英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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69話

 「……ディゴリー、本当にここなの?」

 ホグズミードの裏通り、陰気くさい店を前にして、オーシャンは隣でニコニコしているセドリック・ディゴリーに問いかけた。セドリックは相好を崩さない。

 

 

 

 

 

 今回のホグズミードへ行ける日の情報が掲示されて早々に、オーシャンは玄関ホールでセドリックにホグズミードへ二人で出かけられないか、と声をかけられた。以前の『つきがきれいですね』事件を忘れていなかったオーシャンはどうしたらいいか分からずに、顔を赤らめたまま「ちょっと考えさせて!」とこの問題を寮へ持ち帰った。

 グリフィンドールの談話室にはハーマイオニーとアンジェリーナ、アリシア、ケイシィがおり、オーシャンはすぐにこの四人にどうすればいいか、と相談した。

 「いいじゃない、行ってくれば」とハーマイオニー。

 「悔しいけど、悪い奴じゃないもの。反対する要素は無いわ」とアンジェリーナ。

 「何を悩む事があるの?」とアリシア。オーシャンが「だって、どんな顔して一緒に歩けばいいか、わからないもの」と返せば、ケイティに「やだ、オーシャンったら。まるでセドリックに恋しているみたいな言い草ね」と笑われて、オーシャンは声を荒げた。

 

 「冗談じゃ無いわ! 私は今でも先生が……」と顔を真っ赤にして騒いだのを、ハーマイオニーが落ち着かせる。

 「はいはい。こんなことで取り乱さないでちょうだい。はい、深呼吸」

 ハーマイオニーに促されて、パニックはおろかもう少しで過呼吸になりそうだったオーシャンは、ゆっくりと吸って吐いてを繰り返した。やがて、きっと顔を上げる。

 「……そうよ、取り乱す事なんてないわ。ただ、新しい友達としてお買い物に誘われただけだもの。変に勘ぐる必要なんてないじゃない」

 必死に繕ったいつもの調子でそう言うと、女子達は「そうよ、そうよ!」と口々に賛成した。みんなの口角がいつもより二ミリほど上がって見えるのは、気のせいだろうか。

 次の日の朝にオーシャンは、朝食の時間にセドリックに承諾の返事をした。

 セドリックの友人達が彼を胴上げしそうな勢いで祝福していたのを、ハッフルパフのテーブルに背を向けたオーシャンは気づかなかった。

 

 生まれて初めてのデートという事実に目をつぶったオーシャンだったが、いざその日が来ると意識しないで楽しむなんていうのは到底無理だった。セドリックはまるでオーシャンを女の子の様に扱うし、郵便局でふくろうの糞から護ってくれたし、かと思えばたまにしか入らないというゾンコの店では少年相応の笑顔を見せ、三本の箒ではオーシャンが席を取っている間にバタービールを彼女の分まで用意する完璧ぶりである。これはモテるわけだ……とオーシャンは舌を巻いた。

 

 そして時計をチラチラと気にしていたセドリックが、最後に引っ張ってきたのがこの店――『ホッグズ・ヘッド』である。店の中が覗けるはずの窓ガラスは全て曇っていて、この陰気くささを一見して『怪しい店』に格上げしている。中からは一粒の明かりも漏れておらず、入店者の不安をかき立てようとするかの様だった。

 

 

 

 

 「……貴方がこんな所に興味があるなんて、思わなかったわ……」

 店の外観を見上げてオーシャンが呟く。セドリックは曖昧に笑ってドアノブに手をかけた。

 きぃぃ、と扉が鈍くきしんだ音を立てると、まず目に入ったのはカウンター内でコップを磨いている店主だった。

 奥に一人でグラスを傾けている客がおり、その反対側には見慣れた顔が集まっている。

 

 「ちょっと遅れたかな」

 セドリックが集団の先頭にいるハーマイオニーに言うと、彼女はニヤリとして答えた。「いいえ、今始まった所よ」

 「ハーマイオニー? なんなの、これ?」

 集団の先頭にはハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がおり、彼らに向かい合って座るのはグリフィンドールやハッフルパフ、レイブンクローの生徒合わせて二十人弱だった。中にはグリフィンドールのクィディッチチームが全員揃っている。

