英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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77話

「ハリー、ここを開けてくれない?」

 

 グリモールドプレイスの『不死鳥の騎士団』本部の中にあるとある部屋の前で、ハーマイオニーはノックをしつつ部屋の中の人物に語りかけた。

 ハリーはいるはずのない人物の来訪に驚き、思わずドアノブに手をかけたものの、その手はそれを開くことをためらっている。

 

「これは、『解錠の呪文』が必要ね」

 ハーマイオニーの隣に立つオーシャンが怪しげに笑って、ドアの向こうの人物に『呪文』をかける。

「今すぐここを開けなければ、クリスマスに貴方が好きな子とロマンチックなキスをした事を、おばさまと貴方の名付け親に言うわよ」

 

 バタン! と音を立てて、『呪文』の効果はてきめんに顕れた。悪戯っぽく笑うオーシャンを、ハリーは不機嫌に睨んでいる。

「ふふ、悩み多き思春期のところ、ごめんなさいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の朝一番で、ダンブルドア校長はハーマイオニーとオーシャンの二人に、何が起こったかを話して聞かせた。

 

 ウィーズリー氏が『騎士団』の任務中に怪我をして、『聖マンゴ魔法疾患障害病院』に入院したと聞いて二人は息を飲んだが、校長の「命に別状は無い」の一言にほっと胸をなで下ろした。

 

 オーシャンはすぐにでも彼らの元へ向かうと言ったのだが、学期が正式に終わるのを待つよう説き伏せられた。マクゴナガル先生にいたっては力尽くでも黙らせるために、オーシャンの前で杖をチラつかせていた。

 

「……まあ、というわけで私達、『夜の騎士バス』に乗って来たの。――みんなに聞いたわ。聖マンゴから帰ってから、あなたが皆を避けているって」

「ハリー、貴方顔色が悪いわ。サンドイッチを食べなさい。おばさまが用意してくれたのよ」

 ハーマイオニーの説明にも、オーシャンの心配の言葉にも、ハリーは素っ気ない返事をした。ハーマイオニーはオーシャンを困った顔で見る。

 

「やっぱり、あんな『呪文』なんて使うから、ハリー、臍を曲げちゃったじゃない」

 聞き捨てならないその言葉に、ハリーが振り向いた。

 

「誰が臍なんて曲げるもんか! オーシャンみたいな事言わないでよ、ハーマイオニー!」

 ハリーの怒声にオーシャンが「あら」と声を上げると、ハリーはぷいとそっぽを向いた。

 

「そりゃあ――人が真剣に悩んでる所に、あんなふざけた事言われたら、面白い奴はいないだろう?」

「でも、貴方は出てきたじゃない」

 にっこりと笑顔で返したオーシャンだったが、ハリーは尚も不機嫌な顔を崩さない。

 

「僕、誰とも会いたくなかった」

「そうなの――でも、拗ねるのも悲劇のヒロインを気取るのも、いい加減やめなさい」

 言い放ったオーシャンにつかみかかる勢いで、ハリーは立ち上がった。

 

「君に僕の気持ちなんて、分からないだろう!?」

「ハリー、あなたが『伸び耳』で聞いたこと、私達も教えて貰ったわ」ハーマイオニーが腰を上げながら言い添える。「私達、『あなたと』話しに来たのよ」

 

 ハリーが『伸び耳』で聞いた情報――ヴォルデモートがハリーに取り憑いているかもしれないという、『騎士団』メンバー達の疑念。

 ハリーが見たという、彼自身が蛇になってウィーズリー氏を襲ったという夢は、果たして本当に『夢』だったのか。

 ヴォルデモートに取り憑かれ、操られた彼のしでかした罪ではないのかを、『騎士団』メンバーの大人達はこぞって疑っていた。

 

 彼らの疑いを盗み聞いたからこそ、ハリーは自分自身の中に潜んでいるかもしれない恐怖を、どうすればいいか分からないでいる。

 

 ハーマイオニー、ロン、オーシャンの三人が何を言っても聞く耳を持とうとしなかったハリーだったが、ジニーの一言が状況を一変させた。

「あら、『例のあの人』に取り憑かれた人って私以外にいないはずよ」

 

 オーシャンの脳裏にも蘇る、『リドルの日記』。ヴォルデモートの記憶が、ジニーの体を乗っ取り操っていた、あの邪悪な顔。

 

 誰もが虚を突かれた様で、続く言葉がなかなか出ない。ジニーはハリーに、ツンとすまして言ってみせる。

「私だったら、『あの人』に乗っ取られるのがどんな感じか、教えてあげられるわ。あなたがそうなのか、そうじゃないのかもね」

 

 ジニーの身をもった体験がハリーを動かした。

 彼女の『記憶に期間的な空白があるか』、『自分のしたことを全て思い出せるか』という質問に、ハリーは素直に答えて、彼女から『ヴォルデモートは取り憑いていない』という太鼓判を捺して貰った。

