とある箱庭学園の生徒物語   作:じょーく

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−3箱

 あれから二年。

 すなわちあの黒神めだかと人吉善吉二人とのファーストコンタクトが終わって、二年が経った。

 その年月の間にいったいどれだけの冒険劇が遭ったか、ぜひとも脚色加えて嘘ばかりの話として書き加えたいが、実際はそれといって目立つようなことは無かったので、省略。

 そういうわけで、二年。何度も繰り返すがあれから二年後に、イベントが起こった。

 

「…………おひさ!」

 

 僕は箱庭病院から脱走――できなかったが、正規のルートで外を出ることに成功した。簡単に言っちゃえば退院した。

 

「■■■■■」

 

 そして車の中。二年ぶりに父親と二人きりである。かと言って、別に会うのが二年ぶりというわけではなく、母親と一緒で良いならばその二年の間に何回も面会している。そして今回もその面会だろうと思ったが、実際はこうして退院することになっていたのだ。白昼堂々とした突然の出来事で、車に乗りエンジンが掛かるまで、僕は一言も話すことができなかったが、本当に家に帰れるのだと分かると、ようやくお久しぶり、との一言を絞りだすことができた。

 

「えと……もう、入院しなくて、良いの?」

「■■■■■■■■■■」

 

 不安の混じった僕の問いに、快活と答える父。

 

「おお、おお。なるほど。へー、そうなんだ。へー」

 

 答えを聞いて何気ない風を装っているが、生憎誤魔化すのが苦手な僕は、嬉しいという感情を隠しきれていなかった。もしも僕が犬で、尻尾があったら千切れていそうだ。

 

「■■■■■■■」

「んにゃ、別に。むしろ時々楽しいイベントもあったよ」

 

 何気ない会話を、中にいる親子は繰り広げる。

 普通の家族みたいだった。それは多分、僕の思い込みとかじゃなくて、本当に普通の家族だったのだ。

 二年。

 あれから二年なのだ。

 背も伸びて、幼稚園児と言い張れるぐらいの背になった。そこまでいくと、もう異常とかではなく、少々他人よりも頭が良くて、舌が流暢に回るただの幼稚園児に見えた。見た目が成長したおかげで、僕の異常性は限りなく薄まっていたのだ。二歳が大人と話すのは異常な風景だとしても、四歳ならば――異常ではない。むしろ会話をしないほうが変だ。

 もしかしたら、僕を入院させたのは厄介払いなどでは無かったのかもしれない。

 それはもう、確認しようのないことだが、ただ単に、こういう事を望んで、一旦距離を置いただけで、僕がこうして成長するのを待っていただけだった、という計画を僕には知らせずに両親が陰で暗躍していたのだとすると、それは少しだけ、僕を幸せな気持ちにさせた。

 この時の僕もそう考えて、だから両親を好きになったのかもしれない。今までは僕の一方通行な会話と言って良い、それが今ではこうして楽しい親子の会話をできている。

 距離を正常にするために一旦距離を置く、それは確かな優しさだ。少なくとも僕とは違う、逃げたりしていない、両親なりの立ち向かい方。僕の目を見てちゃんと会話するための、普通の両親が考えた、異常の子供との関わり方。僕と一緒に幸せになりたいという、親のささやかで当たり前な願い。

 その願いを叶えるときが、こうしてやってきたのだ。

 

「お、もう着きそう?」

 

 父と会話をしつつ、車のフロントガラスから風景を見ていた僕はそう聞いた。見覚えのある風景だったらしい。

 

「■■■」

 

 そして車は徐々にスピードを落としていき、一度完全に止まってから、今度は後ろに進む。バックして車庫に車を入れて、到着。僕の家。

 車から出て、久しぶりの家の対面に感動しつつ、玄関に目を向けると、母親がそこには立っていた。

 

「お、おひさー」

「□□□□□」

 

 柔らかい笑みを浮かべて僕を出迎える母親。なぜか少しギクシャクしてしまう。久しぶりに家で、みんなで暮らせると改めて分かってしまったからだろうか。いやに緊張した。

 

「□□□□□□□□□□」

「う、うん!」

 

 緊張は完全には取れなかったが、今はこれで良いのだろう。

 少しずつ、少しずつ、今みたく、平凡で普通でノーマルな日常を過ごせばきっと――――幸せになれる。

 今はその理想に向かえば、それで良い。

 良い――はずだった。

 

「え、えへへ」

 

