英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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14話

 クリスマス休暇に入り、寮に残ったのはハリー、ハーマイオニー、ウィーズリー兄弟、オーシャンだけになった。スリザリンに残っているのは、マルフォイ、クラッブ、ゴイルの三人だ。ハリー、ロン、ハーマイオニーはクリスマスパーティーの夜に作戦を実行した。

 

 練りに練り込んだはずの作戦だったが、一つの誤算が生じた。なんと、ハーマイオニーがポリジュース薬に入れた「変身する相手の一部」は、スリザリンのミリセント・ブルストロードの髪の毛ではなく、ミリセント・ブルストロードが飼っている猫の毛だったのだ。

 ポリジュース薬は、動物変身には使えない。ハーマイオニーは、見るもおぞましい毛むくじゃらの猫人間になってしまった。

 

 結果、作戦実行はハリーとロンの二人。ハーマイオニーはすぐさま医務室へ駆け込んでいった。ただ今入院、目下治療中だ。

 

 作戦で得た情報と言えば、マルフォイは秘密の部屋を開けていない、と言うことだけだった。

 

 

 

 「人間の毛か猫の毛かなんて、よく見たら分かりそうなものだけど」

 学期が始まってから初めて、ハーマイオニーのお見舞いに来たオーシャンだったが、ハリーとロンと一緒に医務室の前まで来たところで自分だけ突き返されてしまった。なんでもハーマイオニーが「オーシャンにはこんな姿見せられないわ!」と面会を拒絶したらしい。

 男性である友人達は差し置いて同性のオーシャンに見られたくないとは、よく分からない乙女心である。

 

 「そもそも、もうすっかり毛が抜けきっているって話だから、行ったのだけれど…」

 寮塔への帰り道を首をかしげて歩きながら、オーシャンは一人呟いた。ハーマイオニーが入院してからすぐ、オーシャンは何度か見舞いに赴いているのだが、今までも同じ理由で面会を謝絶されていた。

 毛が抜けきっているとハリーに聞いたので、もうそろそろ大丈夫だろうと行ってみたのだが、どうやら乙女心を甘くみていた様だ。

 

 乙女心は複雑だなとオーシャンが歩いていると、フィルチが怒りを爆発させている声が聞こえてきた。ミセス・ノリスが襲われた廊下だった。

 「また余計な仕事が増えた!モップをかけてもかけても足りやしない!もう我慢の限界だ、ダンブルドアのところへ行こう…」

 

 オーシャンが現場へ到着したのと、フィルチが清掃用のモップを放り出して校長の所へ向かおうとしたのはほぼ同時だった。「そんなにかっかして、どうしたの?」とオーシャンは聞くが、フィルチは答えずに顔を逸らし肩を怒らせて行ってしまった。フィルチに聞かなくても理由は一目瞭然、「嘆きのマートル」のトイレから溢れだした水が、止まる事無く廊下を濡らしていた。

 「あらあら、何事かしら」

 

 恐る恐るトイレのドアを開けたオーシャンは、窓の所で泣いているゴーストに声をかけた。

 「マートル、どうしたの?」

 マートルは呼ばれて振り向き、オーシャンをジロリと睨み付けた。

 「アンタ、誰?」

 

 「女の子が泣いていると、ついつい一人に出来ないのよ」

 「そんな事言って、また私に何か投げつけに来たんでしょう」

 「どうして私が、貴女に何か投げつけなくてはならないの?」オーシャンが聞くとマートルは激高した。「私に聞かないでよ!」

 

 「私はここで静かに暮らしたいだけなのに、私に本を投げつけて遊びたがる奴らがいるのよ!」

 聞いたオーシャンは、顔をしかめた。

 「随分楽しくなさそうな遊びをしている奴らがいるのね。酷い事するわ…」

 オーシャンが言った言葉を聞いて、マートルの啜り泣きが心持ち穏やかになった様に見えた。そして一つ哀れっぽく泣きながら、配水管に潜っていってしまった。

 

 残されたオーシャンは、床に落ちている一つの黒い本を見つけると、取り上げた。「投げつけられた本って、これかしら」

 濡れて張り付いたページを破かない様に慎重に開くと、インクが滲んでいるが微かに持ち主の名前が読み取れた。―T・M・リドル―。どこかで見たことある様な名前の気がした。他のページも慎重に捲ってみたが、それ以外の記述は見当たらない。

 持ち主の名前が書いてあるなら、本人に返すのは容易だろうと、オーシャンはそれをポケットに入れた。おまけに、嫌味の一つでも言ってやろう。

 

 

 寮塔に帰った時、オーシャンの足元がずぶ濡れだったので、ハリーとロンは何があったのかとビックリしていた。同学年の連中、特にフレッドとジョージは笑っている。(そしてアンジェリーナは二人に制裁を与えている。)双子に「嘆きのマートル」のトイレで起こった事を話すと面白がったし、アンジェリーナは幽霊にさえ優しい言葉をかけたオーシャンに惚れ直した、と言った。

 

 「そんな訳だから、その酷い事する奴にこれを返してやりたいのだけれど、T・M・リドルって、どの寮か分かる?私、この名前見たことある気がするのだけれど、どうにも思い出せなくって」

 みんなにトイレで見つけた本を見せると、意外にもロンが反応を示した。

 「この人、五十年前に学校から「特別功労賞」を貰った人だよ。トロフィー室にあったからよく覚えてる」

 言われて、思い出した。オーシャンもトロフィー室で、この名前が讃えられている盾を見たことがあった。

 「おっと、我らがロニー坊やが意外にも」「こりゃ一雨来るな」と双子の兄がからかった。

 ハリーさえも感心した顔をしていたので、ロンは「一時間もこいつの盾を磨いてりゃ、嫌でも名前を覚えるだろ?」と言った。どうやら、ナメクジの発作が止まらなかった時期に、処罰中に出会ったものらしかった。

 

 ウィーズリーの双子は愉快そうに笑い、そちらで大盛り上がり。一方オーシャンは考え込んでしまった。何故、五十年前にいた先輩の私物が突然、あんなトイレに捨てられたのか?

