で眠っても心配しないぐらいの眠気のおかげで、僕はその場を無傷で助かった。

 

 古賀ちゃんの場合、それは眠った後だから(・・・・・・・)

 眠って起きて、意識がはっきりしたせいで、彼女が粉砕したベッドを見て、僕は心の底でビビってしまった。

 攻撃を無効化できなかった後の自分を想像してしまった。

 

 そしてその恐れは、攻撃の無効化を持っているという思い込みを無くさせた。

 もしかしたら。

 もしかしたら。

 僕はこの攻撃を無効化できないかもしれない。

 

 思ってしまった。

 疑ってしまった。

 

 そうなった瞬間、それは思い込みではなくなった。

 

 結果、僕は古賀ちゃんの攻撃を無効化――なんてことはできなくなった。

 

 その瞬間、どんな攻撃も無効化できる異常が自分にはある、という考えもひっくり返された。

 

 だから、普通の人みたく、刀で腕を切断できる体にもなった。

 

 本当におかしい所なんて、いくらでもあった。

 古賀ちゃんの回し蹴りを、縛られていて(・・・・・・)動かせなかった(・・・・・・・)はずの左腕を(・・・・・・)動かしてガードしようとしたり(・・・・・・・・・・・・・・・)、とか。

 

 それから……腕を斬られた僕は、どうなったんだっけ。

 ああ、記憶を弄られそうに、っていうか弄られたのかな、分からん。そもそもあの人が何をしようとしてたのかも僕には分からないし。なんだか『洗脳してから』とか、そう周りに言ってたのが聞こえただけだし。変に青白い電気が飛んでたから、なんとなく痛いっていうイメージが僕を襲っちゃったんだよな。

 

 それで、斬れた腕のショックとか、そのときのことも合わせて、意識が消え去りそうにってところで僕の異常が牙を剥いた。

 

 反射的ともいえる。

 僕は僕を生きさせようとする防衛本能というようなもので、あれ(・・)になった。

 

 意識を失いそうになって、自分が何でこんな目に遭ってるかも分からなくなるぐらいになった。

 不思議だった。

 なんで痛がっているのか、なんで反撃しないのか、なんで僕は黙ったままこの攻撃を受けているのか、意識を失いかけて夢心地になったせいで、眠くなってた時と同じ感じになった。

 

 痛いなら止めさせれば良い。

 反撃しないのが不思議なら反撃すれば良い。

 

 ただ単純で。ただただ簡単で。

 腕が折れたなら治せば良い。治ってればいい。斬れてても同じことだ。それでヤバいなら治しておけばいい。

 

 そんな感じに僕の悪いところは、全部リセットされて。

 

 そんな感じで僕にとっての害を排除しようとして。

 

 そんな風な至極単純な思考になった。

 

 都城先輩がどうなったか、それはもう覚えていない。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 他にも納得いった。神様が――僕の記憶の中の神様が、転生するにあたって選ばせた転生先の選択肢にも。

 

1、めだかボックス

2、GANTZ

3、バトル・ロワイヤル

4、バイオハザード

 

 そりゃあ――一つしか選べないよね。それでも、本当にあった創作物を三つ並べられたら、選ぶしかないその選択肢も創作物の世界と考えるのも極々自然じゃないか。

 たとえ、たった一話の詳しい中身さえ覚えていないものだとしても。

 転生のことが自分の妄想だと気づかせないためだからって、本当に僕の異常は無駄なリアリティを出してくれる。

 

「……あ――」

「真黒さん」

 

 僕は立ち上がって目の前にいる真黒さんに聞いた。

 

「五十土君って……知ってますか?」

 

 真黒さんは少し迷いながらも答えてくれた。

 

「いいや、聞いたこともない」

 

 僕はまた苦笑をする。今の僕はどんな顔をして、どんな声なのだろうか。

 五十土――僕の記憶の中にいるはずの男子高校生。この箱庭学園に過ごしていると思っていた、男子高校生。

 それを真黒は知らないと答えた。くじらがいるかもしれないと、生徒名簿を血眼にして探していた彼が聞いたこともないと答えた。

 

 やっぱり、偽物か。

 

 僕が自分の記憶が変わっているかもしれないと思い込んでしまったから、少しだけ僕の記憶が関係ないところまで、その通りに変わってしまった。

 

 どんな顔をしてどんな人だったか覚えてなくて、あからさまに怪しいと思ったから聞いてみたんだけど、思った通りか。

 

 僕は真黒さんを置き去りに居間を出て、我が家の辺りを見回した。

 

