英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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83話

 短い期間に、色々な事が起こった。

 

 まず、例のインタビュー記事が載った『ザ・クィブラー』が発刊されてすぐ、ハリーはまたヴォルデモートの夢を見た。今回はぼんやりとしたものや断片的なものではなく、会話も聞き取れるほどはっきりしたものだった様で、その話を聞いたロン、ハーマイオニー、オーシャンの三人は心配している。

 

『破魔の札』が破られた、という事だからだ。

 オーシャンは『札』の強化を考えて、苦手な『紋』の組み合わせの効果を色々と計算しては破り捨てる二週間だった。

 

 そしてその次の週に、アンブリッジがトレローニー先生をホグワーツ城から追い出そうとする『事件』が起こった。トレローニー先生は泣き叫び、その声につられた他の先生や生徒が続々とその場に集まり、騒ぎとなった。

 

 アンブリッジのあまりの横暴ぶりに、普段トレローニー先生と水と油の関係であるはずのマクゴナガル先生が、追い出されようとしている彼女を守るためにアンブリッジに立ち塞がった。

 

 校長室からダンブルドア先生も現れ、「現職校長」の権限を使い、トレローニー先生が城を去る事は免れた。そしてその場で校長は、『占い学』の新たな講師として、あろうことかケンタウルスのフィレンツェを紹介したのである。異種族を嫌うアンブリッジは紛糾しているはずだ。

 

 もうN.E.W.T.試験を控えている七年生となっては学ぶことは少ないかもしれないが、先日オーシャンもフィレンツェの占い学授業を受けた。

 

 何というか、トレローニー先生のほとんどインチキの様な授業と違って、大自然の力を感じたというか……超宇宙のコスモを感じたというか……まぁ、筆舌に尽くしがたい『個性的』な授業であった事は間違いない。

 多分、妹の空に教鞭を頼んだ方が、まだ分かりやすいのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 とまぁ、色々並べ立てた所で、気を抜いた言い訳になるわけでは無い。まさか本当に『裏切り者』が出るとは思っていなかった――全ては自分の詰めの甘さが招いた事だ。アンブリッジ本人の気を引いた所で、内側を崩されては元も子もなかった。

 

『必要の部屋』を呼び出して入る。どうせもう、場所は割れている。見られた所でどうと言うことは無い。

 

 扉を開けたオーシャンは歩みを止めずに、防衛術の特訓に励むDAのメンバー達に告げた。

「呪文を止めて! 奴らがすぐ来るわ、みんな隠れて!」

 

 尋常では無いオーシャンの様子とその言葉に、みんなの術を指導していたハリーと、素早く杖を仕舞ったハーマイオニーが近づいてくる。

 

「来るって、アンブリッジが?」とハリー。

「ええ」答えるオーシャンは頷いて杖を出す。

「隠れるって言っても、どこに――」不安そうなハーマイオニーを遮って、オーシャンは床に杖を向けて叫んだ。

 

「わなっぷ、土遁の術!」

 呪文に応じて堅い大理石の床を突き破り姿を現したのは、緑色の土管だった。

 

 フレッドとジョージが叫ぶ。

「な、なんかこれ、やっちゃだめなものを見た気がする!」「どこのステージに繋がってるかも分からないのに!」

 

 しかしオーシャンは、冷静そのもの、そして大真面目に言った。

「大丈夫、どこにも繋がってないわ。隠れ蓑術の応用よ。早く入って」

 

 言うオーシャンに気圧されて、メンバーは恐る恐るといった様子で土管に入っていく。一人が体を沈めるごとに、緊迫の場に似合わない軽快な音が鳴った。

 

 ハリーがチョウをアンジェリーナに託して、アンジェリーナは彼女を手伝って一緒に身を沈めていった。次にロン、ハーマイオニー、ハリーが続く。

 その時、オーシャンの入ってきた扉を轟音が揺らし、そこに亀裂が走った。

 

