仕込みよし。タネよし。清掃よし。あー、ひとり誰か欲しいわ。大変なんやもん。
店内のチェックを全て終えたところでのれんを外にかける。左を見るとなにやら見慣れた黒フードが1人並んでいるようだ。知らん。
可能な限り視界に入れないように店内に戻り、鉄板を暖める。そして、店内の隅のテーブルで工具をウィンウィン言わせている艦娘に声をかけた。
「明石、
「嫌です」
「お前出禁や」
「結論が早すぎる!?」
といいながらも作業の手を止めない明石。今、明石は提督から頼まれた12.7cm連装砲を改修している最中だ。いや、
「建てたのは私ですよ?」
「ウチが出てってもかまへんで」
「それだけはやめてくださいお願いします」
「じゃあそれ持って出てけや。そもそもここで改修すんなアホが」
鉄板屋「龍驤」は基本的に艦娘の食事処である。だから艦娘である明石がいてもおかしくはない。おかしくはないのだがなんか腹が立つ。
明石が渋々片付けていると、誰かが引き戸をガラガラと開けて来た。誰だかわかるんやけどな。
「タイショー! 中トロヒトツー!」
「ここは寿司屋やないわアホか」
「エー、デモ鉄板屋ッテ書イテアルカラ」
「何をどう間違えたんやお前は」
とうとう
★
「大将、タコクレ」
「たこ焼きな、ちょい待ち」
「……イカクレ」
「イカ玉やな、たこ焼きの後でええか?」
「マグロ」
「ホームセンターのペットコーナーに置いとるで、自分で買ってこい」
「ネコジャネーヨ!?」
「フードの中身はネコミミやないの?」
「ンナワケナイダロ!!」
「マジかウチの夢返せ」
「知ラネーヨ!?」
「……………………
「冗談ジャナカッタノカヨ!?」
魔改造屋台の技術を応用して作られたこの鉄板は、切り替えボタンでそれに応じた形に変形する夢の機構だ。妖精さんの力ヤバいな。燃料が消費される
という部分はまだ改良できてへんようや。
明石から聞いた話だが、弾薬がなぜ消費されるのか聞いてみたところ、妖精さんは妖怪のせいだと言っていたらしい。余計わからんわドアホ。
ちなみに、明石は大人しく住処へ帰った。工作艦といえど一応艦娘、鎮守府にいなければならない。ウチはノーカンや。
「で、キミには教えてへんはずなんやけど」
「風ノ噂ッテ奴サ」
今の時間は飯時ではないのでそこまで客が来ない。現状、レ級1人である。ちなみにこの店は一般の方々に開放もしている。あまり来ないけど。
「アー、ソウソウ、コノ辺ノ提督変ワッタ?」
「なんでウチに聞くねん」
「近海ノハグレガ『弱クネ?』ッテボヤイテタ」
「あいつらもぼやくんか……」
「容赦ナク吹ッ飛バサレテタケド最近緩ヤカニナッタッテサ」
「吹っ飛ばされるのは変わらんのか……」
「アレ、オ好ミ焼キデ混ゼルノッテヒロシマ風ダッケ?」
「関西風や、混ぜるか?」
「オナシャーッス」
お好み焼きプレートにもろもろの材料をぶち込んだタネをたらす。
ちなみに今の鉄板は半分たこ焼き用、半分お好み焼き用だ。変形には燃料が吸われる以上こうするのが燃費ええねん。
燃料の補給はどうしてるかって?
「ハイボール」
「あいよ」
「ソウイヤオレッテ焼キ鳥屋台ヤッテタヨネ?」
「せやな」
「見事ニ忘レラレテルンダヨネ」
「せやな」
「正直ナ話、一人称モ忘レテルンダケド」
「レッちゃんねーとか言えばええやん。レったんでもええで?」
「レったんエエナ」
「ええやろ」
「採用」
「おおきに」
★
夜。
「龍さーん、適当になんかちょーだーい」
「龍さん、私にもヒトツ」
「レったんモ欲シイナ」
「"何でもいい"が一番めんどくさいんやお前ら」
「じゃあクレープ」
「ならもんじゃで」
「~キノコノバター炒メヲ添エテ~」
「統一せえなめんどくさいわホンマ」
「えー」
「お客様はー」
「神ガ作リシモノナンダヨ?」
「随分深そうな話やな!?」
「とりあえず飲み物はハイボールで」
「あ、私もハイボール」
「ハイボール一択ヤデ」
「飲むのは統一するんやな!?」
「統一しろって言ったのはそっちじゃん」
「統一したらこれですよ」
「コレダカラリュッチハヨー」
「ホンマめんどくさいなお前ら!」
平日は一般の方々は来ない。そもそも基本陸の方の居酒屋に行ってるし。宣伝してないから当然だし。ウチぜんぜん悲しくないし。
代わりに鎮守府の提督と北上が来ている。ついでにレもいる。いっせいにボケられると困んねん。
「もういい、飲み物はハイボールでツマミは昼の残りやお前ら。イヤなら出てけ」
「仕方ないねえ」
「この辺で」
「カンベンシテヤロウ」
「お前ら初対面なのに息ぴったりやなコンチクショウ!!」
「そういえば初めてですね、お名前はなんと言うんです?」
「ンー、ソウダナ、レったんトデモ呼ンデクレ」
「じゃあ私もボブで」
「ボブッチヤナ、ヨロシャース」
「よろしくお願いしますね、レっさん」
「よろしくレったん。あたしは……まぁ、初雪で」
「なんやこの名前を騙る流れは!!」
「ビックウェーブニ乗ルンダジョージ!」
「ジョージやないわドアホ!!」
「それはそうとイイ匂いですねお二方」
「龍さん、そろそろひっくり返す時間じゃない?」
「イイ時間ダゾ、ヒックリ返スンダ、ジョージ!」
「お前出てけや!!」
その後、焼けたお好み焼きをレ級の顔面にぶん投げたがお皿でキャッチされてしまった。
ドヤ顔が腹立たしくてもう一枚投げたら反応できずに顔面キャッチしよった。これは報いや、八つ当たりやないんや。
そんなこんなで今日も夜は更けていく。
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