時系列的には生徒会戦挙が終わった後ですから、あれっ? と思う場所が絶対にありますが、投下するならこの順番が良いなーと書き溜めしてたときから思ってたので、安心して(?)見てください。
なんてことのないとある日のことだった。地球は変わらず回っているし、太陽も雲に隠れたりせずにその存在を表しているように、何も変わらないそんな日常だった。
僕は両親に病院へ連れていかれた。その時の僕は二歳と、年端もいかない子供で『普通』の子供なら若干の丸みを帯びた体や、人を疑うことも知らない頭で、両親を含めた大人たちから女の子みたいに可愛いね、なんてまだ二歳の男の子にとっては褒め言葉になるようなことを発言されるのだ。
いや、まあ実際に言われた気もするし、そのせいでこの見た目になった気もしなくもない。
誇大妄想、それこそが僕の異常でアブノーマルで特別な能力なのだ。
特に子供というのは感受性が高いもので、人の痛みが良く分かると言われている。ある人間の昔の写真を見たときに、純粋そうで可愛い、という感想を抱かなかっただろうか。そう、小さい子供というのは見た目から分かる通りほとんどが純粋だ。
嫌いだと言われれば傷つくし、君のことなんて好きじゃないんだからねっ、と言われても普通に傷ついてしまう。残念なら子供にはツンデレというものが効かないのだ、鬼ごっこの時に張る無敵バリアーなど比ではない。言葉通りに受け取ってその言葉通りに悲しんだり傷ついたり、嬉しがったり楽しんだり、そういう感情を出す。さしもの僕も例外ではなかったのだろう。
可愛いという意味を言葉通りに受け取った僕は、こんな見た目になってしまった。仮にも親から授かった大切な見た目をこんな、と言うのは多少たりとも無礼というものだが、そもそも僕のこの見た目は本当に親から授かったと言えるのかすら
可愛いと言われてきたからその言葉通りに可愛い女の子のように育ってしまった。『純粋』だった僕は、そんな大人の言うことを真に受けてしまったのだ。可愛いという褒め言葉を言われて嬉しかったし、僕自身可愛い見た目なのだと思い込んでしまったのだろう。その時は確かに嬉しかったが、しかし声を大にして言わせてもらえば、そんなの男子高校生になった今の僕に取ったら不名誉でしかない。そしてその不名誉を作ったのは紛れもなく僕の異常でアブノーマルで特別な能力、思い込みを僕にとっての現実とするスキル――僕のことだけなら見た目も記憶もなにもかも思い込み通りにしてしまう最悪な能力、
さて、前置きがとても長くなってしまったが、そんな異常な二歳の頃の僕は、最初に言った通り病院へ連れていかれた。
そしてこの病院での物語こそが、きっと僕を語り始めるのに必要なものなのだろう。
僕が僕に向き合うためにも、最初からちゃんと僕を見返すべきなのだ。苦しいことがあっても、悲しいことがあっても、逃げずに立ち向かうべきなんだ。
また、この物語においては安心してほしい、今回語る物語において、今までとは違い、矛盾も曖昧さも、そういうものが一切ないはずだ。というかそうじゃなきゃ僕が困る。
これは本物の僕の物語なのだ。
偽物だった僕の、本当の僕の思い出なのだ。
だからこそ、今度こそ
悲しく辛く、険しい思い出だとしても、不幸を嘆いた僕で、今までの悪いことをすべて都合よく妄想の世界に逃げ込んだ僕は正々堂々とこの物語に向き合おう。
そして終わらせよう、この物語を。
神夏語。
僕の思い出に決着を付ける日がやってきた。
「いえーい」
全体的に白い部屋、薬品棚やベッドが置かれているその部屋は病室としか言えないもので、そこで医者と向き合うようにと置かれた椅子に座っている二歳の僕は、人差し指と中指の間に目を覗かせるように横ピースを作っていた。
これが二歳の頃の僕なのかと、少々感慨深い気持ちになりもしたが、その正面に座っている女性を見て、また緊張が戻った。
大きめのリボンで一括りにしてある金髪、童顔、小学生みたいな身長、それは幼いころの善吉をなんとなく思わせるようなもので、そしてそれは人吉善吉のお母さん――人吉瞳だった。
「ええと……守原――空くん、だよね?」
「な、なぜ僕の名前を!? さては悪の手先か!」
「いいえ、善の手先よ」