 

 「アンジェリーナ!? アリシアとケイティも。どういうこと?」

 オーシャンが言うと三人が振り向いて首を竦めた。その近くに座るフレッドが声高に言う。「おいおい、相棒。俺たちゃいつの間にか透明になっちまったみたいだ」

 フレッドが答える。「そいつは仕方ない、ジョージ。心の清い者にしか見えない魔法がかかってるのさ」

 

 ウィーズリーの双子を無視して会は進んだ。ハーマイオニーが司会を進行する。

 どうやらこの会は、属性としては『勉強会』らしい。司会者は、役に立たない『闇の魔術に対する防衛術』の授業の水面下で、本物の呪文を自主的に学んではどうか、と考えたと語る。

 

 「でも、『例のあの人』が復活したなんて――」椅子に座って事を見ていた生徒の一人が割って入った。ブロンドが綺麗な男子だった。彼がハリーを指して言う。「その人の言うこと以外、何も証拠が無い。まず、ダンブルドアは何でその人が言う事を信じているのか、正確に知る権利が僕たちにはあると思うな」

 「僕が証拠だ」セドリックが言った。ハリーが驚きで目を丸くしている。

 「セドリック……君にとっても辛い出来事だったはずだ……無理して話す必要なんて」

 ハリーが言った言葉に、セドリックは緩く首を振って言った。「それは、君も同じ事だろう?」

 

 「僕もあの夜を生き残った。『例のあの人』の復活に居合わせ、全てこの耳で聞き取ったよ。あの夜はどうやって生きて帰るか、それだけを考えていた」

 「目撃した訳じゃ無いのか」ザカリアス・スミスというらしい男子が、鼻で笑った。セドリックは歯の浮くようなセリフで返す。「僕の隣に居る、美しくも優秀な策士のおかげでね」

 

 薄々感じていたが、何だか最近のディゴリーは変だ。すぐにオーシャンが赤くなる様な事を言う。

 「ね?」と隣に立つディゴリーに顔を向けられたオーシャンは彼から二歩距離を開ける。ケイティ達はそんなオーシャンに含み笑いを向け、アンジェリーナは背中のちょうど真ん中がかゆい時の様な表情を見せ、双子達は今にも噛みつきそうな顔をしている。

 

 その場に集まった全員に請われ、ハリーとセドリックはあの夜――三校対抗試合の最終試合の夜の事を語り出した。『移動キー』になっていた優勝カップに運ばれて、墓場に放り出された事。セドリックを突然襲った死の呪文。墓に貼り付けられたハリーが血を採られ、『例のあの人』が復活した事。誰もが――店内の他の客や店主までもが固唾をのんで聞き入っていた。

 オーシャンはやはり改めて、罪も無い二人をそんな恐ろしい目に遭わせた仇敵を必ず滅びの運命に向かわせなければ、と拳を堅くした。ハリーだけではなく、セドリックももはや友人だ。それに言葉が不自由だった期間に助けて貰った恩が、今となってはある。

 

 話を聞き終わった面々からは、自然とハリーへの質問が続々出てきていた。

 「守護霊を作り出せるって、本当なの?」この夏にハリーを尋問した魔法省役人の一人を叔母に持つという女の子が問いかける。ハリーは控えめに頷いた。

 「ああ……うん」

 続いてその後ろに座っていた男子が目を輝かせて尋ねる。「それに君は、校長室にある剣でバジリスクを倒したのかい?」

 「あ――でもそれは、オーシャンが」「ハリーよ。すべてハリーのお手柄よ」ハリーが述べようとした言葉にかぶせてオーシャンは言った。

 戸惑った彼は少し声量を上げて言い募ろうとしたが、オーシャンが更に大きい音でハリーに向けて拍手をし出したのに合わせて、その場のみんなが倣い始めて、みんなの拍手の音にハリーの意見がかき消される形となった。

