英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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44話

 夕方の六時になり、みんなが城の前で出迎えた他校の生徒達は、ホグワーツの生徒達の誰もが想像もしなかった方法で現れた。

 

 ボーバトンの生徒達は、巨大な天馬に牽かれた、これまた巨大な馬車に乗って現れた。中から先頭を切って現れたのは、ハグリッド程に巨大な女性だった。後から降りて来た生徒達も大きいのかと、オーシャンは思ったが、彼らはホグワーツの生徒達とほとんど同じ様な身長だった。しかし先生や馬車との対比が凄すぎて、一瞬目が変になったかと思った。

 

 ダームストラングの生徒達は、ボーバトンの馬車より大きな船で現れた。突然水中から現れた帆船が湖に白波を立たせる。代表団を率いてきたカルカロフ校長はあまり信用がならなさそうな目をした男で、その後について降りて来た生徒達は、みんな分厚いコートを着込んでいた。

 降りてくるダームストラングの生徒達を見ていたロンと、数人の生徒達がにわかにさざめき合った。「ハリー、クラムだ!クラムがいる!」

 

 一瞬誰の事を言っているのかと思ったが、ロンの指が示す先を見て、オーシャンも気づいた。この夏のクィディッチワールドカップで一番に注目されていた選手で、三郎が隣で黄色い声を出して失神寸前になっていたのを覚えている。なんだかフェイントとかいう技で有名な選手だと三郎が熱を込めて説明していたが、悪いがさっぱり頭に入ってもいなかった。

 

 「クラムがまだ学生だったなんて、想像してもいなかった!」

 確かに、世界的に活躍するプロ選手がまだ学生だったことには、オーシャンも驚いた。ロンに負けず劣らずな興奮ぶりで、ホグワーツの女子達の会話が耳に入ってくる。「ああ、羽ペンを一本も持っていないわ-」「ねえ、あの人、私の口紅で帽子にサインしてくれると思う?」

 

 全ての生徒が、歓迎の宴の準備が整った大広間に入った。ボーバトンの生徒はレイブンクローのテーブルに座り、クラム達ダームストラングの生徒達は、スリザリンのテーブルに座った。

 

 「客人のみなさん、ようこそ。ホグワーツへのおいでを、心から歓迎致しますぞ」

 ダンブルドア校長の挨拶が始まった。「三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される。それまで大いに宴を楽しんで下され!」

 校長が両手を広げて言ったのを合図として、歓迎の料理の数々で目の前の金の食器が満たされた。当然の事ながら、いつもの宴より豪華な品数だった。今までに見た事の無い料理も何品かある。

 「これ、何だろう?」

 自分でよそった貝類のシチューの様なものを口に運びながら、ジョージが言った。一口食べて、「うまいぞ!こんなの食べた事ない!」と、目を輝かせる。

 

 「何て言う料理なのかしら…。きっと、ボーバトンかダームストラングのお国の料理なのね。ああ、たまに塩鮭のおにぎりでも出してくれないかしら」

 『歓迎』の宴であるからにはこういったもてなしも必要だろうが、郷土の料理が夕食に並ぶのを、オーシャンは羨ましく思った。たまに元気の出ない朝には、納豆ご飯でも食べたいものだ。

 

 フレッド、ジョージ、オーシャンとは少し離れた所で、ハリー達がボーバトンの、美しい銀髪の少女に声をかけられていた。少女が何か言っているのに対し、ロンが大げさに首を振って、今さっきジョージが食べたのと同じ料理を差し出した。皿を両手で受け取って、少女は踵を返してレイブンクローのテーブルに戻って行った。

 「これ、きっと、ボーバトンの方の料理なのね。という事は、フランス料理かしら…聞いてる?」

 オーシャンの呟きを、双子は聞いていなかった。二人は、去っていく銀髪の後ろ姿を一心に見つめている。口がだらしなく半開きになっていた。

 

 「ちょっと、どうしたの?」

 オーシャンに再び声をかけられて、双子ははっと我に返った。顔を赤らめて、「違うんだ!」と、何かを否定し始めた。「そういうのじゃないから!」「あの子、きっとヴィーラだぜ!」

 「いえ、何も言ってないわよ…ヴィーラって、何?」

 確かに周りを見ると、何人かの男子生徒が、毒気にやられた様に見えた。夢見る様な顔で彼女の後ろ姿を見続けている生徒も、何人かいた。

 

 双子の説明によると、ヴィーラという魔法種族がいるらしい。生まれながらにして、魅了の魔法を会得し、ヴィーラが歩くだけで他種族の男性は一時的に魅了されて、正常にものが考えられなくなってしまうらしい。