優しそうな声色で、優しそうな瞳で、僕と楽しそうに話している。その光景が今の僕にとってしてみれば、嫌がらせのほかにならず、できるものならば今すぐにこの場から離れたかった。
「善の手先だと……」
「ええ、ちなみに善の子供もいるわ」
ダメだ、目を逸らすな。
見るんだ、ちゃんと見るんだ。僕は目を離しちゃいけないんだ。
今、謝っても伝わらない、僕の記憶に謝ったって、本人に謝ったことにはならない。ここで謝ったとしても、それは自己満足に過ぎないのだ。だから、駄目だ。少しでも罪を軽くしようだなんて、思っちゃいけないんだ。
だから、見ろ。
「んん、それじゃあ検査しましょうか。と言っても、ほとんど決まりみたいだけど」
一つわざとらしい咳払いをして、瞳さんは話を変えた。
「人体改造はちょっと……ダイジョウブ博士の契約書にサインしないのが僕の流儀ですから」
「守原空、異常、と」
「なぜかいきなり異常者扱いされた件について。お、これラノベタイトルでそのうち出そう」
そうだ、思い出してきた。僕は二歳の頃に病院に連れていかれて、今みたい、というかこの今を過ごしたんだ。
人吉善吉のお母さんと出会って、異常者かそうじゃないかの検査を受けた。
記憶が埋まる。穴を開けたはずの記憶の穴を、埋め直したように自然に、当然に、僕の記憶を本当の記憶に変えて舞い戻る。
僕――守原空は異常だった。そしてそんな僕でも赤子時代というのはあったもので、それこそ生まれたばかりの頃なんて、本当の本当に記憶が無いけれど、一歳の頃にはだいたいの物事をどういう意味か理解し覚えることができた。それから二か月で大人とちゃんとした日本語で会話することができた。
不気味だったろう、一歳の子供がちゃんと話せて人の話を受け答えして、一緒に楽しんだり悲しんだりするだなんて、そんな、そんな大人みたいな一歳児、不気味で当たり前だ。
だけど僕の周りはそれなりに恵まれていたようだった、不気味だなんだとわざわざ口に出す大人はいなかったし、両親も僕を露骨に気味悪がることなんてことも一切なかったと断言することができる。
幸せ者だ――幸せ者すぎて嫌になる。
「お母さんに伝えられてないかしら? 異常か普通かの検査を受けるものよ」
今なら分かるけど、これはきっとフラスコ計画関連のものなのかもしれない。そうでもなきゃ、こんな検査をする意味はないだろうし。
確かにこんなことを前もってしなきゃ、あれだけの異常者を箱庭学園に集めるのも困難だし。莫大なお金を使うだけあって、フラスコ計画にもそれなりの準備があったというわけか。
「じゃあ僕異常じゃないじゃん。目の前で僕よりもちょい大きいぐらいの子供が医者やってんもん」
「私はこれでも(ギリギリ)20代です」
「老っ!?」
「なんの『ふ』なのかなっ♪」
高校生になった僕からすれば、それはとても若いと驚く場面だったのだけれど、昔の僕に取ったら老けていることになってしまうようだ。
「……ふっふっふ、実は僕が悪の手羽先だったのだ」
「上着をヒラヒラさせてもマントにはならないし、羽にもならないのよ?」
「実は僕が悪のてしゃ――」
この後も何回か噛んで、ようやく悪の手先ネタが終わり、それから二三言葉を交わしたところで、人吉瞳先生の診断は終わった。
□ □
■ ■
「あー、終わった終わった終わったったーのタラリラララ。守原空ちゃん通院生活決定の巻。うわめんどくさっ!」
らららーっと診察室から出た後、すぐに歌いだす僕がいた。そしてどうやら異常と診断されてしまった僕は、これから何日か、ひょっとしたら何週間かをこの箱庭病院に通院しなければいけないらしい。通院とは言うが、要は異常の研究を重ねるための実験体ということだろう。
そしてその異常者な僕は急に短い脚で大人のいるところに駆け出したかと思うと、嬉しそうに向かった先にいる大人二人を呼んだ。
「ハロー父上母上! 無事、異常診断されてきました!」
父。
母。
その二つの単語を聞いた時、僕の頭は真っ白になったと言うに相応しいほど、綺麗に思考が停止した。父と母なんて言葉がまるで知らない単語のように僕の脳へと突き刺さったのだ。
「■■■■■」
「□□□□□」
その二人は紛れもなく僕の両親だったのだ。
普通、こういうときは泣いて喜んだりするのが通常なのかもしれない。だけどその時の僕はどうやって感情表現をすれば良いのか分からなかった。