 

 「すごいや!」質問した男の子が興奮に頬を紅潮させている。ハリーの不満げな視線と目が合ったので、オーシャンはにっこりと微笑んだ。拍手しながらセドリックが口を開く。「スゴい奴だな、ポッターは。……でも、何だか怖い顔で君を見てるよ。何か言いたいことでもあるんじゃないかい?」

 オーシャンはいつもの調子で微笑んだ。「後からにして欲しいわ。悪目立ちするのは嫌いだから」

 

 拍手が収まる頃にネビルも声を上げる。「それに君はあの石を救ったんだろう? ほら、あの――」

 「賢者の石」ハーマイオニーの助け船に彼は頷いた。「そう、それ」

 「いや、でもそれもオーシャンが」「ハリーってすごいわよね、ほら、クリ―ビーのお二人、今シャッターチャンスじゃない?」

 またもハリーが言おうとしたのを遮ったオーシャンの言葉に促されるまま、クリ―ビー兄弟が揃って強めのライトでシャッターを切った。慌ててハリーがライトから顔を護る。「うっ!」

 

 ハリーがライトに目をパチクリしているとチョウが言った。「そうよ、それに三校対抗試合では、二人とも色々な試練をかいくぐったわ」

 二人、とはセドリックの事も言っているのであろう。とはいえ、これは事実であるからハリーは反論できない。ましてや密かに想いを寄せているチョウの言葉であればなおさらのはずだ。案の定、ちょっと誇らしい顔つきでチョウと目配せしている。

 

 すると思わぬ所から声が上がった。アンジェリーナだ。「二人だけじゃ無いわ! オーシャンもドラゴンから私達を助けてくれた! みんな覚えているわよね!?」

 リーやロンが「そういえばあったな、そんなこと」と言うが、他の面々からは芳しくない反応が出た。

 三校対抗試合の第一の試合の時に、ボーバトンのフラー・デラクールの使った魅了の魔法で気を失ったドラゴンの頭が観客席を押しつぶそうとした出来事は前列の方に居なければオーシャンの姿まで確認できないはずだし、他の生徒が知らないのは無理も無いと思った。セドリックはオーシャンの隣で何故か誇らしげに頷いている。

 ハーマイオニーが呆れ声を出した。

 「ああ、まあ、それは否めないんだけど……じゃあ、ハリーから防衛術を教わる事に全員意見が一致、って事でいいのかしら?」

 

 その後は週に何回集まることにするかを話し合い、箝口の誓いの署名をリストにして会合は解散することになった。

 それにしてもここ、本当に安全だったのかしら? そう思いつつもオーシャンは、後輩三人に夕食で逢いましょうと挨拶をして、セドリックと共に『ホッグズ・ヘッド』を出た。アンジェリーナが猛然とした勢いで後を追おうとする。ケイティがそれを止めた。

 「ちょっと待ってアンジェリーナ! あの二人の後を追いかけるの!? セドリックにチャンスを与えるって話だったじゃない!」

 オーシャンが談話室に遅れて帰ってきたあの夜、セドリックの様子を見て彼がオーシャンの事を好きで好きでたまらない――それはまるで懐きの良い犬の様に――と見抜いたアンジェリーナは、セドリックにチャンスを与えることにした。オーシャンを連れ出し、素敵なデートで彼女が楽しんでくれるなら、アンジェリーナもこれ以上に嬉しいことはない。

 

 

 しかし実際のセドリック・ディゴリーはどうだ。アンジェリーナはケイティを振り返って答える。

 「もう見てられないわ! 見たでしょ、あの男の浮ついたにやけ顔……耐えられない! オーシャンの隣は本来私のためにあって、今はあいつに貸してやってるだけって分からせてやるんだから! ほら、そこの双子、行くわよ!」

 どこぞの鬼軍曹の様な気迫でフレッドとジョージを指名すると、三人は荒々しくドアを蹴破ってセドリックとオーシャンを追いかけた。

 

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