鉄板屋『龍驤』プロトタイプ   作:モチセ

9 / 11
 息抜きである本作と本命の作品と比べると、こっちのお気に入りが約30倍多いこの悲しみ


 前回までのあらすじ。
 海中での営業はキャンセルや。



09

 ウチが警戒すべきヤツが4人いる。

 まずひとりは明石。なんでかって? もう言うまでもないわ。

 もうひとりは青葉。出会うたびに最低一つネタを生み出す。ウチは引退した身じゃボケ。

 もうひとりはレ級。そもそものナリが深海棲艦や。最近は深海でもええやんとは思い始めてるが。

 そしてもうひとりは――――

 

「りゅーじょー! ツケね!」

「あっ! まてや! 島風!」

 

 ツケと食い逃げの達人、島風である。

 

 最初はよしみだし見逃していた。甘やかした結果、島風はそれ以降もツケを繰り返した。そして何回目か覚えてないが被害額(ツケ)が1万を越えた時点でウチの仏の顔も般若の面相へと変貌。

 感情をおさえることなく島風を追いかけはじめた。店は近くにいた電に任せておいた。あの時はホンマすまんかった。しかし、結果はおいつけんかった。壁蹴って鎮守府の屋上まで逃げられるともうどうしようもない。

 艦載機さえあればどうにかなるんやけどな……。

 

「呼びました?」

「呼んでないわアホ、自分の住処(こうしょう)に帰れ」

 

 どこからともなく現れた明石をシッシッと追い払いつつ、島風にとられた作り置きのたこ焼きを頭の隅からはじき出し、目の前のお客の為に薄い生地を焼く。

 目の前にいるのは電だ。クレープをご所望らしい。出来るって聞いた瞬間、目を輝かせてたわ。それにしても久々やな、電。

 屋台はさらに改造され、ボタンひとつで鉄板がそれぞれの鉄板料理に適した形に変形する機構が取り付けられた。あぁ、今回は実用的や……。

 ちなみにその改造した本人である明石はトボトボと帰っていった。いや、なんで帰れ言われただけで悲しそうな背中をかもし出してんねん。勝手に来たんはアンタやろ。

 

「島風さんをおいかけないのですか?」

「追いかけるだけ無駄や。屋上に逃げられておしまいや」

「あぁ、そうなのですか」

「ウチにも艦載機があればなぁ……」

「呼びました?」

「目に見えない速度で戻ってくんなやクレープの邪魔や」

「あ、確かにそれはまずいですね、帰ります」

 

 電さんの邪魔はしちゃいけないお決まりですからね、と再びトボトボと歩き出す明石。瞬間移動ではよ帰れ。

 

 とりあえずクレープの生地が片面焼けたのでひっくり返す。

 その間にクレープの中身を……あ、そうや、中身どうするか聞いてへんかった。

 

「電、クレープの中身はどうするんや」

「龍驤さんのオススメでお願いするのです」

「おっしゃ、たこ焼きいれるで」

「おーそどっくすに頼むのです」

 

 たこ焼きクレープとか新境地見えるで。試したことないし試したくないんやけどな。

 屋台の下を覗き、そこに置いてあるホイップやら砂糖やら取り出す。

 なんとこの屋台には、屋台の形態にあわせて材料も変化する謎技術機能が搭載されていた。お好み焼きやたこ焼きだったらソースとかマヨネーズとか。クレープだったら今みたいにホイップやらジャムやらだ。

 おそらく飛行機改造されたときに搭載されたんやろうけど、ホンマ実用的や。こういう機能が欲しかったんや。陸上海上営業機構なんてオマケや。オマケにしてくれ明石。

 

 ホイップと砂糖を泡立て機で混ぜる。あ、これオートにでけへんやろか。ちょっと明石に相談してみよう。余計なことしないなら歓迎や。ウチは手のひら返すで。

 

「チョコとイチゴとたこ焼き、どれがええ?」

「イチゴでおねがいするのです。あとサラッとたこ焼きを混ぜないでほしいのです」

 

 

 

 

 クレープとは別でたこ焼きを渡した後、電はスキップしながら帰っていった。いやまぁ儲け優先でやってるわけやないしな。決してクリームを口につけたままの笑顔に敗北したわけやないで。

 それはそうと、別件の話も終わらせよか。

 

「明石」

「お呼びでしょうか」

 