泣けば良いのか喜べば良いのか、懐かしめば良いのか全くもって考えが浮かばない。そしてようやく気づけた、僕は――
「合法ロリ先生に異常って言われた! これはPTAに訴えようぜ!」
その両親は困ったように苦笑いを浮かべて、結局何も返さずに僕の頭を撫でるだけだった。
そしてその両親は僕の両親のはずなのだ。
だけど――僕はそうとは思えない。なんてことだろう、僕は大好きな親を親とは思えなくなってしまっていた。
好きだったはずなのに。
尊敬だってしていたはずなのに。
生きていると思い込みたいぐらいに大好きだったはずなのに僕は――いや、だからこそ僕は、この大人たちを親とは思えなくなってしまったのだろう。
子供の頃の親はその人たちでも、その人たちが居なくなった後、僕が思い込みで作った都合の良い両親は、結局偽物でしかない。だけどそれでも、ずっと、何年もその偽物を親だと思い込んでいたのだ。
本物を忘れたくて、偽物を作った。
そしていつしかその都合の良い偽物が、僕にとっては本物に成り変わってしまっていたのだ。
「へ、入院すんの? めーんーどーくーさーいー」
「■■■■■■■■■■■」
「えー、だってだって元気だし……」
「□□□□□□□□□□□□□□□」
「でも…………いや、なんでもないよ! いやっほー! これから合法ロリ先生にセクハラしまくるぞー!」
おー、と元気を出す僕だった。
通院と入院、違いは家に居るのか居ないのか。
要は厄介払いということなのだろう、そしてこの病院に異常者が集めることができる理由も、異常者を託児所代わりとして預けることができるからではないのだろうか。
「で、僕の病室は? 遊び道具は? 遊び相手は? 一体どこかしらーっ」
と言うと、僕の父親のほうが手を引いて、白衣を着た男性の元へと案内した。どうやらこの人が僕の病室を案内なりしてくれるらしい。両親は一言二言会話を交わせて、最後には頭を下げてお願いをして終わらせた。
「じゃあねー! ファザー上マミー上、またいつかー」
一応病院なのにうるさい僕だった。
まあ、病人というより、異常人しかいなさそうだけど。
そして僕は、白衣の男性の手をつなぎ、両親の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。僕の両親もまた、苦笑いを浮かべ続けたまま手を振り返し続けた。
そのシーンはまるで、子供と親が別れる普通の風景だった。そしてだからこそ、気持ち悪く思った。
入院だなんてそんなの、僕がいて邪魔だからそうさせているだけに過ぎないだろうに、それなのに、迷惑だから入院させるなんて異常なことをさせておいて、そんな普通の家族みたいな光景をさせているところが、とても気持ち悪かった。
親が忙しいとか、そういう仕方がのないわけも有るところは有るのだろう。
でもさ、分かっちゃってるんだよ。僕、高校生になっちゃったんだもん。そうやって目を逸らしてきたこととかもさ、全部、目の当たりにしちゃってんだ。
僕が邪魔だから入院させてるってことが、分かっちゃってるんだよ。
けれど二歳の僕は気づいてない風にそれでも喜んで、角を曲がって両親が見えなくなっても、満足したみたく、繋いでいる手も犬の尻尾のように元気に振っていた。
「まだかなまだかな」
「♦♦♦♦♦♦♦♦♦」
「まだだなまだだな」
「♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦」
「まだなの?」
親が見えなくなって十分ほど経った、それでも病室に着くのにまだもう少し時間が掛かるらしい。分かってはいたがこの箱庭病院、滅茶苦茶広い。箱庭学園の敷地や時計台地下といい、フラスコ計画にどれだけの予算が惜しみなく使われていたのか、リアルに体感できた。
そして歩くのに疲れてきたところで、手を繋いでいた男は一つの部屋の前に立ち止まった。
「お、ここ?」
「♦♦」
白衣の男性は畏まりながら肯定した。その態度が気分を良くしたのか、僕はニンマリ笑い、御苦労と偉そうに労いながら病室へのノブ式の扉を背伸びしながら腕をギリギリまで伸ばして開けた。
「――おお」
病室と言うよりかは、子供部屋だった。
二歳の子供には勿体ないぐらいの広さで、大人にもちょっと広いと感じるくらい。とりあえず机やベッドを置いて、逆立ちしても安全なくらい余裕のある部屋だ。
