英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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82話

 ハリーが『三本の箒』に来たのは、一時間後だった。

 

「思ったより早かったわね。もうちょっと待つかと思ってたわ」

 ハーマイオニーの言葉にハリーが「うん、でもチョウが……」と言いかけると、スキーターとオーシャンの声が重なった。

 

「チョウ? 女の子ざんすか!?」

「デートだったの?」

 

 今度こそ鞄から自動速記羽根ペンを出したスキーターに、ハーマイオニーはぴしゃりと言い放つ。

「あなたには関係ない事です」

 

 スキーターは「つまらん」とでも言うように唇を突き出して、ペンを下げる。オーシャンはセドリックに、「僕達もそうだと思ってたんだけどな」と言われてプイとそっぽを向いた。それでも彼は、嬉しそうに笑う。

 

 困惑しながらも席に着くハリー。すんと澄ましているハーマイオニー。「何が始まるんだい?」と嬉しそうに聞くセドリックに、「いちいち私に聞かないで」と虫を払う仕草のオーシャン。そして記事のネタになりそうな匂いに舌なめずりしているリータ・スキーターと、ぼんやりと座ってジョッキを傾けるルーナ・ラブグッド。

 

 役者も揃った所で、会合の目的が明かされた。魔法省によって見えざる事になっている真実――ハリーとセドリックが見た、ヴォルデモートの復活を、『ザ・クィブラー』に載せるのだ。

 

「『ザ・クィブラー』? ふん、あんな三流雑誌にあたくしの記事を載せるなんて、納得しかねるざんすね」

 

「パパの雑誌、面白いよ」

 お高くとまった調子のスキーターに、ルーナがぼんやりと反論した。重ねてスキーターに金銭を問われると、ルーナは「パパの雑誌に寄稿してくる人は、それが名誉なんだもん。お金なんてもらわないよ」と言った。

 

 さすがに無理な注文ではないかとオーシャンは思ったが、腐っても元報道マンということなのか、それともハーマイオニーの交渉力の賜物なのか、リータ・スキーターは全ての条件を飲んだ。

 

 そもそも、未登録の『動物もどき』であるという首根っこをハーマイオニーに捕まれている彼女には、選択肢は残されていないようだった。彼女は愛用の自動速記羽根ペンを羊皮紙に立てて、ハリーとセドリックへの取材を開始した。

 

 

 

 *

 

 

 

「記事が載るのはいつになるか分からないよ。今『しわしわ角スノーカック』の特集を組んでるから、それが終わってからかな」

 

 取材を終えてホグワーツに帰る道すがら、ルーナはそう説明した。それでも自分の言葉が真実だと然るべき所で表明することができたのは、ハリーとセドリックの気持ちを前向きにさせた。

 

 城に着くと、ほとんど夕食の時間だった。セドリックとルーナの二人と別れ、いつものグリフィンドールのテーブルで、へとへとのクィディッチチームメンバーと夕食を囲む。

 

 食事の時間が終わると、オーシャンは談話室でアンジェリーナに買ってきたお土産を渡した。オーシャンが自分のために選んでくれたお菓子や雑貨の数々に、アンジェリーナの瞳は今日のセドリックと同じ様に輝いた。

 

「ありがとう、オーシャン! お陰で疲れも吹き飛んじゃったわ!」

 

「ええ、日々頑張っている貴女のためだもの。張り切って色々買い過ぎちゃった」

 

 そう笑顔を見せると、アンジェリーナはオーシャンを抱きしめて頬ずりした。彼女がこんなにも喜んでくれているのが、心から嬉しい。

「ふふ、こんなに喜んでもらえると思わなかったわ。ディゴリーにもお礼を言っておこうかしらね」

 

「は、何ソレ?」

 

 その言葉を聞いて、アンジェリーナはオーシャンの両肩を掴んで、べり、と音が聞こえそうな勢いで離れた。

 

「何でアイツが出てくるの?」

「あの人、頼んでないのに勝手に選んで持ってくるの。もちろん、貴女が好きそうじゃないものは私が除外したわよ」

 

「いや、そ、そうじゃなくて――何で、アイツと一緒にいるの」

 今日の経緯を説明すると、「じゃあ、また一日デートしてたって事!?」とアンジェリーナは声を裏返して言った。

 

 オーシャンの顔がぽっと染まる。

「そ、そういう言い方しないで! ふ、不可抗力よ……!」

 

