英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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80話

 みんなと一緒にホグワーツに帰ってきたオーシャンは、やはり『破魔の札』を量産する事に取りかかった。授業中や休み時間に鼻歌を歌いながら札に呪文を書き付ける彼女に、フレッドやジョージ、はたまたその悪友のリーまでもが、奇妙な視線を向けている。

 

「おい、ここ最近、変じゃないか? 何か悪いものでも食べたのか?」

 昼食の時に、勇気を振り絞ってベタベタな事を聞くジョージへの返答も、どこか浮ついた調子だ。

 

「どうしたの、ジョージ。朝も昼も、みんな同じ様なものを食べてるじゃない。不思議な人ね」

 

 返答に添えられたどこぞの貴婦人めいた笑みを見て、気味が悪い、という顔でぞっとする様子を見せたジョージとは対照的に、オーシャンが常に嬉しそうにしているのが、何故かアンジェリーナは我が事のように幸せならしい。

 

「ああ、今日は一段と輝いているわね、オーシャン! 私、その輝きをずっと守っていきたいと本当に思うわ!」

 

 そしてそんなやりとりをしていたら、かなりの確率でセドリックが混じってくる事も、もはや日常と化していた。

「奇遇だね、僕も同じ気持ちだよ」 

 

 アンジェリーナの斜め後ろに立った彼を、彼女は振り向きざまに裏拳で制しようとしたが、彼は難なくそれをよけた。まるでその体の柔らかさはジャパニーズ・こんにゃくの様で、フレッド、ジョージ、リーの彼を見る目が、珍獣でも見る様なそれに変わる。

 

「それ、止めた方が良くないか。ファンが減るぞ……」

 リーの言葉にセドリックはケロッとしている。「それ、寮の友達にも言われたよ」

 

 そんな彼らのやりとりはほとんどオーシャンの耳に入っていなかった。

 今、彼女の耳で再生されるのは、先日の別れ際にルーピン先生がかけてくれた言葉だけだ。

 

 

 

『みんなを、よろしく頼むよ。……でもあまり、無茶なことをしてはダメだよ』

 

 

 

 握手と一緒に貰ったその言葉を思い出すだけで、体中から力が溢れ、何でも出来る気になってくる。

 でも、無茶はするなと言われたから、ハリーを『夢』から守る名目で作っているこの札は、一日のノルマを十枚だけにすると決めた。今だったら、百枚でも千枚でも作れそうな気はするが。

 

「……無茶するな、って……言われちゃしょうがないわよね……」

 呟いて嬉しそうに頬を染めるオーシャンを、アンジェリーナとセドリックは幸せそうに見ていた。

 

 

 

 昼食中賑やかにしている上級生達と、彼らが取り巻きながらも集中を乱す事無く『札』作りを続けているオーシャンを見ながら、ハーマイオニーは『グリモールドプレイス』に向かった日の事を思い出していた。

 

 

 クリスマスの一件の後オーシャンがセドリックと話したのは、休暇に入りみんながホグワーツ特急で帰宅しようとしていた時だった。

 二人で旅立とうとした時に、マクゴナガル先生に呼び止められ、「ウエノ、ディゴリーにきちんと詫びておきなさい!」と厳しく言われたオーシャンは、珍しく「失礼しちゃうわ!」とぷりぷりした。

 

「謝るつもりが無いわけ無いでしょう!? た、ただ、タイミングが悪かっただけであって……直前になると、あの、その――足が止まったからって、ここまで延ばし延ばしになった訳じゃないのよ! 決して!」

 玄関ホールに向かいながら早口にそう言っているのは、言い訳と受け取って良いのだろうか。

 

 生徒達で混み合っているホームで彼を見つけて、いつもの調子を取り繕った彼女が「あの時はごめんなさい、痛かったでしょう」とだけ謝ると、彼は顔を明るくして言った。

 

「僕こそ、ごめん。君があんなに恥ずかしがるなんて思わなくて……。それに、嫌われた訳じゃなくて安心したよ」

 

 しかし、その答えでは彼女は満足しなかったらしい。当たり前だ。過失とはいえ、彼はドラゴンさえ仰け反らせる彼女の衝撃魔法をもろに食らったのである。

 

「いいのよ、無理しないで。むしろ責めてくれた方が安心するわ」

 そう言い返した彼女が、否定の意味を込めて顔の横で手を小さく振ると、セドリックは柔らかい仕草でその手をとった。

 