 だけど僕は知っている。

 知ってしまている。

 これから守原空にどんな困難が待ち受けているのか。

 どんな――地獄があるのかを。

 一足先に知っている僕からすれば、この僕と親が繰り広げている光景は、なんて滑稽なのだろう。ひどい茶番劇だ。フラグを立たせるための何気ないものに過ぎない。所詮は伏線だ。

 過去はどうあっても変えられはしない。

 ならば――両親がいなくなる過去も、変えられるはずがないのだ。

 

「ただいま!」

 

 あの日常に帰られはしない。これはただの僕の記憶で、一方通行な過去なのだから。

 そこにIF(もしも)は有り得ない。

 

「「□■□■」」

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

 有り得ないから、人は死ぬ。

 

「…………」

 

 幼稚園児になって、さらに二年経った。家族と楽しく過ごしたその年月はあっという間に過ぎて、今に至る。

 僕の両親は死んでしまった。

 そのたった一行で表せる事実に、しかしうつむきそうな顔を無理やり上げ、腕は何にも反発させずに垂らして、膝を床に付かせて僕は僕しかいないただ一人の家で、寂しくいた。

 本当にとても寂しくて、なんなら両親とはあのまま一緒に過ごすことなどせず、両親の正しさや考えを理解しようとなどしないで、ずっとあの病院で入院しておくべきだったんじゃないかと思うぐらいだった。

 

「なんなんだよ……」

 

 僕はおでこを木製の床にぶつける。

 葬式は終わり、僕は良く分からないながらも、両親が死んだ事実をゆっくり受け入れ――――られなかったのだろう。

 両親が死んだ所なんて見ていない、車で事故なんて起こす筈がない、僕を置いて死ぬはずがない――知らない、嘘だ。そんな事実は嘘なのだ。

 勝手に葬式をして、楽しい二年間は終わって、これからまた一人なのだろうか。

 一人。

 一人は――嫌だ。

 寂しくて――嫌になる。

 

「ハッ」

 

 僕は一声笑った。

 

「恥ずかしいなあ……恥ずかしいなあ!」

 

 僕ってなんなんだろうなあ!

 家族と離れ離れになって寂しがって。

 家族と一緒になって嬉しがって。

 両親のことがもっと好きになって――――なったのに。

 好きになったから余計に辛くなってるなんてさあ! なんなんだろうなあ。神様にでも弄ばれてるのかなあ、だとしたら僕がどれだけ両親を好きなのか知られてて――恥ずかしいなあ!

 馬鹿みたいにはしゃいじゃってさ、一緒に買い物行ったり遊んだりとか、そういう日常がいちいち嬉しくて笑っちゃったりさ。

 一人でギャグやって一人でシリアスやって一人で空回りしてる。僕だけしか舞台にいない僕一人の舞台。一人で笑ったって一人で泣いたって、そんなの見ても失笑するだけだろう。本当に僕って何やってんだろうなあ。頑張っても無意味で、努力しても価値なんてできずに、勝利もなしの戦いに勝手に敗れている。

 

「……なんなんだろうなぁ」

 

 なんなんだろうなぁ本当に。

 両親が僕と一緒に暮らしてすぐに死んじゃうなんてさ、そんなのまるで両親が僕にショックを与えるためだけに生きてたみたいじゃないか。

 この世界の神様は僕が嫌いなのだろうか。

 じゃなかったら、どうして神様は僕をこんなにいじめるんだ(・・・・・・)

 異常だからか。普通じゃないからか。どこにでもいる平凡な人間じゃないからか。そんなことがそんなにも悪いのか。

 僕だって、異常者になりたいわけじゃなかったんだよ。誰かに異常者になりたいだなんて願ったのか、別にお願いしたことなんてないよ。

 

「嫌だよ……」

 

 また、頭を撫でてほしい。

 可愛いな、と褒めながら頭を撫でてほしい。そうだよ、両親が褒めてくれたこの容姿なら、神様も好きになってくれるんじゃないのか。

 なら、これで良いよ。それで良いよ。それが良いんだよ。

 女の子よりずっと可愛くなるからさあ、神様も僕を好きになってよ。

 

「異常なんていらないから」

 

 異常者が嫌いだと言うなら、僕もそんな異常はいらないから。

 普通とは異なるなんて、いらないから。

 両親から貰ったもの――性別や容姿や記憶はいるけれど、こんなに不幸になるのなら――神様が嫌うのなら、異常なんて、特別な能力なんて、いらない。

 異常な能力も、才能も、僕にはいらないから。だから――助けてください。

 

「それは……無理なのかな」

 

 異常じゃない僕は果たして僕なのだろうか。

 野球選手がいて、野球が下手になったらその人は本当にその人と言えるのか?

