鉄板屋『龍驤』プロトタイプ   作:モチセ

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7/4までは息抜きできるで。
全力で息を抜く。現実逃避や。

推敲しないで書き上げたら即投稿スタイル

だって息抜きだもん。 みつを


02

 とある鎮守府の近くに車を止め、たこ焼きを作り始める。移動する鉄板屋が基本的に営業する場所はここだ。ターゲットはもちろん艦娘。元々いた身としては様子を見たいというのもあるが。

 ある程度焼けたたこ焼きを適当にひっくり返していると、とてとてという足音とともに、1人の艦娘がやってきた。

 茶髪の髪を後ろで束ねた駆逐艦の艦娘、電である。

 

「龍驤さん、屋台はやらないのですか?」

「開口一番それかいな」

 

 せめてその前にたこ焼きひとつと言って欲しかったと頭の中で思う。まぁあとで買うだろうけど。

 

「一度屋台で鉄板料理を食べてみたいのです」

「屋台を調達するとこから始めなアカンな」

 

 そういうと電はパァァっと笑顔になる。もう彼女の中では屋台をすることが確定しているのだろう。

 屋台か、たまには悪くないなと考えつつ、たこ焼きをピックで転がす。

 

「あとはびーるも呑んでみたいのです」

 

 電の言葉に思わずピックを落としかけた。アカンアカン、集中せなアカン、やないと師匠に叱られてまう。

 どうにか平静を取り戻したあと、どうしたのかを訊いてみた。

 

「仕事終わりのビールは世界が変わるぞって提督が言ってました」

「あんの野郎余計なこといいおって……」

 

 法律上、20歳未満の飲酒は禁止されているが、艦娘だけは例外的に認められ――――いや、黙認されている。

 艦娘は人間と体の構造が違うらしく、アルコール耐性が高いらしいからなんとか。兵器扱いされているからという説もある。まぁウチらには関係ないことやな。

 ある程度海を取り戻したものの、未だに深海棲艦との戦争は続いている。どこまでいったら終わりなんやろなと思いつつ、焼きあがったたこ焼きをパックの上に載せていく。

 

「……ダメですか?」

「そう言われたら断れんわ。検討してみるで」

 

 上目使いされたら断るに断れんわ。

 焼きあがったたこ焼きに適当にマヨネーズとソースをバーッとかけ、青のりやその他もろもろを振り掛ける。最後に爪楊枝をさして輪ゴムで止めてはい完成。

 

「……艦隊には戻らないのですか?」

「戻るも何も……」

 

 電に出来上がったたこ焼きを渡し、左腕の袖を上げる。

 そこには本来の肌色ではなく、灰色や黒色になっている腕。そして、どこか機械っぽさを感じる――――簡単に言えば、義手だった。

 

「この腕はアカンやろ」

 

 自虐的な笑みを漏らし、袖を元に戻す。そうしないと腕を見られたときに同情の目線を向けられるのだ。

 魚市場の人からそういう目線をあまり向けられたことはないが、やはり向けてくる人はいるみたいだ。

 

「…………」

「どないしたんや?」

「治らなかったのですか?」

「治らへんかった」

「……そうなのですか」

 

 次のタネをたこ焼き専用の鉄板にたらしていく。そのうち電以外の誰かが来るやろ。

 

「流石に腕が吹き飛ぶとは思わんかったでー。戦艦の砲弾が直撃してもボロボロになるくらいやったのになー」

「どうしてそうなったのですか?」

「簡単に言えば突然変異――――おっと、誰か来たみたいやな」

 

 向こうからこちらに向かって走ってくる影を捕捉。工具箱を持ってこっちに来てると言うことは……夕張やろか。

 

「りゅーじょーさーん! 来てたんですねー!」

「いっつも来てるけどなー」

「今日こそガトリングにさせてくださーい!」

「お断りや」

 

 近くまで駆け寄った夕張は工具箱を置き、目をキラキラさせながら話しかけてきた。あ、これいつもの長くなる奴や。

 

「いいじゃないですかガトリング! こう、ガガッとなってンボってなる感じが!」

「ンボってなんやンボって」

「龍驤さん、せっかく龍驤って名前があるんですからこの際関西の龍を名乗りましょう」

「いずれ関東の龍にやられるからお断りや」

 