「ウエノ、君も!」

 セドリックが手を伸ばすが、オーシャンは彼を見ない。

「その土管は目くらましの一種だから、奴らに気付かれる事は無いわ。――セド」

 

 そして、振り向く。轟音。亀裂が繋がった部分が、ぼろぼろと崩れる。

「みんなを頼んだわよ」

 次に響いたひときわ大きい衝撃音と、セドリックが双子に引っ張られて姿を隠したのは、ほぼ同時だった

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、沢山ネズミが捕まると思ってたのに、お一人なのねぇ。可哀想に。見捨てられた?」

 

 甘ったるい声でベタベタな台詞を吐いて、アンブリッジは壊れた扉から入ってきた。後ろにはスリザリン生の固まりが控えていて、いずれも漫画の悪役そのものの笑みを浮かべている。

 

 オーシャンは悠々と振り返って、彼女を迎え入れた。

「あら、残念。せっかく秘密の隠れ家が出来たと思ったのに、もうバレちゃったのね」「ポッターはどこ?」

 アンブリッジの鼻につく声に、少しの憎悪が混じった。オーシャンの顔色は変わらない。

 

「ハリー? 今頃は寮で貴女の出した、幼稚園児に出すみたいな、下らない宿題をしているわよ。それとも、宿題を出した事なんて忘れちゃったかしら? もう結構なお歳ですものね」

 

 オーシャンの分かりやすい挑発に、アンブリッジの顔色がみるみる赤くなった。

「――まあ、いいでしょう。少なくとも、あなたは現行犯で捕らえられた。一緒に校長室に行きましょうね」

 

 アンブリッジが杖を向けて嬉しそうな声を出す。オーシャンは挑戦的に笑って、彼女についていく。

 壊れた扉を潜りながらアンブリッジはスリザリン生に、引き続きハリー・ポッター及び危険思想メンバーの捜索をするように命じていった。

 

 これで彼らは、下手に動かなければ大丈夫だ。スリザリンの洟垂れ共如きに、父直伝の術が見破れる訳がない。オーシャンはひっそりと笑って、アンブリッジに着いていく。

 

 

 

 

 

 スリザリン生達が目当ての人物を探して、部屋の中の全く見当外れの場所を探している中、不安そうな面持ちのDAメンバーが揃う土管の中で、フレッドとジョージが身じろぎした。

 

「おい、あいつ連れて行かれちまったぞ、どうするんだ?」

「どうするって……このまま連れて行かれちゃ、いくらオーシャンでもどうなるか分からないぞ……! スリザリンの野郎共なら、俺たちでも――」

 

「待つんだ!」

 腰を浮かそうとした双子を、セドリックの両腕が止めた。フレッドが反論する。

「何だよ、お前、あいつが危ないんだぞ!? 助けない気か?」

「……それでも僕は、彼女に君達の安全を『頼まれた』んだ……!」

 

 そう言うセドリックは懸命に唇を噛みしめて、強く、強く双子の肩を掴む。彼は双子だけでなく、今にも飛び出して彼女を追いたい自分を、必死に押さえ込んでいた。

 

 オーシャンの信頼を汲み取ろうとする彼の様子に、双子はその場にどかりと座り直す。アンジェリーナ、ハーマイオニー、チョウは彼の様子を見ながら三人で身を寄せる。ロンはハリーに「大丈夫だよな?」と聞いた。

 

 ハリーは上を向いて答える。

「ああ、彼女が大丈夫じゃ無かった事なんて『結果的には』ないんだから、今回も大丈夫だよ、きっと」

 みんなは、『結果的には』の部分をなるべく考えない様にするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 オーシャンがアンブリッジに連れられて校長室に入ると、そこにはダンブルドア校長、マクゴナガル先生、コーネリウス・ファッジ魔法大臣、キングスリー・シャックルボルトともう一人の逞しい魔法使いがいた。