 錬金術師がいて、錬金できなくなったらどうだ。

 才能も能力も異常も。

 そういものなのかもしれないと、僕は思った。

 

「…………」

 

 そんなの――まるで呪いみたいじゃないか。

 意味もなく生まれた瞬間に神様に嫌われるためだけにできた異常なんて、呪い以外にどう表そう。

 

「ああ……」

 

 呪いでも、なんでもいい。

 両親を返してくれ、あの二人しか僕の両親はいないんだよ。

 だから、この呪い――僕の異常。お願いだから今すぐにでも能力を発揮してくれ。僕の異常なんてどこが異常なのか、僕にはよく分からないけれど、単に他の子よりも発達しているところ以外に異常なんて見受けられないし、特別な能力があるかなんてわからないけど。それでも――ぜひとも芽生えてくれ、僕のピンチだ。ピンチには能力覚醒が付きものだろう。だから、だからほら、さっさと僕を助けろ!

 いや、ピンチなんかじゃないか。だってこんなのは嘘だ。全部嘘だ。神様なんていない。神様は僕の親を殺さない。

 無効化してやる。

 無力化してやる。

 否定してやる。

 神様の力なんてない。

 神様の能力(ちから)なんてない。

 神様は僕の両親を殺せない。

 神様は僕の両親なんて殺してない!

 

――それが嘘だって言うのなら。

 

「神様のちから(・・・)なんて、僕が無力化してやる」

 

 それが僕の願いだった。

 あのころの僕が求めた――才能だった。

 神様の力で両親を殺されたのなら、それを無力化してやるという僕の願い。

 後にこれが勘違いに勘違いを重ねたような形で、神様だけの『ちから』じゃなく、神様以下の『ちから』を持った人の『ちから』も無力化するという異常になるのだが、それは別の話だろう。

 

「…………」

 

 苦しくなって、僕は瞳を閉じる、現実から目を背けるために。

 童の目は閉じられ、夢を見るのだ。現実では有り得ない夢を僕は見るのだ。

 

 1、GANTZ

 2、バトル・ロワイヤル

 3、バイオハザード

 

 どんな夢を見ようか、どんな夢を見たくないのか、そんなのは関係なしに、僕の頭を巡るのは両親を失った悲しみと苦しみと、漫画やゲーム好きな僕だからこそ思い描く物語。

 辛くて苦しくて悲しい物語に自己投影。

 だけど両親が死なないのなら、そんな物語の世界でも良いのかもしれない。

 こんな神様の箱庭なんかよりかは――――

 

「ぅん……」

 

 神様――その単語はしかし、一人の少女を思い出させた。

 

「くろ、かみ、ちゃん」

 

 神様の箱庭は嫌だけれど。

 黒神様の箱庭は良いのかもしれない。

 黒神めだかの箱庭。

 つまりは――

 

 1、―――クス

 2、GANTZ

 3、バトル・ロワイヤル

 4、バイオハザード

 

 1、―――かボックス

 2、GANTZ

 3、バトル・ロワイヤル

 4、バイオハザード

 

 1、めだかボックス

 2、GANTZ

 3、バトル・ロワイヤル

 4、バイオハザード

 

 そんな選択肢が出来上がって、どんな夢を見たのか。

 僕はどの世界を選んだのか――。

 不幸にまみれて、悲しくて辛くて、自分なんてどうなっても良いとか、思ってたに違いない。

 

『黒神ちゃんはさ』

 

 それならきっと、1番を選ばなくても良いはずだ。

 

『僕のために生まれてきたんだよ』

 

 それでも僕がそれを選んだのは必然だろう。

 

『まず僕以外のみんな、善吉はもちろん周りにいる人も幸せにしなきゃ、僕は幸せとは思えない』

 

 だって――。

 だって僕も、みんなが幸せな世界が良かったから(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……帰りたいな」

 

 それは寝言か――起言(プロローグ)か。

 幸せな世界に帰りたいと願って――その世界に行くために思い込む。

 両親は死んでなんかいないのだ。僕は幸せな世界にいるのだと、思い込むために守原空は猛進する。

 

 みんなが幸せな世界へと――――――。




ここで書くのを挫けたみたいです。
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