魔法少女リリカルなのはStrikerS~騎士を目指す者~   作:ニョニュム

1 / 1
プロローグ

 自分が天才であるという事をコルト・クライムは知っている。その担い手の少なさから存在そのものが希少技能【レアスキル】とされている古代ベルカ式魔法の使い手であり、空戦魔道師としての適性も持ち、魔力変換資質【炎熱】を持つ若きベルカの騎士。

 

 似たような素質を持つ妙齢の美しい騎士が活躍する様を見てきた聖王教会において彼の未来に期待するな、と言う方が無理からぬ事。そして同時に彼は周囲の期待に応えられる程度には天才であった。

 

 ――――それが彼の心根とは別のモノだったとしても。

 

 聖王教会は彼の為に行う投資に制限を設けなかった。孤児である彼の姉として、才能を見込まれる以前から彼の面倒を見てきた騎士カリムの人脈を活用し、古代技術の継承という名の元、彼の完成系だと誰もが理解している“烈火の将”直々の指導を受けさせる。

 わざわざ管理局に借りを作ってまで“烈火の将”直々の指導を受けさせているのだから恵まれた環境にいる。

 

 その身には才能があり、目指すべき終着点があり、そこへ至る為の土壌がある。

 

 後は彼が努力を続ければ魔道師として大成するだろう。周囲の期待に応えて。

 

 

□ □ □

 

 

 初めてコルトと“烈火の将”シグナムが出会ったのは聖王教会から正式な依頼として彼に稽古をつけて欲しいと依頼が来てから数日後の事だった。

 

 依頼を受ける前からその名前は主はやてが懇意にしている騎士カリム、騎士シャッハから何度も話に聞いていた。自身と同じ資質を持つ若き騎士。騎士シャッハの弟子にして、聖王教会の期待を受ける精鋭。騎士シャッハは未だに己の剣が定まらぬ未熟者、と謙遜している。

 

 それがシグナムの聞かされていたコルト・クライムの知識だった。

 

 初めて顔を合わせた時、一瞬でも自身の事を好色の目で見てきた事にシグナムは気付いていた。とはいえ、年頃の騎士なのだから自然の摂理と言ってしまえばそれまでだ。

 

 礼儀正しく、騎士として上位に立つ者へ最大限の敬意を払う姿は好青年に相応しい。騎士カリムの弟分であり、騎士シャッハの弟子なのだから当然の帰結なのだろう。

 

 やる事は既に決まっている。顔合わせもそこそこに現在の実力を見る為の模擬戦が始まった。

 

 数合、刃を合わせただけで騎士シャッハの彼を未熟者と言う意味を理解した。

 

 力もある。魔力もある。技術もある。同年代の騎士や管理局の魔導師と比べれば破格の才能を持つ騎士である事は理解した。だが、それだけなのだ。

 

 ――――彼の剣には熱が無い。強さへの渇望も、何かを守りたいという意思も。想いが無い。意思が無い。意思が無いからこそ、剣は軽い。恵まれた才能から放たれる無気力な妙技にシグナムは彼への興味を無くした。

 

 ――――紫電一閃。

 

 シグナムから放たれた教導でもなければ、指導でもない。ただただ、相手を屠る為の一撃にコルトは意識を手放し、騎士カリムは唖然とし、騎士シャッハは予想通りの展開に溜息を吐いた。

 

 

□ □ □

 

 

 ――――懐かしい夢を見ていた。ずきずきと痛む身体を起こし、意識を取り戻したコルトは数年前の出会いを思い出し、少しだけ口下を歪める。

 

「どうしたコルト。頭を強く打ったか?」

「いえ、少し昔の事を思い出していただけです。あの時の一撃に比べたらまだ痛くない」

 

 強烈な一撃を受けて地面へ叩きつけられたコルトは見下ろすように空中で佇み、声を掛けてきたシグナムに答える。バリアジャケットとは不思議なモノで下から覗いている筈なのに下着を見る事は出来ない。

 

 そんな馬鹿な事に思考を回して不味い、と思い煩悩を払おうとした時にはもう遅い。

 コルトを見下ろすシグナムの目付きは違う意味で剣呑なモノに変化していた。

 