 ワールドカップの時に、ブルガリアチームのマスコットがヴィーラの応援団で、観客の男性は大変な目にあったとか。

 そういえば三郎と二人で観戦していた時、ブルガリアのマスコットが踊り出すと、一緒になって踊っていた。余程楽しいのだな、とそんなに気にかけていなかったのだが、なるほど、そう言う事なら納得である。

 

 程無くして、教職員テーブルの空席に、ルード・バグマとバーティ・クラウチの二人が姿を現した事に、オーシャンは気づいた。「あら、あの二人、何でここに?」

 「魔法ゲーム・スポーツ部と国際魔法協力部の部長だぜ?ダンブルドアが言ってただろ。三校対抗試合は、この二つの部の協力あって実現したって」

 

 「時は来た。三校魔法学校対抗試合が今まさに始まろうとしておる」

 金の食器が空になって、みんなが満腹感とこれから始まる一大イベントへの興奮とに満たされている中で、ダンブルドア校長が話し出した。まず、クラウチ氏、ルード・バグマンの紹介。続いて、ボーバトンの校長のマダム・マクシームと、ダームストラングのカルカロフ校長を紹介した。

 「Mr.フィルチ。箱をこれへ」

 校長に呼ばれて、古ぼけた燕尾服に身を包んだフィルチが、宝石を散りばめられた木箱を捧げ持って来た。木箱は校長の前のテーブルに静かに置かれた。

 

 「皆が知っての通り、三校対抗試合は三人の各校代表選手によって行われる。代表選手達が取り組む課題については、すでにバグマン氏とクラウチ氏によって決められている。課題は三つ-一年間に渡って、間を置いて行われ、代表選手はあらゆる角度から試される事になる。類い稀なる勇気、卓越した技術、そしてどの様な状況下に置かれても、冷静に物事を見通す、論理と推理力…それらを駆使してどれだけ巧みに課題をこなすかで得点され、三つの課題の総合得点が一番高かった者が、優勝カップを手にする事になる」

 

 話を聞いているみんなの目が、キラキラと輝いていた。オーシャンは興奮より満腹感の方が勝ってしまって、次から次へ押し寄せるあくびの波をかみ殺すのに必死だった。

 「代表選手を選ぶのは、公正なる『炎のゴブレット』じゃ」

 校長が杖で箱を叩く。蓋が開いて、中から木製の、大きなゴブレットが現れた。その縁では、青白い炎が溢れんばかりに踊っている。

 代表選手に名乗りを上げる者は、これから二十四時間の内に羊皮紙に名前と所属校名をしっかりと書き、この中に入れる様に、との事だった。翌日のハロウィーンの日に、ゴブレットがその中から代表選手に足る人物の名を選ぶという。

 ゴブレットは二十四時間の間は玄関ホールに置かれ、代表選手に立候補する者は自由に近づいてよい。ただし、十七歳未満の者が近づかない様に、校長先生自ら周囲に『年齢線』を引く、との事だった。

 

 「『年齢線』か…。『老け薬』で何とか誤魔化せるかな…」

 「大丈夫さ、中に入ってしまえば、こっちのもんだ!」

 おやすみを言い渡された寮への帰り道で、フレッドとジョージが言い合った。

 「貴方達、本当にやる気なの…?」

 信じられない、という顔でオーシャンが言えば、ハーマイオニーがそれに同調した。

 「でもやっぱり、十七歳未満じゃ、誰も戦いおおせないわよ!まだ勉強が足りないと思う-ダンブルドアも言ってたじゃない。一度選ばれてしまったら、ゴブレットと魔法契約で縛られる、途中棄権は出来ないって。危険が多すぎるわ」

 

 「ハリー、君もやるんだろ?立候補するだろ?」

 ハーマイオニーの言葉を聞き流したフレッドが、ハリーの肩を抱いて聞いた。オーシャンが、やめて、と眉を寄せる。

 「ハリーを悪の道に誘惑しないでちょうだい」 

 「おいおい、よせよ。ハリーもそろそろ一人前の男なんだ。どの道を選ぶかは彼の自由だぜ」

 「だからって、可愛い後輩を自ら危険に送り込むような先輩にはなりたくないものね」

 オーシャンはツンとして言い返したが、双子はそれを誉め言葉として受け取ったのだった。

 





UA87000件越え、お気に入りなななんと1050件登録ありがとうございます!
焦ったら駄目なんだけど、早く第一試合を書きたいなぁー。と思いつつ。お待たせしていますが、もう少々お待ちくださいませ
それにしても、皆さまの感想の声が優しすぎて涙…

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