「本当の所を言うとね……あの魔法で僕は、君と出会った時の衝撃を思い出したよ」

 

 セドリックと出会った時――二年前の夜に、スネイプ先生に文字通り放り出されたオーシャンの石頭が、偶然そこに寝ていたセドリックの鼻っ柱を打って、図らずも出会ったあの時。

 

 その言葉を受けてオーシャンが何を思ったのかハーマイオニーには知るよしも無いが、彼女が言葉を失って口をパクパクさせていたので二人に割って入った。こんな所でパニックになられては、迷惑この上ない。

 

「はいはい。もう行きましょう、オーシャン。セドリックもいい休暇をね」

「ああ、そうだね。いい休暇を」

 

 最後に親指の腹で愛しさを込めてひと撫でして、彼はオーシャンの左手を解放した。

 

 感触に驚いたのか引っ込めた手を掻き抱き、彼女が顔を赤くし目を白黒させている内に、セドリックはこちらに手を振って、友人達と一緒にホグワーツ特急に乗り込んでいった。

 

『夜の騎士バス』に揺られながらハーマイオニーは、「セドリックって大物ね」と、茫然自失状態のオーシャンの隣で呟いたものだ。

 

 学校に帰ってからどうなる事かと案じたが、総じていつも通りのようでハーマイオニーはほっと胸をなで下ろしていた。

 

 オーシャンはルーピンと何を話したのか、最近まれに見る程機嫌がいいし、そんな彼女をセドリックが幸せそうな顔で見守っているのも意外だった。休暇が明けた途端、彼がこれまで以上の猛アタックを開始するものだとてっきり思い込んでいたからだ。

 

 オーシャンの姿を映す彼の慈愛に溢れた瞳を遠目に見ながら、彼女は「愛だわねぇ……」としみじみ呟いてジュースを飲んだ。

 

 *

 

 休暇が明けてから、ハリーは度々夕方に談話室から姿を消す様になった。きっと話に聞いた、スネイプ先生の個人授業に違いない。

 

 オーシャンは母の、「昔よく、セクハラしてくるプロデューサーの接待しなきゃいけない時に使ってたから、『閉心術』だけは上手なのよね」という母の言を思い出した。

 

 セクハラプロデューサーがヴォルデモートと同列に語られているという事実が、じわじわくる。

 

 オーシャンは日々出来上がる『破魔の札』を全て、ハリーに渡していた。ハリーもロンも、「これがあれば『閉心術』なんて無くてもいいじゃないか」と軽口を叩いた。

 

 実際、ハリーが眠る前に枕の下に入れた『札』が翌朝塵となって出てきた事が、今までに二回ほどあった。その効力を発揮しているのが必ずしもヴォルデモートの夢なのかは分からないが、少なくとも狙い通りの効果は出ている訳だ。

 

「だからと言って、今考え得るできる限りの防衛策を怠ろうというのは、見過ごせないわね」

 

『札』が完全に効果を発揮したのはその二回だけで、あとは端が焼け焦げたり、破れたりした状態で見つかっている。『夢』は確実に、毎晩の様にハリーの元を訪れているのだ。実際にハリーは、『札』がある前よりはぼんやりとして断片的ではあるものの、印象の強いその夢を確かに見ているらしい。

 

「これはお守り程度の効果しかないの。頑張って、自分の身は自分で守りなさい。あなたはDAのリーダーだもの。そのくらい、お茶の子さいさいでしょう?」

 

 今日の分の『札』を渡しながらそう言うと、ハリーは明らかに不満げな顔つきをした。珍しく、びっくりする程可愛げが無い。

「君も毎週、スネイプと二人きりで授業してみればいいんだ。そうすればわかるから」

 

「あら、しなくてもわかるわ。あの人、貴方とは違う意味で私の事嫌ってるもの」

「あいつは自分の寮の生徒以外、みんな嫌いなんだ」

 

「そういう事じゃ無くて――なんか、根本的に馬が合わないみたいね」 

 本格的に合わないのは、二年前の暮れからだが。

 

 *

 

 ハリーが日々の授業と宿題と『閉心術』に追われて、『DA』で今となっては数少ない楽しみの時間を過ごし、気付いたときにはアンジェリーナの指揮の下、新生グリフィンドールチームが日々練習に明け暮れていた。クィディッチが禁止されてから、フレッドとジョージは『新商品』の開発に余念が無い。