 

 壁際に書類を抱え込んだパーシーもいる。

「あら、パーシー、久しぶり」オーシャンが軽く振った手は無視された。

 

 アンブリッジが連れてきたのがオーシャンである事に、ダンブルドアとマクゴナガル両先生の眉がピクリと動いた。どうやら、二人が想定していたシナリオとは違ったらしい。

 

 先生達とは違い、魔法大臣は明らかな動揺を見せる。泳いだ目を見逃さずに、オーシャンは先制攻撃を仕掛けた。

「こんにちは。ハリーじゃなくて、ごめんなさいね、大臣閣下」

 

 オーシャンの不躾な物言いに気を悪くすると同時に、大臣は図星を言い当てられて驚いている。

「どういうことだね、ドローレス。聞いていた話と違うのだが」

「わお」

 

 大臣の冗談みたいな口の滑らせ方に驚いて、思わず声が出た。キングスリーが口の端を少し上げた。ウケたみたいだ。

「なるほど、なるほど。大臣様は今日、問題行動を起こした生徒を捕まえると『聞いていた』訳ですか。そしてそれは、かのハリー・ポッターであると『知っていた』訳ですね」

 

「黙りなさい、発言を許した覚えはありません」 

 ぴしゃりと言ったアンブリッジを振り返る。

「自由意志って知ってる? それとも何? ここは裁判場なの? 私の知っている限り、ここは『ただの』校長室よ」

 アンブリッジはそれを無視した。

 

「大臣閣下。時間の問題ですわ。今はこの、ポッターに続いて不審行動を繰り返す不埒な日本人に、知っている事を全て話して貰おうかと」

「不審行動って、どれの事かしら? 深夜の廊下に、食べたい日本食の献立を書き残していった事?」

 

 これにはマクゴナガル先生も、吹き出したものを空咳に誤魔化していた。アンブリッジの顔色が青紫に変色する。

「大臣! 彼女はポッターと共に違法な学生組織を統率し、会合を重ねて良からぬ事を企てたのです!」

 

 初耳、という顔を装ってアンブリッジと大臣を交互に見ると、アンブリッジは「通報者をお連れします!」と足音高く出ていき、数分経たずに戻ってきた。

 

『通報者』は、チョウの友達の女の子だった。確か名前は、マリエッタだったか。アンブリッジに連れられた彼女は、両手で顔を覆っていた。

 

「さあ、マリエッタ、大丈夫怖くないのよ。自分の口から大臣に申し上げなさい」

「ようし、ようし、君はとても良いことをしたんだ。胸を張って今までに起こったことを話すといい」

 

 アンブリッジと大臣が、口を開こうとしないマリエッタに、胸くそ悪い猫なで声を出した。しかしマリエッタは頑として口を開こうとも、顔を上げようとしなかった。

 業を煮やしたアンブリッジが、マリエッタがこうなった理由を自ら説明する。

 

 どうやら彼女は、何とか直接的な言葉を使わずにアンブリッジにDAの事を通報しようとしたが、アンブリッジが口を割らせて明確な言葉を喋らせた為、彼女の顔に酷い『痘痕の呪い』が効いてきたらしい。それから彼女はそれ以上の呪いの進行を恐れて、喋らなくなったという訳だ。

 

 我が後輩ながら、恐ろしいことをするわね、とオーシャンは、『メンバーリスト』に呪いをかけた後輩を思い浮かべた。

 呪いの進行をこんなにも恐れているマリエッタを見る限り、その顔は見るも無惨な事になっていそうだ。やはり女を敵に回したら、やる事がえげつない。

 

「可哀想よ、解放してあげなさい。貴方達、人の心ってものがないの?」

 そうオーシャンが声を上げると、頑なに開かなかったマリエッタの両手に少しだけ隙間が空き、そこから潤んだ瞳がチラリと覗いた。

 

