英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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88話

 ハーマイオニーとセドリックは、途中で協力してくれる事になったジニーとルーナ、ネビルの三人と一緒に、アンブリッジの部屋の前の廊下を封鎖する為に動いていた。

 ハリーとロン、オーシャンの三人は主が留守の『現』校長室に侵入する。暖炉を確認すると、ハリーがロンと目配せし合った。「手早く済ませろよ」「分かってる」

 

 ハリーが暖炉の脇から取った『煙突飛行粉』を振りかけると、暖炉の中にたちまち緑色の炎が上がった。彼は四つん這いになって、慣れた様子でその中に顔を突っ込む。

 

「へえ、『煙突飛行粉』にはこんな使い方もあるのね……」ハリーのがら空きの背中とお尻を見下ろして、オーシャンは言う。「でも、いくら何でも無防備すぎるわ。あんまり良い連絡手段とは言えないわね」

 

 これなら、日本の『狼煙通信』の方がまだ良い気がする。敵に背後を取られるリスクと隣り合わせよりは、よっぽど良い。惜しむらくは、数字を組み合わせた短文しか遅れない、という事だろうか。例えば、「8770141」とか。

 

 随分と長く話し込む彼を、ロンと一緒にただ見下ろして時間が過ぎる。いや、もしかしてあれから三十秒も経っていないかも? 敵がいつ戻ってくるかも分からない緊張感の中、時間感覚までもが壊れてしまったのだろうか? パチパチと炎が爆ぜる音に遮られて、ハリーが向こうでどのような会話をしているのかも分からない。

 

 不測の事態が起これば、ハーマイオニー達が合図を送ってくれる事になっている。オーシャンは目でハリーの背中を見ながら、神経は部屋の外に集中させていた。

 そして――

 

 

 

 *

 

 

 

 

「オーシャン。やりすぎよ」

 アンブリッジと尋問官親衛隊の面々が死屍累々と横たわる室内を見回して、ハーマイオニーは言った。対してその『犯人』の供述は、清々しいものであった。「ああ、すっきりした」

 

「それは間違いないけど」ハーマイオニーは複雑な表情で腕を組み、ハリーとロンは胸がすっとした笑顔を見せ、ネビルは今にも泡を吹かんばかりに青ざめている。

 

 

 数分前、アンブリッジ、フィルチ、親衛隊の面々が、捕らえられたハーマイオニー、ジニー、ルーナ、ネビル、セドリックの五人を引き連れて入ってきた瞬間、オーシャンは自身に『隠れ蓑術』をかけて天井まで跳び上がり、そこに貼り付いた。俊敏なその姿が見えていたのは、せいぜいセドリックぐらいであろう。

 

 アンブリッジは捕らえた『反乱分子』全員の杖を没収し、フィルチは鞭打ちの許可証を取りに嬉々として部屋を出て行った。尋問の口ぶりからするとアンブリッジは、ハリーがダンブルドア校長と連絡を取っていたと思い込んでいた。

 

 途中、ハリーに『真実薬』を飲ませてダンブルドア校長の居所を吐き出させようとしたアンブリッジがスネイプ先生を呼びつけ、ハリーが彼に助けを求めるという予想外は起こったものの、スネイプ先生は実に彼らしく眉一つ動かさずにハリーを突き放して部屋を出て行き、ハリーは唯一の希望を断たれて愕然とした。

 

 しかし、これで『ブラックが闇の陣営に捕らえられた』という情報は確実に不死鳥の騎士団本部に届くはずである。その情報が正か否かは別として。

 

 そして高揚しきったアンブリッジがハリーに杖を向けて『磔の呪文』を唱えようとするより早く、オーシャンは彼女の脳天に向けて鋭い電撃を撃った。

 

 黒焦げになり力なく崩れ落ちるアンブリッジ。突然の事態に目を疑う尋問官親衛隊。友人達を羽交い締めにしている彼らの眼前にオーシャンはふわりと優美に下り立ち、ぴくりともしない『校長』を見る。

 

「これは、マクゴナガル先生の分。お気に召したかしら?」

「やっつけろ!」気を取り直した親衛隊が杖を構える。オーシャンの怒気が、部屋全体の空気を震わせた。「貴方達は年がら年中ピーチクパーチク五月蠅いのよ!」

 

 親衛隊は一瞬怯んだかに見えたが、杖をオーシャンに向けて一斉に唱えた。「ステューピファイ、麻痺せよ!」

 