「……まったく、年頃とはいえ手合せの時ぐらいは集中したらどうだ?」

「――――何のことやら。僕にはわかりかねます」

 

 白々しく答えるコルトにシグナムは溜息を吐く。

 

「私に認められたいのならまずは私を倒せる騎士になる事だ」

「…………厳しいなあ」

 

 誰にも届かない小さな呟き、そして振るわれたシグナムの一撃を受け、コルトは再び意識を手放した。

 

 

□ □ □

 

 

「あの子の調子はどうでしょうか?」

「シグナム的には合格?」

 

 特別扱いは終わりだ、と言わんばかりに若い騎士を指導する現役の騎士の命令を受けて、コルトと同僚となる若い騎士が水のたっぷりと入ったバケツを持ってくるとシグナムの一撃を受けて意識を手放しているコルトの顔面へ思い切り水をかぶせる。

 強制的に意識を戻されたコルトは自分が吹き飛ばされ、気絶していた事を察すると慌てて立ち上がり、シグナムへ一礼する。その後、仁王立ちしている現役騎士の指導に従い、水を顔面へかけた同僚に文句を言いつつも一緒になって訓練を再開する。

 

 そんなコルトを横目にシグナムは声を掛けてきた主の方へ視線を向ける。

 

 若い聖王教会に属する騎士達が汗を流し修練を積む修練場から少し離れたテラスに自身の主であるはやてと懇意にしてもらっている騎士カリム、そして騎士シャッハがいた。

 

 今回、はやてとシグナムがカリムの下を訪れた理由は私的ではなく、公的な依頼をする為に訪れており、修練場近くのテラスなど事務的な話をするには少し不釣合いな場所である。しかし、今回の依頼に関してはこれ以上適した場所などないだろう。

 

「そうですね。技術に関してはまだまだ未熟な所もありますが合格・不合格という意味でなら合格でしょう」

「お、それならシグナムもコルトの気持ちに答える準備が――」

「それはありえません。少なくとも私を倒せる者でなければ興味の範囲外です。ですが、部下として面倒を見るくらいなら大丈夫でしょう」

 

 コルトがシグナムへ淡い恋心を抱いている事はコルトに近い人物なら誰でも知っている。勿論、カリムを通して知り合い、コルトを弟のように思っているはやてもその事を知っている。

 ちゃかすようなはやての発言を一刀両断に切り捨てたシグナムは話が逸れるのを嫌ったのか、“本題”を口にする。

 

 はやてとシグナムがカリム達の下を訪れた本題――――コルト・クライムを新たに設立する部隊【機動六課】の夜勤待機を行う交代部隊の一員としてスカウトする為だった。

 

 コルト・クライムを嘱託という形で機動六課へ転属させる事でシグナムの教導という借りを聖王教会は管理局に返す事が出来て、管理局は単純な戦力増強が行える。他にも聖王教会の次期エースを期待されるコルトと管理局のエース達との間に面識が出来たり、コルトがカリムやはやて達の派閥であるとアピールしたりと色々、コルト本人には伝えられない裏の事情もあるのだが、その辺りははやてやカリムの領分である。

 

 シグナムに求められた意見は純粋にコルトが機動六課に相応しいかどうか、今回の模擬戦はそのテストも兼ねていた。

 そしてその結果は合格だった。少なくとも初めて出会った日と比べれば、数段上達している。技術だけではない。剣に乗せる想いの方も。

 

「夜勤部隊ならシグナムが一番面倒見る事になるだろうし、それなら大丈夫そうやね。カリムの方もこのまま話を進めるけど問題ない?」

「ええ、勿論。本当ならこちらからお願いしたいくらいだから」

「コルトの事、よろしくお願いします」

 

 はやての言葉にカリムが頷き、シャッハがシグナムへ頭を下げる。

 

「ええ、任せとき」

「少なくとももう少し動けるようにはしておきます」

 

 こうしてコルトの起動六課転属は本人の知らない所で締結された。

 




部屋を掃除していたら出てきたUSBに入っていた昔の作品に少し手を加えたモノです。どれぐらい昔かというとたぶん、ハーメルンができる前の”某所”で連載していた時のだと思います(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。