 

 みんながそれぞれ忙しく過ごしている間に一月が過ぎて、二月の十三日の事だった。

 

「ねぇ、オーシャン」

 次の授業に向かおうとしていたとき、珍しくもハーマイオニーに呼び止められた。一緒にいたアンジェリーナ、フレッド、ジョージに「先に行ってて」と促して、足を止める。

 

「なぁに?」

「明日、セドリックを連れて『三本の箒』に来られないかしら?」

 

 二月の十四日が次のホグズミード行きとして掲示されて、連日のなんとか尋問官のなんとか令に疲弊していた生徒達は、久しぶりに明るい顔を見せていた。

 

 それはオーシャンも例外では無く、ほんの少しでもアンブリッジから解放されるならと、喜んでその時間を楽しもうとしていた。

 だからって……。

「……何で私……?」

 

 思いがけずハーマイオニーの口から聞いた名前に、思わず眉が寄る。

 いや、わかる。目的は分からずとも、この人選の意図は分かるのだ。だが……。

 

「だって、あなたが呼んだらセドリックは必ず来てくれるでしょう?」

 ほら。可愛い悪戯顔をするハーマイオニーに、顔を寄せる。

 

「貴女、いつからそんな性悪女みたいな事をするようになったのよ? 餌で釣っておびき寄せる様な真似……」

 

「ふぅん……。じゃ、オーシャンは自分がセドリックの『餌』だって分かってる訳ね」

 

「んなっ……」

 したり顔のカウンターに顔を赤くした上級生を見て、ハーマイオニーは可愛くにんまり笑った。踵を返して足取り軽く、「じゃ、よろしくね~」と手を振りながら去って行く。

 

 オーシャンはその後ろ姿を見送りながら、嘆息した。易々と男を手の内で転がそうとするなんて、一体誰に似たのやら。

 

 

 

 

 夕食時。頼み事をするのだからとこちらからハッフルパフのテーブルに赴くと、セドリックは友人達と和気藹々話しながら、夕食のパイを頬張っていた。

 

「こんばんは、ディゴリー」

「わっ、うっ、ウエノ!?」

 

 いつも彼がする様に、肩口のあたりに立って話しかける。彼は声に驚いて一瞬振り返るも、口の中のものを水で流し込んで落ち着くと、隣の友達を鏡にして、口の周りに何もついていない事をチェックしてもらった。

 

「ど、どうしたんだい? 珍しいね」

 入念な準備をして、顔を赤らめてこちらを向いて座り直した彼の頬には、友人の悪戯かパイのソースがくっついている。案の定、鏡として使われた友達は、彼の背中を別の友達と指さしながら笑っていた。

 

「ソースがついてるわよ」

「えっ、ほ、ほんと!?」

 

 顔を背けようとしたセドリックに素早く手を伸ばして親指で拭ってやると、彼は動きを止め、目をキラキラさせてこちらを見た。周りの友人達もその挙動に動きどころか、息さえ止めている。

 

 ……こっちまで赤くなるから、その恋する乙女の様な瞳を止めて欲しい。長引かせずに要件だけ伝えて、早々に立ち去ろう。

 

「……明日、ホグズミードで待ち合わせをして欲しいの。『三本の箒』で」

 

「……聞いてた?」こちらの顔を見たまま言葉も発せず動きもしないセドリックにそう聞くと、彼は高速で動く赤べこ人形の様に何度も頷いて見せた。

 

 少し不安だが、他に話題も無いので挨拶もそこそこに踵を返すと、ハッフルパフのテーブルが途端に沸いた。正確にはハッフルパフのテーブルの、セドリックとその友人達だけがクィディッチワールドカップを制したかのように沸いている。

 

 とりあえず一仕事が終わったわけである。おあずけにしていた夕食を楽しもうと、グリフィンドールの友人達が取ってくれていた席に座ると、アンジェリーナとフレッド、ジョージがむすっとした顔で彼女を迎えた。





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日本芸能界では閉心術使えなくしてはやっていけないですねぇ
あ、美空にセクハラを働いたプロデューサーですか? 国内外のガチニキ達からの追い込みにより、仕事を干され、嫁とは離婚、息子とも離されてつい最近養育費を払い終わり、これからの人生何のために働くんだと自分に問いかけながら日給の道路工事の仕事を頑張っております(ニッコリ)
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