とある箱庭学園の生徒物語   作:じょーく

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−2箱

「つまりはなかなか退屈な入院生活というわけですよ」

 

 入院生活二日目に突入した昼頃、昼食を食べる前、僕は瞳先生の検診を昨日とほぼ同じ形で受けていた。入院中とだけあって、一日に一回はこの時間が設けられているらしい。

 体に異常はあっても別状はないから問題もないのだが、そこら辺はフラスコ計画に必要な検査として見るべきだろう。

 

「そうなんだ~、それは可哀想ねー、ぐらいしか私は言えないんだけどね、立場的にも」

「立場なんて関係ない! ここで僕に優しくしなきゃ、今日も病室で自分を格好良いと独り言を呟いて過ごすぞ!」

「それは可哀想ね!」

 

 こうして改めて見る――思い出すと、本当に僕は異常だったのだと思い知らされる。こんな子供が悠長にちゃんと(・・・・)会話しているところを見ていると、それはあまりに馬鹿馬鹿しい光景で、案外僕は声を出さずに口を動かしているだけで、実際に喋っている人間は別にいるのではないかと疑ってしまう。舞台裏に声優がいる感じで。

 

「……今日はもう終わりの時間ね」

 

 僕の後ろに掛けられている壁時計を見て、そう言った。

 

「とうっ。ふっ、しかし覚悟しとけ、これは終わりじゃない……始まりだ!」

 

 背も足も短すぎるため、椅子に腰掛けても降りるというよりかは飛び降りる形で椅子から離れ、僕はそんな悪役みたいな捨て台詞を吐いて、診察室から出るのだった。

 ……昨日と言い、なんなんだろう、この僕の小悪党みたいな感じ。小悪党というよりかは子悪党だけど。

 

「…………」

 

 当り前だけど診察室を出ると、場所は待合室に移る。そこで反発力のあるソファーに、異常と見受けられる子供が一人腰掛けていた。

 と、僕はその座っている少女に目が止まった。

 なんと言えば良いのか、その少女は普通の異常者とは違う感じで目が離せない。

 決して危険とか、関わりあいたくないからという理由ではなくて、目を離したらその子の活躍を見逃してしまいそうな、そんな楽しみが減ってしまう危険。そう、それはまさにカリスマとか、そういうものだろう。驚くことに二歳ですでにカリスマを醸し出している少女がいたらしい。

 そしてその少女は黒神めだかだった。

 …………。

 黒神めだかだった。

 どんなに違う可能性を考えようとしても、僕の脳はその少女を黒神めだかではないとどうしても認めようとしない。青いサラサラの髪をしていて、美形な顔立ちで、頭も良く、運動も大得意。性格も良くてさらにはカリスマ性を持っているから、正に生徒会長になるために生まれてきたような女性、ていうかリーダーになるべき女性――黒神めだかだった。

 現在はおかっぱで、サラサラの髪という印象は強くないが、そんなのどうでも良くさせるぐらいの存在感を出しているのは、二歳児の黒神めだかだ。

 

「…………」

 

 この時、彼女を見て僕は一体何を思って、考えて、感じたのだろう。

 ここで初めて出会ったということは、僕は彼女について何も知らないということで、黒神ちゃんが強くて格好良くて、知恵もあって頭も回る、そんな完璧人間だということを知らない僕は、まだ対等な立場だと思っていたのだろうか。それとも二歳の癖に持って溢れている彼女の潜在能力のようなものを子供ながらの敏感さで感じ取り、恐れていたのか。だとしたらそれは何て素晴らしいのだろう。僕は後ろめたさも何もなしで、黒神めだかと関われたのだ、彼女の良い一面も悪い一面も、僕は知らないから、勝手に憧れることができて、恐れることができて、迫害できて、関わらないことができた。