 

 彼女の回答を受けて、ようやくハリーはサンドイッチに手を伸ばす。

 悩んでいる期間中もろくに食べてなかったのだろう。きっと久方ぶりに体の感覚を思い出した心地に違いない。

 

 ドアの向こうで、シリウスが陽気に歌っている声が聞こえる。部屋の中の空気が代わって、ハーマイオニーが口を開いた。

「……あと、私にはもう一つ、確認したいことがあるんだけど」

 

 ハリーやロンが、真面目くさった顔で彼女を向く。

 しかし彼女は、「ねえ、オーシャン」と言ってこちらを向いた。オーシャンは 虚を突かれて、呆けた顔をする。

「私? 何かしら?」

「セドリック・ディゴリ―とキスしたの?」

 

「えっっ!!??」

 ハーマイオニーの質問にその場にいた全員が声を上げ、オーシャンの顔は途端に真っ赤になった。なんで今、その話題なのよ! それに、してないし……『私』は!

 

「違っ――そ……私は別にそんな……あ、あれはあの子が勝手に……!」

「したんだ!」

 オーシャンの狼狽ぶりに、ジニーが声を上げる。双子の兄達がオーシャンに詰め寄った。

 

「されたのか!?」「あいつ……無理矢理なんて男の風上にも――」

「や、違うわよそんな――無理矢理にだなんて……」

「どういう事だ!? 同意の上で!?」

「嘘だろ、聞いてないぞ!」

 

「はい、落ち着いて落ち着いてー。また天井を落とすつもり?」

 耳まで赤くなったオーシャンといきり立つ双子の間に立って、両者を引き離しながらハーマイオニーが言う。いつの間にかオーシャンの隣に来て肩を抱いたジニーが、「はい、吸ってー吐いてー」と深呼吸を促した。

 大丈夫、まだ言葉は通じている。ひっひっふう、ひっひっふう。

 

 双子の兄達を牽制しつつ、オーシャンが落ち着きつつあるのを見計らって、ジニーが質問を重ねる。

「いつしたの?」

 

「してないったら! ――この間のDAの時、私は2階の廊下でアンブリッジとフィルチを惹きつけてたのよ。そして、そろそろ帰ろうかなって思ったら……」

 暗がりに現れたあの姿が蘇る。――『やあ、待ったかな』

 

「――ディゴリ―が来たのよ。……それで、あの、アンブリッジとフィルチが後ろを尾けてきてたから……あの、怪しまれると思って、逢瀬のフリをして、それで――」

 ヤドリギの下の『壁ドン』。そして――。

 

 恥ずかしすぎてみんなの顔が見れない。両腕で赤くなっている顔をみんなの視線から防ぎながら、やっとオーシャンは口にする。

「――て、てのっ、こう、に……された……」

 

 時が止まった様だった。永遠に続くかと思われた静寂を、ロンの一言が破る。

「……それだけ?」

 

 ロンの拍子抜けという様な一言に、オーシャンが立ち上がり、憤慨する。

「『それだけ』とは何よ『それだけ』とは! だっ、大体、口づけっていうのは思いが通じ合ってる者同士がする、あ、愛情表現なわけで、私はあの子とあ、あいしあってなんて……!」

 

 興奮していると、またジニーに座らされた。促される呼吸。ひっひっふうー、ひっひっふうー。

 呼吸に集中しなければいけないというのに、またあの時の感覚が蘇って来る。耳を掠める、逞しい腕の気配。月のきらめきを返す瞳。

 

 ハーマイオニーの声がする。

「まぁ、愛し合ってはいなくても、あなたはセドリックの『大切な人』ではあるからねぇ」

 続いて何やら喚いてる双子の声。

 

 オーシャンの頭がどうにかなりそうな中、ノックの音が聞こえて、シリウス・ブラックとリーマス・ルーピンが現れた。「随分と賑やかにしているが――」

 

 言いかけたシリウスの言葉は、ルーピンの姿を認めたオーシャンの声にかき消された。

「せっ、先生ぃぃ!? ちっ、違うのよ、コレは誤解で、あわあうあわあ」

 

 オーシャンが耳まで真っ赤になりながら泣いて床に転がったので、ハーマイオニーとジニーはどう手をつけたものだか頭を抱えていた。きょとん、と理解が追いつかない顔をしているのは、ルーピンだけだ。

 シリウスが「今度の発作は酷いな」と笑いながら言ってハリーと目を合わせる。彼は肩をただ竦めた。

 

 次の瞬間、ハリーのベッドがぺしゃんこに潰れた。

 





すいません、前回今回と甘い展開で!!
私の中のセドリック(幻覚)が主張するんです!泣

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