とある箱庭学園の生徒物語   作:じょーく

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トランプを文章にするのって難しい。


機会提出

「ルールは分かりました。ですが」

 

 僕が保健室にあった一枚のプリントの裏に書いたルールを1分ほど眺めた後、赤さんは言った。

 確かに基本大富豪とスピードを混ぜ合わせて即興で考えたようなゲームだし、どちらのゲームのルールも知っているならばそれほどルールも複雑とは思わないだろう。それでも1分で理解できるのは常人よりも早いと思う。いや確実に早い。

 そしてさらに驚くことに、僕の狙いを狙い済ましたかのように赤さんはルールの付け加えを提案した。

 

「26枚のカードは、このゲーム上でのみ無くすことにしませんか?」

 

 バレたか……。

 一刻も早く黒神ちゃんのところに行かなければいけない僕は、26枚のカードをゲームで消費する意外の方法で失くして『ルール通り26枚のカードが無くなったから僕の勝ちって事で』。という手を考えていた。最低な考えかもしれないが黒神ちゃんの約束を破ることは僕にとって死ぬかもしれない大事な事なのだ。というか殺されるので許して欲しい。

 

 もちろんそんな簡単に赤さんは納得しないと思った。しかしその時はその時ということで失くした時に考えようと思っていたのだが残念。赤さんはあっという間に僕の考えを看破してしまった。

 まあそれほどまで期待もしていない完成していないような作戦だったし仕方がないっちゃあ仕方がないので僕はしぶしぶ、分かりました、と小さく返事をした。

 

 そんな感じで始まった機会提出。

 ルール通り順番をじゃんけんで決めてから、5枚のカードを相手に見えるように自分の場に出す。そして山札からカードを1枚、自分から見て右にカードを出した。どちらに出すかは決めていなかったがお互い右利きだったので問題もなく進む。

 

 僕から出たのはスペードの7。対して赤さんの山札から出たのはハートの1。机の真ん中の左右に出されたそれぞれのカード。

 これが良いカードなのか今は分からない。

 僕の手札は左から2,6,9,1の2枚重ね。

 うむ。良いカードなのかやっぱり分からない。

 そして赤さんのカードは……。

 

「……裏返しですか」

「ルール上は大丈夫でしょ♡」

 

 確かに絶対カードを表にしておけとは書かなかったな。

 早さを競うスピードじゃあありえない事だが今回のゲームはターン形式だ。早く出すか出さないかなんてどうでもいい。

 

「大丈夫ですけど出すときも裏返しのままとかは止めてくださいね。それだとダウトみたくなっちゃいますし」

「分かってるわ」

 

 イカサマは禁止。

 イカサマ防止のため、プリントを折って真ん中のトランプを囲んで上から落としてカードを入れる方式にした。紙が倒れるのを止めるためにテープも使った。頼りないがまあいいだろう。

 そもそもなぜこんな物を作ったかというと。さっきのルール改正を思い出して僕を疑った仕返しに僕も君を疑ったんだぞ、という所を見せるためにこんな、あんまり意味のない壁を作った。赤さんも怪訝そうな顔をしたが、最終的には許可をした。

 

 人間的に負けた気がする僕。

 自分の器の小ささを知った気がする今日この頃。

 先ほどしたじゃんけんでチョキを出し、見事じゃんけんにも負けた僕。なので赤さんが始めにカードを出す。

 

「じゃあさっそくハートの2でも出しましょうか」

「それなら1を2枚出してまた2でも出します」

 

 1を出したら2回行動。とりあえずこれで1枚分僕の有利。念のため1を1回出した事をルールを書いた紙に書いておく。

 そして山札から手札の無くなった分の2枚を取る。

 

「そう。3」

「4」

「7」

「2枚重ねた6を」

「こっちは3枚重ねた5」

 

 少ない言葉を交えて段々と少なくなってゆく山札。

 ちなみに現在の僕の手札は左から、9、11の2枚重ね、8の3枚重ね、10。持つカードが多い分重なるカードも自然と多くなる。

 そしてさらにそれから十数分。あっという間にゲームも終盤に入る。

 

「そろそろですね」

「あなたの命が?」

「僕が負けたら終わりますね」

「ついでに腹痛の事も言っておきますね♥」

「心と体をぶち壊す保険委員さんここにあり」

「治すという事は壊すという事も知っているわけです」

「どこかで聞いた事があるような格好良いセリフをどうもありがとうございます」

「私にとって病気とは治るものではなく、治すものです」

「超カッケー!」

 

 赤さんのスキルで治せないものは存在しないかもしれない。

 