 それが今はどうだろう。僕は知っている、知ってしまっている、彼女の強さを、良さを、正しさを。

 そして僕も知っていた、自分の弱さも悪さも正しくないことも。

 正しいことをできないでいたから、僕は黒神ちゃんを泣かせてしまった。

 ああ――後ろめたい。泣いている彼女の顔を見たくなくて僕は目をつむってしまったのだ。それが正しいことじゃないと分かっていても、彼女を泣かせる行為だとしても、僕はそうして、そうやって、黒神めだかを泣かせた。

 もうきっと、僕は黒神めだかと対等な立場になれることはない。それはもはや正しい思い出を思い出しても思い出さなくても、分かり切ってしまっていることだ。僕は下等で彼女は上等で、そしてずっとこれからその状態で過ごしていく。だから僕は今、こうやって思い出している中、彼女を初めて見ている僕のことが心底羨ましかった。

 

「ねえ、なんてーの」

 

 僕は彼女の名前を聞いていた。先に自分の名前を言わないのが、礼儀を知らないなとか思った。

 

「……色の黒、神様の神、平仮名でめだかと書いて、黒神めだかだ」

「へえ、僕は守るに原っぱ、そんでもって空って書いて、守原空だよ」

「そうか、それで貴様は私に何の用だ」

 

 その黒神ちゃんはまるで今の彼女とは似ても似つかないようで、もしかしたら黒神めだかのそっくりさんか、とか、名乗ったばかりなのに有り得ない考えが思い浮かんだ。初対面なのに偉そうというのは変わりないけど、この黒神ちゃんはまるで、僕に話しかけられたのが嬉しくないみたいで、と言うとナルシストっぽい発言に聞こえるけど、誰かに話しかけられれば善意を持って対応するというのが僕の知っている黒神ちゃんなのだ。

 それでも僕は気に留めずに何の用か……と顎に指を添えて考え込むような風にしてから、ばっと顔を上げ、指と指を擦りあわせて音を鳴らすのを合図に――言った。

 

「僕と脱走しようぜ」

「……ああ、私は一向に構わん」

 

 どこの格闘マンガに出てくる中国拳法の使い手だという突っ込みをするには、まだ僕が漫画を知らなかったらしい。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 前にも述べた通り、この箱庭総合病院はとてつもない広さを持ち合わせている。この病院が果たして僕みたいな異常者だけに許されたものなのか、それともただの病人も診断を許されるのか、それは知る由もないが、二歳児二人組――僕と黒神ちゃんで組んだ脱走犯。予想外だったのが組んで数分で黒神めだかが行方不明だとバレてしまったことだが、そこはそれ、この広い箱庭では逃げられる範囲も広いので、今も無事に逃げれている。

 とりあえず僕らは二歳児ならではの小さい身体を利用し、今は待合室から少し離れたソファーのすぐ下に隠れていた。一人でなら暗闇は怖いが、二人での安全が確証されている暗闇はスリルがあって逆に楽しめた。

 と、すぐ近くで僕らを探しているのか廊下を走り回っている音が聞こえて、楽しすぎるせいで吹きだすところをなんとか(こら)える。ちなみに黒神ちゃんは僕と同じうつ伏せで、最初に会ったころと変わらない憮然(ぶぜん)とした表情でじっと隠れていた。

 

「…………行ったかな?」

 

 あくまですぐ横隣りにいる彼女にギリギリ聞こえる声量で尋ねた。

 

「そのようだな」

 

 そう言うと、スルスルとほふく前進の要領でソファーの下から出る黒神ちゃん。僕も真似して出てみるが、黒神ちゃんのようにスムーズには行かなかった。

 服についた埃を軽く叩き落し、左右を確認した。黒神ちゃん以外の気配は感じないが、十秒後には分からない。とりあえずここに長く留まっているのは不味いと思い、僕は黒神ちゃんの手を取った。

 

「とりあえずこの場所にでも隠れてみよっか?」

 