 アンブリッジは「おだまりなさい、犯罪者」と聞く気が無い。

「Ms.エッジコムは、あの時はっきりと私に教えてくれました! 『必要の部屋』と呼ばれるあの部屋でハリー・ポッターは複数の生徒達を先導し――」

「だからそれ、本当に複数の生徒を先導していたのが『ハリー』だと、何故決めつけるの?」

 

 歌うように宣うアンブリッジを、オーシャンの淡々とした口調が遮る。アンブリッジは不機嫌そうに口をひん曲げて、ギョロリとこちらを向いた。

 

 それにしても、ダンブルドア先生とマクゴナガル先生は何故、口を開かずにオーシャンのやりたいように任せてくれているんだろう。まあ、その方が助かるけれど。

 

 アンブリッジは、苦し紛れの戯れ言を、とでも言いたげに歪んだ口で言葉を重ねる。

「悪あがきを……。Ms.エッジコムの証言が」

 しかしオーシャンは怪しく微笑んだ。

「うちには切れ者の参謀がいるの。確かにほとんどのメンバーが、ハリーがリーダーだと思い込んでいたみたいだけど。『誰が』彼を先導していたか、優秀な貴方がたでも分からないかしら」

 

 その発言で、魔法省側の大人達に衝撃が走る。魔法大臣が息も絶え絶えに呟いた。

「まっ、まさか――」

 思い通りの結果にオーシャンは堂々たる立ち姿で、左手で自分を示した。

 

「そう、そのまさかよ。それはこのわた――」

「会合の名前、DAとは……『ダンブルドア軍団』!」

「え?」

 

 予想外の言葉にオーシャンが目を丸くすると、ダンブルドア先生が初めて、老獪な調子で口を開いた。

「ほっほっ……。バレてしまっては仕方ないのう。ご苦労じゃった、もう下がって良いぞ、ウミ」

「え、ちょ、ま――」

 

 台詞を奪われてあたふたするオーシャンを無視して、ダンブルドア校長と白熱した様子の魔法大臣が話を続けた。

「いかにも、わしが組織した集会じゃ。今日がその初めての会合じゃったが、どうやら人選はもう少し慎重にやらなければいけなかったみたいじゃのう」

 

「では、あなたが――やっぱり、あなたは私を陥れようと……」

「君には朗報じゃろう、コーネリウス。ポッターを退学にするつもりで来てみたら、わしを逮捕できる口実ができたのじゃからな」

「ウィーズリー、今のダンブルドアの告白を、一言一句違わず記録しただろうな!?」

 

「はい、閣下!」

 大臣は熱を上げてパーシーに問い、記録係であったらしいパーシーが袖口をインクにまみれさせて返事をする。完全に置いてきぼりを食らったオーシャンの弱々しい声は、興奮した大人には聞こえていなかった。「あの……ちょっと――ねぇ、待ちなさいよ……」

 

 校長は、あくまで穏やかに言った。

「しかし、わしにはまだ捕まるつもりはない。すまんが」

「なにをっ――かかれ!」

 

 悪代官の名台詞を生で聞くことが出来てオーシャンは、うわぁ、と感嘆する。もはや大臣はオーシャンの事を忘れていた。

 

 大臣の命令にキングスリーともう一人が従って、ダンブルドア校長に躍りかかろうとした時、彼は銀色の閃光と共に、一瞬のうちに姿をくらました。

 

「追えっ、階段だ!」

 ファッジが言って、魔法省の役人達は皆、見えない彼を追って、慌ただしく校長室を出て行った。オーシャンが唖然として呟く。

「人の見せ場を盗るなんて、泥棒だわ……」

 

 マクゴナガル先生は、いつもの調子のままで言った。

「下らない事を言っていないで、さっさとベッドにお帰りなさい」






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土遁の術、いつか使おうと思ってずっと温めてました。使えてニッコリ大満足
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