英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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70話

「オーシャン、今日のホグズミードはどうだった?」

 各々ホグズミードから帰ってきた後の夕食の席でアンジェリーナやウィーズリーの双子に詰め寄られたオーシャンは、目を丸くした。近くに座っているハーマイオニー達と目が合うも、彼女たちも呆れている様な感じに首を振った。

 

「楽しかったわ。あのサプライズにはちょっとばかり驚いたけど」

 

 アンジェリーナの目を見て答える。サプライズ、とはもちろんあの集会の事だ。アンブリッジの目を盗んで『闇の魔術の防衛術』を練習するなんて大胆な提案には驚いた。それに、オーシャンがセドリックとバーを出てから、何故かこの三人がセドリックをホグズミード中追いかけ回した事も。

「あの鬼ごっこはディゴリーも楽しかったみたい。またやろうって伝えてくれって言われたわ」

「ご冗談!」双子が声を合わせて言い、その勢いにきょとんとしているオーシャンの様子にぶんむくれて、皿に盛られたチキンを手掴みで食べ始めた。

 

 夕食を意地汚く食べている双子の様子に、オーシャンが匙を投げる。

「どういうつもり? 何が言いたいの? 私は事実を答えているだけじゃないの。あなた達だって、ディゴリーと仲良くなるつもりでやってたんじゃないの?」

「敵と仲良くですって!? 誰が!」答えたのはアンジェリーナだ。

 

「でも、そもそも貴女は私がディゴリーと出かける事に反対していないと思ってたけど」

 オーシャンが言うと、アンジェリーナは彼女の両肩をがしっと掴んだ。

「確かにあの時は反対しなかったわ。だけど聞いて、オーシャン。あの紳士の皮を被った狼に心を許してはだめ! 騙されないで!」

 

「何言ってるのよアンジェリーナ。そもそも狼と紳士は相反する存在では無いわ。私達、知っているでしょう?」

 ここにはいない真なる人狼紳士の事を口走るオーシャンに、アンジェリーナが首を振る。

「狼ってその狼の事じゃ無いのよ、オーシャン! 今日一日隣を歩いていて気がつかなかったの!? 奴があなたを虎視眈々と狙っている視線に! あなたが口を開く度に、美しいあなたの口ずさむその甘美なる音色を前にして、あんなに伸びきっていた鼻の下に!」

「…………待って。貴女こそ言っている事が変だわ、アンジェリーナ。私が口を開く度に……何ですって?」

 

 また私の言っている事が変だと言うの、と今にも泣き崩れそうなアンジェリーナを見遣って、双子の片割れが言った。「可哀想に、アンジェリーナ。誰かさんのせいですっかり躁鬱気味だぜ」

 そんなアンジェリーナの頭を撫でながら、オーシャンは言う。「もう……。じゃあ、次のホグズミードは一緒に行きましょうね」

「……いいの?」恋にすっかり自信を無くし切っている女の子の様に、アンジェリーナはしおらしく顔を上げた。

「ええ。貴女がよければ、だけど。紳士の隣を歩くの、疲れちゃうのよね。毎回はしたくないわ」

「ああ、オーシャン!」

 抱きついてきたアンジェリーナと強く抱擁を交わす。「ふふ、次は淑女同士、楽しみましょう」

 双子が揃って、これはこれで面白くない、という顔をしていた。後輩達は我関せずの顔で食事を続けている。

 

 

 

「モテすぎても問題だと思うの」

「あら、そうなの?」夕食後、談話室でハーマイオニーがおもむろに放った言葉にオーシャンは答えた。「ハーマイオニー、貴女、困っちゃうくらいモテてるの? まあ、私は随分前から貴女がどれだけ可愛いか気づいていたけど」

 誇らしい事の様に言っているオーシャンの鼻先にハーマイオニーは指を突きつけた。

「私じゃない、あなたよ。あ・な・た」

 

「私がいつモテたっていうの?」

 オーシャンが言うと後輩三人ともが顔を引きつらせた。

「オーシャン、あなたソレ、本気で言っているの?」信じられない、とでも言う風なハーマイオニー。

「うへぇ。人気者を鼻に掛けられるよりむかつくな、それ」とロン。

 ハリーは、「あー……今度はアンブリッジにそう言ってやろうかな。『僕がいつ反抗的な態度をとったっていうの?』ってね」と面白くも無い事を言って、他の二人の顔を更に引きつらせていた。

 

「私が言いたいのは、オーシャン」ハーマイオニーが言った。

「私達の計画にとって、あなたに夢中になっているメンバーが邪魔になるんじゃないかって事よ」

「計画?」

「あなた、変だと思わなかった? 『英語ができないあなた』が『英語呪文で教えられる』防衛術の練習に誘われても、意味が無いって」

 

 悪戯っぽい顔で言ったハーマイオニーの言葉に、ハリーとロンは目を丸くして顔を見合わせた。オーシャンが答える。

「サインしてからね。そういえば変だなって思ったわよ」

 

「万が一の時のためのための『保険』を掛けておこうと思うの。この計画はもちろんアンブリッジの目の届かない所で進めるつもりだけど、私、去年の事で痛感したわ。本気になったろくでもない大人ほど、どんな下品な手段を使っても目的を達成しようとする、って」

 