 すぐ目の前には扉があった。その扉の大きさから察するに、診察室ではなく別の目的で作られた、それなりに大きめの部屋だろう。僕の背じゃ扉を開くのに一苦労だったので、僕が黒神ちゃんを肩車して、十分に足りた背で、引き戸の扉を音を立てないよう注意しながらゆっくり開く形になった。この場所に誰か職員がいないとも限らない、中を覗き込むのは必要な注意だろう。

 

「……大丈夫そう?」

「ダイジョーブだな」

「限りなく危険そうだ……」

 

 肩車したまま僕らが入れる範囲に、黒神ちゃんは扉を開いた。恐らくこれが僕と黒神ちゃんの初めての共同作業だろう。

 部屋に入りこんだあと、同じように扉を閉め、黒神ちゃんは僕に命じた。

 

「よし、降ろせ」

「嫌だと言ったら?」

「貴様を落とす」

「降ろさせてください!」

 

 黒神ちゃんなら可能だろう。たとえ二歳児でも、だ。

 

「よいしょ」

「こらしょ」

「どっこいしょ!」

「うわぅ!?」

 

 僕でも黒神ちゃんでも無い株を引っ張るための最終武器(ファイナルウェポン)を発言したのは、なんと他でも無い――金髪の男の子だった。

 そしてそのせいでビックリした僕はバランスを崩し、あわや黒神ちゃん大怪我かと思われたが、そこはさすがの彼女、僕を踏み台に三回転ジャンプをして着地した。ちなみに踏み台にされた僕は顔を着地させた。

 

「あはは! すごいすごい! トリプルアクセルだー!」」

「半回転足りんぞ」

「足りないのは僕への謝罪だ! まあ可愛いから良いけど……急に現れて、貴様は一体何者だ――名を名乗れ!」

 

 どんな時でも可愛いは正義らしい。

 にしたってこの男の子には何か見覚えが……。

 

「ひとよし――人吉善吉だよ」

 

 見覚えがあるはずである。今日だってこの男の子のお母さんを見たばかりじゃないか。

 にしたって、純粋、だよなあ。

 僕とは違って。

 黒神ちゃんとも違って。

 善吉は――純粋だ。

 疑いのない眼差しで、疑えない頭で、僕らを信じ切って見ている。それこそが子供の有りようというものだろう。

 そして最後まで僕を信じていたに違いない、だけど僕は――――それを裏切った。

 裏切って――――見放した。

 それは人吉善吉だけではない、黒神めだかだって、あの場にいた他の人たちだって、僕は裏切って、また、見放した。

 

「人吉……善の子供か!」

「? お母さんを知ってるの?」

「知ってるというか……まあ良いや。それで善吉、できれば静かにしてくれると助かるんだ。実は僕たち、秘密結社に休日出勤してそうな悪っぽい奴らに追われちゃってるからさ」

「ふおおおお……分かった、静かにするね」

 

 キラキラ―と瞳を輝かせ、慌てて両手で口を塞ぐ人吉善吉(二歳)であった。そしてその輝かしい瞳で良心を痛ませているのは守原空(二歳)で、その横で腕を組んですまし顔な黒神めだか(二歳)。

 

「じゃあ……とりあえず自己紹介でもしとく?」

 

 黒神めだか。

 人吉善吉。

 守原空。

 この三人組で会話するのは、もちろんのこと初めてだった。

 思えば、これから十数年経ったのか、高校生になっても切れない縁というものがあったんだ。

 切れない――縁。それがあったのに、どうして僕は逃げてしまったのだろう。架空の存在を作ってまで、幸せな家族というものを作ろうとしたのだろう。

 どうしてなのだろうか。

 それもこのまま回想し続ければ、きっと分かることか。

 そして僕は(まぶた)を閉じ、もう一度記憶の海に沈んだ。

 

「――――はい、えーと……実を言うと、ここまで大騒ぎにさせるつもりは無かった脱走計画だけど……これからどうしようか」

 