 花も恥じらう様子のオーシャンを見て、アンジェリーナは両手で頭をかき乱した。「あぁ~、何やってたのよ、あの双子はーー!」

 そうして辺りを見回して、部屋の隅に双子の姿を見つけると、「ちょっと、あんたらー!」と駆けていった。

 

「もう……! そうよ、不可抗力! そうなんだから……!」

 駆けていくアンジェリーナに聞こえない声で呟きながら、トクトクと鳴る胸を押さえつける。気を紛らわせるために、暖炉近くで話し込んでいたハリー、ロン、ハーマイオニーの仲間に入っていった。

 

 彼らの話題は、ハリーとチョウ・チャンのデートで持ちきりだった。人の恋路を邪魔する者は、とはよく言ったものだが、渦中のハリーは恋路にいるとは思えない程肩を怒らせていた。

 

「……そういう感じで怒り出しちゃって」

「馬鹿ね。私の名前を出さなければ良かったのよ。それか『しつこくつきまとって約束させられた』とか、嫌そうな顔しておけばよかったんだわ」

 

 訳が分からない、と憤るハリーに、ハーマイオニーが冷静な対処を教えている。

 そういきり立つ背景に何があったかは分からないが、どうやら喧嘩をしたようである。クリスマスにはキスをする程仲が良かったのに、どうしたというのだろう。

 

「怒ってるかと思えばその内泣き出すし……何で女ってやつはこうもややこしいんだ!?」

 

 話は依然見えないが、きっとハリーには女心の授業がもっと必要だったのだろう、という事は、聞いた言葉から想像できた。

 ハリーに同調するロンを無視して、ハーマイオニーが訳知り顔をした。

 

「仕方ないわよ。少し前までセドリックの事が好きだったのに、今はハリーと付き合ってるんだもの。彼女なりに気持ちの整理がついてないのよ、きっと」

 

「何だよ、ソレ」ぷんぷんしているハリーを置いてハーマイオニーは、隣に座ったオーシャンを見る。

「セドリックが、どっかの誰かさんに夢中になってるお陰でね」

 

 ビクン、と肩が跳ねる。何故ここ最近、その名前から離れられないのだろう。どこにいっても、彼がついてくる気がする。

 

「じゃあ彼女は、まだセドリックの事が好きだって言うのか?」

 ハリーが声を荒げたのを、ハーマイオニーは冷静に否定した。

「まさか。気持ちに整理がつけられていないだけよ。だから余計に混乱してるんじゃないの」

 

「ねえ?」とハーマイオニーは再度オーシャンを見る。だから、何で私?

 

 しかし……考えてみる。ルーピン先生は私の事なんて全く見て無くて――いや、今もそういう意味で見てくれてるとは全く思わないのだが――むしろ可能性なんて全く無いのだが――優しく声をかけてくれる他の誰か……例えばそれこそ、彼の事を同時に好きになってしまったら……。そして、ルーピン先生に愛すべき相手ができて、彼への思いを捨てなければならなくなったとしたら……。

 

 ぞくり、とおぞましい何かが、脊椎を駆け抜けて胃の腑に落ちていった。さっきとは違う胸の高鳴りが、気持ち悪く鳴り響いている。

 

 胸を押さえるオーシャンに、ハーマイオニーが気遣う様子を見せた。彼女は、多分気付いていたのだ。チョウとオーシャンの、秘めた共通点に。

 

「……何だか、人ごととは思えないわ……」

 頭がくらくらする。オーシャンは右手でこめかみを押さえた。「突然、チョウを一人にさせたくなくなってきたわ……」

 

「でも、あなたからチョウと仲良くしようとしない方がいいわよ」

 続いたハーマイオニーの言葉には、覚えがあった。

「あなたなら、自分から好きな人を奪っていった人が、仲良くしようと近づいてきたら、良い気はしないでしょう?」

 

 夏、学期が始まる前に、ハリーを迎えに行った際の二人の後ろ姿が蘇る。そして、『夜の騎士バス』の中でトンクスが見せたウインク。 

「……そうね」 

 

 心の中でチョウに謝ったが、このややこしい関係はそれこそ不可抗力というものだ。人の思いは、他人には変えられない。

 

 しかし、彼女の心、彼知らず。

 

 ホグズミード後の土曜日のクィディッチの試合、対ハッフルパフ戦は、グリフィンドールチームは健闘むなしく、十点差で負けた。

 

 オーシャンはクィディッチに詳しくないから滅多なことは言えないが、選手が三人入れ替わっただけでこんなにも違うものか、と思うほどのやられっぷりだった。今回一緒に観戦していたハリーは、酷すぎて途中から目を背けたい衝動と戦っていた程だ。