 その光線をいともたやすくかいくぐったオーシャンは眼前の三人の懐に入り、武装解除を放つ。三人共が訳も分から無い内に宙を舞って杖を吹き飛ばされ、稲妻の様な音と共に床に叩きつけられた。「いづな落とし!」

 

「プロテゴ、護れ!」聞こえた声で振り返る。残された親衛隊が放った麻痺光線を弾いたのは、杖を拾いながらオーシャンと彼らの間に立ち塞がった、セドリックの魔法だった。

 

 そして残った親衛隊は、同じく杖を取り返したハリー、ハーマイオニー、ジニー、ルーナの魔法をモロに食らって倒れる事となった訳である。

 

 

 

 だからこれは決して、オーシャンだけがやりすぎた訳では無い。散々辛酸を舐めさせられてきた日々を思えば、これくらいで済んでむしろ感謝して貰いたい。

 気を取り直して、全員がハリーを見た。

 

「ブラックはグリモールド・プレイスにいたの?」

 オーシャンの問いに、ハリーは首を振った。ロンが慌てた声を上げる。

「じゃ、これからどうするんだ?」

 

 ハリーは頑として言い放つ。「シリウスを助けに『神秘部』に行くに決まってる! さっきのスネイプを見ただろう? 頼りにならない。僕は行くよ」

 

 彼の表情は焦りと決意と少しの憎しみを感じさせたが、アンブリッジに向かって「ポッターの戯言なんぞ、私に理解できる所はありませんな」と言ったスネイプのあの態度を、オーシャンはどうしても額面通りに受けとる事が出来なかった。ダンブルドア校長の命令とはいえ、決して短くない時間をハリーの『閉心術』授業に割いた男の事だ。言葉の意味が伝わらずとも、あの状況を見て、ただで放っていくとは考えられない。

 

「……冗談言わないで。私が貴方を一人で行かせる訳無いでしょう?」

 とはいえ、何が起こっているかを推し量る事は、オーシャンには出来ない。ハリーが行くというのなら、彼を守るのは自分の役目だ。

 

 オーシャンがハリーに鋭く言い放つのを聞いて、セドリックは彼にジト目を向けた。

「羨ましいよ。そんな台詞言われてみたいもんだね」

「あら、貴方は行かないの?」

 腕組みをしてセドリックを向くオーシャンに、彼はウインクを返す。

「まさか。ケンタウロスみたいに突き進んでく君の背中は、誰が守ると思ってるんだい?」

 

「じゃ、ハリー、『神秘部』に行くって事でいいのね?」とジニー。

「それにしたって、どうやって行くんだ? 箒で?」妹を見るロン。

「馬鹿言わないで。ここからロンドンまで、どれだけ遠いと思ってるの? みんなが長距離飛行に慣れてる訳じゃ無いわ」ハーマイオニーは、ロンにしかめ面を向ける。

 

 杖を片手に三人がどんどん話を進めていくのを見て、ハリーが狼狽えた声を出した。「ちょ、ちょっと待ってくれ! 君達を巻き込む訳にはいかない!」

「僕達も行くよ、ハリー」それまで青ざめた顔で黙りこくっていたネビルが、口を開いた。

 

「僕達は『DA』だもの。全部この日の為に――『あの人』と戦うためにしてきた事だろう?」

 ネビルの真剣な瞳にハリーは言葉を失った。迷いを見せるハリーの目が、ロンと合う。彼も頼もしい表情を見せていた。皆、思いは一つ、という事らしい。

 

「――話はまとまった。じゃあ、どうやってロンドンまで行こうか?」腕を組みながら、セドリックが眉を寄せる。ハーマイオニーは唇に手を当てて思案げに俯いた。

 

「バックビークみたいなヒッポグリフがいればいいんだけど……。そういえばオーシャンって、からすを集めて空を飛ぶ事が出来たわよね? あれって、私達全員を乗せて飛べる?」

 

「出来ないことは無いけど……貴女が思っているよりはずっと遅いわよ。ロンドンに着く前に日が暮れちゃうわ。箒が使えないなら、もっと大きい魔法動物を使った方が良いわね」オーシャンは答えて肩を竦める。ルーナがこちらを向いて口を開いた。

 

「じゃあ、森に行ってみようよ。運が良ければ、ヒッポグリフが見つかるよ」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 ハリー、ロン、ハーマイオニーを先頭にして、禁じられた森の中へ入る。七年生二人は殿を勤める形だ。まだ日が指している時間とはいえ森の中は薄暗く、いつも通りの不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「すぐにヒッポグリフが見つかれば良いけど……」