 夕張に押し付ける用のたこ焼きを準備する。ついでに明石、妖精さんの分も準備するで。

 

「天龍に関西弁みたいな言葉を教えてるんですよ! 完璧ですよ完璧!」

「木曾でもええやん」

「キャラが壊れるんでダメです」

「天龍はええんか」

「いいんじゃない?」

「相変わらずあいつかわいそうやな」

「この間イ級に肩噛まれましたからね」

「何があったんや……」

 

 まじ……関西弁を話す天龍なんて全然想像でけへんな。それにしてもイ級に肩を噛まれるってどういう状況なんやろか。そこまで接近したことに驚きだし、イ級がどうやって噛み付いたのかも気になる。そもそも噛み付くんかあいつ。飛ぶとこすら見たことないわ。

 

「あ、あの」

「あー、すまん、空気にさせてもうたな」

 

 電を置いてけぼりで話を進めていたのを忘れていた。

 考え込んでたみたいやから気にするべきか気にせんべきか迷ってたんやけど。

 

「まーあれや。ウチは楽しくやっとる。これが答えや」

「……そうなのですか」

「そのたこ焼きはサービス……いや、夕張持ちや」

「ちょっ、ひどくないですか龍驤さん!」

「ありがとなのです!」

「えぁっ…」

 

 電の満面の笑みを正面に捕らえてしまった夕張は、変な声を出しつつそっぽを向いた。ドンマイやな。ウチもそれ喰らったら耐えられんわ。というか電は絶対分かってやっている。切り替えの早さがそれだ。

 またなのですと去り際にしゃべった電は、鎮守府へと戻っていった。

 

「まー騙されたと思うんやな」

「けしかけたのは龍驤さんですけどね」

「悪くないやろ」

「悪くないかも」

「ということでこれ明石と妖精さんの分や」

「あれ、私の分は?」

「はよ持ってき、冷めてまうやろ」

「私の分は!?」

 

 

 

~~~~

 

 

 師匠のお言葉その2

  じょうれんだいじに

『龍驤! 常連は大事にしろよ!』

『へい! 師匠!』

『常連さんと仲良くなることで新たな客が来たり、新商品のアイデアが生まれることがある!』

『ゲームっぽい説明やな!』

『何より常連さんは定期的に金を落としてくれる金づるだ! 基本的な収入源様だぞ!』

『師匠! 最後で台無しや!』

 

 

~~~~ 

 

 

 

「龍驤さん、あるたこやき全部ください!」

「ダメや、他の人のことも考えろや」

「いっそのことタネだけでもいいですよ!」

「どうやって食うんや」

「冗談ですよ、5パックください」

「それでも多いんやけどな」

「ちゃんと準備してるんでしょう?」

「当然や、持って行き」

 

「龍驤さん、たこ焼き全部ください」

「お前もかいな」

「当然です、赤城さんが買うなら私も買います」

「全部は買ってないで」

「なら半分で」

「後ろみような」

「……空母しかいませんが」

「お前等食い意地張りすぎや! 自重せや! あと赤城! 2周目は許さんで! 鎮守府に帰れや!」

「赤城さんが5パックで足りるとでも?」

「足りないことぐらいわかっとるがな!」

「龍驤さんなら準備してると思っていたのですが」

「当然やないか! 毎回やられたら学習するわ!」

「ツンデレですね」

「食べるのやめたらええんや! ウチの手間考えーや! ほれ! これで全部や!」

 

 

「りゅーじょー! 1パックちょーだーい!」

「あ、島風か。ほれ、持ってき」

「ありがとー! じゃーねー!」

「あ! お代! お代忘れとるで!」

「次来た時払うねーー……」

「まぁそれでもええんやけど」

 

 

 

「あーしんど」

 

 食うボの襲撃を乗り越え、一息つく。

 もしかしてこれブラックやん? と考えつつ、適当に作ったたこ焼きを口の中へ運ぶ。

 常連が常連を呼んだ結果、食うボが大量に押し寄せてきた。これはいい結果なんやろか、師匠。ツケていった島風が天使に見えるで。

 

