英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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54話

 試合が始まり、同点一位のハリーとセドリックのホグワーツ組が一番先に迷路の中へ進む権利を得た。数分を置いて、三位のビクトール・クラムが、また数分を置いて、フラー・デラクールが迷路の中へと出発した。

 今回の課題の迷路にはいくつかの仕掛けが施されているそうで、妨害の役目を果たす魔法生物も中に放されているらしい。『身代わりの藁人形』がハリーの手に渡っていればいいが…。

 観客席で心配そうな顔をしているオーシャンに、隣に座るフレッドが言った。

 「少しはハリーを信じてやれよ。いくらなんでも、大人にもやっつけられないような罠を魔法省が仕掛けるわけが無いんだ。今までもいろんな事があったんだし、これくらいハリーにはちょろいだろ」

 

 「ええ…だけど、想定外の事態はいつでも起こりえるわ」

 反対隣りに座っているジョージが訊いた。「例えば?」

 「例えば…」口ごもるオーシャンに、ジョージが笑った。「考えすぎだって。心配するより、ハリーを応援しようぜ」

 両隣から双子に肩を抱かれて左右に揺すぶられる。答えるオーシャンの声は、双子が歌う応援歌にかき消された。「ええ、そうね…」

 頭でわかってはいるのだが、どうも今回は妙な胸騒ぎがしてならないのだ。『藁人形』が役目を果たさずに事が済めばいいのだが…。オーシャンは双子に揺さぶられながら、努めて明るい顔を装って、試合に集中する事にした。

 

 

 四人の選手全員が迷路に入って二十分は経った頃、突然、迷路の上空に赤い火花が上がった。選手の誰かの救難信号だ。

 初めての脱落者に、会場中が息を飲んだ。マダム・フーチが空からその場所へと向かい、程無くして箒の後ろに救助者を乗せて戻って来た。バグマンの拡声された声が、フラー・デラクールの脱落を告げた。

 ボーバトンの生徒が悲しみに暮れた。中には泣き出した生徒までいる。他の生徒もショックを受けている様だ。-思ったより脱落者が出るのが早すぎる。

 

 

 

 その後は何の動きも無く時間が経ち、太陽が傾き、そしてついに日が暮れた。会場周辺には魔法の明かりが灯るが、暗闇が観客の不安を仰ぎ始める。確かに巨大な迷路ではあるが、時間がかかりすぎではないか?

 生徒達がざわつき始め、ウィーズリーおばさんも心配そうな声を出した。「ハリー…何かあったのかしら…?」

 その時、迷路の入り口に突然二つの影が現れた。会場中のみんなが息を飲み、それがうずくまっているハリー・ポッター、横たわったセドリック・ディゴリーだと認識するまでに数秒の時間を要した。ハリーの腕がセドリックに回され、もう片方の手にはしっかりと優勝杯が握られていた。

 

 観客席が沸いた。ロンが立ち上がって叫んだ。「やった!ハリーがやったんだ!」

 ホグワーツの生徒達によって歓喜の渦が訪れても、ハリーはセドリックから離れない。コーネリウス・ファッジ魔法省大臣が彼を引きはがしにかかるが、それでも離れなかった。

 何かがおかしい、と判断したのだろう。ダンブルドア校長がハリーに駆け寄ると、ハリーが泣きながら言った。「あの人が戻ってきた!セドリック-セドリックが…殺されてしまった!」

 

 その声にオーシャンは席を駆け下り、最後はほとんど飛び降りる様にしてハリー達の横に立った。二人共ボロボロで、大変な苦難に遭った事だけが分かった。そしてオーシャンは、目を閉じているセドリックの脈を診るため、その腕を取った。まだ温かい。まるで、生きている様だ。

 「………これ、死んでるの?」

 オーシャンが訝し気に言った次の瞬間、死んだはずのセドリックが起き上がってひし、とオーシャンに抱き着いた。突然の事に、会場中が再び、-ハリーと校長でさえもが固まった。そして、死んだと思われていたセドリック・ディゴリーは突然呵々大笑した。

 

 「ええと?貴方、ディゴリーよね?」

 聞いた事が無いセドリックの大笑いに、オーシャンが訊いた。彼は、涙を流しながら笑っていたのだ。

 「『死んだふり』だ!」

 「え、何?」

 「セドリック-君、何で…!?」

 セドリックのローブのポケットから、はらり、と数本の藁が落ちた。ほとんど消し炭になっている。

 

 「君は『死の呪文』をまともにくらって、死んでしまったんじゃ…」

 涙を流すハリーが、しゃくりあげながら言った。セドリックがポケットの中身を確かめて言う。「こいつのおかげさ」

 「そんな…だって、それから動かなかったから…僕は君が死んでしまったものとばかり…」

 「ウエノが、勝ち目が無い相手の前では『死んだふり』でやり過ごせって」

 「-まさか、奴を『死んだふり』でやり過ごしたの!?」

 「まさか、だましとおせるとは思ってなかったけどね」

 「二人共、どういうことか、説明してくれんかの」今まで黙っていた校長が言い、会場は水を打った様に静かになった。

 

 静寂に包まれた会場で二人が語った事は、おぞましい出来事だった。優勝杯はポートキーにすり替えられ、二人はどこかの墓場に飛ばされた事…。ピーター・ペティグリューが現れ、ハリーの血を使ってヴォルデモートを復活させた事…。セドリックはペティグリューに『死の呪い』をかけられたが、オーシャンが試合前に渡した『身代わりの藁人形』によって、命を失わずに済んだ事。