 不安げにハーマイオニーが言った言葉を、森があざ笑う様だった。姿を見せるのはニフラーやボウトラックルなどの小型魔法生物ばかりで、ヒッポグリフのヒの字も見当たらない。八人はどんどんと森の奥へ誘われていく。

 

 刻一刻と奪われていく時間に焦りを見せながら、ハリーが口を開いた。

 

「こんなことをしてる間に、シリウスは……。やっぱり僕、今からでも箒を使ってロンドンへ行った方が……!」

「落ち着けよ、おい」引き返そうと踵を返しかけた彼を、親友の腕が止めた。もう一人の親友も彼の背をさする。

 

「そうよ。もし本当にシリウスが『あの人』に捕らえられたとしても、敵は絶対に一人では無いはず。あなた一人だけが行っても、焼け石に水だわ」

「でも、このまま当てもなく彷徨っている訳にはいかないんだ! 早く……早く行かなきゃ!」

 

「落ち着いて」ルーナの静かな声が際立って聞こえた。「見つけたよ」

 そして彼女が静かに指したのは、ぽつんと佇んでこちらを見ている骸骨の瞳だった。セストラル。

 

 ロンはその姿が見えないのか、最初はルーナの言葉を呆けた顔で聞いていたが、少しの後にようやくピンときた様だった。

「それって、死に触れた者しか見る事が出来ないって言う、例のあれか?」

 

「そうだよ」言って、彼女はゆっくりとセストラルに近づいてその顎を撫でる。セストラルは意外にも、ルーナの手の感触を僅かに楽しんでいる様子を見せた。

 

「でも、二頭しかいないわ」オーシャンも近づきながら口を開く。その姿が見えない者はどうしていいか分からない様子で、その場から動かずに見える者の話を聞いている。

 

「八人全員が行くには、最低でも四頭いなくちゃ」

 この大きいとは言い切れない背中の上に、二人の人間が跨がる事が出来るかは、やってみなくては分からないが。

 

「君も見えるの?」何気なく聞いたハリーに、オーシャンは微笑んだ。「三途の川の手前まででも、『死に触れた』事にはなるみたい」

 ハリーはオーシャンの言っている事に――二年前の満月の夜に思い当たって、どんな顔を返して良いか分からずに口から曖昧な音を出した。

 

「それにしても、最低でもあと二頭見つけないとね。……セストラルはどんな所にいるんだったかしら?」

 オーシャンの質問に、ルーナは記憶を辿りながらもいつものぼんやり顔で返す。

 

「わからないけど、ハグリッドが生肉で誘い出してるのは見たことあるよ」

「生肉か……できたての黒焦げ肉を持ってくれば良かったわね」

 黒い笑顔を見せたオーシャンの言葉に、ハーマイオニーはしかめ面をした。「……その冗談、あなたにしては悪趣味だわ」

 

「ごめんなさい」オーシャンは肩を竦める。そして少し考えた後、自身の杖先を手のひらに向けた。「……まぁ、その辺の木に血を塗り込めば、誘い出せるかしらね」

 しかしその杖を、セドリックが掴んだ。「それはダメ」

 

 横で杖を押さえるセドリックを見る。目が笑っていなかった。オーシャンは眉をしかめる。

「でも、こうでもしないと。まさか後六頭見つけるために、まだ森を彷徨う訳じゃ無いでしょう?」

 その彼女の言葉が発せられたのと、彼の魔法でその手のひらが裂けたのは、ほぼ同時だった。全員が目を疑う。

 

「ちょっと、何してるの!」

 狼狽えるオーシャンの様子には目もくれず、セドリックは足早に近くの木を回って、手のひらに浮き出る血を塗り込んでいく。

「何って、君が言ったんだろ。木に血を塗り込んでセストラルを誘い出すって」

「だから今それを私がやろうと……」

「だから、それを『君が』やるのはダメだって言ったろう? 僕がやる」

 

 動揺するオーシャンだったが、少量の血だというのに、そう時間を置かずして新たなセストラルが一頭、また一頭と森の中から現れて、開いた口を悔しそうに閉じた。「来たね」とセストラルの来訪を告げるルーナの声を聞いて、セドリックは誇らしげに笑った。

 




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みなさまいつもありがとうございます!!

8770141分かってくれる人いるかな……?正直私それしか知らないんだけどね?笑
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