 

 二月の初めに帰ってきたハーマイオニーも、どうやら日記であるらしいこの本に興味津々だった。「何か隠れた魔力があるかも!」

 しかしハーマイオニーが何をしても、日記が秘密を語り出す事は無かった。しかし日記の持ち主が「五十年前の在校生」である事は、ハリーとハーマイオニーにある推論を与えた。

 

 「ロン、気づかないの?オーシャンまで」

 何も気づいていないロンとオーシャンを前に、ハーマイオニーは信じられない、という声を出した。「秘密の部屋が前に開かれたのは、五十年前よ。この日記の持ち主がいたのも五十年前。もしかしたらこの日記は、秘密の部屋の事件について、全てを知っているかもしれないの」

 なるほど、そういうことか。前にいつ秘密の部屋が開かれたのかなんて、オーシャンは全く気にも留めていなかった。

 だとすると、日記の中身が白紙である事が、殊更に残念である。

 

 

 春の気配が近づいて、日に日に暖かくなっていた。マンドラゴラも順調に成長しており、もう少しでマンドレイク回復薬が作れるだろうと、マダム・ポンフリーは明るく言った。

 校内ではまだハリーかオーシャンが「スリザリンの継承者」だと考える者半分、事態は収拾に向かっていると感じて犯人などほぼどうでもよくなっている者半分、しかし確実に、ホグワーツの雰囲気が明るくなってきていた。

 

 しかし、どうしてこう「アイツ」はお祭り騒ぎが好きなのか、謎である。

 

 二月十四日の朝、朝食を食べようとアンジェリーナと一緒に大広間に降りる道すがら、偶然ハリーと一緒になった。そして三人で大広間に入って、ハリーは呟いた。「部屋を間違えたんじゃないかな」

 

 大広間は、普段では考えられない様なごてごてしたリボンやけばけばしいピンクの花で彩られていた。席に着くなり、ハリーとオーシャンは声を揃えた。「これ、何事?」

 一緒に入ってきたはずのアンジェリーナは合点がいった顔で、ハーマイオニーと一緒にクスクス笑っている。ロンと双子の兄は、吐きそうな顔で座っていた。パーシーでさえ、目尻がピクピクと痙攣している。

 

 その内先生達のテーブルの方で、悪趣味なピンク色のローブを着たロックハート先生が、おもむろに立ち上がり、叫んだ。

 「バレンタインおめでとう!」

 その一言の後、オーシャンはテーブルに向かって「いただきます」と手を合わせて、サラダに手を伸ばした。こんなバカみたいな真似をするのはこの先生以外あり得ない。そしてこの先生の仕業だと言うのなら、聞くだけ時間の無駄である。朝食の味は、すでに砂の様な心地がした。

 

 朝食でロックハート先生の話をオーシャンは聞いていなかったが、状況から察するにロックハート先生のお手製「キューピッド」が、バレンタインカードの配達に校内を奔走しているらしかった。天使のつもりなのか、羽根を背負った厳めしい顔をした小人達が授業中休憩中構わず乱入しては、愛のポエムだのラブソングだのを歌い出した。

 ターゲットにされた人は気の毒だが、自分には関係ないと思っていた。しかし、まさかアンジェリーナがこれを利用するとは思わなかったのである。

 

 オーシャンが廊下を歩いていると、小人に呼び止められた。「あなた!そこのあなた!オーシャン・ウェーン!」

 「なぁに?」

 「あなたにバレンタインのカードが届いております。ここで読み上げさせていただきます」

 行き交う生徒達が、何事かとこちらをうかがっている。

 「自分で読むから、結構よ。誰から来ているのかしら」

 「アンジェリーナ・ジョンソン嬢からです。では…」と構えた小人に対して、オーシャンは杖を突きつけた。

 「黙れ!沈黙せよ!」

 

 途端小人はうっと言葉に詰まって、コテンと後ろにひっくり返った。その姿にオーシャンは杖を仕舞いながら声をかける。

 「貴方達を雇っているあの脳みそお花畑先生に言っておいてちょうだい。乙女の愛の告白を見世物にする様な真似は、英国紳士のすることではないわ、って」

 

 言って、小人を残して踵を返し立ち去ろうとすると、言葉の出ない小人は悔しそうにオーシャンの鞄に掴みかかった。その拍子に鞄が落ちて、中身を廊下にばらまいてしまった。オーシャンは素早く杖を再度抜いた。

 「言っても分からない様だから、次は足の一つでも折ってあげましょうか?何なら貴方達の雇い主の腕も、もう一度無くしてあげてもいいわ」

 

 小人に杖を突きつけていると、そこに一年生の集団が通りかかった。みんな恐々とこちらを見ている。その中にいたジニーが、廊下に散らばったオーシャンの鞄の中身を拾い集め始めた。

 視界の端にジニーを捉えたオーシャンは、「キューピッド」を放り投げた。最後に冷たい一瞥を浴びせてやると、「キューピッド」は逃げ帰って行った。

 

 一つ、息を吐くと、オーシャンは「悪いわね」とジニーに近づいて言った。ジニーの手は、リドルの日記の所でピタリと止まっていた。

 






(アンジェリーナの名字を間違っていたので訂正しました…。トゥー●レイダーしてる場合じゃないで!)


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