 黒と白の四角いマークが入っている物がある。

 たしかあれは、異常者だけにもらえる特別な学校側からの配備品だという印だったか。

 

 なんで人づてから聞いただけの話で、僕を理事長室に呼んで『フラスコ計画』まで話したのか、それはきっと僕が異常だったことを知っていたからじゃないのか。だけど僕は、僕の微かな記憶では、きっと異常クラスに入るはずの結果だった入学テスト、理事長を前にした面接で、僕は帰るときにこう言ったんだ。

 

『やっぱり僕は普通ですね』

 

 それはどう受け止められたのだろう。

 普通クラスに入りたいと聞こえたんじゃないのだろうか。

 

 まあこれも、この記憶も結局は妄想なのかもしれないのだけれど。

 

 ああ、そういえば『フラスコ計画』の話を聞くとき、僕がお茶を吹きだしたのも、実は理事長が僕の面接のときのことを話していたから、だったっけ。

 

 実は異常だけど僕は普通クラスに在籍していた。

 そして普通クラスだけど本当は異常だから、テレビや何やらまで配備品を貰える。

 

 また思い出した。今度は『フラスコ計画』を止める前。

 

 善吉が聞いたっけ。僕の親が元気かどうか。今なら分かる、なんでそれを聞いたのか。

 きっと善吉は僕と同じだったんだ。言い訳を作りたかった。僕は言った、僕はちゃんと言った、だから気づかなかったお前が悪いんだ――って。

 

 僕の親は死んでいる。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 僕の親が死んで、僕はとてもショックを受けた。

 

 だから逃避した。

 だから転生話を作った。

 

 少しでも現実から目を逸らしたくて。

 転生するにあたっては必ず一つ能力をつけなきゃいけない、とか、妙なリアリティを出してまで自分を欺こうとした。

 

 そうだ。

 そうだった。

 

 最初はちっぽけな妄想だった。

 

 それからどんどん大きくなっていった。

 

 異常となるまでに。

 

 僕は親が死んで数か月後、この異常を開花させた。

 

 目隠しをし、手首に水滴を当てて、これは貴方の血だー、って言えばその言われた人物がそう思いこんで死ぬ、というのはもう有名な話か。

 

 僕はきっと――その思い込みが異常と呼ばれるまでとなった。

 爆発が大丈夫なぐらいに。銃弾だって、喰らったって分からなければ無傷でいられるぐらいに。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 もう記憶が薄い。

 真黒さんは何処に行ったんだ。ああ、僕が家から出てったのか。

 

 夜になりかけの公園の真ん中でへたり込んでいる僕は自分の喉を触った、そこには喉仏がまだ出ていなかった。

 いつか出ると思ってたんだけど――どう出るか知らなかったな……。

 

 女顔負けの容姿、か。

 

 そんなのって、有り得るのかな。

 

 男なのに、声変わりもしない。

 

 善吉も小さいころは女装が似合ってったけ。

 

 可愛いと言われ続けた僕は、誰よりも可愛い黒神ちゃんが近くにいた僕は、どんな容姿になるか。

 

 そんなの、分かり切ったことだ。

 

「ああ――」

 

 女みたいな涙声が漏れる。

 僕の記憶は、楽しかったとか思っていた記憶も。苛められていたと思っていた前世の記憶も。顔も声も体も感情も性格も。

 全部、全部全部全部全部全部全部! ただの偽物だ!

 

「ああああ…………」

 

 消えそうになっているかもしれない本当の記憶を留めるために、僕は近くにあった公園の遊具に頭を思い切りぶつけてやった。

 何度も何度も。

 

「あああああああああああああああああ!」

 

 綺麗な満月が光り輝く夜、公園の地面に紅い鮮血が飛ぶ。

 一人の男が記憶を留めるために。その体に記憶を刻むために。八つ当たりもかねて。

 

 青の色が混ざった、まだ深夜とは言えない夜。

 

 

 

 

 

 

 

 彼の青春は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一章から見ていた方はどうもありがとうございました。
第二章から見てくれたか方もありがとうございました。
改定前の第一話、というか本当の第一話が残っていたはずですので、おまけとして最後に投稿しようかと思っています。
こう……記憶が変わってるって感じを出したかった作者でした。

それと、感想を書いてくれたAAAさん、答えた通り、転生者はない、というかいないという感じのちょっとした伏線? に使わせて頂きました。

他にも感想をくれた皆様、とても励みになりました。どうもありがとうございました。
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