部屋にあるものと言えばカーテン付きの窓、そのすぐ下に衛生的なベッド、色々なおもちゃが入っていそうな箱。あとはベッドとは反対に位置する、天井に付けられた小さなテレビと、平凡な託児所顔負けの設備だ。
さて、僕はと言えば部屋に踊り入った後は、ベッドの上に飛び込み嬉しそうに跳ねている。
「広い広い広い! 僕の部屋! 僕の部屋! へやへやへやへやっほーい!」
「♦♦♦♦♦♦♦♦」
「うん! もう良いよ、じゃあね!」
と、言うとまた畏まった様子で、何か用があったらベッドの近くのナースコールで呼んでくれと伝えられ、扉を閉めた。
ガチャン、ガチャリと二つの音がした。前者は扉を閉めた音で、後者は扉の鍵を閉めた音だ。そしてそれが表すことは僕がこの部屋に閉じ込められた状態だということだが、確かに勝手に部屋から出ないようにしたほうが、安全なはずだ。
「わーいわーい! わーいわーい…………」
と、外から聞こえる足音が遠くなっていくにつれて、ベッドの上で飛び跳ねる回数も減っていき、聞こえなくなった時にはぐったりとうつ伏せに寝ているだけだった。
「わーい…………遊び相手いないのかな……」
ベッドの上で、一人寂しくぼやいていた。
一人で寂しくて、悲しくて、誰かと一緒にいたかった。
一緒にいたかったけど、それができなくて――とても痛かった。
「……鍵、閉められちゃったな…………」
手元にあるナースコールのボタンが付いているリモコンを手繰り寄せた。押そうとは思わない、ただこの時の僕は呼べば来るというそのリモコンが、人との見える繋がりに見えて、寂しい気持ちを紛らわせることができたのだ。
一人じゃない、それを確かにできたことが、不幸中の幸いと言ったところだった。
「テレビでも観よう……」
どうやらベッドに寝たきりでも不自由なく生活できるように、テレビのリモコンもベッドに付属している形で付いていた。
『神様はいるんだ』
「へー、そうなんだ」
『死んだ○○○は黒い球体を見た!』
「ほー」
『そのNOTEをuseしちまったら天国や地獄に行けると思うな。HAHAHAHA!』
「ワクワク」
『――――――』
テレビに満足した僕は電源を切った。
そして一息吐き、決意をした。
「脱走しよう」
それは僕専用の病室に入って二時間のことだった。
□ □
■ ■
結果的に言えばその行動は失敗した。そもそも僕は鍵開けという泥棒じみたスキルを持ち合わせていないし、そこまで脱走したいという熱意があったわけでもない。できれば人に迷惑をかけないというのが今も変わらずい持っている僕のポリシーというものだ。
まあそんなものが確固たるものなら、脱走という話もでてこないはずだけれど、その時はそんなものを上回るぐらいに寂しかったとか、そんな話だろう。脱走しても良いぐらいに寂しくて、でもそこまで脱走したいわけじゃないから、結局明確に人に迷惑になるようなことができず、脱走もなにもできないまま終わってしまったというわけだ。
そしてその失敗で一日を終えたということで、つまりは入院して半日――この病院で半日ほど生活したわけだが、どうやら風呂やら何やらの時間のときは、ナース(だいたい男性が来た)が来て伝えて、その指示に従い行っていくようで、まあなんとも(夕食も健康的で)味気ない一日になってしまった。
「ふぁあ~~」
そして朝、この病院で初めて迎える朝である。どうやら僕はそれなりに寝相が良いらしく、ベッドがぐちゃぐちゃになることはなかった。だとするとあの――いや、これはまたの話にしよう。どうせ一緒に思い出すことができるはずだ。
ベッドから上体を起こした僕は、寝起きは腕をほぐすように伸ばせるだけ伸ばして、他者からは礼儀正しくないと怒られそうな大あくびをした。
「はっ!」
ここで何かに気づいたかのように、寝る体制に戻った僕は、上体を起こした際、めくれてしまった毛布をまた掛け直す。
「…………」
そして目をゆっくり開けて、
「知らない天井だ……」
どうやらこれがやりたかったらしい。馬鹿みたいだ。
まあ、きっとこの馬鹿みたいな僕も、ちゃんと見なければいけない僕なのだろう。
ちゃんと――思い出さなければいけない、過去なのだろう。
「よし、起きるか」
こんなことをした後、やっと僕はベッドから降りるのだった。