「僕も何か治してもらおうかな……」

「残念ながら身長の低さまでは――――」

「人のコンプレックスをリアルに言うな! テンプレで頭の悪さとでも言っといてくれ!」

「知恵熱までは――――」

「頭の悪さを馬鹿にしつつ本当にある頭の病気を出してきただと!? だけど僕は乳幼児じゃなくてれっきとした高校生だ!」

「年齢までは――――」

「高校生だ!!」

「あまり叫ばないでくれません? 情緒不安定に見えますよ」

「…………もしも僕が勝ってあなたの笑ってる顔が撮れたら他の人にでも売っちゃおうかなー」

「そんな機会は永遠に訪れません。なぜならあなたはここで死ぬのですから」

「どこの魔王だ!?」

「保健室の魔王です♥」

「お医者さんこえー!!」

「医者が怖いなんてあなたは子供ですか?」

「医者が怖いんじゃない、医者であるあんたが怖いんだ!」

「残念ながら私はまだ医者じゃあありませんけどね」

「そういえばそっか」

 

 急に落ち着いた僕。傍から見れば確かに情緒不安定の患者かもしれない。

 軽口を叩きあいながらゲームを続けていると、何時の間にやら僕も赤さんも山札はほとんど無くなっている。僕に残っているのは手札の9、11の2枚重ね、6、裏返しにされたままの山札1枚。

 赤さんが自分の裏返しにしたままのカードを、1枚紙の穴に通す。

 

 これで机の上のカードは僕から見て左が13、右が7。

 僕から見て右の方に持っていた6のカードを通す。

 赤さんが12を左の紙の上に通す。

 赤さんの手札の残り枚数4枚。

 僕は2枚の重ねていた11をはい、と小さな掛け声を出して紙の上に通す。

 

 僕の手札はこれで9が1枚と赤さんには分からない手札が1枚。

 赤さんが10を出す。

 あれ? そういえばこの山札ってなんだ? そうしてそのカードを見ようとした瞬間に赤さんから言葉が出てきて僕のその行動は中断される。

 

「これで私は残り3枚ですね」

「僕は2枚ですね」

 

 伸ばしていた手を戻し机上のカードを見る。

 左右のカードは10と6。僕が持っているのは9と裏返しのままの山札。赤さんは全部裏返しにして、1枚ずつ置いている3枚のカード。

 

 もしも僕がここで9を出せば1回休みなので全部無くなるのに最低でも3ターンかかることになる。けれど赤さんも3枚あるので同じく3ターンかかるので3ターン目を向かえるのが赤さんより早い僕の勝ちとなる。まあ綺麗に1ターンずつ必ず1枚出せたらの話だが。

 これで僕が負けたらナース姿で写真撮影。社会的に死亡。

 絶対に負けられない勝負だ。

 

「……出さないんですか?」

 

 ここに来て、否。来たからこそ僕の頭を悩ますことが一つある。赤さんの裏返しにしたままの1枚ずつ置かれている3枚の手札だ。

 もうちょっとですね、と赤さんに返事をしてから赤さんの裏返しにされたままの手札3枚と机上に出されている10と6を見る。

 時間は残り20分程あるのでまだ十分考えられる時間はある。

 

 …………なんで裏返しにした? 赤さんの性格上無駄な事はしないだろう。もちろんこれは絶対という事ではないので僕のイメージみたいなものだが、少なくとも僕にとってはそんなイメージだ。さて、では無駄な事はしないような赤さんがなんで手札を裏返しにするなんて無駄な事をした? 僕の動揺を誘うため? 僕の思考を鈍らせるため? いや違う、はずだ。赤さんならば、この委員長ならばそんな安っぽい策は行わないだろう。ならば、なんで……。

 

 僕の頭に何度も同じような問いが頭に浮かぶ。

 イカサマのため? そんなのできることが限られているしすぐに分かるだろう。イカサマじゃない? ルールに則ったもの?

 このままでは僕が勝つかもしれない事ぐらい赤さんには分かっているはずだ。だったらターンを3枚のカードを覆らせることができる策がある。それはなんだ? このままやったら僕が負けることになる切り札が赤さんにはある。ルールの穴を突いた策が。

 ルール、ルール。

 

 ①カードはジョーカーを抜いた52枚。

 ②一人26枚ずつ持つ。

 ③26枚のカードで山を作るがそのさい山札は見てはいけない。

 ④始めに5枚カードを出す。その5枚のカードは見ても良い。

 ⑤同じ数の場合は重ねても良い。

 ⑥5枚のカードを出したら次に山札の一番上のカードをお互い机の真ん中に左右に分けて出す。

 ⑦ターン形式。

 ⑧机の左右のカードどちらでも良いので5枚の内のカードからカードの上か下か同じ数の1枚を出す。また、 カードは基本一つずつしか出せない(重ねた場合はそのまま出しても良い)