 そうなのだ、脱走と言っても、どうせすぐ大人に見つかって終わり、かと思って実行したのだ。それがこの黒神ちゃん、思ったよりもずっとずっと優秀で、大人に迷惑を掛けている後ろめたささえ無かったら、今頃この病院から出れているのではないのだろうか。大人の怒声が飛び交うごとにいちいち躊躇していた僕がいなかったら、きっとできたはずだ。

 

「脱走しないも脱走するも、考えが纏まるまで、しばらくここで身を潜めるのがよかろう。遊具はあるが、生憎どれも暇を潰せそうにないがな」

 

 ともあれ、とりあえずそこかしこにある玩具を手に取り、品定めするような目と手つきで持つだけの黒神ちゃんだった。

 

「? ゆーぐ?」

 

 面白そうな物はないかと、おもちゃ箱を漁っている僕が、黒神ちゃんと国語辞典に代わって説明する。

 

「おもちゃのことー。でも黒神ちゃんはそれで良いの? 脱走したいから僕の案に乗ったんじゃ……」

 

 その問いを遮って、黒神ちゃんは答えた。

 

「違う。ただ単に暇を潰したかっただけだ」

「んー、なら良いか」

 

 暇を潰したかったのは僕も同じなのだから。その答えに疑問を持つことは無い。暇つぶしに脱走したくなって、仲間を誘ってみたらその仲間も暇つぶしに脱走したかっただけだ。もしかしたら脱走じゃなくても良かったけど、そこは議論するところではないだろう。

 持っていたおもちゃをポイっと捨てて、今度は逆に黒神ちゃんが聞いてきた。

 

「……何故、私を誘ったんだ?」

「なぜって、うーん」

 

 おもちゃ箱を漁るのを止めて、腕を組み――言った。

 

 

「多分、黒神ちゃんと一緒だったんじゃないかな?」

 

 

 その答えに面くらったのは黒神ちゃんではなく、僕だった。

 何を言っているんだ僕は。黒神ちゃんと一緒だなんて、そんなはずがないだろう。僕と黒神めだかは違いすぎている。それは二歳の頃でも例外ではない。なにもかもが違うではないか。

 知恵も力も魅力も運も性別も、全部が違う。それなのに一緒だと言えるのは間違いなく、僕が黒神ちゃんを知らなかったからだ。きっとこの時の僕は知らないんだ、彼女のことを、正しさを、だからそうやって、おこがましく自分と一緒だなんてことを言ってしまうんだ。

 

「一緒……暇を潰したかったら誘ったのか?」

「いやいや、違くてさ、暇つぶしの前。だから僕と同じで――」

 

 おもちゃ箱から完全に目を離し、黒神ちゃんを見て、その言葉を放った。

 

「――寂しかったんでしょ?」

 

 ああ――――。

 なんてことを言うのだ。

 寂しいなんて、そんなはずが無い。

 黒神めだかと寂しいを結び合わせるなんて、平和と核爆弾を結び合わせることと同じだ。

 だって、黒神ちゃんは――黒神ちゃんは。黒神……ちゃん。

 

「…………」

 

 途端に――とても寂しくなった。一人ぼっちだからか、心細いからか。

 でも、ほら、やっぱり有り得ない。黒神ちゃんがこんな風に、僕と同じように寂しがってるなんて。

 黒神ちゃんは、なんでもできるんだ。たとえ二歳でもそれは変わらない。僕に肩車されたまま僕の意識を落とすことなどお茶の子さいさい。そんな神様みたいな彼女が寂しがるなんて――。

 ズキリと、頭が痛む。

 僕が最後に見た黒神ちゃんの顔がぼやけた映像として差し込んでくる。

 そんな顔にさせたのは紛れもなく僕だ。黒神ちゃんが寂しがる、泣くかもしれない。そんなこと、本当は分かっていた。

 僕が一番よく知っているはずだった。黒神めだかは強く、正しく、人間の領域を超えた存在であっても、可愛い女子高生であることは変わりないと。そうだ、知っていた、分かっていた。泣くことを堪えられても、悲しみは堪えられない。そんなのは人として当たり前のことなのに、僕はそんなことも彼女には可能だと、思い込んで――忘れて――逃げた。