 ハーマイオニーはリータ・スキーターに新聞記事であれこれ書かれた事を槍玉に挙げた。ロンは「おいおい。君まで日本人みたいな事を言う気か?」と言った。

「ロン。この秘密は絶対に知られてはいけないの。ただ悪い方に物事を考えて言っているのではなくて、石橋を叩いて渡るって事なのよ。一度じゃなくて二、三度叩いてから渡るくらい慎重にいかなくちゃ」

 

「じゃあ、叩きすぎて壊さないように、気をつけきゃ」

 ロンは憎まれ口を叩いたが、オーシャンは今の話でハーマイオニーの言いたいことが分かってきた。これは面白そうだ。

「つまり、この会がアンブリッジの目に見つからない様に、私があの人の気を逸らせば良いって訳ね。面白そうじゃない」

 

 舌なめずりしたオーシャンだったが、ハーマイオニーは肩を怒らせる。

「そうね。ほとんど常にあなたの周りに居るファンクラブを撒いて、アンブリッジの妨害に行けるのかは疑問だけど!」

「ファンクラブって……みんな友達として一緒に居てくれるだけだわ」

 困り顔のオーシャンの鼻先に、ハーマイオニーは指を突きつけた。

「確かにみんな、あなたの友達だわ! そしてみんな、ほとんど熱狂的な恋をしている様なものだもの、あなたにね!」

 

 反論しようと口を開いたオーシャンを押しとどめて、ハーマイオニーは続ける、

「特にセドリックは強敵よ! 半分忍者みたいな子に三年間片思いしているだけあって、ハッフルパフ生の話では情報収集能力と気配察知能力がそれこそ忍者並になってるって話だから!」

 反論材料がオーシャンの口の中でみるみる溶けていった。妙に納得して呟く。

「道理で、今年はよくディゴリーに合うと思ったわけだわ……」

 

 月曜日の朝になり、朝食に降りる支度を済ませたオーシャンは、部屋の外で凄い音がしたのを聞いて、飛び出した。見るとまるで滑り台の様になった階段で、ロンとハリーが団子になって転がっている。

「あらあら、朝から元気だこと。貴方達、女子寮に入りたかったの?」

 からかう調子のオーシャンに、ハリーを脇に押しやってガバリと起き上がったロンが言う。

 

「何でだよ!? 君たちは僕達の寮に来られるのに、おかしくないか!?」

「それは古くさい規則のせいなのよ」

 言ったのは上の階から降りてきたハーマイオニーだ。学校創設時代からの規則を説明されて、ハリーとロンはぶうたれながらも立ち上がって、乱れた髪や着衣を整える。そして掲示板を指さして、女子二人に言った。

「そんなことより、アレ見てよ!」

 

 二人が指さした掲示板に、人だかりが出来ている。低血圧で朝から活動的になれないオーシャンは、「みんな朝から元気ね」と呟きながらハーマイオニーと一緒になって掲示板に近づく。二人の見せたい物は、クィディッチチームの練習予定表やウィーズリーの双子の怪しげな勧誘広告を押しのける様に張り出されていた。

 

 また高等尋問官様の何とか令だ。今度は学生による団体クラブ及びそれに類する活動は、法律により解散するとの、これまた身勝手極まりない省令だった。再編成には高等尋問官様の認可が必要との事で、かえるの聖歌隊やゴブストーンクラブはもちろん、クィディッチチームに至っても対象だという。

 

 アンジェリーナやフレッド達が紛糾している中、朝食の席でオーシャンが言った。

「何かしら、この狙い澄ました様なタイミングは。まるで『はい、嫌がらせをしましたよ』とでも言われているみたいで、気分が悪いわ」

 対するハーマイオニーは困惑顔だった。ハリーは鬼の形相で、朝食を口に運んでいた。

 

「でも、アンブリッジが『アレ』を知ったなんて絶対にあり得ないわ」

「何でそんなことが言えるんだ!」ロンが声を高くして憤慨している。「絶対にあの中の誰かが告げ口したに違いないんだ! ザカリアス・スミスなんか怪しいぞ!」

 ハリーもうんうんと頷いている。ハーマイオニーははあ、と息を吐いた。

「誰が告げ口したにせよ、すぐに分かるわ。私、あの誓約書にちょっとした呪いをかけたのよ。分かりやすく言えば、エロイーズ・ミジョンのニキビ顔さえまだ可愛く見えるようになるような、そんな感じかしら」

 

「何の話だい?」

「わああ!」

 突然オーシャンの背後から、セドリックの爽やかな顔がにょっきりと生えてきて質問した。オーシャンのみならず、彼女と向かい合って座っていたハリーやハーマイオニーまでも、膝でテーブル裏を打ってグラスをひっくり返すパニックである。

「ごっ、ごめん……。そんなに驚かせるなんて思わなくって……」

「いっ、いいえ、いいのよ、気にしないで……! かくれんぼが随分と上手くなったのね、ディゴリー……」

 

 バクバクと音高く鳴っている胸を押さえて、オーシャンが喘ぎあえぎ言った。今度の省令のことで頭がいっぱいだったとはいえ、微塵も気配を感じなかったのである。先日のハーマイオニーからの忠告が蘇る。――半分忍者みたいな子に三年間片思いしているだけあって、ハッフルパフ生の話では情報収集能力と気配察知能力がそれこそ忍者並になってるって話だから!

 ハーマイオニーを見ると、彼女の目が「ほら、ごらんなさい」と言っていた。でもこれ、私のせいじゃないじゃない?

 

 





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月に最低一話は更新する事を頑張ります!(土下座)

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