「……やっぱ師匠には及ばんなぁ」

「お疲れ様なのです」

 

 ベンチでたそがれているとどこからか電が現れた。その片手には缶コーヒーを持っている。

 

「差し入れなのです」

「おおきに、助かるわ」

 

 プシッと開けて一気に飲む。一息つくタイミングでのコーヒーはなかなか悪くない。

 

「屋台か……ここまで持ってくるのツライで」

「鎮守府に置けば解決なのです」

「迷惑かかるやろ」

「おそらく空母の方が管理すると思うのです」

 

 確かに食べるためならやりそうやな。でもウチとしては皆に食べて貰いたいんやけど……

 そんなことを考えていると、電がいきなりまじめな顔つきになってこちらを見た。

 

「龍驤さん、皆さんに会わないんですか?」

「会ってるやん」

「鎮守府に顔を出しに来ては……」

「逃げ出した身やからツライで」

「逃げ出した訳じゃないですよね?」

 

 義手を上げて力をこめてみるが、指先に炎は現れない。

 

「コレが答えや」

「答え?」

「ウチは指先の炎で式紙を艦載機に変えるタイプなんや。それが出来ない以上は砲撃しかでけへん」

「…………」

「それに航空戦力も足りてたしな。引き際としては十分なんや」

 

 アドバイザーという選択肢もあったにはあったんやけど、それすら必要ない感じやったからな。この鎮守府がそこまで成長したと思うと感慨深いものがある。

 ……ちょっと空気が悪いで。あの話でも出してみよか。

 

「せやなぁ……魚市場は知ってるんか?」

「魚市場って……あのですか?」

「せや、魚とか海産物売ってる奴や」

「それがどうかしたのですか?」

「そこに深海棲艦がおったんやけどな」

「!?」

「知り合いのタコ盗って逃げてたわ」

 

 本当は師匠と弟子の関係らしいんやけど、ウチですら衝撃が大きかったから話すのはやめとこか。

 

「だ、大丈夫なのですか!?」

「たびたび起こってることやから気にするだけ無駄や」

「深海棲艦の方なのです!」

「あ、その深海棲艦はレ級っていうんやけど」

「はわっ!?」

 

 唐突に電が気絶した。アカン、流石にこの話は衝撃が強すぎた様や。逆に言えば気絶するくらい衝撃的なお話なんかコレ。

 それにしてもこのままだとマズイような気がしてきた。こんなとき頼れる存在がいたようないなかったような……。せや、アレを呼べばええんや。

 

「青葉」

「呼びました?」

 

 車の下からニュッと登場したのは重巡洋艦の艦娘である青葉。鎮守府内で出る新聞は彼女が書いている。それはいいとしていつから車の下にいたのか疑問だが、青葉の行動は考えるだけ無駄なので考えないようにしている。

 ホラー系の映画を見ているときに天井の板から顔を出して驚かせたあの瞬間は忘れへんで。

 

「電が倒れたんやけど」

「そりゃあんな話すれば大体の艦娘が倒れますよねぇ」

「聞いてたんか」

「もちろんですとも!」

「どこから?」

「義手を電ちゃんに見せたあたりからです!」

「相当前からそこにいたんやな」

「驚かないんですか?」

「驚くだけ無駄やわ」

 

 青葉、裏でなんて言われとるか分かるか? 忍者やで忍者。ジャパニーズニンジャやで。

 ウチの反応にため息をついた青葉は、自身のメモ帳をパラパラと流し読みしていた。

 

「とりあえず今週の見出しは空母に蹂躙されるたこ焼き屋にしましょう」

「鎮守府の新聞やないんか」

「ということで店主から一言」

「お前等食いすぎや」

「ありがとうございました」

「あ、さっきの話は口外するんやないで?」

「えぇ、口外しませんとも。

 オリョクルの面子が深海棲艦と飲み会しているくらい隠さなきゃいけない話ですからね」

「ちょっち待て、今何言った」

「サラバワレアオバ!」

「逃げるなや青葉! 今の話ちょっち聞かせてもらうで!」

 

 主にレ級に遭遇したときの対処のためにも。

 

 今日も元気に鉄板屋は走る。

 

 

 


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