 分かってる。

 黒神ちゃんは僕と一緒だ。

 僕と一緒の――人間だ。

 化物でも神様でもなんでもない、喜んで怒って悲しんで楽しめる人間なのだ。

 だから寂しがりもするだろう、泣いたりするのだろう。そうだよ、分かっていた、そんなことはずっと前から分かっていた。知っていたんだ。自分が情けない、イライラする、成長ではなく退化している自分に腹が立って仕方がない。こんなことも忘れていたのかと、こんなことからも逃げていたのかと、とても、とても悔しかった。

 

「私が……寂しかった?」

「暇つぶしとかじゃなくて、寂しつぶしって言うのかな? いやー、僕も入院とかしたけど、一日で寂しくなっちゃってさ」

 

 悔しくて。

 寂しくて。

 僕は――泣いていた。

 

「……『人間は無意味に生まれ』『無関係に生きて』『無価値に死ぬ』」

 

 ふいに、誰かの物まねをするみたく、復唱するように黒神ちゃんは呟いた。

 

「私が、人と無関係なまま死ぬのが嫌で、誘いに乗ったとしよう」

 

 寂しくて――乗ったとしよう。

 そんな私のことを一目見て分かったとしよう。

 

「だったら――私はなんのために生まれてきたのか、それも分かるというのか?」

「分かるってばよ!」

「……それはなんだ? 私に教えてみろ」

 

 腰に手を付け胸を張り、僕は自信満々に言った。

 

「僕のために生まれてきたんだ!」

 

 その答えに黒神ちゃんは目をパチパチと瞬きさせて、僕を見ていた。正直言うと今の僕もその答えを聞いて同じ反応をした。昔の僕が言った癖に、その記憶が無いに等しいから本当に別人が言ったみたいな感じになっていた。

 

「……お前のために?」

「うん! さあ尽くせ! 奉仕しろ! そしたら僕は嬉しいし、ちゃんと意味ができて関係もできて価値もできるじゃん!」

 

 利害が一致、いや利利が一致と言って良いね、と言う僕だった。

 僕。

 これが、僕。

 守原空という人間らしい。

 

「ぼく……」

「おいおいショタ吉君、僕が君のことを忘れる筈がないじゃないか。そして気を付けろ黒神ちゃん、僕のために生まれた――――生きるということは君は僕を幸せにする義務がある。つまりは僕の望みを叶えるんだ」

 

 ふざけた答えを言って、自分は害を被らず、利益ばかりを取りたがる人間で、

 

「言っておくが僕の幸せはそう簡単に取られないぜ、まず僕以外のみんな、善吉はもちろん周りにいる人も幸せにしなきゃ、僕は幸せとは思えないからな!」

 

 他人に大変なことを押し付ける人間――それが守原空だ。

 

「ま、とりあえず僕や黒神ちゃん含めて、みんなを幸せにするために生まれてきたってことで、どうよ?」

 

 最初の自身は何処に行ったのか、チラチラと黒神ちゃんの表情を伺う。そんな様子を見て、僕は苦笑した。

 馬鹿みたいだ。

 見ていて馬鹿らしい。

 悩んでいたことがどうでも良くなってくる。

 だとしたら、それはきっと、昔の僕のおかげなのだろう。

 

「………………ああ」

 

 黒神めだかは感嘆の声を漏らす。

 そうか、と納得したように呟いて、

 

「私は、みんなを幸せにするために生まれてきたのだな」

 

 初めに会った頃に浮かべていた、僕には興味の無いような、どちらかというと悪意があるように思えるような顔は、そこにはもう無い。空に雲一つないような晴れ晴れとした表情で、善意がそこにあると言える――僕が初めて目にした、彼女の笑顔――神様のような笑み。

 

「ありがとう――――(あき)

 

 それを浮かべて、彼女は僕にお礼を言ったのだった。

 

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