 

 試合も終盤になり、両チームのシーカーがスニッチを追ってグリフィンドール側のスタンド上空を飛んでいった時、結構なスピードだったのにも関わらずセドリックはオーシャンの姿を見つけて、なんと投げキッスをした。

 

 実況のリーが目ざとくそれを見つけて、「お~っと、ディゴリー選手、ガールフレンドにしっかりアピールという余裕のプレイ!」と大音声を上げる。会場の女子達がそちらこちらで羨む様な黄色い声を上げた。

 

 オーシャンはセドリックの駆け抜けていった空を見ながら、二人とも、試合が終わったらとりあえず縛り上げよう、と思った。

 

 

 

 *

 

 

 

 月曜の朝に『ザ・クィブラー』の三月号が届けられて、ハリーとセドリックの告白が世に放たれた。

 

 朝食中の二人のテーブルにはふくろう便が雨あられと降り注ぎ、良い感想も誹謗中傷もまとめて彼らに届けられていた。思っていたより好感触な意見が多かった様で、ハリーもセドリックも嬉しそうだ。

 

 大量の手紙を見とがめてハリーの告白記事を知ったアンブリッジは、グリフィンドールの五十点の減点と彼への三度の罰則を言い渡した。するとセドリックも嬉々としてそれを申告し、自ら同じ運命を辿った。

 

 罰則を貰った直後にグリフィンドールのテーブルまで話に来た彼に、オーシャンは呆れ顔をする。

「黙っておけばいいのに。あの罰則、痛いわよ」

 

 芸が無いお役人様は、罰則の内容も変わらないだろう。手の甲の傷は癒えたが、あの痛みは簡単に忘れられるものではない。

 しかしセドリックは臆する事は無かった。

「ある意味ラッキーだね。だって、君と同じ痛みを経験できるんだろう?」

 

 また赤くなる様な事を言う彼にオーシャンは突きを繰り出したが、それは辛くも避けられた。

 

 その後アンブリッジはインタビュー記事の載った『ザ・クィブラー』を禁止する命令を出し、ハーマイオニーは上機嫌だった。人の知的好奇心を満たす近道は、対象を禁止する事だからだ。

 

 お陰で学校中がこの記事に目を通すのに、そう時間はかからなかった。ハリーの体験を読んだ彼らの多くが、ハリーに対する態度を軟化させた。同級生と仲直りする事ができ、些細なことで先生から寮の得点を与えられたり、突然お菓子を振る舞われたりして、ハリーは更に勇気づけられた様だった。

 

 何よりハリーを喜ばせたのは、チョウと仲直りができた事だった。授業に行く途中に呼び止められて、あのインタビュー記事を勇敢な行動だったと、あの日のホグズミードでの事を謝罪して、頬にキスしてくれたという。

 

 夕食の時に嬉しそうなハリーの話を聞きながら、セドリックは「いいなぁ」と羨ましそうに言った。

「僕も是非貰いたいものだよ」

 

「あら、貴女そんなにチョウの事が好きだったのね。諦めた方がいいわよ」

 早々に夕食を終えたら当然の様にグリフィンドールのテーブルに混ざる彼に、ツッコむ者はもはや誰もいない。オーシャンがナフキンで口を拭って言った言葉に、敢えて挑発する様な視線を向ける。「それ、本気で言ってる?」

 

 からかい。そして挑発。その瞳の奥底から伝わる、「知ってる癖に」。

 

 セドリックの言葉に顔を赤くするオーシャンが「もう、止めて!」と彼に至近距離からの掌底を放つ。かなり痛いはずのそれを受けて、セドリックは幸せそうに笑った。

 

 そしてそれを見せられる大半のグリフィンドール生は、もう、他所でやってくれ……とうんざりしているのを、彼女たちは知らない。 





感想130件、本当にいつもありがとうございます!
復帰したと思ったらイチャイチャした話ばかりですいません……セドリックが……本当セドの奴が……お前、こんなやつだったんか!??
(※幻覚)

想像ではもうちょっとメンタル弱めな坊っちゃん(呪いの子のイメージ)だったんすけどね……お前、死んだフリを覚えてから何か変わっちまったな……
幻覚セドが主張してくるから、正直ラブコメシーンがアズカバンの時より書きづらい
いや、みなさん本当すいません……何なんだよ、お前……人生初のUSJ行けた暁にはお前の杖買うわ……
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