 ホグワーツに『死喰い人』が潜り込んでいる事。そいつがハリーの名前をゴブレットに入れた事。

 

 「れ…『例のあの人』が復活しただと…!?馬鹿な、そんな…いくらなんでも、荒唐無稽すぎる…!」

 青ざめた魔法省大臣に、ダンブルドア校長が厳しい視線を向けた。「しかし、コーネリウス。本当であれば、これは由々しき事態じゃ。即刻、事実関係の確認をとらねば」

 「馬鹿な!」しかし、それを魔法大臣は何度も首を振って否定した。「そんなもの確認をとるまでも無い事だ!そんな話があるわけがない!その子達の作り話だ!」

 「僕達、嘘なんて吐いていません!」「大臣、信じてください!」

 

 「ダンブルドア」

 いつの間にか、ムーディ先生が歩み寄ってきていた。

 「事が本当なら、いつまでもここで話をしているべきではない。大広間へ移って、皆に説明をせねば。この二人はわしが医務室へ連れて行こう」

 「いかん」校長は首を振った。「皆に説明をするというのであれば、この子達いなくしてそれは適えられん」

 「しかし、この子達には休養が必要だ。さあ、ポッター、ディゴリー、おいで」

 

 ムーディ先生がほとんど無理やり二人を連れて行き、その瞬間に誰かが恐怖で叫んだ。それを皮切りにして会場はパニックに陥り、生徒や先生達がグラウンドに駆け下りてきて次々と校長や魔法大臣に詰めかけた。人の波に阻まれて、セドリックの両親とウィーズリーおばさんは自分の息子達に声をかける事すらも出来なかった。

 

 

 

 

 「さあ、二人共、ここへお座り」

 通されたのは医務室ではなく、ムーディ先生の部屋だった。

 「これを飲むんだ…すぐに気分がよくなる」二人は疑いもせずに、ムーディ先生が差しだした飲み物を飲んだ。その間に、先生が部屋に鍵をかける。何かがおかしい。

 「して、ポッター。闇の帝王は、どうやって戻ったのかもう一度話してくれんか」

 先生の質問に、ハリーは途切れ途切れに答えた。自分の父親の墓から骨を手に入れ、ハリーの腕から血を採った。それを材料に蘇ったのだ。

 

 セドリックを見ると、目が虚ろになっていた。飲んだばかりの液体が入っていたカップが、彼の手をすり抜けて床に落ちた。おかしい。何かが起ころうとしている。

 「して、デス・イーターは?戻ってきたか?」先生はそれに構わず、次第に熱く、ハリーに話しかけ続ける。「あの人は奴らをどのように扱った?許したか?」

 初めてハリーが口を開いた。「そんな事、どうして先生が気になさるんです?」

 

 ハリーの質問に先生は少しの間沈黙したが、再び質問を続けた。

 「では、あのお方はカスどもをお許しなさったのだな?あのお方をお探ししようともしなかったゴミどもを?クィディッチワールドカップでは仮面をかぶって大いにはしゃいでいたあのバカどもを。この俺が打ち上げた『闇の印』を見て逃げた、あの腰抜けどもを」

 「先生が、打ち上げた…?何…何の話をしているのです…?」

 

 「ハリー、あのお方は、奴らに罰を与えただろう?痛めつけたと言ってくれ…。この俺だけが忠実であり続けたと…危険を冒して、あのお方の望むお前をその手にお届けした」

 「嘘だ-あなたが…」

 椅子から腰を浮かしたハリーに、先生が詰め寄った。「あのお方はお前を殺しそこなった。そして、今、俺がそれを遂行する-!」

 先生が杖腕を上げた瞬間、オーシャンは『隠れ蓑術』を解いた。「切り裂け、断罪せよ!」

 先生の杖が腕ごと千切れて吹っ飛んだのと、扉が轟音を立てて破られたのはほぼ一緒だった。マクゴナガル先生とスネイプ先生を引き連れて、静かに部屋に入ってきたダンブルドア校長が、オーシャンを見て言った。

 「Ms.ウエノ-やりすぎじゃ」

 「ハリーがあのまま殺されても良かったというの!?」

 「だからって腕ごと切断する必要はないじゃろう…。奴が君に粉微塵にされる前に、間に合って良かったわい」

 

 「一体どうして、ムーディが?」

 壁に寄りかかって気を失っているムーディを見て、ハリーが言った。ダンブルドア校長が、その男を軽蔑の視線で見下ろして答える。「こやつは、アラスター・ムーディではない」

 「「えっ!?」」ハリーとオーシャンの声が重なった。校長は呆れた声を出す。

 「何と、Ms.ウエノは気づいておらなんだか。では仮に、これが本物のアラスター・ムーディでも腕を切っていたのかね?」

 「ハリーが危険にさらされた時は、もちろん」

 校長の後ろで、彼女の寮監であるマクゴナガル先生が頭を抱えた。「貴女は何を言っても分かってくれないのですねぇ…。ウィーズリーの双子より質が悪いですよ、本当に…」

 





セドリック生存ルートにするか悩みました、本当に…。
でも呪いの子の事を考えないなら、助けたい。彼は魔法ゲーム・スポーツ部の部長になると思います。
「死んだふりで死喰い人全員やり過ごせる説」は、初見の時から割とガチで思ってました。だってこの人たち、基本死んだかどうか確認しないから…。脈とか診ないから…。

今更だけど、呪いの子の舞台観たくないっすか?私は観たい…。
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