 名前を口にすれば目の前に明石。どうやってきてるんやろか。瞬間移動だとしても風を感じられなかった。

 

「一回来たと言うことは用事があるってことやろ。言うてみぃ」

「そうですねぇ……」

 

 もったいぶるかのように何かを背中に隠す明石。これは小型やな。小型なら問題あらへんはずや。

 

 次に明石が口にした言葉は考えることも忘れるほど衝撃的なものだった。

 

「龍驤さん。龍驤さん専用の艦載機を飛ばせる義手が完成しました。試作ですが」

 

 そういって、背中に隠していた黒光りする義手をとりだしてきた。

  

 

 

「なぜ黒光りなんや」

「特に理由はありませんよ」

 

 

 

 

「艦載機を発艦させるときは義手の機構が変形してガトリング状になります。反動は気にしなくて問題ありません」

「まさかこの義手に変形機構を入れたんはこのためか?」

「いえ、夕張さんの意見を勝手に反映したまでです」

「結局お遊びかい」

「それが今回の義手の製作に繋がっちゃったわけなんですけどね」

 

 目の前には、艦娘として、龍驤として再び戦場に戻ることができる義手(ぎそう)が置かれている。

 今まで考えても見なかった。再び艦娘として働くことができるなんて。夢物語だと思っていた。

 

「しかし、問題があります。この義手をつけると今まで以上にパワーが吸い取られすぎて水上に浮くことが出来ません」

「本末転倒やないか」

「いいじゃないですか、陸上用艦娘として活躍できますよ」

「陸上なのに艦娘とは一体どういうことなんや」

「いっそ戦車に転向します?」

「お断りや」

 

 戦場へ舞い戻りキャンセルや。自衛用軽空母龍驤爆誕や。どことなく自宅警備員に近い響きな気がするで。

 

「で、なんでこの話を持ちかけてきたんや?」

「提督が出向――いや、出世ですかね。ここの艦娘も一緒に大きい鎮守府に移ることになったんです。まぁ一部を除き、ですけど。」

「一部?」

「筆頭は私ですね」

「さっさと移れや。資材に気を使うことなくやれるんやで」

「自由に動けないのでパスです」

「くたばれ」

「嫌です」

「他には?」

「伊58さんとか……青葉さんですね。主力の方々はあちらへ行くみたいです」

「なんで青葉なんねん」

「どうにも動きたくないみたいです。まだ賽の……いや、これは機密事項でした」

「……ゴーヤは聞くまでもあらへんな」

「束縛されるのをとことん嫌いますからね」

「ということはこの鎮守府どうなるんや?」

「新しい提督が着任するそうです」

「そうか、あいつらいなくなるんか」

「最後に顔を出したらどうです?」

「いや、やめとくわ。言うこともあらへん」

「そうですか」

 

 いやまぁ仲のいい奴にはあいさつしたいんやけどな。ウチが特別扱いされてることに憤りを感じる連中がおるから余りいきたくないねん。

 

「本題に戻りますけど、人材を腐らせておくわけにはいかないんですよ」

「それには同意やな」

「だから艦娘として戦場に立つことが出来なくても、何らかの形で手伝って欲しいわけなんですよね」

 

 となると新人にアドバイスっていうことやな。それくらいならかまへんわ。

 

「早い話、近くに店を開いてください龍驤さん。お金は預かっています」

「へ?」

「新任ということはしばらく空母がいないわけでして。その上、龍驤さんは発艦方法が従来と異なる形になっちゃいますし」

「いや、操作は同じやろ?」

「そうですね」

「ならなぜ店開く話になるんや」

「アドバイザーという点ももちろん期待していますが、それ以上に食事の方を受け持ってもらいたいのですよ。間宮さんと伊良湖さんもいきますから、必然的に食事が……ねぇ」

「なんでそんな言いよどむんや」

「しょっぱな戦艦レシピ回して比叡さん来たらどうします?」

「諦めぃ」

「嫌です」

 

 まぁ仕方ない。どうせ商売先はここだ。魚市場もそう遠くないしええやろ。

 

「……まぁ金あるならええか」

「ありがとうございます!」

 

 こっちの面子がいくまで時間はあるし、どうせ店来るだろうしあいさつはそのときでええか。

 

「もしかして島風も行くんか?」

「そうですね」

 

 アカン、アイサツしないと。

 




ちなみに島風の食い逃げのツケは、給料から差っ引いた分青葉から貰っている模様。

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