  例:5が出た場合は4か6か5しか出せない。

  例:1が出た場合は13か2か1。

  例:2を3枚重ねていたので2を3枚出す。

 ⑨大富豪と同じように特定のカードには特殊効果がある。

  8を出した場合その後のカードは何でも良い。

  9を出せば一回休み。重ねた場合も1回だけ。

  11を出した場合は10しか出せない。

  1を出せばもう一度カードを出せる。重ねた場合も1度だけしか増えない。

 ⑩先に26枚のカードが無くなった方の勝利。

 ⑪負けたほうはナース姿で写真撮影。

 付け足されたルール。ゲーム上でのみカードを無くすこと。

           カードを囲んだプリントの穴から落としてカードを入れること。

 84

 111

 14

 

 自分でこのゲームのルールなどを書いたプリントをもう一度見てみる。

 そして――――――――分かった。

 

「あ……、ああ!」

 

 そうか、そういうことなのか!?

 

「どうしましたか?」

 

 顔を変えないまま赤さんが冷静に聞いてくる。

 冷静になれるはずだ。このままじゃ、僕の想像通りのままでは絶対に勝てない。

 

「重ねても良い――――。ということは重ねなくても良い(・・・・・・・・・)

 

 油断。先入観。

 このルールにもう穴なんてもう無いという油断と、大富豪とスピードどちらも基本的に重ねて出すゲームだという先入観が僕の邪魔をした。

 

「本当は、それは重ねられるものなんですよね(・・・・・・・・・・・・・)。赤先輩」

 

 重ねられていない3枚のカード。

 それは3種類のカードだと、3枚それぞれ別のカードだと、勘違いしてしまった。7、8、9などのカードだとは思っても、間違っても9が3枚なんて考えにはならなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「――――正解ですね」

 

 そして見せられる3枚の9。

 

「……いいんですか? そんなにあっさり見せちゃって?」

「良いですよ。もう私の負ける機会なんて無いですし♡」

 

 確かにもう僕が勝つ機会も無ければ、赤さんの負けも無い。

 

負けは(・・・)……、ですけどね」

「……はい?」

 

 赤さんがキョトンとした顔をする。初めて見た。

 

「本当にそのルールの穴を突いた作戦。見事でした。まったく気づかなかったですよ」

「じゃあ……」

「気づかなかっただけですけどね」

 

 本当に気づかなかった。

 まさか、僕も無意識の内にその作戦をしていたなんて(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 重ねても良い。ということは重ねなくても良い。

 それならば。

 見ても良い。ということは見なくても良い(・・・・・・・)

 

「裏返しにしたままのカードがここに1枚」

「……でも、ここで私の勝ちを無くすなんてカードは――」

「ありますね」

 

 勝ちを無くす事ができるカードは――――裏返しにされたこのカードは、多分、恐らく、いや確実に。

 

「Jが1枚」

 

 ルールを書いたプリントの下にあったメモ書き。84。8が4枚。111。11が1枚。14。1が4枚。

 途中から書くことも忘れていたメモ。

 

「え? でもそれじゃあ結局勝てないんじゃあ……」

「正解ですね」

 

 こんどは僕が正解と伝える番だった。Jを出したら10を出すしかなくなり、10を持っていない僕等には何もカードが出せなくなってしまう。

 そして僕はこの機会にJを、無表情な顔をしているJを乾いた笑みを浮かべながら提出した。

 

「引き分けって事です」

 

 こうしてゲームであってゲームではない、僕にとっての死のゲーム、機会提出は終わりを告げた。

 

 

    □ □

     ■ ■

 

 

「本当に撮るんですか?」

「撮るんです」

 

 引き分けだから両方とも写真を撮る。それが今回のゲームの結末だ。

 だけどそれならどちらも写真を撮らないでも良かったんじゃないだろうか?

 そんな疑問を頭に浮かべつつ、僕は両手でカメラをいじる。

 

「まあ、いいですけど」

 

 カメラのセルフタイマーをセットし終わった僕は小走りで赤さんの隣に並びに行き、片方の手を自分の顔の前に上げてチョキの形にする。

 

「はい、チーズ!」

 

 そして何時も通りの無表情な赤さんと僕が一人で笑ってピースした写真が残った。

 ………………。

 

「……笑わないんですか?」

「笑いませんね。負けなかったですし」

 

 自分から写真を撮るって言ったくせに……。

 溜め息を吐く。

 

「じゃあ仕方がありませんね」

 

 僕はもう一度笑ってから、保健室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 僕が居ない保健室。そこで赤さんはカメラを手に取り先ほど撮った写真を眺めていた。

 

「♡」

 

 そこには言葉もブラックなハートも出さず、僕のまだ見たことのない彼女の笑顔があったことを僕はまだ知らない。

 




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